東京高等裁判所 昭和59年(ラ)26号 決定
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【判旨】
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状<略>及びその引用する上申書記載<略>のとおりである。
よつて検討するに、本件記録によれば、本件競売の申立人である東洋信用組合は、株式会社イシカワとの間の信用組合取引等によつて生ずる債権を担保するため、昭和五五年一〇月二九日同会社の代表取締役である石川登との間で石川の所有に係る本件土地建物につき極度額四、五〇〇万円の根抵当権設定契約を締結し、同年一一月一日その旨の登記を経由した(なお、その際、同組合は、右根抵当権設定登記と同時に右根抵当権の確定債権の債務不履行を停止条件とする賃借権設定の仮登記を経由した。)が、石川は昭和五六年一月二六日死亡し、相続人不存在のため本件土地建物は相続財産法人となつたこと、東洋信用組合は昭和五七年八月三一日浦和地方裁判所熊谷支部に対し右根抵当権の実行としての競売を申し立てたので、同裁判所は同年九月七日本件土地建物に対する競売の開始決定をし、その結果、同月九日差押えの登記がなされたこと、同裁判所は、期間入札の方法により本件土地建物の売却を実施したところ、相手方が最高価買受申出人となつたので、昭和五八年一一月一一日相手方のために売却許可決定を言い渡し、同決定は同月一八日確定したこと、相手方は、同月二九日売却代金一、六六六万六、〇〇〇円を納付したうえ、同年一二月六日本件土地建物の占有者である抗告人に対し引渡命令の申立てをなしたので、同裁判所は、抗告人を審尋したうえ、昭和五九年一月九日右引渡命令を発したことが認められる。
そこで、抗告理由につき判断する。
抗告人は、抗告人の本件土地建物に対する占有は、抗告人が昭和五六年二月二七日徐基龍から賃料一か月五万円、期間三年の約で借り受けた本件建物の転借権に基づくものであると主張し、本件記録によれば、右転貸借が存在すること、右転貸借の基礎となつた徐の賃借権は、徐が本件建物につき昭和五六年一月三〇日安田光春から期間三年、転貸できる特約つきで設定を受けたもので、すなわちこれも転借権であること、更に、その基礎となる安田の本件土地建物に対する賃借権は、安田が石川との間の金銭消費貸借取引等によつて生ずる債務を担保するために、石川から昭和五五年一二月一八日本件土地建物に対する同日付極度額五〇〇万円の根抵当権設定の仮登記を受けた際、これと同時に設定の仮登記を受けた、右根抵当権確定後の被担保債務の不履行を停止条件とする期間三年、転貸できる特約つきの短期賃借権であることが認められる。
そうだとすれば、安田の右賃借権は、いわゆる仮登記担保権であると解せられ、したがつて、相手方が本件売却代金を納付した時に消滅したものといわなければならない(仮登記担保契約に関する法律第二〇条、第一六条第一項)。なお、前記徐自身も直接石川から本件土地建物につき抵当権及び停止条件付賃借権の設定を受け、いずれも昭和五六年二月二六日その仮登記を経ていることが認められるが、これも前記安田のものと同様、消滅したと認められる。
ところで、売却に係る不動産の占有者の占有権原が前記のように売却によつて消滅する仮登記担保権であるときは、たとえそれが仮登記された賃借権であるとしても、右賃借権認定の目的は、金銭債権の履行確保にあり、当該不動産の使用収益自体を直接の目的とするものではないと解すべきであるから、このような賃借権による不動産の占有者は民事執行法第八三条の適用に関しては、事件の記録上差押えの効力発生前から権原により占有している者でないと認められる不動産の占有者に準じて取り扱い、引渡命令の相手方となると解するのが相当である。
これを本件についてみるに、抗告人の占有の権原は、仮登記担保権である安田の賃借権を基礎として設定された再転借権であるから、前記説示のとおり、抗告人は、本件引渡命令によつて本件建物を引き渡すべき義務があるものといわなければならない。
(小堀勇 吉野衛 山﨑健二)