大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)96号・昭59年(ネ)35号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一昭和五四年四月一三日午後一時三〇分ごろ、生後二年余の幼児であつた第一審原告(以下「原告」と表示する。)が、サンダル履きで三輪車に乗り、東京都三鷹市上連雀九丁目一五番二五号に所在するアパート山中荘の敷地内に入り込み、同敷地内(空地部分)に掘られていたごみ焼却用の穴(本件焼却穴)に転落し、両手足に火傷を負う事故(本件事故)が発生したこと、右山中荘(建物)及びその敷地が第一審被告大橋(以下「被告大橋」と表示する。)の所有に属し、同被告においてみずからこれを管理していたこと、第一審被告河野(以下「被告河野」と表示する。)が山中荘に居住し、本件事故発生当時、本件焼却穴をごみ焼却のため利用していたことは、いずれも当事者間に争いがない。<中略>

二そこで、以上の事実関係に基づいて、本件事故に関する被告らの責任、原告側の過失について順次判断する。

1 (被告大橋の責任)

叙上認定の事実(加除訂正のうえ引用した原判決認定の事実)によれば、本件焼却穴は、直径が七〇センチメートル位、深さが四〇センチメートル位、或いは直径、深さともそれ以下のものであつて、いずれにしても、それ自体は周辺で遊ぶ幼児にとつても特に危険な存在とはいえない程度の規模のもので、ただ地表面を凹めただけの単純な穴であつたと推認できるところ、このことに加えて、その穴の所在場所、使用方法、使用状況等叙上説示認定の諸事情にも照らし考えると、本件焼却穴が民法七一七条にいう「土地の工作物」に該当するものとはいいがたいし、また、本件焼却穴でごみ等を焼却する場合危険は火の使用によつてこそ生ずることにかんがみ、焼却関係者がその責任と負担において、焼却を終えるまで監視を続け、焼却後完全に消火して、火による事故の発生を未然に防止すべきは、社会の通念に照らし、もとより事理の当然であるから、ごみ等の焼却をした者が消火をしないままその場を離れることを予測し、これに対応した危険防止の設備や措置を施すべき注意義務が山中荘及びその敷地の所有者ないし管理者である被告大橋に存するものともいいがたい。なお、この観点からすれば、仮に本件焼却穴が「土地の工作物」にあたるとしても、本件焼却穴につき、その設置、保存に瑕疵があるとはいえないことは明らかである。他に、被告大橋に原告主張の過失があると判断すべき特段の事情の主張立証はない。したがつて、本件事故について、被告大橋に民法七〇九条、七一七条の責任がある旨の原告の主張はいずれも採用することができない。

2 (被告河野の責任)

被告河野は、原告ら幼児が時折り本件焼却穴が所在する空地で遊んでいたことを知つていたのであるから、じゆうたんの切れ端などを焼却してその場を離れる際、たとえ付近に人影がなかつたとしても、同被告が立ち去つたのちに幼児等が右焼却穴に近付き、不測の事故が発生する可能性もあることが予見できたはずであり、したがつて、同被告には右焼却後の残り火が完全に消火するまでこれを監視すべき注意義務があつたものといわざるを得ない。しかるに、右注意義務を怠つた同被告の過失により本件事故が発生したものというべきであるから、同被告は、民法七〇九条に基づき、右事故により生じた原告の損害を賠償すべき責任がある。

3 (原告側の過失)

本件事故の発生については、生後二年余の幼児にすぎない原告が靴に較べて安定度の低いサンダル履きで、ひとりで屋外に出たことを知りながら、これを放置した原告の母親の過失(落度)にも原因があり、しかも、その過失の重大性は明らかといわざるを得ない。したがつて、本件事故による賠償額の算定にあたつては、原告側の過失として、この点が斟酌されるべきである。

<編注=過失相殺八割>

(後藤静思 尾方滋 橋本和夫)

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