東京高等裁判所 昭和59年(ラ)440号 決定
四 相手方は、本件競売手続は民事執行法(以下「法」という。)五三条の規定の類推適用により取り消されるべきであると主張するので、この点につき判断する。
法五三条の規定は、競売手続において、売却の対象となる不動産そのものにつき、法律上及び事実上、客観的に買受人が所有権を取得し得ないような事由の存することが明らかとなった場合に関し、このような場合には競売手続を続行することは無駄であり無意味であるところから、競売手続全体を取り消すべきことを規定したものである。
ところが、本件においては、前記事実関係によれば、本件土地とその地上に存する本件建物とが競売に付され、本件土地は法定地上権の負担付きで評価されたが、本件土地建物の所有者である抗告人において、本件土地のみを競落し売却許可決定を受け、その後、代金納付期日までの間に自ら本件建物を取り壊したというのであって、滅失に帰した本件建物は売却の対象外のものであるほか、建物の所有者が自らその建物を取り毀したのであるから何ら権限に欠けるものではなく、単に、右買受人である抗告人に本件土地の所有権を取得させた場合には、抗告人に不当な財産上の利益を得さしめるとともに、本件建物の抵当権者である相手方に損害を生ぜしめることになるというにすぎず、このような事情の存することは、法五三条にいう「売却による不動産の移転を妨げる事情が明らかとなったとき」には当たらないというべきである。
抗告人に右のような利益を得さしめることは、執行手続において不当な結果を招来することを知りながらこれを容認することとなり、適当でないとの感を免れないではないが、このような事態は、本来、利害の対立する当事者間における損害賠償請求等の民事上の請求により解決すべきものであって、法五三条の規定が、かかる場合についても競売手続の取消という解決方法を予定したものとは解されず、したがって、本件につき同条の規定を類推適用することも相当でないといわなければならない。
そうすると、本件競売手続を法五三条の適用ないし類推適用により取り消す余地はないというほかなく、右類推適用によりこれを取り消した原決定は相当でないから、取消しを免れない。
(舘 新村 赤塚)