東京高等裁判所 昭和59年(ラ)31号 決定 1984年6月14日
抗告人(原審申請人) 中西徳二
右代理人弁護士 中嶋郁夫
相手方(原審被申請人) 永井忠良
<ほか二名>
右三名代理人弁護士 五月女五郎
主文
原決定を「抗告人が相手方らから昭和五八年四月一九日買い受けた株式会社飯田橋ニューハウスの株式の価格を一株につき金三九三三円と定める。」と変更する。
理由
一 (抗告の趣旨・理由)
本件抗告の趣旨は「原決定を『株式会社飯田橋ニューハウスの株式の昭和五八年四月一九日における一株の価格を金二九四五円と決定する。』と変更する。本件手続費用は全部相手方らの負担とする。」との裁判を求める、というものであり、抗告の理由は別紙各「準備書面」の写し記載のとおりである。
二 (当裁判所の判断)
1 本件記録によれば、抗告人が原審に提出した別紙「株式売買価格決定申請書」の写し記載にかかる申請理由第一項ないし第三項の事実が認められる。そうすると、相手方らと抗告人の間においては、昭和五八年四月一九日、相手方らの有していた株式会社飯田橋ニューハウス(以下「ニューハウス」という。)の株式合計一七〇〇株(相手方忠良の分一五〇〇株、相手方弘子、同馨の分各一〇〇株)について、売主を相手方ら、買主を抗告人とする売買契約が成立したものというべきところ、抗告人が商法二〇四条の四第一項所定の期間内に本件売買価格決定の申請をしたことは記録上明らかである。なお、仮に相手方忠良がその主張のとおり一七五〇株の株式を有するとしても、商法二〇四条の三第一項に基づく抗告人の売渡請求(以下「本件売渡請求」という。)の対象となった株式はそのうちの一五〇〇株であるから、残りの二五〇株については前記売買契約の成立を認める余地がない。
2 そこで、以下、右売買価格について検討する。
一件記録によると、本件売渡請求直近の決算期である昭和五七年一〇月末日現在におけるニューハウスの貸借対照表上の純資産額は一七二三万四八七一円であるが、同対照表の資産の部には、ニューハウスにおいて現に使用中の建物の賃借にあたって賃貸人に差入れた敷金一一〇〇万円が計上されているところ、そのうち一五〇万円は賃貸人との約定により返還を求め得ないものであることが認められる。そして、その後、ニューハウスの純資産額に増減が生じたことを認めるに足りる的確な資料はない。
そうとすれば、本件売渡請求時におけるニューハウスの純資産額(一部修正した帳簿価額)は一五七三万四八七一円と算出されるから、いわゆる純資産評価方式を採用し、右純資産額を発行済株式総数四〇〇〇株で除した三九三三円をもって、一株の前記売買価格と認めるのが相当である。
なお、右採用にかかる純資産評価方式は、取引相場のない株式価格算定のため用いられる諸方式のうちの一つにすぎないが、本件においては、その他の方式採用のための基礎的事実関係を認めるべき資料がないうえ、記録上認め得るニューハウスの業種、規模、人的構成、株式の支配状況、その他諸般の事情一切に照らし考えれば、純資産評価方式のみによる前記算定結果について、その具体的合理性を肯認できるものというべきである。
3 抗告人は、前記貸借対照表に計上されているニューハウス所有の「津田沼の土地」、「新宿の土地」の価額が高額にすぎるとして、これを争うが、一件記録によれば、「津田沼の土地」についてはその取得価額(取得時期不詳)がそのまま計上されているものであること、また、「新宿の土地」は、昭和五四年に地上建物と共に一括して買受けたものであって、貸借対照表上の右土地・建物の合計価額はその取得価額に合致することが認められるところ、右各取得価額自体が高額にすぎたこと、又はその後右各土地価額が下落したことなど、特段の事情を認めるに足りる資料はない。してみると、「津田沼の土地」については貸借対照表上の価額が高額にすぎるものとは認めがたく、「新宿の土地」については、仮に同対照表上の価額が高額にすぎるとしても、同じく対照表上の地上建物価額との合計額が時価を超えるものとは認めがたいので、そのことはニューハウスの純資産総額に関する前記認定に影響を及ぼすものではない。
そして、抗告人の本件抗告理由中、ニューハウスの純資産額についていう部分(右土地価額に関する部分を含む。)を除くその余の点は、本件全資料を精査するも、前記売買価格を低減すべき事由に該当するものとは認定しがたく、さらに記録を調べてみても、他に以上の認定判断を覆すに足りる資料はみあたらない。
4 よって、本件売渡請求に基づくニューハウスの株式の売買価格は、これを一株につき三九三三円と定めるのが相当であるから、これと結論を一部異にする原決定を右のとおり変更することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 後藤静思 裁判官 奥平守男 尾方滋)
<以下省略>