大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)219号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

(一) 成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、その冒頭に、「通常、ダイヤルゲージ、温度計、電気計器、圧力計等の指針は、その動力源を、セクター回転軸もしくは、ラツク棒等の回動もしくは移動に取りピニオンギヤーの回転にギヤー伝導し、これにとりつけた指針によつて読みとる方式であるが、指針軸が急速に動くために、ギヤーの磨耗がはげしく、しかも小容量に収めるためギヤーモヂユールが小さく、組み込みに調整を要し、またヒゲゼンマイでバツクラツシユを防ぐ必要がある。」(同号証一頁九ないし一七行)と従来の指針についての欠点を指摘し、これに続けて、「本発明は帯状バネ1をピニオンローラー2に巻き込んで成型し、熱処理を施して自巻性を持たせてその巻き込み力でセクターピニオンもしくは、ラツクピニオン等のギヤー部を省く事を要旨とするもので」(同一頁一七行ないし二頁一行)と本願発明の特徴とするところを摘記し、次いで、図面の第二図に示されるセクターピニオン指針計式の実施例及び第四図に示されるラツク形式の実施例について説明し(同二頁二ないし一九行)、最後に、「このように本発明は、ギヤーを廃しているため磨耗とバツクラツシユがなく、軸心を調整してヒゲゼンマイを嵌挿する手間もなく、また、帯状バネの板厚を無視出来れば、ピニオンを多重にして、セクターを円形にすれば、通常の増減速ギヤーも廃しうる得点もあり、他に類例のないあらゆる計器指針に適用できる基本発明である。」(同二頁二〇行ないし三頁六行)として本願発明の奏する効果について述べる記載があることが認められる。右の記載と前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲によれば、本願発明は、帯状バネに自巻性を持たせてその巻き込み力を利用することにより、従来の指針におけるギヤー部を廃止することができ、その結果バツクラツシユがなくなることを主とする右発明の詳細な説明に記載された効果を奏するものであることが認められる。

一方、第一引用例に審決の理由の要点2に認定された秤量機が開示されていることは原告の認めるところであり、成立に争いのない甲第三号証によると、第一引用例の発明は「歯車を用いないから、バツクラツシユによる誤差の発生を一定の張力の掛つたスチールテープより完全に無くし得る」(同号証二頁左欄一三ないし一五行)効果を奏するものであることが認められる。

右事実によると、第一引用例には、すでに、本願発明と同じく、歯車伝導機構を用いた指針の欠点であるバツクラツシユの発生を除去することを目的として、セクターとピニオンとの間に帯状テープを連結し、これによりセクターの回転をピニオンに伝えセクターの回転量を指示する構成とした指針が開示されていることが認められ、したがつて、この構成により、第一引用例のものが本願発明におけるギヤー部の廃止による前叙の諸効果と同じ効果を生ずるものであることも明らかである。

本願発明と第一引用例のものとの間には、審決の理由の要点3に記載のとおりの相違があるが、右のとおり本願発明の特徴とする目的、効果がすでに第一引用例に開示されていること及び原告も認めるとおり巻き込み力として帯状バネの自巻性を利用することが第二引用例に示されているように本願出願前公知であることから考えれば、第一引用例のものにおいて、バランスウエイトを用いる代りに帯状テープに自巻性を持たせ、この巻き込み力により右帯状テープを緊張状態に保つものとする程度のことは、当業者が容易に想到しうることと認められる。

(二) 原告は、第一引用例の発明は一般の指針には用いられず本質的に本願発明のものとは異質の計器に関するものであると主張するが、本願発明の要旨は原告も認めるとおり前叙特許請求の範囲に記載されたとおりのものであつて、これによれば本願発明の指針は用いられる計器の器種によつて限定されるものでないことが明らかであるから、第一引用例と本願発明を対比するについて計器が異質であるかどうかの点は取り上げる必要のないことである。

もつとも、第一引用例のものはバランスウエイトをスチールテープで吊り下げているので機体を水平に保つ必要があるのに対し、本願発明の指針は自巻性を有する帯状バネを用いているので、この指針を取り付けた機体を必ずしも水平に保つ必要はなく、また、持ち運びの際振動がはげしくても差し支えないという第一引用例のものとは異なる効果を有するけれども、これらの効果はバランスウエイトを吊り下げる構成をとる代りに自巻性を有する帯状バネを採用したことにより当然生ずる効果であつて格別のものではないと認められる。また、原告の主張する第一引用例のものにおけるバランスウエイトは計測機構の主計測用具であるのに対し本願発明の自巻性を有する帯状バネはバツクラツシユを止めるだけの専用要具であるとの点も、第一引用例においては帯状テープを緊張状態に保つためバランスウエイトを吊り下げる構成をとり、これによつてバツクラツシユの防止という作用を持たせているのに加え計測作用をも持たせているのに対し、本願発明においては、右の構成に代えて自巻性を有する帯状バネによりバツクラツシユを防止する作用を持たせていることにより当然に生じた構成の差異にすぎないと認められる。

したがつて、原告が請求の原因四1(一)で主張するところはいずれも失当であり、採用できない。

(三) 原告は、請求の原因四1(二)において、第二引用例のものと本願発明との相違点を指摘するが、審決が第二引用例を挙げたのは、原告も認めるところの巻き込み力として帯状バネの自巻性を利用することが公知であるとの事実を示すためであることは、前示審決の理由の要点4から明らかであるから、第二引用例に示された装置の具体的な構成と本願発明の構成との差異を述べても、審決の判断を違法とすべき理由とならない。しかも、原告が第二引用例のものと本願発明との相違点として指摘する点は、第一引用例の第一図及び第二図に示されていることが前掲甲第三号証により認められるから、原告の右主張は採用の限りではない。

2 取消事由(2)について

(一) 前示認定の事実及び前掲甲第三号証によれば、第一引用例のものも、本願発明のセクターに相当する扇形カムに計測源である荷重を掛け、本願発明の指針に相当するプーリーを、扇形カムの外径に接触する位置に設けたプーリーと同軸一体に設けたものであることが認められるから、機構上第一引用例の右構成と本願発明の構成に格別の差異はない。また、帯状バネの巻き込み力をピニオンローラーの径及びセクターの回動角に応じて適宜決定する程度のことは当業者が任意になしうる設計事項の範囲に属すると認めるのが相当である。したがつて、原告が請求の原因四2(一)で主張する本願発明の利点は、第一、第二引用例に開示された技術から当然に予測されるものであり、格別のものと認めることはできない。

(二) 本願発明が自巻性バネを用いることから第一引用例のもののように二段プーリーを必要としないことは原告主張のとおりであるが、これは、バランスウエイトを吊り下げる構成をとる代りに自巻性バネを用いることの当然の効果であり、これをもつて格別の効果ということができないことは明らかである。また、原告は、本願発明が第二引用例のような直線運搬用より精度が高いと主張するが、審決において第二引用例は前叙の公知技術を示すために用いられているにすぎないから、原告の右主張は採用の限りではない。

(三) 本願発明の指針が用いられる各種測定計器において指針を製作するに当たつて目盛盤の目盛をどのように設定するかは、その計器の諸要素を考慮して当業者が適宜決定できる程度のことであると認めるのが相当であるから、原告が請求の原因四2(三)で主張するところは、第一、第二引用例から予想できない格別の効果と認めることはできない。

3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決にこれを取り消すべき違法の点は見当らない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

セクターの外径の端部に、自巻性を有する帯状バネの一端をとりつけ、その他端を、セクター外径に接触する位置に設けたピニオンローラーに巻き込んでなる自巻性帯状バネによる指針

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