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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)137号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、訂正明細書の特許請求の範囲の記載及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであること、並びに本件訂正の範囲が別紙目録記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、訂正発明と先願発明との間に本件審決認定の相違点<1>及び<2>のほかに相違点があることを看過し、また、右相違点<2>についての認定判断を誤り、その結果右相違点<2>がもたらす作用効果上の差異を看過し、ひいて、訂正発明は、先願発明と実質的に同一で、その特許出願時に独立して特許を受けることができないものであるから、訂正は認められないとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において違法として取り消されるべきである旨主張するが、右主張は、以下に説示するとおり、理由がないものというべきである。

1 前示訂正明細書の特許請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第二号証(訂正明細書)、第三号証(昭和四五年一〇月一五日付手続補正書――原明細書)及び第四号証(昭和四四年五月一三日付追加の特許願並びに添附の明細書及び図面)中の図面によれば、訂正発明は、沸騰液体にまで熱を伝達するための熱伝導性金属壁に関する発明であつて、原発明の特許請求の範囲中「複数の溝」とあるのを「第一の複数の溝」と訂正し、「横方向に伸長し、」の次に「さらに第一の複数の溝に交差して制限された又は非制限的な開口を有する第二の複数の溝が形成されており」という構成を付加した構成からなる発明であつて、右構成を付加することにより、第一の溝だけの場合より、もつと複雑な表面層模様が得られ、熱の伝達面積を広大にし、気泡の発生量を増加して液体の沸騰を一層増進するという作用効果を奏し得るものと認められる。一方、先願発明の要旨が本件審決認定のとおりであることは原告の認めるところである。

そこで、以上認定したところにより訂正発明と先願発明とを対比するに、両者は、核沸騰作用により壁表面と接触する沸騰液体に熱を伝達するための熱伝導性金属壁に関する発明であるという点で一致することは明らかであり、両者の間に本件審決認定の相違点<1>及び<2>があることは原告の認めるところ、原告は、本件審決は訂正発明における「隆起部の各々が少くとも一つの隣接する溝内部及び(又は)上方にその長さの少くとも一部に沿つて横方向に伸長する」という構成が、先願発明における「多数のフインを間隔をあけて突出させ、該フインのそれぞれは、同一の方向に又、フインの先端部と隣接するフインとの隙間が、フインの基部と隣接する基部より狭くなる程度に、且つフインと隣接するフインは間隔をおいて部分的に重り合う程度に湾曲させる」という構成とは相違する点を看過した旨主張する。しかしながら、前示訂正発明の特許請求の範囲には、隆起部に関する構成を原告主張のように「一斉に一方向へ湾曲させるのではなくて、横に伸長して一様でない制限的開口を第一の溝に沿つて形成する」という構成に限定する記載はなく、また、前掲甲第二号証の訂正明細書の発明の詳細な説明の項の記載からもそのように解すべき根拠はない。なお、前掲甲第四号証中の図面には、横に伸長して一様でない制限的開口を第一の溝に沿つて形成したものが示されていることが認められるが、右は、第一の溝の一実施例と解するほかなく、このことから訂正発明の隆起部の構成を右態様のものに限定して解することはできない。更に、原告は、「訂正発明は、楔形の溝付け具で引くため不規則な溝を生じるが、先願発明は、切削によるため不規則な溝を生じない。」旨主張し、前掲甲第二号証によると、楔形の溝付け具によつて第一の組の一連の隆起部を順次溝付けする旨の記載(第五頁末行ないし第六頁第四行)があることが認められるけれども、溝の形成手段は訂正発明の特許請求の範囲に全く記載がなく、右楔形の溝付け具による溝の形成手段及び方法に関する記載は、訂正発明の構成と認めることはできない。そうであるとすれば、訂正発明の隆起部の構成が先願発明の前示フインの構成をその一態様として包含していることは明らかであつて、この点において訂正発明と相違するところはない。したがつて、原告の右主張は採用することができない。

2 次に、原告は、前記相違点<2>に関し、本件審決が訂正発明において第一の溝に交差して第二の溝を形成したことは周知であるとした認定判断並びに右相違点<2>のもたらす作用効果を看過した点を争うから、以下この点について判断することとする。

まず、原告は、訂正発明の第二の溝は、無規定と考えるべきではなく、第一の溝と同等の溝密度を有するものと考えるべきである旨主張するが、前示訂正明細書の特許請求の範囲には、「第一の複数の溝に交叉して制限された又は非制限的な開口を有する第二の複数の溝が形成されており」と記載されているのみで、「第二の溝は第一の溝と同等の溝密度を有する」旨の記載はなく、また、訂正明細書(前掲甲第二号証)の発明の詳細な説明の項の記載に照らしても、第二の溝の構成を原告主張のように限定して解することはできない。次に、原告は、周知例(一)には第一の溝しか記載されておらず、また、周知例(二)の交差溝は、訂正発明の第二の溝とは明白に違う旨並びに訂正発明と周知例(一)との交差溝の作用効果は異なる旨主張する。しかしながら、成立に争いのない甲第六号証(周知例(一)。一九六七年六月二〇日発行の米国特許公報)によれば、周知例(一)は、基壁と、該基壁の表面から延長した対向した側壁を有する複数の離間したひれ2と、前記ひれ2の各々の周縁に配置された複数の窪み3とより成り、前記窪み3は前記ひれ2の全幅に延長すると共に前記側壁の一つを超えて横に延び出るひれ先端材料より成るフレア状部を有している熱交換器であつて、管(チユーブ)1の軸方向と直交する方向に設けられたひれ2と2の間に設けられた溝を第一の溝とすれば、ひれ2に設けられた窪み3は、第一図及び第二図に図示されたように管1の軸方向に並び、第一の溝の上部と交差して設けられていることが認められるから、右の窪み3は、第一の溝に交差した非制限的な開口を有する第二の溝に相当するものと解することができ、また、同号証によると、周知例(一)は、前示の構成、すなわち、ひれ2と2の間の溝(第一の溝)を設けた伝熱面に非制限的な開口を有する窪み3(第二の溝)を設けた構成を採用したことにより、多数の初発核沸騰場が形成されるという作用効果を奏するものであることを認めることができる。また、成立に争いのない甲第七号証(周知例(二))によれば、周知例(二)は、熱の散逸装置についての発明であつて、核沸騰作用により壁表面と接触する沸騰液体に熱を伝達するための熱伝導性金属壁に関する発明ではないが、熱の散逸装置は、熱交換器に用いる一種の部材であり、訂正発明に係る沸騰液体用表面も熱交換器に用いる一種の部材であつて、共に、熱交換器の技術分野に属するものであるから、その目的・機能において異なることはないものというべく、同号証の第六図には、互いに直角に交わる二組の平行溝を設けた右発明の具体例、すなわち、その幅、溝数等が訂正発明の第一の溝とは異なるものの、第一の溝4に交差した第二の溝8を設けた例が示されており、右図の記載から二組の溝の間に干渉が生じていることは明らかである。そして、訂正発明の第二の溝の構成について前説示のとおり格別の限定がない以上、周知例(一)及び周知例(二)には、訂正発明の第二の複数の溝に相当する非制限的な開口を有する溝が開示されているものとみるを相当とするから、熱交換器の分野において、第一の溝に第二の溝を交差して設けた熱交換器の表面構造は、原発明の特許出願前周知であつたと認められ、また、前認定したところによれば、訂正発明において、第一の溝に交差する第二の溝を設けたことによる作用効果は、周知例(一)の交差溝が奏する作用効果そのものというべきであるから、相違点<2>は、単なる周知手段の付加に相当するものと解するほかはない。したがつて、原告の叙上主張は、いずれも採用するに由ない。

3 叙上のとおりであるとすれば、訂正発明は、先願発明と実質的に同一であるものと認めるを相当とし、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本件に関する別紙目録は左のとおりである。

目録

第一 原明細書中、特許請求の範囲の項を「(1)沸騰液体と接触する側面において隆起部により隔てられる八溝数/cm(二〇溝数/インチ)以上の密度における実質的に平行な第一の複数の溝を包含し、上記隆起部の各々が少くとも一つの隣接する溝内部及び(又は)上方にその長さの少くとも一部に沿つて横方向に伸長し、さらに第一の複数の溝に交差して制限された又は非制限的な開口を有する第二の複数の溝が形成されており、そして該隆起部の該横方向に伸長する部分が制限された開口部を通して外部と連通する表面下空洞を形成し、その際該開口部は上記空洞の巾より狭いことより成る熱伝導性金属壁において、該制限された開口部の限界範囲寸法―そこを通過出来る最大蒸気泡の直径として表示される―が〇・一二七mm(五mil)以下であることを特徴とする上記壁表面と接触する沸騰液体に熱を伝達する為の熱伝導性金属壁。」と訂正する。

第二 原明細書中第六頁第一行ないし第七頁第五行に「溝付け具によつて壁表面内に……取囲まれた空洞部を後に残すであろう。」とあるを「溝付け具によつて壁表面内に第一組の一連の隆起部を順次溝付けすること、これら隆起部と交差して制限された又は非制限的な開口を有する第二組の一連の溝を形成することで達成されうる。」と訂正する。

第三 原明細書中第七頁最下行に「して表面下空洞を形成し、」とある次に、「また第一組の溝に交差して制限された又は非制限的な開口を有する第二組の溝が形成されている。」を加入する。

第四 原明細書中第八頁下から第三行に「により作製される」とある次に「第一組の溝を有する」を加入する。

第五 原明細書中第九頁最下行に「もし」とあるのを「上記の第一組の溝に加えて、これらと交差する第二組の溝を形成させることにより」と訂正する。

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