大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2560号 判決 1985年7月17日

控訴人

住友海上火災保険株式会社

右代表者

徳増須磨夫

右訴訟代理人

伊達利知

溝呂木商太郎

伊達昭

沢田三知夫

奥山剛

被控訴人

岡本好正

右訴訟代理人

木内二朗

赤松俊武

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証の関係は、当審における新たな主張として次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一(但し、原判決二丁裏八行目の「別紙」以下次行の「了した。」までを「各抵当権設定登記(被控訴人の所有土地については別紙一記載のとおり)を経由した。」と改め、同一〇行目の「関し、」の次に「そのころ」を加え、五丁表七行目の「設立」を「設定」と改め、七丁表二行目の「原告は」の次に「連帯」を加える。)であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  被控訴人の本訴請求は、訴外会社が控訴人に対し負担する債務についての共同抵当の物上保証人兼連帯保証人である被控訴人と訴外人らとの間で被控訴人の負担部分を零とする合意(以下「本件特約」ともいう。)があり、右合意に基づき訴外人ら所有の本件不動産の抵当権につき民法五〇一条但書四号と異なる代位が可能であつたことを前提とするものであるところ、本件不動産については、控訴人の抵当権設定登記後その放棄前に、訴外安全信用組合の根抵当権が設定登記されており(浦和地方法務局昭和五五年四月一〇日受付第一九六〇九号)、被控訴人、訴外人ら間の本件特約の合意は、民法三九二条の関係で後順位抵当権者の権利を侵害するものであるから、右合意を代位の範囲として効あらしめるには、後順位抵当権者等利害関係人の承認を要する。

債権者の担保保存義務も求償権に基づく代位の範囲に係わる事柄であるから、民法五〇一条但書四号と異なる負担割合の合意を債権者に主張するためには、右合意につき債権者の承認を要するものと解すべきである。

二  右合意の際、被控訴人は、本件不動産に次順位の抵当権を設定することにより民法五〇一条但書四号と異なる負担割合の求償権を確保することが容易にできるから、控訴人に対し右負担割合による担保保存義務違反を主張し得るには、右合意について控訴人の認識、承認を要すると解することは、何ら公平に反しないものというべきである。

(被控訴人の主張)

一 民法五〇〇条に基づく物上保証人の代位権と同法三九二条二項に基づく後順位抵当権者の代位権とが衝突する場合には前者が後者に優先するというのが学説、判例(最高裁判所昭和四四年七月三日判決・民集二三巻八号一二九七頁)であり、右判決からも明らかなとおり、民法五〇〇条に基づく物上保証人の代位により後順位抵当権者の権利が侵害されることはない。

この理は、共同抵当物件がいずれも物上保証人の所有であつた場合にも同様と解すべきであり、物上保証人相互間の代位の割合―それが民法五〇一条但書四号による割合であれ、物上保証人相互間の特約による割合であれ―は、後順位抵当権者の代位に優先するといわなければならない。最高裁判所昭和五九年五月二九日判決・民集三八巻七号八八五頁も、民法五〇〇条による代位は―代位の割合が法定による場合ばかりでなく特約による場合についても―後順位抵当権者の代位に優先することを一般的に認めたものであると解されるのであり、民法五〇〇条による代位は同法三九二条二項に基づく後順位抵当権者の代位に優先するのであつて、代位権者相互間の特約に基づく割合により優先する場合であつても、後順位抵当権者の権利を侵害するものではなく、控訴人の前記一の主張は理由がない。

二 控訴人の前記二の主張は争う。

理由

当裁判所は、被控訴人の本訴請求は理由がありこれを認容すべきものと判断するが、その理由は、次に付加訂正するほか、原判決一一丁裏五行目冒頭以下一六丁裏五行目末尾までの理由説示と同一であるから、これを引用する。

一原判決一一丁裏七行目の括弧書き部分を「及び右合意は昭和五二年一二月一九日なされたこと、右訴外大鹿美咲子は訴外会社の代表者、同大鹿烈は美咲子の長男、同高麗孝義は美咲子の長女の夫であつて、右合意の趣旨は被控訴人において訴外人らそれぞれに対し代位弁済額全額を求償できるとするものであること」と改め、同一〇行目の「と未払貸金残元本額」を「に関する事実」と改める。

二同一二丁表三行目冒頭以下一四丁表二行目末尾までを左記のとおり改める。

1  連帯保証人間の求償権を定めた民法四六五条一項により準用される同法四四二条一項所定の負担部分は、当事者間の特約により決定することができ、特約その他特段の事情がない場合は、公平上各自平等(頭数に応ずる)とされる。また物上保証人間、保証人と物上保証人間の求償権の範囲、即ち代位の割合を、担保の価格に応ずるもの、或いは頭数に応ずるものと定めた同法五〇一条但書四号、五号は、特約その他特段の事情のない場合について、それらの者の間の公平をはかるため設けられた、いわゆる補充規定であり(最高裁判所昭和五九年五月二九日第三小法廷判決・民集三八巻七号八八五頁参照)、もとよりそれらの者の間でこれと異なる特約をすることを妨げない。右のような特約があるときは、当然に、連帯保証人、物上保証人らは、特約により有する求償権の範囲内で債権者に代位できるのであつて、換言すれば、右のような特約その他特段の事情がない場合において、連帯保証人、物上保証人らの間の求償権の範囲は、頭数に応ずるもの、或いは、担保の価格に応ずるものとされるのである。そして、本件におけるように、連帯保証人、物上保証人らの間で求償権の範囲について特約のなされることは、世上まま見られるところである。

ところで、同法五〇四条は、保証人、物上保証人らの法定代位権者の取得する求償権を確保するため、債権者に右求償権の範囲内での担保保存義務を認めたものであるが、これは、債権者の有する担保は究極的には法定代位権者の取得する求償権のための担保として機能することが予定され、且つそのように法定代位権者によつて期待されているからである。従つて、債権者が法定代位権者の求償権の範囲について認識していなかつたとしても、法定代位権者の右期待を、債権者の担保権の放棄等といつた一方的行為によつて喪失させることは、是認し難いものというべきである。更に、法定代位権者の求償権の範囲について特約がなされる場合のあることは前記のとおりであるから、債権者は、その担保保存に当り、このことを念頭において対処すべきである。しかも、債権者は、法定代位権者に照会するなどして、容易に右特約の存否、内容を知り得るのが通常といえる。このような通常期待される措置もとらずに担保権の放棄等をした債権者に、右特約を知らなかつたことを理由として、法定代位権者の免責される範囲につき、特約その他特段の事情がない場合の前記のような求償権の範囲に限られると主張することを許してよいものとは解し得ない。これを要するに、同法五〇四条の適用上も、法定代位権者は、その取得する求償権の範囲について、たといそれが特約によるものであつても、債権者の認識又は承諾の有無を問わず、これを債権者に主張できると解するのが相当である。法定代位権者がその求償権を確保するために、代位行使すべき担保権の目的物の上に担保権を設定しておく途があるからといつて、右判断を左右するに足らない。同法五〇四条の適用により債権者が受ける不利益については、これを回避するために、金融実務において同条による担保保存義務を免除する旨の特約を取付けている例の多いことが、参酌さるべきである。

2  弁済による代位の制度は、債権者の有していた原債権及びその担保権をそのまま代位弁済者に移転させるのであり、代位弁済者はその求償権の範囲内で右の移転を受けた原債権及びその担保権自体を行使するにすぎない。従つて、代位弁済者の求償権の範囲が特約によつて定められている場合でも、その特約は、担保不動産の物的負担を増大させることにはならないから、代位弁済者は後順位抵当権者等の利害関係人に対し右特約の効力を主張することができる(前掲最高裁判所判決参照)。それ故、利害関係人の関係からしても右特約の効力を制限すべき理由を認めることはできない。控訴人は本件不動産の後順位抵当権者の民法三九二条による権利を問題とするが、もともと右後順位抵当権者は被控訴人提供の担保不動産について同条二項による代位をすることができないのであるから(最高裁判所昭和四四年七月三日第一小法廷判決・民集二三巻八号一二九七頁参照)、求償権の範囲についての本件特約が、後順位抵当権者の同条による権利を害するなどということは、生じようがないのである。

三原判決一四丁裏三行目から四行目にかけての「被告の後順位抵当権者である」を削り、同八行目の「あつたこと」以下次行末尾までを「あつたことが認められ、控訴人の本件不動産についての抵当権が第一順位であつたことは前記争いのないところであり、」と改め、一五丁表八行目の「、未払利息」から一〇行目の「九五二円」までを削り、同丁裏二行目の「倒産した」の次に「(この事実は当事者間に争いがない。)」を、一六丁裏三行目冒頭「の」の次に「連帯」を各加える。

よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田中永司 裁判官宍戸清七 裁判官笹村將文)

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