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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)128号 判決

一 原告主張の請求の原因一の事実(本件商標の構成及び指定商品等並びに特許庁における手続の経緯)及び同二の事実(審決の理由の要点)並びに同三のうち引用商標の構成が別紙(二)記載のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。

本件商標と引用商標との外観上の類否については暫く措き、まず、両商標の称呼上の類否について考えるに、前記争いのない別紙(一)の本件商標の構成からは「オリノン」の、同じく別紙(二)の引用商標の構成からは「オリオン」の各称呼が生ずることは明らかである。そして、両称呼を対比すると、それらは、いずれも四音からなり、語頭の二音「オリ」及び語尾の一音「ン」を共通にするが、第三音において「ノ」と「オ」の相違があるものであるところ、両商標の前記構成からみて右の相違する第三音が特に強く発音されるものではないと認められること、及び、右「ノ」は鼻子音「n」と母音「o」とが結合した音であるが、鼻子音「n」は発音上聴者に与える印象の弱い音で、「ノ」の音が発音される場合には「o」の印象が強いとみられることを考慮すれば、両商標は、これを時と所を異にしてそれぞれ一連に称呼する場合、彼此混同されるおそれは極めて大きいとみるのが相当であり、したがつて、両商標は称呼上類似するものといわなければならない。

審決は、両商標は称呼上識別しうるとしているが、識別しうるからといつて直ちに両商標が称呼上類似しないとすることはできないから、これをもつて称呼上の類似性を否定する根拠とすることは相当でない。

また、被告は、両称呼の第四音が弱い鼻音であるため第三音が明瞭に区別される旨、並びに、両商標の観念上の相違が称呼の類否にも影響を及ぼす旨主張するが、第四音が弱音であつても、そのため前記のとおり印象の弱い第三音による区別が明瞭になるとはいえず、観念上の相違の点についても、本件商標の「オリノン」が造語であり、引用商標の「オリオン」がわが国では星座名を示すものと認識されることの多いことは明らかであるが、そうであるからといつて、「オリノン」という称呼を聴取した者が必ずしも「オリオン(星座)」とは異なる造語であると正確に認識するとは限らず、これを聴きなれた「オリオン」と聴き違えることも少なくないと考えられるから、被告主張のような影響があるとすることはできず、したがつて、被告の右各主張は理由がない。

なお、被告主張の別紙(一)記載の商標について二回の商標登録査定があつた経過が、審決の当否に影響を及ぼすべきものでないことは、いうまでもないところである。

以上のとおりであるから、本件商標と引用商標とが称呼上も類似しないとした審決の判断は誤りといわなければならず、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、その余の事項について判断するまでもなく、審決は、違法としてこれを取り消すべきものである。

三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

第一 当事者の求めた裁判

一 原告は、主文同旨の判決を求めた。

二 被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二 原告主張の請求の原因

一 本件商標の構成及び指定商品等並びに特許庁における手続の経緯

被告は、昭和四八年六月二九日登録出願、昭和五二年二月七日設定登録にかかり、指定商品を第一一類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)、電気材料」とし、別紙(一)記載のとおりの構成を有する登録第一二四七二一九号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告が、昭和五五年六月一一日、特許庁に対し、被告を被請求人として、本件商標の登録を無効とすることについての審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁同年審判第一〇五一五号事件として審理した上、昭和五九年三月一九日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年四月二日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

本件商標は、「ORINON」の欧文字と「オリノン」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなり(別紙(一)参照)、その指定商品及び登録に至る経過は前項記載のとおりである。

これに対し、登録第五七二一一〇号商標(以下「引用商標」という。)は、「ORION」の欧文字と「オリオン」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなり(別紙(二)参照)、旧第六九類「ラジオその他の電気通信機」を指定商品として、昭和三四年九月二一日登録出願、昭和三六年五月一五日設定登録、昭和五六年九月三〇日商標権存続期間更新登録にかかるものである。

よつて按ずるに、本件商標は「ORINON」「オリノン」、引用商標は「ORION」「オリオン」の文字を書してなるものであるから、それぞれの外観は、互に紛れるおそれのないものと認められる。

つぎに、両者の称呼についてみるに、それぞれ書された文字に相応して、本件商標は「オリノン」の称呼を生じ、引用商標は「オリオン」の称呼を生ずるものであること明らかである。

しかして、「オリノン」と「オリオン」の両称呼は、第三音において「ノ」と「オ」の差異を有するものであるが、「ノ」の音は前舌を中歯茎と接触して発音される音であり、「オ」の音は口の開き方を丸くして発音される音であつて、それぞれの音は明瞭に聴取されることと両者の音構成が四音という短いことと相まつて、他の三音を共通にしていても、この差異が全体の称呼に及ぼす影響は大きく、それぞれを一連に称呼するときは、互いに聴別しうるものと判断するのが相当である。

さらに、本件商標は特定の語義を有しない造語と認められるものであり、引用商標は「オリオン(星)座」の意味の英語として、一般に理解され親しまれている語であるから、両者の観念上の類否については比較することができない。

してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても非類似の商標と認められる。

したがつて、本件商標は、商標法四条一項一一号に該当しないものであるから、同法四六条一項一号の規定により、その登録を無効にすることができない。

三 審決を取り消すべき事由

審決は、後記のとおり、商標の類否判断を誤つた違法のものであるから、取り消されるべきものである。

1 外観上の類否判断について

審決は、本件商標及び引用商標の両者とも文字商標であることを理由に、両者の構成について詳しく検討を加えることなく、直ちに、外観において互いに紛れるおそれがないものと認定しているが、文字商標であるが故に外観上の類否が問題にならないとすることは、明らかに誤りである。

本件商標と引用商標の各構成は、別紙(一)及び(二)記載のとおりであり、両者を検討すると、次のような共通性を有している。

(1) 欧文字を上段に表わし、片仮名文字を下段に表わした構成である。

(2) 片仮名文字は、欧文字に比して小さな書体である。

(3) 片仮名文字の各文字間は等間隔に配され、全体の横幅は、欧文字とほぼ同程度である。

(4) 欧文字は、「N」の有無において相違するのみで、「ORI」の前三文字及び「ON」の後二文字において一致する。

(5) 欧文字の書体は、いずれも通常の書体である。

(6) 片仮名文字は、第三文字が「ノ」か「オ」かの相違のみで、前二文字の「オリ」及び末尾の「ン」を共通にする。

(7) 片仮名文字の書体は、いずれも通常の書体である。

(8) 相違する「ノ」と「オ」は、斜めの線において共通している。

右のとおり、両商標の構成は極めて近似しており、引用商標に接した取引者、需要者が時と所を別にして本件商標に接した場合、外観において両者を区別することは極めて困難で、彼此混同する可能性は極めて大である。よつて、両者は外観において類似する商標である。

2 称呼上の類否判断について

審決は、本件商標の称呼「オリノン」と引用商標の称呼「オリオン」における「ノ」と「オ」の差異を過大に評価し、両者は称呼において非類似であると誤認している。

しかし、「ノ」の音は、鼻子音「n」と母音「o」とが結合した音であり、鼻子音「n」が発音形態上及び聴覚の印象上において比較的弱い音であるため、母音「o」の印象が強く、「オ」の音と極めて近似した聴覚上の印象を与えるものである。

しかるに、両商標は、聴覚上強く印象され易く、したがつて、称呼における識別上重要な要素を占める語頭音「オ」において一致するばかりか、この語頭音に続く第二音「リ」、さらには最終音「ン」までも共通しており、僅かに相違する一音は、聴覚上印象の弱い中間音に位置するものであつて、この点のみをもつてしても、両商標の称呼上の類似性は明白であるところ、前記のとおり、相違する中間音が互いに近似音である「ノ」と「オ」の相違にすぎないため、両商標を一連に称呼した場合、語韻語調極めて相紛らわしく称呼上彼此混同される類似の商標である。

特許庁の審決例においても、「PAON」と「パノン」、「オルモン」と「B―NORMON」及び「ビーノルモン」、「ケミノツクス」と「ケミオツクス」、「CHEMINOX」と「ケミオツクス」、「ビンカオール」と「ビンカノール」及び「VINCANOL」という「ノ」と「オ」の相違を有する各二商標について、「ノ」と「オ」の音における近似性を認定し、両者を互いに称呼において類似する商標であるとしたものがあり、この判断こそ正当なものである。

第三 請求の原因に対する被告の認否及び主張

一 原告主張の請求の原因一及び二の各事実は認める。

二 同三のうち引用商標の構成が別紙(二)記載のとおりであることは認めるが、審決を取り消されるべきものとする主張は争う。原告主張の審決取消事由は、後記のとおりいずれも理由がなく、審決にはこれを取り消すべき違法はない。

1 外観上の類否判断に関する主張に対して

本件商標の構成は、欧文字ゴシツク体の六文字からなる「ORINON」を上段に大きく横書きし、下段に片仮名文字ゴシツク体の「オリノン」を欧文字の約三分の一の大きさで、欧文字と同程度の横幅にわたり表わしたものであるが、引用商標は、欧文字通常書体の五文字からなる「ORION」を上段に大きく横書きし、下段に片仮名文字明朝体の「オリオン」を欧文字の約四分の三の大きさで欧文字全体の幅より若干狭い幅にわたり表わしたものである。

このように、本件商標と引用商標とは、上段の欧文字において「N」の有無の相違があるのみならず書体を異にし、また、下段の片仮名文字は「ノ」と「オ」の相異のみならず文字の大きさ及び書体を異にするものであり、両者の外観は明らかに類似しないものである。

2 称呼上の類否判断に関する主張に対して

本件商標より生ずる称呼「オリノン」と引用商標より生ずる称呼「オリオン」とは、ともに四音より構成され、第三音である「ノ」と「オ」の音において差異を有するもので、「ノ」の音は前舌を中歯茎と接触して発音される音であり、「オ」の音は口の開き方を丸くして発音される音であるから、その音感を著しく異にし、かつ、両者は、比較的短い二音節からなり、ともに語尾において鼻音として弱い撥音「ン」により構成されているものであるから、その前音である「ノ」及び「オ」の音は明瞭に区別され、両音をそれぞれ一連に称呼しても、両者の構成が四音という短いものであることと相まつて、聴感の相紛れるおそれがないものである。

また、本件商標「オリノン」は特定の語義を有しない造語であるのに対し、引用商標「オリオン」は「オリオン星座」を直観させる意味を有する語であるため、この語から生ずる観念が称呼にも影響し、両者の区別を一層容易にしているものであり、両者は称呼上類似しないものである。

原告主張の審決例は、いずれも本件とは事例を異にし、原告の主張を支持する資料とすることはできない。

なお、本件商標は、被告の独創的な造語に基づく商標であり、昭和三七年四月三〇日付で商標登録出願され、昭和三八年六月二七日付で登録第六一八八四三号として登録されたものであるが、更新登録出願を忘れたため、これの再出願として、昭和四八年六月二九日付で商標登録出願されたものである。右のように、本件商標については、二回の審査経過において、すでに引用商標が登録されているにもかかわらず、これと類似するものでないとの判断に基づき商標登録されたものであるから、本件商標と引用商標とは類似しないとした審決の判断は正当であつて、原告主張のような違法の点はないのである。

〔編註その二〕 本件に関する商標は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

別紙(二)

<省略>

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