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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)280号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願第一発明の要旨が審決認定のとおりであり、引用例に審決認定の記載があることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由(1)について検討する。

1 取消事由(1)(一)について

(一) 原告は、本願第一発明の「低濃度領域」はその不純物濃度が一般的なソース・ドレイン領域として機能する不純物濃度より低い不純物濃度を有する領域である旨主張する。そして、前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲第一項には、「ソース・ドレイン領域は、第二導電形を有する低濃度領域内に形成され」と規定され、本願第一発明の「低濃度領域」が「ソース・ドレイン領域」と区別される別個の領域として示されていることが認められる。

しかし、右特許請求の範囲第一項によれば、その「低濃度領域」の不純物濃度が原告の右主張のように一般的なソース・ドレイン領域として機能する不純物濃度より低い濃度であることは明示されていないことが明らかであり、成立に争いのない甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書及び添付図面の全記載を検討しても、その発明の詳細な説明の項の「本発明は、ソース・ドレインの高濃度領域を、基板とは反対の導電形を有する低濃度領域によつてとり囲み」(甲第二号証明細書一頁下から二行ないし二頁二行)との記載、また、その添付図面(別紙第一図面)第一図の実施例を説明する「第一図において、13、14はソース、ドレインとなるn形高濃度領域であり、11、12はソース、ドレインの高濃度領域をとり囲むn型低濃度領域である。」(同二頁一一ないし一四行、甲第三号証補正の内容2、(1))との記載によつて示されているとおり、「低濃度領域」は、「ソース・ドレイン領域」の不純物濃度を高濃度とした場合、これとの比較において低濃度の不純物濃度を有する領域であると説明されているに止まり、それが一般にソース・ドレイン領域として機能する不純物濃度より低い不純物濃度を有する領域であることは何ら示されていないことが認められる。

かえつて、右甲号各証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明及び添付図面第二図には、本願第一発明の「低濃度領域」の不純物濃度を2×1015個/cm3あるいは5×1015個/cm3とする実施例が示されていることが認められるところ、成立に争いのない乙第二号証によれば、本願出願人と出願人を同じくし本願出願前に出願公告された特許出願にかかる特公昭四九―三六五一四号公報には、「ドレイン領域が低不純物濃度領域と上記領域内に設けられた同一導電型の高不純物領域とから構成されることを特徴とする」(同号証三欄二四ないし二六行)絶縁ゲート電界効果トランジスタが開示され、右ドレイン領域とされる低不純物濃度領域の不純物濃度が本願第一発明の前示実施例の「低濃度領域」のそれよりも低い1×1015個/cm3とされていることが認められ、また、成立に争いのない乙第七号証によれば、本願出願前に日本電気株式会社により特許出願され本願出願後の昭和五〇年一〇月一三日に出願公開された特開昭五〇―一二九一八三号公報には、本願第一発明の前示実施例の「低濃度領域」よりその不純物濃度が低い1×1015個/cm3の不純物濃度を有する領域をソース・ドレイン領域とし、この中にこれよりも不純物濃度が高い同一導電型の高濃度拡散領域を形成する絶縁ゲート電界効果トランジスタが開示され、成立に争いのない乙第九号証によれば、本願出願後に東京芝浦電気株式会社により出願された特許出願にかかる特開昭五四―一六一八八九号公報には、本願第一発明の前示実施例の「低濃度領域」の不純物濃度よりも低い1×1015個/cm3の不純物濃度を有する低濃度領域とこの中に形成された高濃度領域とによりソース・ドレイン領域を形成した絶縁ゲート電界効果トランジスタが開示されていることが認められる。右事実によると、本願第一発明の実施例に示される「低濃度領域」の有する不純物濃度よりも低い不純物濃度を有する領域がいずれもソース・ドレイン領域としての機能を有するものであり、このことは、本願出願日の前後を通じ当業者の常識であつたことが認められる。したがつて、本願第一発明の「低濃度領域」は、ソース・ドレイン領域としての機能を有する程度の不純物濃度を持つ領域を含むものであつて、これを除外するものということはできない。

また、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中には、その添付図面(別紙第一図面)第一図に図示される本願第一発明の実施例に関し、「n形低濃度領域11、12の不純物濃度N12は、パンチスルー耐圧を低下させないために、次の範囲になければならない。<省略>上式で、N10はp形基板領域10の不純物濃度である。」と記載され(甲第二号証明細書四頁一二ないし一八行)、同図面第二図には、N10の値を1×15個/cm3とN12の値を2×1015個/cm3と表示していることが認められるところ、この場合に右式が成り立つためには右式のL1/L2の値が一を超える値でなければならず、L1/L2の値が一以下では右式が成り立たないことが明白であるから、右式におけるL1/L2の値は一般に一を超えるものであることが認められる。そして、前掲乙第二、第七、第九号証によれば、これら乙号各証の公報に示される前示トランジスタの基板領域の不純物濃度は、5×1015個/cm3(乙第二号証)、1×1016個/cm3より高濃度(乙第七号証)、1×1016~5×1016個/cm3(乙第九号証)であることが認められ、これと前認定の低不純物濃度のソース又はドレイン領域の不純物濃度値によれば、これらのものはいずれも右式で示される基板領域の不純物濃度と低濃度領域の不純物濃度の関係を充足することが明らかである。したがつて、この観点からみても、本願第一発明の「低濃度領域」を前示の一般にソース・ドレイン領域と認識されている低不純物濃度領域と区別することはできないといわなければならない。

原告は、また、本願第一発明における「低濃度領域」がこれの存在によりパンチスルー耐圧の向上と電極材料の食い込みによる漏れ電流発生の防止とが得られるようにするための領域であることを理由に、右「低濃度領域」が一般的なソース・ドレイン領域として機能する不純物濃度より低い不純物濃度を有する領域である旨主張する。そこで、この点につき検討すると、まず、パンチスルー耐圧の向上について、前掲甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書には、その添付図面(別紙第一図面)の「第一図に示した本発明による構造では、n形低濃度領域11、12の拡散深さがアルミニウムの食い込みによる漏れ電流を防ぐに充分なほど深くても、ドレイン側のn形低濃度領域にも空乏層がのびるので、同じ拡散深さを有する従来構造に比べパンチスル耐圧が向上する。」と記載されている(甲第二号証明細書三頁一五ないし二〇行)ことが認められるが、前掲乙第二号証によれば、同号証の特許公報に示されている発明において、「ドレイン領域に低不純物濃度領域を設ける理由は空乏層がゲート領域に伸びるのを抑制する……ためである。」(同号証三欄三六ないし四〇行)、「本発明の目的を達成するためにはドレイン領域に形成される低不純物濃度領域の不純物濃度は基板結晶の不純物濃度の二・〇倍以下が望ましいとされている。……低不純物濃度領域の不純物濃度が二・〇倍以下ならば、空乏層は低不純物濃度層側にも伸び、結果としてゲート領域への空乏層の伸びが抑制され、また、ドレイン・ソース間の耐圧も向上する。」(同四欄八ないし二〇行)と記載されていることが認められ、パンチスルー耐圧の向上という点において、本願第一発明の「低濃度領域」と右乙第二号証の特許公報に開示された発明の低不純物濃度のドレイン領域との間に機能上の差異は認められない。このことは前掲乙第七、第九号証により認められるところのこれら乙号各証の公開特許公報に示される発明において、低不純物濃度のソース・ドレイン領域内に高不純物濃度のソース・ドレイン領域を設けた二重構造とすることの目的の一つがパンチスルー耐圧の向上にあることを明示していることからも明らかである。これに加えて、成立に争いのない乙第一号証によれば、本願出願前に発行された「日立評論」五六巻九号には、絶縁ゲート電界効果トランジスタのパンチスルー耐圧の向上のために採用されている各種の構造の一つとして、前示乙第二号証の特許公報に示されるものと同じく、ドレイン領域を低不純物濃度領域とこの中に設けた高不純物濃度とにより形成する二重構造のものが示されており、成立に争いのない乙第五号証によれば、本願出願前の昭和五〇年二月六日に出願公開された特開昭五〇―一一七八九号公報には、右と同じ二重構造のドレイン領域を形成することによりパンチスルー耐圧の向上を図る絶縁ゲート型電界効果トランジスタが開示されていることが認められ、成立に争いのない乙第三号証によれば、本願出願前に出願公開された特開昭四九―一〇五四九〇号公報には、パンチスルー耐圧の向上のために、ドレイン領域のみ(同号証第一ないし第三図)又はソース・ドレイン領域の双方(同第四図)を低不純物濃度領域とこの中に設けた高不純物濃度領域とにより二重構造として形成した絶縁ゲート電界効果トランジスタが開示されていることが認められる。すなわち、本願出願前我が国において頒布された右乙第一ないし第三号証、第五号証に開示されているところによれば、パンチスルー耐圧の向上のためにドレイン領域又はソース・ドレイン領域を右の二重構造とすることは、本願出願前絶縁ゲート電界効果トランジスタの分野で周知の技術であつたことが認められ、この事実に照らしても、本願第一発明の「低濃度領域」がパンチスルー耐圧の向上を目的とするからといつて、その「低濃度領域」をソース・ドレイン領域として機能しない程度の不純物濃度を有する領域に限定されるものと認めることはできない。

次に、電極材料の食い込みによる漏れ電流発生の防止の点であるが、これにつき、前掲甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書には、その添付図面(別紙第一図面)の「第一図に示した構造の場合には、かりに電極16、18のアルミニウムが熱処理によつてn形高濃度領域に少々食い込んだとしても、p形シリコン基板10との間にn形低濃度領域11、12が存在するために、電極16、18とp形シリコン基板10との間には漏れ電流は流れない。さらに、不純物は一般に低濃度領域において高濃度領域よりも小さな拡散速度を有するために、アルミニウム電極形成後の熱処理によつても、アルミニウムはn形低濃度領域内11、12でとどまりp形シリコン基板10へは拡散していかない。従つて、n形低濃度領域を形成することにより大きなチツプ面積を要するLSIにおいて、局所的にアルミニウムのシリコンへの食い込みが生じても、漏れ電流による特性の劣化はおこらない。」(甲第二号証明細書二頁一六行ないし三頁一〇行、甲第三号証補正の内容2、(4)ないし(9))と記載されていることが認められるところ、漏れ電流発生の防止が右の理由で達成されるならば、ソース・ドレイン領域を低不純物濃度領域とこの中に設けた高不純物濃度領域とにより二重構造として形成する右周知のものにあつても同様に漏れ電流の発生が防止できることは自明であり、この点においても、本願第一発明の「低濃度領域」を右周知のものの低不純物濃度ソース・ドレイン領域と区別することはできないといわなければならない。

原告は、前示乙第一、第二号証、乙第三号証第一ないし第三図に示されている構造は非対称構造となつており一方向動作のみを前提としていることを理由に、また、乙第三号証第四図に示されているものと本願第一発明のゲート電極構造の差異を理由に、これらのものの低不純物濃度領域をドレイン領域と呼ぶことと本願第一発明の「低濃度領域」がソース・ドレイン領域としての機能を有しない程度の不純物濃度を持つこととは矛盾しない旨主張するが、ソース・ドレイン領域の双方を二重構造とした対称構造のものにあつても、本願第一発明の実施例に示される「低濃度領域」の有する不純物濃度よりも低い不純物濃度を有する領域がいずれもソース・ドレイン領域として機能するものであることは前叙のとおりであるから、原告の右主張は採用できない。

原告は、さらに、本願第一発明では、ソース・ドレイン領域及び低濃度領域がゲート電極下まで伸延していることから、ゲート電極下の低濃度領域表面にキヤリアが引きつけられ、あたかもチヤネルのようになり、低濃度領域はソースとしては機能しない旨主張する。しかし、ゲート電極に電圧を印加した場合、ゲート電極下の低濃度領域表面にキヤリアが引きつけられることは、本願第一発明の絶縁ゲート電界効果トランジスタの構造上当然のことであるが、低濃度領域は半導体基板と逆導電形の不純物を有する領域であり、その不純物濃度がソース領域として機能する程度のものを含むことは前叙のとおりであるから、原告があたかもチヤネルのようになるという表面部分を除くその余の部分は、右の場合においても、当然にキヤリア供給機能を持つこと、すなわちソース領域として機能することは自明であり、したがつて、低濃度領域はソース領域として機能しないという原告の右主張は理由がない。本件全証拠によつても、原告の右主張を肯認するに足りる事実は認められない。

以上のとおり、本願第一発明の「低濃度領域」はその不純物濃度が一般的なソース・ドレイン領域として機能する不純物濃度より低い不純物濃度を有する領域を指すものと認めることはできず、本願第一発明の「低濃度領域」は、本願発明の特許請求の範囲第一項に徴し、本願明細書の発明の詳細な説明中の「ソース・ドレインの高濃度領域を、基板とは反対の導電形を有する低濃度領域によつてとり囲み」(甲第二号証一頁下から二行ないし二頁二行)との前引用の記載によつて説明されているとおり、ソース・ドレイン領域と同一導電形であつて、ソース・ドレイン領域の不純物濃度との比較において相対的に低濃度の不純物濃度を有する領域を意味するものであつて、それがソース・ドレイン領域としての機能を有しないものに限られないと解するのが相当である。

(二) 一方、引用例にp形導電形の半導体基板の表面にn形導電形不純物を拡散して形成したソース・ドレイン領域内に、この領域よりも不純物濃度の高いソース・ドレイン領域を形成することが記載されていることは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第五号証によると、引用例の図面(別紙第二図面)C図には、ソース・ドレイン拡散層(領域)18・20の中にN+ソース・ドレイン拡散領域24・26が形成されたものが示され、この拡散領域24・26につき、原告の引用するとおり、「ソース・ドレイン拡散領域の表面濃度をより高くすることにより拡散領域24・26を形成するコンタクト拡散工程を省略できる。」(同号証訳文二頁二、三行)と記載されていることが認められる。

引用例の右記載によれば、引用発明における高濃度拡散領域24・26が電極接続用拡散領域の機能を有することは原告主張のとおりであると認められるが、同時に、半導体基板と逆導電形の高不純物濃度を有する領域として、ソース・ドレイン領域の機能を有する領域であることもまた明らかである。そうすると、引用発明においても、ソース・ドレインの高濃度領域が、この濃度との比較において相対的に低濃度の不純物濃度を有する低濃度領域内に形成された構造を有するものと認められ、この点において、本願第一発明と異ならないといわなければならない。

原告は、本願第一発明と引用発明の拡散領域との間に不純物濃度の定量的な差異があることを挙げて、引用発明の低濃度拡散領域18・20は、パンチスルー耐圧の向上という効果を有せず、本願第一発明の「低濃度領域」に該当しない旨主張するが、本願第一発明の「ソース・ドレイン領域」及び「低濃度領域」の不純物濃度値が一定の値以上のもの又は以下のものでなければならないとの限定がないことは前示本願発明の特許請求の範囲第一項に照らして明らかであるから、不純物濃度の定量的な差異を両者の相違とすることはできない上、一般に、第一のソース・ドレイン領域を、その不純物濃度より低い不純物濃度を有する第二のソース・ドレイン領域内に形成すれば、第一のソース・ドレイン領域のみを有するものに比べて、その機能の達成の度合に差異があるにせよパンチスルー耐圧が向上するものであることは、その構造上明らかであるから、この点においても両者の相違をいうことはできず、原告の右主張は採用できない。

(三) 以上のとおりであるから、審決に原告主張の相違点の看過は認められず、本願第一発明と引用発明とは「絶縁ゲート電界効果トランジスタのソース・ドレイン領域がこれと同一導電形でこれより濃度の低い領域内に形成されているという基本的構成において、両者は一致している」との審決認定に誤りはないといわなければならない。

2 取消事由(1)(二)について

(一) 前掲乙第一ないし第三号証及び成立に争いのない乙第四号証(特開昭四七―二四九七八号公報)によれば、絶縁ゲート電界効果トランジスタにおけるゲート電極とドレイン領域又はソース・ドレイン領域との重なり方について、本願出願前、被告が取消事由(1)(二)の反論において述べるとおり、a、b、c、c1、c2の構造のものがすでに当業者にとつて周知であつたことが認められる。

原告は、対称構造となつている乙第三号証の特開昭四九―一〇五四九〇号公報第四図に記載の半導体装置はゲート電極が高濃度領域にまで伸びていない旨主張し、同号証によれば、同号証の図面上ゲート電極が高不純物濃度ソース―ドレイン領域上にまで延在しているものは示されていないことが認められる。しかし、前掲甲第二ないし第四号証によつて認められる本願明細書及びその添付図面の記載によれば、本願第一発明の構造を有する半導体装置は、前示当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲第二項に記載された(1)ないし(4)の工程によりなる本願第二発明の方法によつて製造されるものであることが認められるところ、この方法によれば、本願第一発明の高不純物濃度を有する「ソース・ドレイン領域」がゲート電極下まで伸延して形成されている構造は右方法の(4)の工程すなわち「上記ゲート電極をマスクに用いて、上記低濃度領域内に第二導電形不純物を多量に打込」むことによつて達成されるものであることが明らかである。一方、前示乙第三号証の公報には、「MIS型半導体装置の製造法」に関する発明が開示され、そこには、多結晶シリコン膜ゲート電極をマスクとして用いて、すでに形成されている低濃度のソース・ドレイン領域内に第二導電形不純物をイオン打込みにより注入し高不純物濃度のソース・ドレイン領域を形成する方法が示唆されており、この方法は前叙本願第二発明の(4)の工程と実質的に異ならないから、これによつて製造される半導体装置が本願第一発明のものと同じく高不純物濃度を有するソース・ドレイン領域がゲート電極下まで伸延して形成されている構造となるものであることは当業者にとつて自明のことと認められる。そうとすれば、右公報には、対称構造となつている半導体装置において、ゲート電極が高不純物濃度ソース・ドレイン領域にまで伸延している構造のものが実質的に記載されているものと認められるから、同号証の前示図面は前記認定を妨げるものではない。

原告は、本願第一発明の対象はLSIであるのに対し、前示乙号各証の文献はこれと異なる製品を対象とするものである旨主張するが、前示本願発明の特許請求の範囲第一項の記載に照らし、本願第一発明の対象をLSIに限定することは本願第一発明の要旨とするところでないことが明らかであるから、原告の右主張は採用できない。

以上の事実によれば、本願出願前当業者に周知であつた右各種構造のうち、ゲート電極が高不純物濃度ソース・ドレイン領域にまで伸延している構造のものを、引用例又は右1で述べたところのソース・ドレイン領域を低不純物濃度領域とこの中に設けた高不純物濃度領域とにより形成した二重構造を持つ本願出願前周知の絶縁ゲート電界効果トランジスタに適用し、本願第一発明に想到することに格別の困難性はなく、当業者にとつて容易に発明することができたものと認められる。

(二) 原告は、本願第一発明の有する効果の顕著性をいうが、原告主張の効果<1>すなわちアルミニウムの突き抜け防止とパンチスル耐圧の向上の効果は、二重構造のソース・ドレイン領域を有する本願出願前周知の絶縁ゲート電界効果トランジスタの有する効果であることは前叙のとおりであり、これを格別の効果とすることはできない。

同<2>の動作の高速性増大の効果は、前示甲第二ないし第四号証によつて認められる本願明細書の記載によれば、本願第一発明の「ソース・ドレイン領域および低濃度領域がゲート電極下まで伸延して形成されてなること」との構成に由来する効果と認められるところ、これと同一の構造を持つものが本願出願前周知であつたことは前叙のとおりであるから、このものも同一の効果を有することは明らかであり、また、原告の主張する効果<3>すなわち高度集積化の容易性は、対称構造の半導体装置であることに由来する効果であることは原告の自認するところであり、そうとすれば、このような効果は、対称構造を持つ引用発明のものも奏する効果であることが明らかであるから、いずれにしても本願第一発明の構成をとることにより当然予測できる効果であるといわなければならない。

そうとすると、本願第一発明が格別顕著な効果を有することを前提に審決の判断の誤りをいう原告の主張もまた理由がない。

(三) 以上のとおりであるから、原告の審決取消事由(1)(二)の主張は採用できず、本願第一発明と引用発明との間の審決認定の相違点につき、「格別特許性を認めることはできない」とした審決の判断は相当であるといわなければならない。

三 右に述べたところにより、原告主張の審決取消事由(1)は理由がなく、本願第一発明が特許法二九条二項により特許を受けることができないとした審決の判断に誤りはないといわなければならない。そうすると、本願出願は本願第二発明を含め全体として拒絶されることになるから、原告主張の審決取消事由(2)について判断するまでもなく、審決の結論は正当である。

四 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 第一導電形の半導体基板の表面領域内に、所望の間隔を持つて形成された第二導電形を有するソース・ドレイン領域と、上記ソース・ドレイン間の上記半導体基板の表面上に絶縁膜を介して形成されたゲート電極をそなえた絶縁ゲート電界効果トランジスタにおいて、ソース・ドレイン領域は、第二導電形を有する低濃度領域内に形成されかつ、ソース・ドレイン領域および低濃度領域がゲート電極下まで伸延して形成されてなることを特徴とする半導体装置。(以下「本願第一発明」という。)

2 下記工程を含む半導体装置の製法。

(1) 第一導電形を有する半導体基板の表面上に多結晶シリコン膜からなるゲート電極をゲート絶縁膜を介して形成する工程。

(2) 上記ゲート電極をマスクに用いて上記半導体基板に、第二導電形不純物を打込む工程。

(3) 熱処理して上記打込まれた第二導電形不純物を外側へ拡散させ、上記ゲート電極下まで伸延する第二導電形を有する低濃度領域を形成する工程。

(4) 上記ゲート電極をマスクに用いて、上記低濃度領域内に第二導電形不純物を多量に打込み、上記ゲート電極下まで伸延するソース・ドレイン領域を形成する工程。(以下「本願第二発明」という。)

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