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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)174号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実、審決の理由の要点のうち1ないし3、即ち本願発明の要旨の認定、引用例の記載事項の認定及び本願発明と引用発明との相違点と一致点の認定並びに請求の原因四の1の(一)の(1)、(2)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由について検討する。

1 本願発明の構成に至る着想の困難性の有無について

(一) 成立に争いのない甲第二号証によると、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、「本発明は印字ホイールとキヤリツジが間欠的に駆動される型式の高速プリンタ用の可動部材位置決め装置に関する。コンピユータ装置の出現と共に、高品質の印字のできる小型で信頼性のあるプリンタが要求されている。」(本願公報三欄二六~三一行)、「……本発明の目的は、機械的に簡単であるが高性能の印字をなす高速プリンタを作動させるための可動部材位置決め装置を提供することにある。」(同四欄七~九行)との記載があることが認められ、この記載によれば、本願発明の目的は、高速かつ高品質の印字が可能な小型で信頼性のある衝撃プリンタを提供することにあり、この目的はコンピユータ装置の出現、普及によつて認識されるに至つたものであることが認められる。

そして、本願発明はこのような目的を達成するために引用例記載の制御装置とホイールを形成する個々のスポークの外周に活字を担持した従来の印字ホイール(菊花型ホイール)を用いた衝撃プリンタ(以下これを「従来の菊花型プリンタ」という。)の技術との組合わせから成るものであることは原告の自認するところである。

(二) そこで、本願の優先権主張日当時におけるコンピユータ装置に用いられるプリンタの技術水準について検討する。

(1) 本願の優先権主張日当時実施可能なプリンタとしてテレタイプ(TELETYPE)及びアイビーエム・セレクトリツク(IBM. SELECTRIC)が存在したが、これらは機械的に複雑であるために高速度かつ高品質の印字ができないものであつたことは前叙のとおり当事者間に争いがない。

(2) 他方、従来の菊花型プリンタには二つの型があり、第一のものは、必要な印字を絶えず回転する菊花型ホイールの上において打撃する方式(いわゆる「オン・ザ・フライ方式」)であり、第二のものはステツプモータによつて間欠的に回転する菊花型ホイールによつて、必要な印字が所定位置に停止した際に打撃する方式(いわゆる「ステツプモータ方式」)であつたこと、しかし、第一の方式のものは、菊花型ホイールが絶えず回転している状態でハンマーがスポークの外周にある活字を打撃するために、菊花型ホイールの回転速度を一定以上に上げると印刷された文字が不鮮明になり、また、印字の際スポークによじれを生じ菊花型ホイールが破損するという問題があり、第二の方式のものは、ステツプモータによる制御のために、回転速度を一定以上に上げることが不可能であるという問題があつたことは前叙のとおり当事者間に争いがない。

(3) 次に引用例に記載された技術についてみるに、引用例には審決認定の記載があること及び右記載事項と本願発明とを対比すると両者の一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは前叙のとおり当事者間に争いがない。

このことからすると本願発明に用いられる印字ホイールの回転位置の制御及びキヤリツジの位置の制御と実質的に同一の機能を有するモータの回転位置制御の技術は引用例によつて本願の優先権主張日当時知られていたものであることは明らかである。そして成立に争いのない甲第三号証によると、引用例には「ヘツド11は第2図に例示されるようにデイスクバツク12の特定のトラツク上の位置に移動する。先づ出発点からモーター16はレベル26の最高速度に加速され、次に27及び28のステツプにおいて減速され、終にヘツドはトラツクの近辺に位置するようになる。ホーミング領域と名付け得るこの点に於てモーター16は次第に減速させられ、遂に正しいトラツク上の場所に存在するようになる。このような加速及び減速の為の手段は下記に記述される。」(訳文六頁五~一四行)との記載のあることが認められ、この記載及びこれに続く記述と右記載で引用する第1図、第2図(別紙(二)図面の第1図第2図参照)によれば、引用例に記載された制御装置は、高速運転及び停止位置決めを迅速かつ正確に行うことを目的とし、そのためにモータがまず出発地点から最高速に加速され、次いでステツプ的に減速されて目的位置の近辺に至ると微細に減速されて急速かつ正確に目的位置に達する高速回転及び停止位置制御を可能とするものであることが認められる。

(三) 以上の事実を前提として、従来の菊花型プリンタと引用例に記載の制御装置とを組合せて本願発明の構成に至ることが容易に推考できるものであるか否かについて検討する。

従来の菊花型プリンタのうち、第一の方式(オン・ザ・フライ方式)の欠点である印字の不鮮明及び印字ホイールの破損の点は、前記のとおり印字ホイールが絶えず回転している状態下で打撃されること、換言すれば、ハンマーが活字と接触している間にも印字ホイールが回転していることに起因するものであるから、右欠点を解消するためには、印字ホイールが回転している状態下で打撃することなく、ハンマーが活字に接触している間だけ印字ホイールの回転を停止させるのが望ましいことはいうまでもない。他方、第二の方式(ステツプモータ方式)の欠点は、前記のとおり、ハンマーが活字に接触している間印字ホイールの回転が停止するもののステツプモータでは印字と次の他の印字との間の回転速度を高めることができなかつたものである。

そうだとすれば、従来の菊花型プリンタにおいて、印字と次の他の印字との間の回転速度を高めかつ正確な位置に停止することのできる制御装置が開発されて存在するに至れば、従来の菊花型プリンタにおける前記のような各欠点に鑑み、これに右制御装置を適用して両者を組合せてみようとすることは自然の思考というべきであり、これを困難とする特段の事情がない限り当業者において容易になしうることであるといわなければならない。そして、本件においては右特段の事情を窺うに足りる証拠はない。

(四) 原告は、従来の菊花型プリンタと引用例の制御装置とを組合せることが困難であつた事情として、従来の菊花型プリンタは、その前記欠点が致命的であり、高速プリンタとして実用化できないものとして見捨られていたものに敢て引用例の制御装置を適用したものであり、この点は当業者にとつて意表を突く発想であつた旨主張する。

しかし、従来の菊花型プリンタにおける前記欠点が原告が主張するとおり致命的であり高速プリンタとしては実用化できないものとして見捨られた状況にあつたとしても、その欠点を克服する新たな技術が開発されるに至れば、それまで見捨られていた技術にこの新規な技術を適用しようと試みることは技術開発に携る当業者にとつて当然のことである。従つて、原告の主張する右の点は前記特段の事情には当らない。

また、原告は、本願発明は従来の菊花型プリンタと引用例記載の制御装置を単純に組合せたものではない、と主張し、公知技術による教示によつては得られない例としてスポークの断面形状や剛性を挙げている。しかし、この点は、前叙当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲に記載されておらず、右両技術の組合せに欠くことができない事項ではないことが明らかであるから、前記特段の事情には当らない。

さらに、原告は、電動タイプライタと衝撃プリンタとは技術的に大きな差異があるとして、引用例に当該装置が電動タイプライタにも利用できる旨の記載があつても、前記両技術の組合せが容易であつたとすることはできない旨主張する。

しかし、成立に争いのない乙第二号証(昭和四一年五月二五日株式会社オーム社書店発行、「電子計算機ハンドブツク」)によれば、同書には「入出力タイプライタ」と題して「電子計算システムにおける入出力タイプライタのおもな役割は……主情報の入出力などで、一般には電動タイプライタ系機械が主として用いられる。……電動タイプライタ系とは、もともと、文書全般の清書が目的で普及したものであり、機構的にも、けん盤のキーと該当タイプバーとが直結運動しているものが多く、すなわち、けん盤↓印字の機能が主になつている。これが発展して……コード化した信号を多線式に送受できるようになつたものである。」(二―二〇七頁~二―二〇八頁)と記載されていることが認められる。そして、この記載によれば本願の優先権主張日当時、かつてタイピストが使用するタイプライタが改良されコンピユータの入出力タイプライタとして用いられていることは当業者に広く知られていたものであることが認められる。従つて、右当時電動タイプライタも衝撃プリンタも共にコンピユータの入出力装置として極めて近密な関係にあつたことは明らかである。

前掲甲第三号証によると、引用例には「本発明の為に磁気ヘツド及び表示板の相対的運動の領域に於けるのと異なる他の適用可能性が存在する。斯かる他の領域例えば……電動タイプライターに適用できる」(訳文一五頁一八行~一六頁一行)と記載されていることが認められる(引用例に右の趣旨の記載があること自体は当事者間に争いがない。)ところ、前記認定の事実に照らして考えると、右記載は、原告の主張とは異なり、引用例記載の制御装置をコンピユータの入出力に用いられる衝撃プリンタに適用することが当業者にとつて容易に推考できることを裏付ける一つの徴憑と認められるから、原告の前記主張は採用できない。

(五) そうしてみると、原告の審決取消事由1の主張は採用できないことが明らかである。

2 本願発明の作用効果の顕著性について

(一) 原告主張の作用効果(一)について

この点は、前記1の(一)、(二)に述べたところから明らかなとおり、従来の菊花型プリンタに引用例の制御装置を適用することによつて従来の菊花型プリンタの有していた欠点を解消することができた結果に外ならない。従つて、本願発明におけるこの点の作用効果は右両技術を組合せたことによつて当然に奏せられるものであり、当業者が容易に予測できる範囲のものといわなければならない。

(二) 同(二)について

請求の原因四の1の(一)の(1)に記載のとおり、テレタイプは、活字が配設された円筒状のものをその軸方向に回転させかつこれを上下動させることによつて印字する方式のものであり、また、アイビーエム・セレクトリツクは、活字が配設された球状のものを回転させかつこれを上下動させることによつて印字するものであることは当事者間に争いがない。それ故前記二者は、印字ホイールの回転のみで足りる菊花型プリンタに比べてその機械的構造及作動がそれだけ複雑にならざるをえない。そうすると、従来の菊花型プリンタに引用例の制御装置を組合せた本願発明のプリンタが前二者よりも高速の印字が可能であることは当業者の予測できることである。なお、個々の実施品の具体的印字速度は、これに用いられるモータの出力やこれを構成する諸部材諸装置の機構や性能によつて定まるものであるから単純に単位時間当りの印字数を比較して予測の範囲を決することはできない。

(三) 同(三)について

本願発明のプリンタがテレタイプやアイビーエム・セレクトリツクに比較して機械的構成部分が少なくてすみ、従つて騒音の発生も防止できるのは、前記(二)に述べたとおりこれら二者に比較して構造及び作動が簡単な菊花型印字ホイールを用いたことによるものであることは明らかである。そうすると、右の作用効果も当業者の予測できる程度のことといわざるをえない。

(四) 同(四)について

右から左へ又は左から右への印字は、印字の際にキヤリツジをそれに相応するように移動することに外ならないところ、例えばステツプモータによつて駆動する従来の菊花型プリンタでも右のような印字方法を採用するに当つて格別の障害があると解すべき根拠はないから、右印字方法が不可能であつたとは考えられない。従つて右の効果は本願発明においてのみ生ずる効果であるとすることはできない。

(五) そうしてみると、原告の審決取消事由2の主張も採用できない。

3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は失当であり、審決には違法の点はない。

三 よつて、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願明細書の特許請求の範囲第一番目の発明は左のとおりである。

キヤリツジ14と、複数個の文字素子24を含み上記キヤリツジに取付けられた印字ホイール18と、上記印字ホイールに連結された第一のモータ27、60を含み選択された文字素子をその上に印字が行なわれる記録媒体に隣接した印字位置に静止させて配置するため上記印字ホイールを所望の回転位置に回転させるための第一の駆動装置と、上記キヤリツジ上に取付けられていて上記記録媒体上に印字をするために選択された文字素子が印字位置に静止している間にこの選択された文字素子を衝撃するに適した印字ハンマ組立体19と、上記印字ホイールの回転を制御するために上記第一駆動装置に接続された第一のサーボ制御装置とを具備している、記録媒体上に連続的に文字を印字するための衝撃プリンタであつて、上記第一サーボ制御装置が、上記第一モータに連結された第一の変換器62(明細書に67とあるのは62の誤記)を含み上記印字ホイールの回転位置を表示する第一位置信号Aを発生するための装置と、上記印字ホイールの実際速度を表示する第一速度信号Eを発生するため上記印字ホイールの回転に応答する第一実際速度発生装置67と、上記印字ホイールの所望回転速度を表示する第二速度信号Fを発生するための第一所望速度発生装置67、71と、上記第一位置信号Aを発生するための装置に接続された入力と、出力とを有する第一の制御装置76と、上記第一速度信号Eを受入れるため上記第一実際速度発生装置に接続された第一入力と、所望の回転位置に向う上記印字ホイールの回転期間中に上記第一速度信号Eと比較するために上記第二速度信号Fを受入れるため上記第一所望速度発生装置に接続された第二入力と、上記印字ホイールを上記所望回転位置に停止させるため上記第一速度信号Eと比較するために上記第一位置信号Aを受入れるため上記第一制御装置の出力に接続された第三入力と、上記各比較の結果得られた信号を上記第一駆動装置に供給するため上記第一駆動装置に接続された出力とを有する第一の比較装置と、を具備して成ることを特徴とする衝撃プリンタ。

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