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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)205号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願発明の要旨、第一引用例の記載事項、本願発明と第一引用例の一致点と相違点、第二引用例の記載事項が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

第二引用例に審決認定の記載があることは当事者間に争いがない。この第二引用例に記載されたトルエンを気相中ゼオライト触媒の存在下不均化反応を行うにつき採用されている反応条件と前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲に示されている反応条件とを対比すると、共にゼオライト触媒を用いる両者の反応条件が重複しており、重複している範囲で両者は同一の反応条件を用いる場合があることは明らかである。したがつて、第二引用例の反応条件が本願発明のものと一致するとした審決の認定に誤りはない。

原告は、第二引用例では水素の不在下、順方向の移動床触媒の使用を必須要件とするから、これらの制限のない本願発明とは反応条件が一致するということはできない旨主張するが、前示本願発明の特許請求の範囲から明らかなように本願発明は右の点を排除しているものでないから、右の点をもつて本願発明と第二引用例のものの差異とすることはできない。

原告は、また、本願発明と第二引用例の触媒は気孔の寸法及び陽イオン形を異にする触媒であることを理由に審決の右認定を誤りというが、この触媒の相違は、第一引用例に第二引用例の反応条件を適用して本願発明に想到することが当業者にとつて容易であるかどうかの判断において考慮されるべき事項であり、反応条件が一致するかどうかにかかわりのない事項であることは明らかであるから、原告の右主張は採用できない。

そこで、この点をも含めて、次に、取消事由(2)について判断する。

2 取消事由(2)について

成立に争いのない甲第五号証によると、第一引用例は、「ゼオライトZSM―5または単にZSM―5と呼ぶ超安定性、合成珪素質結晶性物質の新規な族及びその製法及びそれを使用して行なう炭化水素転化方法」(同号証訳文五頁六ないし九行)の発明を開示した米国特許明細書であつて、ZSM―5を炭化水素転化用触媒として用いるにつき好適な置換用陽イオンに関し、「特に好適な陽イオンはゼオライトを触媒として、特に炭化水素転化用触媒として、活性にする陽イオンである。これらには水素、希土類金属、アルミニウム、周期表Ⅱ族及びⅧ属の金属及びマンガンが含まれる。」(同訳文六頁一一ないし一五行)、「置換金属陽イオンのうちで特に好適なものは希土類金属、マンガン、カルシウムのような金属の陽イオンならびに周期表のⅡ族の金属例えば亜鉛、周期表第Ⅷ族の金属例えばニツケルである。」(同訳文二一頁一二ないし一六行)と記載し、このような陽イオンを有するZSM―5を触媒として行う炭化水素転化反応の例として、炭化水素の異性化、接触分解等と並べて、トルエンの不均化反応を挙げ、これらの炭化水素転化反応においてZSM―5が触媒として優れた効果を有することを「ZSM―5は例外的な高選択性をもち、炭化水素の転化条件下で既知のゼオライト炭化水素転化触媒に比べて全生成物に対して高率の所望の生成物を与える。」(同訳文一五頁一二ないし一五行)と記載して示していることが認められる。

右の記載によれば、前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲に示された本願発明の触媒である「主要量が水素、水素先駆体又は周期律表Ⅷ族の非貴金属の形態をしているZSM―5類の結晶性アルミノシリケートゼオライトを有する触媒」(これが第一引用例記載の発明の触媒と同一であることは当事者間に争いがない。)が、トルエンの不均化反応に用いる触媒として優れた効果を有するものであることは、本願優先権主張日前すでに第一引用例に開示されていたものと認めることができる。

一方、第二引用例に審決認定のゼオライト触媒を用いてトルエンの不均化反応を行うについての反応条件が記載されていることは前叙のとおりである。そして、原告も取消事由(1)において自認しているとおり、およそ、原料が同じで同一生成物を得ようとする接触反応において同一系統の触媒を使用すれば、反応条件が多少異なることはあつても重複することは当然ありうることであるから、ある触媒を使用する場合に、その触媒と同一系統の触媒を用いて同一原料から同一生成物を得ようとする同一の反応にすでに採用されている公知の反応条件を参照して、これと同一又は類似の範囲で反応条件を設定した上、その触媒に特有の好適範囲の選定を行うことは当業者にとつて当然採ることのできる手段であると認められる。

そうすると、第一引用例に本願発明の触媒がトルエンの不均化反応に有用な旨が開示されており、第二引用例に本願発明の触媒と同一系統の触媒を用いてトルエンの不均化反応を行う反応条件が記載されている以上、これらの開示するところに従つて本願発明の反応条件を設定することは当業者であるならば容易になしうることと認められる。

本願発明で使用するゼオライトと第二引用例で使用されているゼオライトがその気孔の寸法及び陽イオン形を異にするとしても、同一系統の触媒であることは明らかであり、本願発明の反応条件か第二引用例の反応条件と重複する範囲で設定されていることはすでに見たとおりであるから、右の差異があるにせよ、この差異に基づき本願発明の反応条件の設定のために格別の創意工夫がされたものと認めることはできない。

原告は、第一、第二引用例の記載はZSM―5を触媒として使用したトルエンの不均化反応の結果が悲観的であることを教示する旨主張し、前示甲第五号証によると第一引用例には、原告が主張するとおり、トルエンの不均化反応によりベンゼン、キシレン及びこれより高級なメチルベンゼンの混合物が生成する旨の記載があることが認められる。しかし、ZSM―5がトルエンの不均化反応に優れた効果を持つ触媒であることが第一引用例に開示されていることは前叙のとおりであるから、原告が指摘する第二引用例(成立に争いのない甲第六号証)の第二表例76及び例79のC9以上の芳香族炭化水素の数値を考慮に入れても、前記第一引用例の記載はトルエンの不均化反応の主目的であるベンゼンとキシレンのほかにそれより高級なメチルベンゼン(C9以上の芳香族炭化水素)が不純物として生成される旨を述べているにすぎず、ZSM―5を触媒として用いるトルエンの不均化反応の結果が悲観的であることを教示するものと認めることはできない。その他本件全証拠によつても原告の右主張を肯認することはできない。

右に述べたとおり、本願発明の構成のうち触媒は第一引用例により、反応条件は第二引用例により公知であつたのであるから、原告主張の本願発明の効果は、優れた耐劣化性を含め、右公知の触媒及び反応条件の効果の確認にすぎないと認めるのほかはなく、これが予測できない特段の効果と認めるに足りる証拠はない。

3 以上のとおりであるから、本願発明が第一、第二引用例に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

トルエンを、六五〇度F~一〇〇〇度Fの温度で、水素/炭化水素モル比を〇~五にし、圧力を大気圧から一〇〇〇Psigにし、重量時間空間速度を約一~二〇にして、主要量が水素、水素先駆体又は周期律表Ⅷ族の非貴金属の形態をしているZSM―5類の結晶性アルミノシリケートゼオライトを有する触媒と接触させることを特徴とするトルエンの不均化反応を気相中で行う方法。

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