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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)253号 判決

一 請求の原因一ないし三、審決摘示に係る引用例記載の発明、同発明と本願発明の一致点及び相違点は当事者間に争いがない。

二 本願発明の構成及び作用

前記当事者間に争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(本願発明の昭和五三年三月二四日付手続補正書)によれば、本願発明の構成及び作用として、次の事実が認められる。

<1> 先窄まりの管導入部21と管導入部の内部側端に連続したベアリング部22とその先端に連続した先広がりに開口し管導出部23を形成する型孔2をもつ引抜用ダイス1の右型孔に製造しようとするアウターバテツトパイプとなる素管3を導入し、

<2> 右素管内に所望のアウターバテツトパイプの内径の寸法に相当する直径の拡大用大径部43とその前部に挿入テーパー部44、後部に拡大テーパー部42を有するプラグ4を挿入し、素管を連続的に引抜きながら、プラグを後記のように前方往復をさせ、

<3> プラグの拡大用大径部を型孔のベアリング部と対向する圧延作用位置Aに停止させたときは、型孔の管導入部により外径がしぼられた素管を、型孔のベアリング部とプラグの拡大用大径部、拡大用テーパー部による圧延作用で素管の肉厚を圧延して拡大用大径部を内径とする薄肉部31を連続成形し(別紙図面(一)の第1図)、

<4> 次いで、プラグを前進させてその拡大用大径部を型孔のベアリング部の前方(実施例では型孔の管導出部の前方)の拡開作用位置Bに停止させたときは、型孔の管導入部及びベアリング部による絞り作用で素管に厚肉絞り部33を形成させ、プラグの拡大テーパー部及び拡大用大径部により右厚肉絞り部を順次外方へ拡開膨出させて拡大用大径部を内径とする厚肉膨出部32を連続成形し(同第2図)、

<5> 更に、プラグを後退させその拡大用大径部を前記圧延作用位置Aまで戻し前記<3>同様圧延作用をして薄肉部を連続成形し(同第3図)、次いで、プラグを前進させてその拡大用大径部を前記拡開作用位置Bに停止させ、前記<4>同様拡開膨出作用により厚肉膨出部を連続成形するという作用を繰り返す。

このようにして、本願発明においては厚肉膨出部付金属管(アウターバテツトパイプ)を製造するのであるが、プラグの拡大用大径部が圧延作用位置Aと拡開作用位置Bの間を往復(以下「前方往復」という。)する過程において、原告主張のように型孔の管導出部とプラグの拡大テーパー部のほかプラグの拡大用大径部により素管の圧延が行われて、素管の厚肉膨出部にテーパー段部P、Q(別紙図面(三))が形成されるものであることが認められる。

この事実によれば、本願発明はプラグの拡大用大径部を前方往復運動させることにより素管に対し圧延作用と拡開膨出作用を行い、その往復の過程において厚肉膨出部にテーパー状段部を形成させて拡大用大径部を内径とするアウターバテツトパイプを一工程で製造する方法の発明であるということができる。

被告は、一定の成形条件が満足されたときに限りプラグ引戻しの際型孔の管導出部が圧延に関与するものであるにもかかわらず、本願明細書中にはこの成形条件についてなんら触れるところがないから、管導出部が圧延に関与するか否かは本願発明の要旨とは関係がない旨主張する。しかし、本願発明ではプラグの拡大用大径部を前方往復させること即ち同部を型孔の管導出部を経て型孔のベアリング部まで後退させ、一定時間後再び前進させることを構成要件とするものであるから、別紙図面(一)の第1、第2、第3図、別紙図面(三)から明らかなように、右往復の際型孔の管導出部が素管の圧延に関与し厚肉膨出部のテーパー段部を形成しているものと認めることができる。そして、圧延の実施に当つて、素管の引抜速度、プラグの往復の速度、プラグの拡大テーパー部の角度、型孔の管導出部の角度などの条件設定は、所望とする製品に応じて圧延が円滑に行えることを配慮して当業者が適宜定め得るところであるから、本願明細書にこれらの設定条件の記載がないことは被告の右主張を理由あらしめるものではない。

三 引用例記載の発明の構成及び作用

1 前記当事者間に争いのない引用例の記載内容(審決の理由の要点2)及び成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、審決摘示に係るアウターバテツトパイプの製造方法は次のとおりであると認められる。

<1> 引抜用ダイスの構成及び素管の導入については前記二<1>と同じ(但し、別紙図面(二)には導入部、ベアリング部、管導出部には特に符号は付されていない。)。

<2> プラグの構成は前記一<2>と同じであるが(但し、拡大用大径部は4、挿入テーパー部は5、拡大テーパー部は6と表示される。)、プラグは同形のもの二個3a3bが可動軸8の先端に小径部7´を介して一定間隔を置いて装着され、素管を連続的に引抜きながら、これを後記のように後方往復させ、

<3> プラグ挿入後、先ず第二プラグ3bの拡大用大径部4bをダイス1の型孔2のベアリング部と対向する位置で停止させ、型孔の管導入部により外径が絞られた素管を、型孔のベアリング部とプラグの拡大用大径部、拡大テーパー部の圧延作用により圧延して右拡大用大径部を内径とする素管の薄肉部(大内径部11)を成形する(このとき第一プラグ3aは型孔の管導入部の後方にありなんら作用をしていない。)(別紙図面(二)の第6図)。

<4> 次いで、第二プラグの拡大用大径部を型孔の管導出部の前方の所定位置まで前進させて停止させ(第一及び第二プラグの拡大用大径部はいずれも型孔のベアリング部と対向する位置にはない。)、(a)素管は型孔の管導入部とベアリング部により絞り込まれ、小内径の厚肉部10を形成しながら進行し、(b)次いで素管は第二プラグの拡大テーパー部と拡大用大径部の拡開膨出作用により右拡大用大径部を内径とする厚肉膨出部(大径膨出部)13を形成しながら進行する(このとき第一プラグの拡大用大径部は型孔の管導入部にあり、同プラグはなんら作用していない。)(第7図)。

<5> 第一プラグの拡大用大径部4aを型孔のベアリング部と対向する位置まで前進させて停止させ、型孔の管導入部により外径が絞られた素管を、型孔のベアリング部と同プラグの拡大用大径部及び拡大テーパー部との圧延作用により圧延して右拡大用大径部を内径とする素管の薄肉部14を形成する(このとき第二プラグは型孔の管導出部の前方にありなんら作用をしていない)(第8図)。

<6> 第一、第二プラグを<4>の位置まで後退させて<4>の操作を行い(第7図)、次いで第一、第二プラグを<5>の位置まで前進させて<5>の操作を行い(第8図)、以後右両操作を繰り返す。

即ち、<3>、<4>、<5>、<4>、<5>………(6図、7図、8図、7図、8図………)の過程で<3>(第6図)の操作後、<4>(第7図)、<5>(第8図)の操作を交互に繰り返すことによりアウターバテツトパイプを製造するのであるが(以下この方法を「一工程法」という。)、原告主張のように第一プラグが型孔の管導入部の前後を往復(以下「後方往復」という。)する際に、型孔の管導入部とプラグの挿入テーパ部、拡大テーパー部のほかプラグの拡大用大径部により素管の圧延が行われて、素管の内側に小内径部(厚肉部)のテーパー段部R(別紙図面(四)第1、第2図)及びS(同第4、第5図)が形成され、次いで第二プラグの拡開膨出作用により素管の外側に膨出部のテーパ段部R´(同第3図)及びS´(同第6図)が形成される。

2 前掲甲第三号証によれば、引用例には審決摘示に係る前記1の一工程法のほか、<1>、<2>(但しプラグは一個)の過程は前記1と同じであるが、<3>プラグの拡大用大径部が型孔のベアリング部の後方に位置するときは型孔の管導入部とベアリング部の絞り作用により素管に厚肉の小内径部10を連続成形させ(別紙図面(二)の第2図)、また、プラグの拡大用大径部が型孔のベアリング部に対向する位置にあるときは両者の圧延作用により素管を圧延して薄肉の大内径部11を連続成形し(同第3図)、外径は一定で内径は小内径部と大内径部(プラグと拡大用大径部の径と同じ長さ)とする引抜金属管12(インナーバテツトパイプ)を形成し、<4>次いでこのインナーバテツトパイプの中に前記プラグを挿入し、これを固定し右パイプを引張ることによつて厚肉の小内径部を外方へ拡開膨出させて厚肉膨出部を形成し(同第4図)、大内径部を内径とするアウターバテツトパイプを製造する方法(以下この方法を「二工程法」という。)が記載されており、前記一工程法は二工程法が前記<3>において小内径部と大内径部を形成した後、<4>においてその小内径部を外方へ拡開膨出して大内径部を内径とするアウターバテツトパイプを製造しているのを一回の引抜工程で製造できるよう一工程化し、<3>の作用を第一プラグと型孔により、<4>の作用を第一プラグの前方に連結した第二プラグにより行わせ、ただ最初にプラグを挿入する過程においてだけ、第二プラグが先頭に取付けられ、型孔のベアリング部を通過する関係上、同プラグに圧延作用を行わせ薄肉部の大内径部を成形させているものであることが認められる。

3 右に認定したところによれば、審決摘示に係る引用例記載の一工程法は、同じく引用例に記載された二工程法を改良したもので、このことは当業者が引用例を読むことにより直ちに理解し得るものということができる。

四 本願発明と引用例記載の発明との対比

1 そこで、右に認定した事実に基づき、本願発明と審決摘示に係る引用例記載の一工程法を対比する。両者はともに金属素管からアウターバテツトパイプを製造する方法の発明であるが、(イ)本願発明は一個のプラグが前方往復をして所定位置に停止し、プラグの拡大用大径部が型孔のベアリング部に対向する位置にあるときは圧延作用、ベアリング部の前方(実施例では管導出部前方)に位置するときは拡開膨出作用をそれぞれ行い、薄肉部と厚肉膨出部を連続成形してアウターバテツトパイプを製造するのに対し、引用例記載の一工程法は小径部を介して一体に連結した二個のプラグが往復し、薄肉部は、第一プラグが後方往復をして同プラグの拡大用大径部が型孔のベアリング部に対向する位置にあるときに右両部の圧延作用により連続成形され、厚肉膨出部は第二プラグの拡大用大径部が型孔の管導出部外に押出され、管導出部外を前後に往復し、同プラグの拡大用大径部と拡大テーパー部が管導出部に近い位置にあるときに右拡大用大径部及び拡大テーパー部の拡開膨出作用により連続成形される点及び(ロ)本願発明ではプラグが前方往復し、型孔の管導出部を通過する際、同部とプラグの拡大用大径部及び拡大テーパー部が圧延作用をして素管の厚肉膨出部のテーパー段部を形成するのに対し、引用例記載の一工程法では第一プラグが後方往復し型孔の管導入部を通過する際、同部と同プラグの拡大用大径部拡大テーパー部及び挿入テーパー部が圧延作用をして小内径部のテーパー段部を形成しこれを第二プラグで厚肉膨出部のテーパー段部を形成する点で相違している。

2 審決は右の相違点(イ)と同趣旨のものとして相違点(1)を摘示したものと認められるが、右の相違点(ロ)は看過したものといわざるを得ない。

五 そこで、本願発明の右の相違点(イ)(審決摘示の相違点(1))が引用例記載の一工程法から容易に想到し得たか否かについて検討する。

1 審決の判断は要するに、引用例記載の一工程法では別紙図面(二)の第6図の操作後第7図と第8図の操作を相互に繰り返すのであるが、第6図の記載からみて、第8図に代えて6図の操作をすること即ち第6図と第7図の操作を交互に繰り返すことを着想することは困難ではないというにある。

しかし、前記のとおり審決が引用した引用例記載の一工程法は同記載の二工程法を改良したものである。二工程法によれば、一個のプラグと型孔により外径を同じくし内径を異にするインナーバテツトパイプを製造後(第一工程)、同パイプ中に再びプラグを挿通して厚肉の小径部を拡開膨出させて厚肉膨出部を連続成形し(第二工程)、同一内径のアウターバテツトパイプを製造するのであり、これによれば二工程法の第二工程のプラグは専ら厚肉膨出部を連続成形する作用を行うのであるが、一工程法では二工程法の第二工程のプラグ挿通に代えてプラグを二つ連結し前方の第二プラグに挿通された右プラグと同じ拡開膨出作用を行わせているのである。

なるほど別紙図面(二)の第6図によれば一工程法においても第二プラグは圧延を行い、また次段階の同第7図によれば同プラグが拡開膨出作用をしているから、右両図のみをみる限り第二プラグは本願発明のプラグ同様右両作用を行つているかの如くみられないではない。しかし、前掲甲第三号証によれば、引用例には、一旦型孔の管導出部外に出た第二プラグの拡大用大径部が前方往復をして再び型孔内に引戻されることに関する記載はなく、その後第二プラグの拡大用大径部及び拡大テーパー部は管導出部外にあつて拡開膨出作用のみを行い、圧延作用は後方往復をする第一プラグにより行われていることが認められるのであるから、第二プラグによる右の圧延作用は、第一、第二プラグを素管の引抜方向とは逆方向(型孔の管導入部側)から引抜方向に向け挿通する関係上、管導出部から押出されるまでの間に、第二プラグの拡大用大径部は不可避的に型孔のベアリング部と対向する位置を通過することとなるため、右通過の際同位置に停止させて一回だけ圧延作用を行わせたにすぎないものと認めるのが相当である。

以上の事実によれば、引用例記載の一工程法による第二プラグは二工程法の第二工程のプラグに代えて、その拡大用大径部及び拡大テーパー部を型孔の管導出部外に置き専ら厚肉膨出部形成のための拡開膨出作用を行うものとして、専ら圧延し薄肉部を形成する作用をするため後方往復をする第一プラグの前方に取付けられたのであること、第二プラグの拡大用大径部が圧延作用を行うのは挿入時に型孔のベアリング部を通過する時のただ一回にすぎないことが認められるから、引用例には一個のプラグの前方往復による圧延及び拡開膨出の交互の繰返しによるアウターバテツトパイプ製造に関する本願発明の技術思想の示唆はないものというべきである。

2 次に両発明の効果について検討すると、本願発明は可動軸にプラグを一個装着すればよいのであるから、可動軸に二個のプラグを装着する引用例記載の一工程法に比し装置が簡単であることは明らかであり、更に前掲甲第二号証によれば、プラグ一個により構成される本願発明の方がプラグ二個により構成される引用例記載の一工程法に比し引抜成形時に素管に与える負荷が小さいので管を破断するおそれは少なく、円滑にしかも薄肉部と厚肉部の段差の大きいアウターバテツトパイプを製造することができるすぐれた効果を奏するものと認めることができる。

3 このように、引用例には、本願発明のように一個のプラグを前方往復させることにより素管の圧延、拡開膨出作用を行わせる相違点(1)の構成を示唆する記載は認められず(前記1)、本願発明が右の構成を採ることにより引用例記載の一工程法に比しすぐれた効果を奏するのである(前記2)。しかも、前認定(四1(ロ))のとおり、本願発明においてはプラグの前方往復の際型孔の管導出部を利用することによつて、素管に厚肉膨出部のテーパー段部を形成するのであるが、引用例(前掲甲第三号証)にはこれを示唆する記載がないことをも併せ考えれば、本願発明の相違点(1)の構成が引用例記載の一工程法から容易に想到し得るとした審決の判断は誤りというべきである。そして、右の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消を免れない。

六 よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

先窄まりの管導入部と、管導入部の内側端部に連続したベアリング部と、ベアリング部の先端に連続した先広がりに開口する管導出部とからなる型孔をもつた引抜用ダイスの、該型孔内に素管を挿入すると共に、該素管内に、先広がりの拡大案内用テーパー部と、該テーパー部の先端に連続した拡大用大径部と、該大径部の先端に連続した先窄まりの挿入案内用テーパー部とを有するプラグを挿入し、前記素管を連続的に引抜きながら、プラグを、軸方向二箇所に設定された、前記拡大用大径部がベアリング部の内側に対応する圧延作用位置と、拡大用大径部がベアリング部より前方に突出した拡開作用位置とに往復変化させ、かつ、各位置でそれぞれ所要時間停止させることにより、内径が一定で軸方向に一乃至複数個の薄肉部と厚肉膨出部を連続成形する引抜成形方法であつて、前記プラグが圧延作用位置にあるときは、型孔の管導入部にて素管の外径を絞りつつベアリング部と拡大用大径部による圧延作用で管の肉厚を圧延して薄肉部を連続成形し、また、プラグが拡開作用位置にあるときは、前記管導入部およびベアリング部による絞り作用で空引きして一旦厚肉絞り部を形成した後、引続いてこの厚肉絞り部をプラグの拡大案内用テーパー部および拡大用大径部により順次外方へ拡開膨出させて厚肉膨出部を連続成形するようにしたことを特徴とする厚肉膨出部付金属管の引抜成形方法(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面 (一)

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