東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)108号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 審決理由2(引用例の記載内容)のうち攪拌軸と固化剤注入パイプが相対的移動関係にあることを除くその余の点、同3(本件発明の四個の実施例)、同4(本件発明の実施例Dと引用例記載の発明の対比)のうち一致点を除くその余の点は当事者間に争いがない(右のとおり引用例記載の発明の攪拌軸6、混練羽根5、ヘドロ固化剤、固化剤圧入パイプCがそれぞれ本件発明の回転軸1、攪拌羽根2、ヘドロ硬化剤、ヘドロ硬化剤注入管3(以下、「注入管」ともいう。)に相当するのであり、成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)、同第五号証(引用例)によれば、引用例記載の発明の下端ノズル16が本件発明の噴出孔aに相当すると認められるから、以下の対比においては本件発明の名称を用いることとする。)
三 取消事由(1)について
1 当事者間に争いのない本件発明の要旨及び前掲甲第二号証によれば、本件発明によるヘドロ硬化処理方法は、回転軸と注入管を別体とし、(イ)攪拌羽根を設けた回転軸の上下移動を停止させ攪拌羽根の位置を停止状態とするときは、先端部に噴出孔を設けた注入管を上下移動させる方法(実施例A、B)、(ロ)右回転軸を上下移動させ攪拌羽根の位置を移動させるときは、所望範囲の複数段に噴出孔を設けた注入管を停止状態とする方法(実施例C、D)の二つの方法を含むものであり、本件発明において、右の二つの方法による攪拌羽根を設けた回転軸と噴出孔を設けた注入管との移動関係をそれぞれ相対的移動関係と称しているものであることが認められる。
一方、当事者間に争いのない事実及び前掲甲第五号証によれば、引用例記載の発明の方法によるヘドロ硬化処理方法は、本件発明同様回転軸と注入管を別体とし、注入管を停止状態としてその下端部に一個設けられた噴出孔からヘドロ硬化剤を噴出し、多段の攪拌羽根を設けた回転軸を上下させることによつて右硬化剤を混練しヘドロ硬化処理を行う方法であることが認められる。
この事実によれば、引用例記載の発明は注入管に設けられた噴出孔の数、位置の点を除けば、回転軸と注入管との移動関係において、前記本件発明(ロ)(実施例D)と変わるところはない。そうであれば、引用例記載の発明においても、本件発明同様回転軸と注入管の相対的移動関係によりヘドロ硬化処理を行つているものということができる。
2 原告は前記相対的移動関係につき攪拌羽根による攪拌圏の全域への平均的な硬化剤の供給が行われるような回転軸と注入管の移動関係を意味するものである旨主張する。しかし、本件発明の構成における両者の相対的移動関係は、前記1(イ)又は(ロ)に示されたとおりの両者の移動関係を指すものと解すべきであるから、その意味では、前記1のとおり引用例記載の発明における回転軸と注入管は右のような相対的移動関係にあるものといつて差支えない。後記のように攪拌圏全域への平均的なヘドロ硬化剤供給という効果において本件発明と引用例記載の発明とは相違するが、それは注入管に設けられる噴出孔の数、位置の差異によりもたらされるのであつて、相対的移動関係自体に起因するものではない。したがつて、右の効果によつて本件発明の相対的移動関係が限定されるとする原告の右主張は採用できない。
3 よつて、取消事由(1)は理由がない。
四 取消事由(2)について
審決は、注入管に設けられた攪拌羽根の攪拌圏の全域へヘドロ硬化剤を噴出しヘドロ硬化処理を行う点で両発明が構成上一致する旨判断するが、本件発明の要旨に照らせば、本件発明は攪拌圏の「全域へ平均的」にヘドロ硬化剤を供給する構成を採るものと認められるから、「全域へ平均的に供給する」点において両発明が一致するものと判断したものと解される。
前掲甲第二号証によれば、本件特許公報には別紙図面(一)の第2図(実施例C)について、「噴出管(注入管の意味と解される)3にはその長さ方向の異なる位置に多数の噴出孔a1a2、a3………が夫々設けてある。しかして、ヘドロ中へ貫入せしめた注入管が所望する所定の位置に停止してヘドロ硬化剤を吐出しながら周囲に供給する時は、該注入管の噴出孔a1、a2、a3………の穿設範囲内を攪拌羽根が図示の実線位置から点線位置の距離を矢印の方向へ往復移動するよう構成する。」と記載されていることが認められるから(二欄三二行ないし三欄一行)、実施例Dにおいても、その注入管に設けられる複数段の噴出孔の所望範囲とは、攪拌羽根の上下の移動範囲と一致するものと認めることができる。本件発明(実施例D)はかかる範囲に複数段に多数の噴出孔を設けた注入管が停止状態にあつて、攪拌羽根を多段に設けた回転軸が右範囲を上下に移動する構成を採ることにより、「攪拌羽根による攪拌圏の全域へ噴出孔を実質的に配置させる」こととなり、その結果攪拌圏全域に平均的にヘドロ硬化剤を供給し、「ヘドロ硬化剤を確実に且つ定量を有効にヘドロの所望箇所へ混入できるため攪拌混合のバラツキが無く、しかも攪拌圏の全体にわたり均一強度の硬化処理ができる」(甲第二号証、四欄二〇行ないし二四行)効果を奏するのである。
これに対し、引用例記載の発明は、既に述べたように、回転軸と注入管を別体として、注入管を停止状態とし回転軸を上下動させる相対的移動関係によつてヘドロ硬化処理を行うものであるが、前記のような本件発明の構成とは異なり噴出孔が注入管の下端に一箇所設けられているにすぎないから、攪拌羽根による攪拌圏の全域へ噴出孔を実質的に配置した構成を採るものということはできない。したがつて、引用例記載の発明における前記構成からはヘドロ硬化剤の攪拌圏に対する供給が不均一になることは避けがたく、その供給の態様をもつて本件発明による攪拌圏全域への平均的供給と同視することはできない。
よつて、審決は両発明の一致点を誤認したものというべきである。そして、このように本件発明と引用例記載の発明とはヘドロ硬化剤の供給の態様についての構成及びその効果においていずれも異なるのであるから、この点において、両発明は同一のものということはできないのである。
五 取消事由(3)について
審決は、注入管に噴出孔をその所望範囲の複数段に多数個設けることが周知技術であるとして、特開昭四八―六〇四〇八号公報を引用する。成立に争いのない甲第六号証によれば、右公報には土壌攪拌翼20(攪拌羽根)を設けた回転軸と薬液注出管22(噴出孔)を設けた注入管を薬液注入管1として一体に形成し、攪拌羽根の下方に噴出孔を配置し、両者が一体のものとして回転するヘドロ硬化装置が記載されていることが認められる。
審決は、引用例記載の発明に右公報に記載された噴出孔に関する技術を適用することは単なる設計事項にすぎないとして、相違点に構成上の実質的差異はない旨判断している。しかし、引用例記載の発明は右公報記載のものとは異なり回転軸と注入管が別体として構成されているし、また、前記ヘドロ硬化剤の供給の態様の構成及び効果についての両発明の差異が審決が相違点として摘示した噴出孔の数、位置の差に由来するものであることは前記四に述べたところにより明らかであるから、本件発明は噴出孔につき審決が相違点として摘示した構成を採ることによつて引用例記載の発明に比しすぐれた効果を奏するのである。そうであれば、引用例記載の発明に右公報記載の技術を適用することにつき、これを進歩性の観点から判断するのであれば格別、新規性の観点からとらえ、単なる設計的事項であるとして、前記相違点について構成上の実質的差異を否定することは誤りである(なお、審決理由7が進歩性についても判断したものと解することはできない。)。
六 審決における以上の誤りは、両発明を実質的に同一であると判断した結論に影響を及ぼすことが明らかなものというべきであるから、審決は違法として取消を免れない。
七 よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
回転軸へ攪拌羽根を一段若しくは多段になして設けしめ、ヘドロ層内の所望位置で該攪拌羽根を停止或は移動させることにより回転軸の長さ方向の所望範囲を攪拌するようなさしめると共に、該攪拌域内のしかも回転軸の長さ方向と同方向に移動するヘドロ硬化剤の注入管を別体になして設け、該注入管に穿設する噴出孔を、前記攪拌羽根の位置が停止状態となすときは先端部に設けて注入管を移動させ、これに対し移動させるときは所望範囲の複数段に多数箇設けて注入管を停止状態となさしめ、このような両者の相対的移動関係になさしめて攪拌羽根による攪拌圏の全域へ噴出孔を実質的に配置させるよう構成し平均的なヘドロ硬化剤の供給を行いながら硬化処理が実施されるようになされていることを特徴とするヘドロ硬化処理方法(別紙図面(一)参照)。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>