東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)163号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び審決の理由の要点1、2の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 取消事由(1)について
(一) 第二引用例に審決がその理由の要点3(一)に示す事項が記載されていること及び原告が請求の原因四ノ(二)で引用する<1><2><3>の記載があることは当事者間に争いがない。
そこで、成立に争いのない甲第四号証により第二引用例を検討すると、第二引用例は、「残渣油の水素化脱硫の研究(その2)―触媒活性の長期運転試験」と題する論文であつて、審決が言及する小さい細孔径を持つ触媒KC―28とそれより大きい細孔径を持つ触媒KS―83、KS―97との対比は、その「三〇〇〇時間試験」の項(同号証訳文七頁一六行ないし一〇頁七行)に、図3に図示されている三〇〇〇時間活性試験の結果に基づく知見として述べられていること、また、右各触媒の細孔径分布が図1に、その化学組成及び物理特性が表2にそれぞれ記載されていることが認められる。
そして、KC―28が審決認定のとおり表面積及び細孔特性において本願発明の触媒を規定する要件を満たしていることは当事者間に争いがなく、右表2によれば、KC―28の組成が本願発明の触媒の組成を規定する要件を満たしていることが認められるから、KC―28は、本願発明の触媒の有する幾何学的特性を除き、その余の要件を充足する触媒であることが明らかである。これに対し、KS―83とKS―97は、右図1及び表2によれば、その組成及び細孔容積は本願発明の触媒の要件を満たすものであるが、表面積が本願発明の触媒を規定する要件の値より小であり、その細孔分布は直径九〇Åを越えるものがその大部分を占めるものであることが認められる。
以上を前提に、前示図3を見ると、反応温度を三八〇度Cに維持した反応時間約一四〇〇時間経過時までの間において、KS―83、KS―97は、二五〇時間の経過により硫黄除去率が六五%を切り、約六〇〇時間の経過により六〇%を切り、約一一〇〇時間の経過により五五%を切り、一四〇〇時間経過時には五〇%前後(KS―83約五一%、KS―97四九%)となるのに対し、KC―28が硫黄除去率六五%を切るのは約七〇〇時間経過後であり、その後約一一〇〇時間経過時から一二〇〇時間経過時までの間約五九%となるが、その後再び約六三%まで回復し、一四〇〇時間経過時まで概ね六五%から六〇%を維持していること、反応温度を三九〇度Cとした反応開始後約一四〇〇時間から約一六〇〇時間経過時までの間、KS―83が約五五%から五八%、KS―97が約五四%から五七%の間を終始するのに対して、KC―28のそれは七〇%から六五%の値を維持するものであること、反応温度を四〇〇度Cとした反応開始後約一六〇〇時間から二一〇〇時間経過時までの間において、KS―83の硫黄除去率は六五%から六〇%弱であり、KS―97のそれが概ね六〇%から五五%であるのに対し、KC―28のそれは約一九〇〇時間経過時まで七三%から六五%、その後二一〇〇時間経過時まで六五%から六〇%弱までであることが認められ、「図3から判るように、反応温度を三八〇度Cから四〇〇度C(油流通時間二一〇〇時間)まで上げる間は、市販触媒はKS―83及びKS―97よりも高い硫黄除去率を示した」(同号証訳文八頁四ないし七行)、「比表面積が大きく(二三〇m2/g)、平均細孔径の小さい(七六・五Å)市販触媒KC―28は比較的低温で高活性を示した」(同訳文九頁五ないし八行)との記載どおり、三八〇度C、三九〇度C、四〇〇度Cの反応温度下で反応時間約二一〇〇時間経過時までの間、小さな細孔径を持つ触媒KC―28は、これより大きい細孔径を持つ触媒KS―83、KS―97よりも一段と高い活性を維持したことが認められる。また、右に認定したところによれば、原告引用の(3)の記載にかかわらず、反応温度三八〇度Cから三九〇度Cにおける硫黄除去率の経時変化において、KS―83の硫黄除去率は、反応温度三八〇度Cで反応開始後約一四〇〇時間経過時までの間に最低の五一%まで順次低下し、反応温度を三九〇度Cに上げた反応開始後約一四〇〇時間から約一六〇〇時間経過時までの間若干の増加傾向を示すものの五五%から五八%程度であるのに対し、KC―28の硫黄除去率は、反応温度三八〇度Cの間の約一二〇〇時間経過時の時点で最低の五九%を示した後は再び六三%まで回復し、反応温度が三九〇度Cに上げられた反応開始後約一四〇〇時間経過時の時点で七〇%弱と上昇し、その後も六五%弱を下廻ることはないことが認められ、原告引用の<3>の記載は、KS―83に比しKC―28の活性が右の反応温度の範囲において劣るものであることを示すものとは認められない。
次に、同じく図3によると、反応温度が四一〇度Cに上げられた反応開始後約二一〇〇時間から二四〇〇時間経過時までの間、KS―83の硫黄除去率は約六七%から六三%、KS―97のそれは六五%から六〇%の間であるのに対し、KC―28のそれは六四%から五八%であり、反応温度が四二〇度Cに上げられた反応開始後約二四〇〇時間から二八〇〇時間経過時までの間、KS―83の硫黄除去率は六八%から六三%、KS―97のそれは六七%から五八%であるのに対し、KC―28のそれは六三%から五六%であり、最後に反応温度が四三〇度Cに上げられた反応開始後約二八〇〇時間以降実験終了時までの間、KS―83の硫黄除去率は七〇%から六四%、KS―97のそれは六五%から六〇%であるのに対して、KC―28のそれは六九%から五八%であると認められ、「温度が四一〇度Cを越えた後はKS―83及びKS―97の硫黄除去率の方が高かつた」(同訳文八頁七ないし九行)との記載の示すとおりであると認められる。原告引用の<2>の記載では、右の点につき、KC―28は「反応温度の上昇と共に活性は顕著に低下した」(同訳文九頁八行)と評価しているが、KC―28の硫黄除去率は反応温度四一〇度C以上においても、KS―83、KS―97が三八〇度Cの反応温度下で示したように五五%を下廻ることはなく、三〇〇〇時間活性試験の全体についていえば、KC―28の硫黄除去率が六〇%を下廻つた時間はKS―83、KS―97に比しはるかに短いことが認められる。
右の事実と前示原告引用の<2>の記載中の「低温では触媒の被毒はまつたく起らず選択的に脱硫反応のみが進行したが、温度上昇に伴い、ポリフイリン環やアスフアルテングループ等の分解反応が脱硫反応と併発し、直径が比較的小さい細孔を閉塞させるバナジウムやニツケル等の金属が生じた。」(同訳文九頁九ないし一三行)との記載及び前示甲第四号証によつて認められる「触媒寿命の推定」(同訳文一一頁三行以下)の項の「反応速度定数と流通時間との関連で計算した触媒寿命はKS―83の方がKC―28より長いと推定できるのに、触媒への金属付着量に基づいて計算した触媒寿命は平均五・〇重量%のバナジユウムが付着しているKC―28の方が平均五・八重量%のバナジユウムが付着しているKS―83より高い値となる」旨の記載及びこの「触媒寿命の差は付着したバナジユウム等の状態等によつて生ずるものと考えられる」(同訳文一三頁末行、一四頁一行)との記載を総合すれば、第二引用例の論文の結論として原告引用の<1>の記載のとおり述べられているとしても、同引用例には、反応温度がポルフイリン環やアスフアルテングループ等の分解反応による触媒毒が発生し難く脱硫反応のみが選択的に進行すると考えられる四〇〇度C以下の場合、小さい細孔径を持つKC―28の方がそれより大きい細孔径を持つKS―83、KS―97より高い触媒活性を長時間にわたつて維持できるものであることもまた、示唆されていることが認められる。そして、KC―28が本願発明の触媒の有する幾何学的特性を除き、その余の要件を充足する触媒であり、KS―83、KS―97がそうでない触媒であることは前叙のとおりであるから、第二引用例には、右の温度条件下で本願発明の触媒の有する表面積及び細孔特性を備える触媒がそうでない触媒に比し高活性を維持するものであることが示唆されているということができる。
(二) 第三引用例に審決がその理由の要点3(二)に示す事項が記載されていることは当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第五号証の一・二によれば、第三引用例は、その特許請求の範囲に記載されたとおり、「一~六重量%シリカならびに九四~九九重量%アルミナを含む支持物質上に析出した第Ⅳ―B族金属の塩およびコバルトおよび/またはニツケルの塩からなり、三〇~七〇Åの範囲の孔直径を有する孔中においてその表面積の最大値を有する水素化脱硫触媒の存在下、二六〇~四四一度C(五〇〇~八二五度F)の温度、三五~一七六kg/cm2ゲージ圧(五〇〇~二五〇〇Psig)の圧力で油を水素と接触させることを特徴とする残留成分を含むイオウ含有石油の水素化脱硫方法」を開示する特許公報であつて、その発明の詳細な説明の項には、右の触媒が高い脱硫活性を保持するものであること、右触媒の前示シリカ含有量は臨界的であることが述べられているとともに、第5表には右の要件を充足する触媒BないしGと右の要件を充足しない触媒A、H、I、Jの化学組成が、第6表には触媒Aと触媒B、Eの触媒活性の対比が、第1図には触媒Aと触媒Bの活性減退の対比がそれぞれ示されており、その細孔分布につき次の記載があることが認められる。
「触媒は直径三〇~七〇Åの孔にて最大の孔容量ならびに表面積を有する。」(同号証の一の二欄三七行・三欄一行)
「触媒の構造もまた本発明の重要な見地である。残留分、詳しくは石油残分を含有する石油の水素脱硫において、活性維持に関して孔寸法の臨界性が見出された。三〇~七〇Åの範囲の孔径を有する孔群が重質給体について臨界的に重要であることがわかつた。そのような給体中に存在する高分子量分子の脱硫には約三〇Åより小さい直径の孔は明瞭に非効果的であつて、約七〇Åより大きな孔は迅速に非活性化される。このようにして、表面積の最大は三〇~七〇Åの範囲内の孔径を有する孔中に存在すべきである。」(同七欄下から四行ないし九欄三行)
「触媒AならびにBは下記第6表の一~五行によつて示されるように若干の同じような性質を有する。たとえば、全体の表面積がほぼ等しい。しかしながら、表面積の性質が相当に違つている。触媒Aは一g当り三〇~七〇Åの孔にて八六m2の表面積を有し、触媒Bは一g当り三〇~七〇Åの孔にて一七四m2の表面積を有する。触媒Bの三〇~七〇Åの範囲における孔の比較的大きな数が、残分処理における触媒の長寿命の理由の一つであるように見える。」(同一六欄下から一〇ないし末行)
右記載から明らかなとおり、第三引用例は、三〇~七〇Åの範囲の占める割合を表面積の値で示しており、本願発明のように細孔容積で示しているものでないことは、原告の主張するとおりである。
しかし、成立に争いのない甲第一四号証の一ないし四によれば、昭和四〇年に初版一刷が発行された慶伊富長著「吸着」(共立全書一五七)の第六章「表面積と細孔分布」の「平均細孔半径」の項には、式S=2π<省略>・l及び式Vg=π<省略>2・l(<省略>は平均細孔半径、Sは表面積、Vgは全細孔容積、lは細孔の奥行きを全細孔について加えた全細孔長)が示され、この両式から、原告も引用する式<省略>が導き出されており、この式で求めた平均細孔半径<省略>の値は「他の方法で求めた値とよく一致することが知られている」(同号証の三の一一七頁一〇行)と記載されていることが認められる。右各式からすると、表面積と全細孔容積は一般的に比例関係にあることが明らかであり、このことはまた、ある物体につきその表面積と体積は一般的に比例関係にあるとの常識によつても裏付けられるところであり、前示第三引用例の発明の詳細な説明中の「触媒は直径三〇~七〇Åの孔にて最大の孔容量ならびに表面積を有する。」との記載によつても支持されているということができるから、第三引用例の触媒が「三〇~七〇Åの範囲の孔直径を有する孔中においてその表面積の最大値を有する」ものであれば、それが右の範囲の孔中においてその細孔容積の最大値を有するものであることは、当業者にとつて明白に認識できる事項と認められる。
原告はまた、右触媒Bの三〇~七〇Åの範囲における細孔の平均細孔直径を五〇Å(平均細孔半径二五Å)と仮定して計算した結果に基づき、右範囲の細孔の細孔容積が全細孔容積の約四三%であり半分に足りず、本願発明の要件を満たさない旨主張する。そして、本願発明の「その大部分が約四〇~九〇Åの範囲の直径の細孔から出来ており」との要件の「大部分」という用語が半分より多い比率を述べるのに使用されていることは成立に争いのない甲第二号証により認められる本願明細書の記載(同号証三一欄四一・四二行)から明らかである。しかし、前示第三引用例の第6表によれば、触媒Bの三〇~七〇Åの細孔の有する表面積一七四m2/gは全表面積二六六m2/gの六五%を占めることが認められ、前叙のとおり表面積と細孔容積が一般的に比例関係にあることからすれば、触媒Bの三〇~七〇Åの細孔の有する細孔容積は全細孔容積の少なくとも「大部分」を占めることが推認される。これに対し、前示第6表によれば、触媒Aの三〇~七〇Åの細孔の有する細孔容積は全細孔容積の約三割を占めるにすぎないことが推認される。原告の右主張は三〇~七〇Åの細孔の平均細孔直径を五〇Åと仮定することに基づいているが、前示の式<省略>に第三引用例の第6表に示されている触媒Bの表面積二六六m2/gと孔容量(細孔容積)〇・五〇cc/gを代入して算出した全細孔の平均細孔半径が三七・六Å、すなわち平均細孔直径が七五・二Åとなることからすると、触媒Bの三〇~七〇Åの細孔は三〇~五〇Åの細孔より五〇~七〇Åの細孔の方が多く、その平均細孔径は五〇Åより高い値になることが推認され、原告の右仮定は成り立たないと考えられる。したがつて、第三引用例の第6表に示される触媒Bと触媒Eを対比していう原告の主張もまた理由がない。
原告はまた、第三引用例の第1図に示される触媒Aと触媒Bとの触媒活性の差異はシリカの含有量の差にも基づくもので細孔特性の差のみに基づくものといえない旨主張する。しかし、本願発明がシリカの含有量につき特段の規定をおいていないことは前示本願発明の特許請求の範囲から明らかであるから、本願発明の触媒の細孔特性を考える上において、右シリカ含有量の差異は意義を有しないことに帰着する。
そして、前示第三引用例の第5表、第6表に示されている触媒Bの組成、表面積、全細孔容積の値は本願発明の触媒を規定する要件を充足するものであることが認められるから、以上の事実を総合すれば、第三引用例には、本願発明の触媒の有する幾何学的特性を除き、その組成、表面積、全細孔容積の要件を充足し、細孔分布において極めて近似した値を有する触媒が残渣油の水素処理において優れた活性及び活性保持を与えることが示されていると認めることができる。
(三) 次に、本願出願前の当業者の技術常識について検討する。
成立に争いのない甲第一〇号証によれば、一九七一年二月一六日に米国において特許された米国特許第三五六三八八六号の明細書には、「極端に小さい粒径を有する第Ⅵ族および第Ⅷ族の金属の担持された水素化触媒の存在下に、原油または抜頭原油を水素化脱硫する方法」(同号証訳文二頁下から一三ないし一一行)において、本願発明の触媒の組成を規定する要件を包摂する組成を有する触媒が「良好な寿命的性質を得るために……大部分の細孔容積は大きさが五〇Å以上の細孔でなければならない。有利には細孔容積の六〇~七五%あるいはそれ以上が、五〇Åあるいはそれ以上の細孔でなければならない。更に好ましくは細孔容積の八〇~八五%あるいはそれ以上が、大きさが五〇Å以上の細孔でなければならない。小さいサイズの細孔を持つ触媒は良好な初期活性を持つが、アスフアルテン分子による漸進的な細孔の閉塞のために、寿命特性が不良である。例えば、下記の触媒Aはこの発明のプロセスにおいて、約一ケ月は良好な活性を示したが、下記の触媒Bは約三ケ月の間良好な活性を示した。」(同訳文九頁一三ないし二二行)とし、四〇Å以下の細孔が六一・七%、四〇~一〇〇Åの細孔が三二・六%、一〇〇~三〇〇Åの細孔が五・五%を占める触媒Aと四〇Å以下の細孔が六・六%、四〇~一〇〇Åの細孔が四九・七%、一〇〇~三〇〇Åの細孔が四四%占める触媒Bが示されていることが認められる。成立に争いのない甲第一一号証によれば、これとほぼ同一の記載が一九七一年七月一六日に米国において特許された米国特許第三五六三八八七号の明細書にも見られる。右各米国特許明細書の示すところによれば、アスフアルテン分子による細孔の閉塞を考慮しても五〇~一〇〇Åの細孔は触媒活性の維持にとつて有利な細孔と評価されていたことが認められる。
一方、成立に争いのない甲第一二号証によれば、一九六八年五月一四日に米国において特許された米国特許第三三八三三〇一号の明細書には、「細孔容積が広い範囲の細孔径にわたつて分布している触媒を用いる残渣油の脱硫」に関する発明が開示されており、その実施例2には、〇から二四〇Åの直径(〇から一二〇Åの半径)を持つ細孔の範囲で比較的均一な細孔容積の分布を有し、四〇~一〇〇Åの直径を持つ細孔が一三・七%に過ぎず、一〇〇Å以上の直径を持つ細孔が七四・五%を占める触媒が、四〇~一〇〇Åの直径を持つ細孔が七六・五%を占め、一〇〇Å以上の直径を持つ細孔が一二・〇%であるに過ぎない触媒より触媒活性の維持において優れている旨が示されていることが認められる。
これらの各米国特許明細書の記載と前示第二、第三引用例の記載を併せ考えれば、本願出願前、残渣油の水素処理用多孔性触媒の分野においては、本願発明の触媒の細孔直径の上限である九〇Åを越えるか否かを問わず、特定孔径を持つ細孔が全細孔容積中に分布する割合すなわち細孔特性が触媒寿命にとつて重要な意義を持つことが当業者にとつて周知のこととなつており、それぞれ実験によつて、どのような孔径を持つ細孔をどのように分布させることが有利であるかを検討の対象としていた状態にあつたというべきであり、九〇Åを越える直径の細孔のみが触媒の活性維持のため重要であるとの知見が当業者の一般的技術常識であつたということはできない。
(四) 本願発明が、審決認定のとおり、第一引用例の発明を基礎とした改良発明であつて、その目途とするところが第一引用例の触媒の活性の改良にあり、この改良が本願発明の触媒の細孔特性に関する要件に依存していることは、原告の認めて争わないところである。そして、第一引用例の触媒を活性維持の観点から改良する場合において、前叙のとおり、本願出願前、細孔直径が九〇Åを越えるか否かを問わず、触媒の持つ細孔特性が触媒寿命にとつて重要な意義を持つことが当業者にとつて周知のこととなつており、かつ、第二、第三引用例に第一引用例ひいては本願発明の各触媒とその組成及び表面積の値において一致し、本願発明の触媒とその細孔特性において一致もしくは近似の数値をとる触媒が高活性維持の点で優れた効果を有することが示唆されている以上、この細孔特性に着目し、これを参照して、第一引用例の触媒より孔径の小さい細孔を用い本願発明の触媒の細孔特性を規定する要件を選定することは、原告が審判において主張し、審決もその存在を認める経験則を考慮しても、当業者にとつて実験に基づいて容易に推考できることと認めるのが相当である。この判断を覆えすに足りる資料は本件全証拠によつても認めることができない。
以上のとおりであるから、原告の取消事由(1)の主張は採用できない。
2 取消事由(2)について
成立に争いのない甲第二号証によると、本願明細書には、第一引用例の触媒と本願発明の触媒の二〇〇時間経過後の硫黄除去率を比較した結果前者が約六〇%、後者が約八〇%であつたことが示されていることが認められる。また、成立に争いのない甲第七号証により認められる比較活性試験の結果によれば、本願発明の要件を満たす特定の触媒が一一二日(二六八八時間)経過後も硫黄除去率九七・三%という優れた触媒活性を保持したことが示されている。しかし、本願発明の触媒が第一引用例の触媒より優れた効果を奏するとしても、第一引用例の触媒を改良して本願発明の触媒を得ることが当業者にとつて容易に推考されるとした前叙の判断の根拠となつた事実からすれば、本願発明の触媒が前示の効果を奏することは予測の範囲を出るものということはできず、それは実験による効果の確認以上の意味を有するものではないと認めるべきである。このことは、第一引用例(成立に争いのない甲第三号証)にその発明に係る触媒が一八〇〇時間運転後硫黄除去率六六ないし八五%を達成したことが示されていることに照らしてもこれを肯認することができる。
したがつて、審決が本願発明の触媒の有する効果が予測の域を出るものと認められないとしたことは結局正当であつて、この審決の判断の誤りをいう原告の取消事由(2)の主張は、理由がないといわなければならない。
3 以上のとおり、原告の主張する各審決取消事由はいずれも理由がなく、本願発明が第一ないし第三引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の判断は首肯するに足りるものと認められるから、審決にこれを取り消すべき違法の点はない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
一・〇よりも大なる凹状指数の横断面と、約〇・二五~〇・六〇の範囲の空隙率を有し、粒子の幾何学的容積の幾何学的表面積に対する比が約〇・〇〇一~〇・〇四二インチ(約〇・〇二五~一・〇六七mm)であり、グラム当り約一五〇m2以上の触媒表面積を有し、グラム当り約〇・三五~〇・八五cm3の範囲の触媒細孔容積を持ち、該触媒細孔容積は水銀で平方インチ当り五〇〇〇〇ポンド(三五一六kg/cm3)絶対圧までの圧力で測定し、接触角一四〇度の場合、その大部分が約四〇~九〇Åの範囲の直径の細孔から出来ており、組成は大部分のアルミナ、約一〇~二〇重量%の酸化モリブデン、ならびに約一~八重量%の酸化コバルト、酸化ニツケルおよびその混合物から選ばれた酸化物からなることを特徴とする残渣油の水素処理用多孔性触媒。