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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)117号 判決

(当事者間に争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は、以下に説示するとおり正当であつて、原告の主張は、すべて理由がないものというべきである。

前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第一号証の一及び二(本願発明の願書並びに添付の明細書及び図面)、第四号証の一(昭和五六年一月一四日付手続補正書)を総合すれば、本願発明は、コンピユーター化した軸方向断層写真術(CAT又は一般的にいうとCTスキヤナ)等の装置に用いる電気信号測定装置に関する発明であつて、従来、CTスキヤナにおいては、放射線が患部を透過したことにより得られる電気的なアナログ入力信号を最大充電レベルがそのアナログ入力信号の振幅に比例する積分器に充電させ、その後、右充電電荷を放電通路を介して放電させ、右放電の放電時間に対応した存続期間を有するパルス信号に変換し、右パルス信号の存続期間を示すデイジタル信号を得て、これをコンピユーター処理して右アナログ入力信号の振幅、すなわち、放射線の患部における吸収又は透過の量を測定していたが、従来のCTスキヤナにおいては、放電回路の放電レートが一定であり、放電時間は右最大充電レベルに比例するから、アナログ入力信号の振幅が大きいときには右放電時間はそれに対応して長くなり、右評価に割り当てられた評価時間を超過してしまい大きい動的範囲を有するアナログ入力信号を正しく測定できないという問題があつたことから、本願発明は大きい動的範囲を有するアナログ入力信号の振幅を正確に測定し得る電気信号測定装置を提供することを目的ないし技術的課題として、本願発明の要旨(特許請求の範囲1の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したもので、特に、あらかじめ定められた時間の間入力端子を積分装置に接続せしめた後これを積分装置から切り離し、かつ、第1の放電通路を積分装置に接続せしめてその接続を導通信号が中断されるまで維持せしめ、導通信号が前もつて中断されていない場合に、第1の放電通路が積分装置に接続せしめられた後におけるあらかじめ定められた時間において第2の放電通路を積分装置に接続せしめ、第2の放電通路が積分装置に接続される前よりも接続された後の方がより迅速に積分装置からの放電が生じるようにするという構成を採用することにより、アナログ入力信号の振幅が小さい場合には第1の放電通路による小さい放電レートによる放電だけで放電を終了させるようにし、アナログ入力信号の振幅が大きい場合にはあらかじめ定められた時点まで第1の放電通路による小さい放電レートで放電を行い、右時点以後は第1及び第2の放電通路による大きい放電レートで放電を行うようにすることにより、従来の電気信号測定装置に比べて大きな動的範囲をもつアナログ入力信号を処理することができるという作用効果を奏するものと認められる。なお、原告は、本願発明は一定の評価時間内に評価を終了させるという点を発明の目的ないし技術的課題としたものである旨主張するが、前掲甲第一号証の二によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、「最大放電時間(Δmax)は一定に保持されかつそして勿論Tより小さいかそれに等しいかであるが、第2図の回路は第1図の回路よりもかなり大きい値の電荷(従つて入力信号振幅)を処理することができる。」(同号証第一一頁第七行ないし第一一行)と、本願発明が従来のこの種の装置に比べて、動的範囲の大きなアナログ入力信号を処理できる旨の記載があり、また、図面第1図に放電時間を示すものと思われるΔの図示があり(明細書の発明の詳細な説明の項にそれに関する説明はない。)、第2図に小放電時間及び大放電時間を示すものと思われるΔ´、δの図示と明細書の第一〇頁第一三行ないし第一一頁第二行にそれらに関する断片的な説明はあるけれども、右最大放電時間(Δmax)が具体的にどのような時間を意味するかについては何らの説明も認め得ないのみか、本願発明の前示特許請求の範囲には、アナログ入力信号の振幅の大きさと右放電時間Δにおける右二つの時間Δ´δ、すなわち、原告の主張する第1の放電通路による放電時間と第2の放電通路による放電時間との分配比を特定する構成や右配分比を決定するための手段についての構成は何ら特定されておらず、単に、小放電レート及び大放電レートを組み合わせる構成が記載されているにすぎないものと認められるから、このような構成によつては一定の評価時間内に評価を終了させること、すなわち、評価時間の上限を制限することはできず、本願発明の前記構成は、単に小放電レートだけによる場合よりも評価に要する時間が短くなるという技術的思想を示しているにすぎないものというべく、そうであるとすれば、本願発明は一定の評価時間内に評価を終了させるという点をその発明の目的ないし技術的思想とするものということはできない。他方、引用例(引用例が本願発明の優先日前において頒布された刊行物であることは、原告の明らかに争わないところである。)に本件審決認定のとおりの事項を欠くことのできない構成とする発明が記載されていることは原告の認めるところであり、この事実に成立に争いのない甲第五号証を総合すれば、引用例記載の発明の目的は、従来の二入力積分ランプ出力発生型アナログ―デイジタル変換器は、未知のアナログ電圧が所定の時間積分され、しかる後に反対極性の基準電圧が出発レベルに達するまで積分され、右基準電圧の積分の時間にカウントされるパルスの数によつてデイジタル表示が行われるものであり、このような変換器は精度はよいものの高速度で動作しないという欠点があつたところから、この欠点を解消するとともに経済性を備え、しかも従来のものと変わらない精度を有する積分ランプ電圧発生型アナログ―デイジタル変換器を提供することであり、前示の構成、特に、アナログ入力信号の振幅が大きく、その積分値の出力電圧Voが基準電圧Vtより大きい場合には、まず大きい放電レートで放電を行い、出力電圧Voが基準電圧に達した以後は小さい放電レートによる放電を行うようにするという構成を採用することにより、先行技術の二入力積分ランプ電圧発生型アナログ―デイジタル変換方法で利用し得る速度より速い速度と従来のものと変わらない精度のものを提供することができ、大きな動的範囲をもつアナログ入力信号を処理することができるという効果を奏するものと認められる。そして、本願発明と引用例記載の発明とは、本件審決認定の相違点(イ)及び(ロ)の点で相違するが、その他の点では格別差異が認められないことは、原告の認めて争わないところである。

ところで、原告は、本件審決の右相違点(イ)及び(ロ)についての認定判断を争うので、前認定したところに基づき、まず相違点(イ)につき検討するに、優先日前において、この種のアナログ入力信号の大きさを評価するための回路装置において放電通路を切り換えて放電レートを変化させること、及び後の放電がより迅速になされるよう放電レートを定めることが周知の技術であること、並びに回路を並列接続すればインピーダンスが低下して放電レートが大となることが技術常識であることは原告の認めるところであり、また、前掲甲第五号証によれば、引用例には、アナログ入力信号の振幅が小さく、その積分値が基準電圧Vtより小さい場合の二段階放電の態様についての明示的な記載はないが、引用例の第六頁第一二欄第三二行ないし第九頁第一八欄第一六行並びに第5図及び第6図に、引用例記載の発明の回路構成とその動作説明についての記載があり、それらの記載によれば、右のような場合には、時刻T1になると、いつたん大放電レートの放電を行うように切り換えられるが、その後は、二つのクロツクパルスの印加期間後、直ちに小放電レートの放電を行うように切り換えられるように作動するものと認められ、結局のところ、引用例記載の発明においても、右アナログ入力信号の振幅が小さく、その積分値の出力電圧Voが基準電圧Vtより小さい場合には、無視できるほど短い二つのクロツクパルスの印加期間を経て直ちに小放電レートの放電を行うように切り換えられるように動作し、実質的に一段階の放電を行うものとみることができ、これにより精度の高い測定が行われるものと認めることができ、以上の諸事実に徴すれば、引用例記載の発明において異なる電圧の基準電圧源を切り換えて放電レートを変化させているのを放電通路を切り換えて放電レートを変化させるように変更し、その際、本願発明のように第1の放電通路と第2の放電通路とを並列接続することにより後の放電レートがより大であるよう定めることは、当業者が容易に推考実施することができるものと認めるのを相当とし、本件審決が相違点(イ)について、当業者が容易に推考実施し得ることと認められる旨認定判断した点に誤りはない。原告は、本願発明は、アナログ入力信号に振幅の大小があることを想定して、振幅が小さい場合にはゆつくり放電させて評価精度をよくし、振幅が大きい場合には最初はゆつくり放電させ、一定の時間経過後は速く放電させるというように放電レートを切り換えて放電させ、評価精度はともかくとして一定の評価時間で、すなわち、第1の放電通路の放電時間と第2の放電通路の放電時間とで定まる時間内に評価を終了させるようにした技術的思想を発明の要旨とするものであつて、引用例記載の発明とはその目的、効果を異にするばかりか、その構成をも異にするものであり、引用例にはこのような技術的思想を開示するところはない旨主張するが、前認定説示のとおり、本願発明も引用例記載の発明も、共に未知のアナログ入力信号の大きさをデイジタル信号に変換してその大きさを評価するための回路装置に関する発明であつて、一定の精度を保持しつつ大きい動的範囲を有するアナログ入力信号を正確かつ迅速に測定し得る電気信号測定装置を得ることを技術的課題ないし目的とし、放電途中において放電レートを変換させる手段を採用することにより右目的を達しようとするものである点で共通しているものと認められ、その奏する効果の点においても格別の差異があるものとは認められず、しかも、放電途中において放電レートを変換させる手段の違いについては、本件審決は相違点(イ)として認定しているのであるから、本願発明と引用例記載の発明とが、その課題ないし目的及びその奏する効果において異なるものと解することはできない。また、原告は、本願発明が一定の評価時間内に評価を終了させることをその発明の目的ないし技術的課題とするものであることを前提にして、本願発明と引用例記載の発明とが発明の目的ないし技術的課題を異にする旨及び周知例にも本願発明の右の技術的思想について教示するところがない旨るる主張するが、本願発明が右の点を発明の目的ないし技術的課題とするものでなく、したがつて、これを技術的思想とするものでないことは前認定のとおりであるから、原告のこの点の主張はいずれもその前提を欠き採用するに由ない。

次に、相違点(ロ)について検討するに、この種回路装置において放電レートの変更が積分装置の出力の値と無関係になされる構成が優先日前周知であることは原告の認めるところであり、また、前掲甲第一号証の二によれば、本願発明において放電レート切換時点を固定すると、小放電レートの放電時間、すなわち、高精度で評価できる時間は本願発明の明細書の第2図図示の期間Δ´に限られていて、その時間Δ´に相当するアナログ入力信号の振幅範囲は定めることができるといえるものの、引用例記載の発明においても、放電レートを切り換えて基準電圧Vtを固定すると、本願発明と同様に、小放電レートの放電範囲、すなわち、高精度で評価できるアナログ入力信号の振幅範囲は定められるのであるから、その違いは、時刻で規定するか電圧で規定するかの差だけにすぎない。そして、小放電レートの値を決定すれば、放電レートに時間を乗じたものが電圧になる関係から、引用例記載の発明において一定の電圧を右決定した放電レートで除すれば直ちに一定の時間が得られることは明らかであるから、高精度で評価できるアナログ入力信号の振幅範囲を電圧で定める代わりに、時間で定めることとの間に効果上の差異があるものとは認められず、結局、相違点(ロ)も引用例記載の発明から容易に推考できるものと認められる。したがつて、この点をもつて当業者が容易に推考実施することができるものであるとした本件審決の相違点(ロ)についての認定判断に誤りがあるとは到底いうことができない。原告は、本願発明は、右放電レート切換時点を固定することにより、放電が小さい放電レートで行われる時間範囲、すなわち、精度の良い評価を得ることのできるアナログ入力信号範囲を定めることができるという引用例記載の発明からは期待できない効果を奏するものであるから、本願発明における、第2の放電通路が接続されるのが第1の放電通路接続終了後あらかじめ定められた一定時間後であるようにした点が引用例から容易に推考実施され得るとはいえない旨主張するが、前認定説示したところに照らし、右主張は採用することはできない。

そうすると、本件審決には、原告主張の違法の点はなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

アナログ入力信号の大きさを評価するための回路装置であつて、前記入力信号に対する入力端子と、積分装置と、前記端子を前記積分装置に選択的に接続せしめる切換可能な手段と、前記積分装置から出力信号を受取るように接続されかつ前記出力信号の大きさが基準の大きさを超えているあいだ導通信号を発生するようになされた閾値装置と、前記積分装置に対する第1及び第2の放電通路とを具備した前記回路装置において、各放電通路はとくに前記導通信号に応答して前記通路を前記積分装置に選択的に接続せしめるための切換可能な手段をそれぞれ関連せしめられており、かつタイミング信号に応答して前記切換可能な手段の動作を制御する手段が設けられており、前記手段は、前記回路装置の動作時に、(a)予め定められた時間のあいだ前記入力端子を前記積分装置に接続せしめ、続いて、(b)前記端子を前記積分装置から切り離しかつ前記第1の放電通路を前記積分装置に接続せしめ、その接続を前記導通信号が中断されるまで維持せしめ、(c)前記導通信号が前以て中断されていない場合に、前記第1の放電通路が前記積分装置に接続せしめられた後における予め定められた時間において前記第2の放電通路を前記積分装置に接続せしめ、前記第2の放電通路が前記積分装置に接続される前よりも接続された後の方がより迅速に前記積分装置からの放電が生じるようになされていることを特徴とする、アナログ入力信号の大きさを評価するための回路装置。(別紙図面(一)第2図参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

Fig.1 省略

別紙図面(二) 第1図~第4図省略

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別紙図面(三)

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別紙図面(四)

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