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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)145号 判決

事実及び理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一)  本願考案は、前記要旨から明らかなとおり、「ストロボ箱がカメラ本体に没入している状態で発光部がカメラ上端部且つ側端部に近く位置する如く構成したストロボを、内蔵せるバネの勢力によりカメラ上方の所定突出位置に完全突出し得る如く設ける」ことを必須の構成要件とするものであるところ、成立に争いのない甲第二号証によれば、第一引用例記載のものは、本願考案のストロボ箱に相当するフラツシユユニツトの引出部材18が図面(別紙図面(二)FIG1)の実線で示した没入位置と破線で示した突出動作位置との間を移動するためカメラケーシング中をスライドするようになつており、押し釦26を押すと引出部材18の留め金25から掛け金24がはずれて、フラツシユユニツトをその突出動作位置に押し進めるように調節された、折りたたんだ板バネ23が設けられているものと認められる。

原告は、第一引用例には、引出部材を没入位置に位置づけるためのロツク手段を解除することにより内蔵する板バネの勢力によりフラツシユユニツトを図中破線で示される突出動作位置に向けて押し出す構成の記載はあるが、フラツシユユニツトを一気に突出動作位置に完全突出させる構成は示唆されていない旨主張し、その理由として、まず第一引用例には、第二欄第二四行ないし第三〇行に「(前略)折りたたんだ板バネ23は、押し釦26の押し動作により(中略)フラツシユユニツトを突出動作位置の方向に追いたてるように設けられている。」との記載はあるものの、審決認定の「板バネの勢力によつて、フラツシユユニツトをその突出動作位置に持ち来たす。」との記載はないと主張している。

しかしながら、原告の援用する第一引用例の記載部分(原文)における「its extended position(その突出位置)は、「an extended operative position, as shown in broken lines」(破線で示した突出動作位置)を指すことは右記載部分の文章の構成から明らかであり、そのように理解したうえ、右記載部分全体を検討し、かつフラツシユユニツトを突出動作位置まで上昇させるのに、板バネ23以外の力を必要とする旨の記載はないことを合わせ考えると、結局、右記載部分は、フラツシユユニツトが折りたたんだ板バネ23のバネの力のみによつて突出動作位置に押し進められることを意味するものと解するのが相当であり、この点についての審決の認定には誤りはない。

また、原告は、第一引用例記載のもののように、照明装置としてフラツシユバルブを用いるものである場合、フラツシユバルブが衝撃に弱いことはよく知られているから、これに強い衝撃を与えるような突出動作位置まで完全突出させる構成をとらず、初期突出動作は板バネの勢力を用いるとしても、その後の突出動作位置までの移動は手動で行うのがその出願時における技術常識である旨主張する。

しかしながら、フラツシユバルブがストロボに比べ衝撃に弱いものであるとしても、第一引用例記載のものにおいて用いられる板バネの材質、及び寸法・折り曲げ回数等を含む形状を適宜調整することによつてフラツシユバルブに格別の衝撃を与えないで突出動作位置にフラツシユユニツトを完全突出させることは、当業者が容易になしうる程度のことであるから、このことを理由に第一引用例記載のものが完全突出しえない構成のものとすることはできない。

原告は、右主張の裏付けとして、第一引用例の別紙図面(二)に図示された板バネやフラツシユユニツトの全体的形状、その関連構成及びこれらの各部分の実測値をもとに、板バネ材の材質、ヤング率、折曲げ回数、板バネにかかる荷重等を適宜設定して、フラツシユユニツトのロツク手段を解放したときの板バネによるフラツシユユニツトの突出量を計算し、その結果完全突出に必要な移動量を得ることはできないとしているが、一般に特許図面は設計図と異なり、各部の寸法まで正確に記載するものでないから、第一引用例の別紙図面・に基づいて板バネによるフラツシユユニツトの突出量を正確に算定すること自体不可能であり、仮に右図面が各部の寸法を正確に記載したものであるとしても、原告の計算の他の因子に仮定的要素が多く、板バネの材質、折曲げ回数等を原告主張のものに限定する根拠もなく、しかも、前掲甲第二号証によれば、右図面は実施態様を例示したにすぎないことが認められるから、もともと第一引用例記載のものの動作を右図面に記載のものに限定して理解することはできないというべきであり、いずれの点からしても、原告の右主張は理由がないことが明らかである。

更に、原告は、原告の前記主張は、第一引用例記載の発明の出願人と同一出願人による、ほぼ同じフラツシユ保持器突出のための構成をもつカメラに係る特許出願公告昭四二―七八二五号特許公報の記載からも裏付けられるとしているが、成立に争いのない甲第五号証によれば、右特許公報には、フラツシユ保持器のロツク手段を解くと、該保持器はカメラ内の引込み位置から上昇し、しかる後操作者が手動でこれを伸長位置(突出動作位置)まで引上げる装置が記載されていることが認められるが、前掲甲第二号証によれば、第一引用例には、フラツシユユニツトを手動で突出動作位置まで引上げることが必要である旨の記載は全く存しないのであつて、右特許公報をもつて第一引用例記載のものもこれと同一の構成であるとすることはできず、むしろ第一引用例の前記認定の記載事項に照らすと、第一引用例記載のものはバネの力のみで突出動作位置に完全突出できるものであつて手動による余地はないと認めるのが相当である。

以上によれば、第一引用例記載のものは、フラツシユユニツトの引出部材がカメラ本体に没入している状態で発光部がカメラ上端部かつ側端部に近く位置する如く構成したフラツシユユニツトを、内蔵するバネの勢力によりカメラ上方の突出動作位置に完全突出しうるように設けたものであつて、この点に関しては、本願考案と構成を同じくするものというべきである。

原告は、本願考案においては、(イ) ロツク手段を解除することにより内蔵するバネの勢力のみによりストロボを一気にフラツシユ撮影準備のための所定位置まで完全突出でき、(ロ) フアインダを覗いたまま発光準備ができるという操作性の向上を計ることができ、(ハ) バネの勢力のみによりストロボを撮影位置に確実に保持できるという顕著な作用効果を奏することができるのに対し、第一引用例記載のものはこのような作用効果を奏しえない旨主張する。

成立に争いのない甲第四号証の四によれば、本願考案の明細書の考案の詳細な説明中には、「先ず切換操作部材頭部10aを時計方向に変位させてストロボ箱2をカメラ本体上方に突出せしめる。即ち、切換操作部材頭部10aが軸12を中心として時計方向に変位されると、その突起11とストロボ箱2の切欠き4との係合が外れるから、ストロボ箱2は引張バネ6の勢力によつて第4図示のようにカメラ本体1の上方に突出する。」(本願考案の実用新案公報第八欄第二六行ないし第三三行)と記載され、別紙図面(一)第3図にはストロボ箱がカメラ本体に没入している状態が図示され、同第4図にはストロボ箱がカメラ上位の所定突出位置に完全突出した状態が図示されており、右記載及び図面に従えば、ストロボ箱の上昇距離は、ストロボ箱に設けられた制限ピン8がストロボ箱没入時の位置からカメラ本体に設けられた突出制限部1aに衝突するまでの長さに相当し、また、上昇の作動態様は、一端を本体に固着されたピン7に取付け、他端をストロボ箱2に植設されたピン5に取付けた引張バネ6の勢力によつて、ストロボ箱2が前記距離を一気に上昇し、その突出位置に保持されるものと認められる。

しかしながら、前掲甲第四号証の四によれば、右記載及び図面は、本願考案の実施例を説明したものであつて、(イ)の作用効果に関するストロボ箱を一定距離一気に上昇させるための構成及び(ハ)の作用効果に関するストロボを撮影位置に確実に保持させるための構成は、いずれも、本願考案の要旨、とりわけ「ストロボを、内蔵せるバネの勢力によりカメラ上方の所定突出位置に完全突出し得る如く設ける」ことに含まれないから、これをもつて本願考案の奏する作用効果とすることはできない。

そして、第一引用例記載のものが本願考案の作用効果を奏しえないとする原告の主張は、第一引用例記載のものが手動による引出作業を必要とすることを前提としたものであつて、この前提が誤りであることは既に述べたとおりであり、本願考案のストロボに相当するフラツシユユニツトを内蔵するバネの勢力によりカメラ上方の所定突出位置に完全突出し得る如く設けた構成において本願考案と同一である以上、この構成からもたらされる効果においても差異を認めることはできない。

(二)  本願考案は、前記要旨から明らかなとおり、内蔵するバネの勢力により撮影レンズの絞り機構を自動露出調節装置による作動状態から距離―絞り連動装置による作動状態に切り換える構成を有するものであるところ、前掲甲第二号証によれば、第一引用例記載のものは、人工照明源(フラツシユバルブ)による撮影のときは、フラツシユユニツトをカメラ本体の没入位置から突出動作位置へ突出させると共に、この突出に連動して補助光学レンズを光路から除去することにより焦点機構が短焦点距離状態になるようにした構成のものであることが認められる。

右構成に関して両者を対比すると、第一引用例記載のものは本願考案のように距離―絞り連動装置を具備するものではない点で本願考案と構成を異にするが、両者は人工照明源を用いるときに内蔵するバネによる人工照明源の突出に連動して適切な撮影条件を得るようにした点では、軌を一にするものということができる。

ところで、成立に争いのない甲第三号証によれば、第二引用例には、通常の撮影では自動露出装置を用い、人工照明源(フラツシユランプ)による撮影のときはフラツシユランプ保持装置をカメラ本体内の没入位置から本体外部の作動位置へ手で回動し、同時にこの回動操作により絞り機構を右自動露出装置から距離―絞り連動装置に切り換える構成のものが記載されていることが認められるから、第二引用例記載のものは、人工照明源を作動位置に移動するときバネの力を利用して突出させる点以外の本願考案の構成、すなわち人工照明源の突出と連動して絞り機構を自動露出調節装置による作動状態から距離―絞り連動装置による作動状態に切り換える技術的手段に相当するものを有していることが明らかである。

してみると、本願考案と第一引用例記載のものとは、その構成において、この段((二))の冒頭で認定した点で相違しているものであるから、本願考案のように構成することが単なる設計的事項とすることはできないが、第一引用例記載のものの人工照明源による撮影時、適切な撮影条件を得る手段として、第二引用例に記載された構成を適用して本願考案の前記のような構成にすることは、当業者であれば格別の考案力を要しないできわめて容易に想到しえたものというべきである。

そして、前掲甲第四号証の四によれば、本願考案においては、前記の構成により距離に対応した適正露光量を得るために計算を必要とせず、そのままで適正露光の撮影をすることができるという作用効果を奏することができるものと認められるが、そのような作用効果は、この点に関して本願考案と構成を同じくする第二引用例記載のものが当然に奏しうる作用効果であるから、これをもって格別顕著な作用効果ということはできない。

(三)  以上のとおりであるから、第一引用例記載のものは、フラツシユユニツトを内蔵するバネの勢力によりカメラ上方の所定突出位置に完全突出させる構成を有するものであるとした審決の判断に誤りはなく、また、審決が本願考案と第一引用例記載のものとの第二の相違点を判断するに当たり、単なる設計的事項の域を超えるものでないとしたことは措辞妥当とはいえないが、この点も含め、結局本願考案は第一引用例及び第二引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとした判断に誤りはないから、審決の判断は正当であつて、審決には原告主張の違法はない。

3  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

自動露出調節装置及び距離―絞り連動装置を有するカメラであつて、通常は該自動露出調節装置を用いて撮影するが、閃光撮影に際しては自動露出調節装置を使わずに距離―絞り連動装置に基づいて撮影するカメラにおいて、ストロボを、内蔵せるバネの勢力によりカメラ上方の所定突出位置に完全突出し得る如く設けると共に、該ストロボをその没入位置から突出位置に突出させた場合、その発光部から撮影光軸に至る距離が所謂赤目現象の発生を避け得る距離になる如くその突出量を機械的に設定し、しかも撮影レンズの絞り機構を自動露出調節装置による作動状態から距離―絞り連動装置による作動状態に切換えるための撮影レンズの光軸周りに設置された絞り機構の状態切換部材と前記ストロボとを中間機構を介して往復方向とも両者が連動する如く連結せしめて、ストロボが突出した時には前記絞り機構が距離―絞り連動装置による作動状態に変る如く構成し、更に前記ストロボの突出動作と少なくともストロボ発光回路に対する作動スイツチの閉路動作とを連動せしめて、ストロボの突出動作と絞り機構の距離―絞り連動装置による作動状態への変換動作と作動スイツチの閉路動作との三動作を前記バネの勢力によつて同時に行なわせ得る如く構成したことを特徴とする可動式ストロボ内蔵カメラ。

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