東京高等裁判所 昭和59年(ネ)676号 判決 1984年8月01日
控訴人 肥沼重子
<ほか二名>
右三名訴訟代理人弁護士 須藤正彦
伊藤文夫
被控訴人 株式会社 山口銀行
右代表者代表取締役 伊村光
右訴訟代理人弁護士 小川信明
友野喜一
鯉沼聡
主文
原判決及び東京地方裁判所が同裁判所昭和五六年(手ワ)第一九八四号約束手形金請求事件について昭和五七年三月一二日言い渡した手形判決を取り消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審及び手形訴訟の分とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴人ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1、3及び4の事実は、当事者間に争いがない。
二 請求原因2の(一)及び(二)に対する判断は、原判決中、六丁裏三行目及び四行目「又は訴外トヨマスター商事株式会社」を削り、同一〇行目「昇は、」の下に「訴外会社から言われるままに」を加え、七丁表一行目「その際、」の下に「訴外会社において用意した」を加え、同一〇行目「振出したこと」の下に「、昇自身は単なる勤め人でそれ以上の経済的信用もなく、手形取引や当座勘定取引についての実績も知識もなかったこと、一方、訴外会社においては、昇名義をもって手形を振出すについてはその効果を昇に帰属させる意思は全くなかったこと」を加え、七丁裏三行目「被告名義」を「昇名義」に、同四行目及び五行目「昇の諒解を得ていなかった」を「昇には知らせていなかった」に改め、八丁表三行目「昇の諒解を得ていない」を「昇には知らせていなかったのみならず、その効果を昇に帰属させるために振出したものではない」に改めるほか、原判決の理由二の1に説示するとおりであるから、これを引用する。
三 次に、請求原因2の(三)の主張について判断する。
訴外会社が昇名義で本件手形三通を振り出したことは当事者間に争いがなく、この事実と二において訂正付加の上原判決を引用して認定した事実とによれば、昇は、訴外会社に対して自己の当座預金口座を利用し昇名義で手形を振り出すことを許諾し、訴外会社は昇の右許諾に基づいて本件手形三通を振り出したことが認められるが、訴外会社が昇からその名義を使用して営業を営むことの許諾を得た事実については、これを認めるに足りる証拠がない。
以上のように、名義貸人である昇の訴外会社に対する名義使用の許諾が手形行為にとどまり、何らかの営業を営むことについて昇の許諾の存在を認めることができない本件においては、商法第二三条の規定の適用又は類推適用の余地はなく、許諾に係る手形金の支払を名義使用の許諾者に対して求めることはできないと解するのが相当である。
四 そうであれば、被控訴人の本訴請求は理由がないから失当として棄却すべきである。
よって、右と結論を異にする原判決及び東京地方裁判所が同裁判所昭和五六年(手ワ)第一九八四号約束手形金請求事件について昭和五七年三月一二日言い渡した手形判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条及び第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 梅田晴亮 上野精)