東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)304号 判決
一 請求の原因一ないし四は当事者間に争いがない。
二 本願発明の要旨は第二補正の特許請求の範囲記載(請求の原因三)のとおりと認定すべきところ、審決がこれを第一補正の特許請求の範囲の記載(請求の原因二)のとおりであると誤認したことは当事者間に争いがない。
審決が引用例記載の発明(その記載内容が審決摘示のとおりであることは当事者間に争いがない。)と対比したのは本願発明のうち第一補正の2の発明(以下「第一補正第二発明」という。)であるが、被告は、右の要旨誤認にもかかわらず、第二補正の2の発明(以下「第二補正第二発明」という。)は引用例記載の発明から当業者が容易に推考し得る旨主張するので、先ず前記争いのない事実に基づき第一補正第二発明と第二補正第二発明を比較検討する。しかして、両発明とも反応手段と測定手段からなる分析装置に関するものであるから、右各手段の対比によつて、両発明を比較することとする。
1 各発明の反応手段の構成は、第一補正第二発明については請求の原因二2(一)のとおりであり、第二補正第二発明については同三2の(一)とおりであるから、前者では溶液中に懸濁した多数の微小保持体は試薬を含む構成であるのに対し、後者では溶液中に懸濁した多数の微小保持体は試料中の各各別の特定の一分析成分とのみ反応する異なる試薬を不活性担体上に各各別に担持してなる複数種のものとして構成されているということができる。
右構成によつて第一補正第二発明と第二補正第二発明を比較すると、前者では溶液中に懸濁した多数の微小保持体とそれに含ませる試薬に特に限定がないのに対し、後者では溶液中に懸濁した多数の微小保持体は複数種と限定され、また、それに含ませる試薬も試料中の複数の分析成分の各分析成分に対応して微小保持体別に限定されている点で両者は相違しているものと認めることができる。
なお、審決は、第一補正第二発明において個々の微小保持体に複数種の試薬を含ませて共存させ封入する構成であると解しているものの如くであるが、そのように解しても試薬の含ませ方は第二補正第二発明のそれと相違することは前記の同発明の構成から明らかである。
2 各発明の測定手段の構成は、第一補正第二発明については請求の原因二2(二)のとおりであり、第二補正第二発明については同三2(二)のとおりであるから、前者では測定の具体的手段が限定されていないのに対し、後者では光学的方法を用いるなどその手段を具体的に限定しているものということができる。
三 このように第二補正第二発明は第一補正第二発明の「反応手段」及び「測定手段」について更に限定を付したもので、後者の発明を実質的に減縮したものと認めることができる。しかるに審決は、第一補正第二発明について、「反応手段については、要するに試薬をそれぞれ含む多数の微小保持体を溶液に懸濁し、その溶液中で前記試料を前記試薬と反応せしめる手段であれば如何なるものであつても採用できると解され、また、……測定手段については、要するに前記微小保持体に含まれる試薬と試料中の被検対象物との反応生成物を測定する手段があれば如何なるものであつても採用できると解される。」とし、これを前提にして、第一補正第二発明の進歩性を判断している。ところが、第二補正第二発明は前記のとおり第一補正第二発明に比し更にその構成を限定し減縮しているのであるから、第二補正第二発明の進歩性の判断については右の前提を採り得ないことは明らかである。
そして、例えば、前記争いのない事実によれば、反応手段については、第二補正第二発明では微小保持体に試料中に存在する複数種の分析成分の各々と反応する異なる試薬を各別に含ませた複数種の多数の微小保持体を含有する懸濁液を用いるのに対し、引用例では微小保持体に相当するマイクロカプセルに二種或はそれ以上の酵素を含ませて共存させたものの懸濁液を用いるか又は一分析成分を含む試料に該分析成分と反応する試薬のマイクロカプセル化したもの一種のみを添加している点で相違し、測定手段については後者はpH値の変化を測定する手段を採用しており前者のような光学的手段を採用していない点で相違しているものということができる。したがつて、前記のような本願発明の要旨誤認の結果、少なくとも右の二点において審決が相違点を看過していることは明白であり、特許庁としてこの点をも含め本願発明と引用例記載の発明を対比検討し、本願発明の進歩性を判断すべきであるにもかかわらずこれをしていない以上、本件審決は違法なものとして取消を免れないものというべきである。被告の主張二は具体性を欠くだけでなく、以上に述べたところに照らし採用することができない。
四 よつて、原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕 本件における特許請求範囲は左のとおりである。
第一補正による特許請求の範囲
1 試料に試薬を反応させ、これ等の試料および試薬間の反応の生成物を測定する、試料の成分の分析法において、前記試薬の不溶性の担体を含む多数の不溶性の微小保持体を液体中に懸濁させ、この液体および試料を混合して前記試料及び試薬間の反応を維持し、前記微小保持体を、なお懸濁状態にある間に、次次に透視領域を通過させ、前記微小保持体上の前記反応の生成物を、前記試料の成分の濃度の指示として定量的に測定することを特徴とする、試料の成分の分析法。
2(一) 試薬をそれぞれ含み溶液中に懸濁した多数の微小保持体の存在のもとに、前記溶液中で試料を、前記最初の試薬とは異なる試薬と反応させる反応手段と、
(二) 前記微小保持体上の反応生成物を試料の問題成分の指示として測定する測定手段とを、
備えた試料の問題成分の分析装置。
第二補正による特許請求の範囲
1 試料中の各各別の特定の一分析成分とのみ反応する異なる試薬を不溶性担体上に各各別に担持して成る複数種のそして多数の微小保持体を液体中に懸濁させ、この懸濁液と試料とを混合して試薬と分析成分とを反応させ、微小保持体を、それが懸濁状態にある間に、透視区域に次次に送り、透視区域において微小保持体に光を照射し光学的測定を行つて、微小保持体を識別すると共にその上の反応生成物を定量し、試料中の各各別の成分の濃度の指標とする、
ことから成る、試料中の各各別の成分の分析法。
2(一) 試料中の各各別の特定の一分析成分とのみ反応する異なる試薬を不活性担体上に各各別に担持して成る複数種のそして多数の微小保持体の懸濁液を導入する手段(18・16)と、この懸濁液と試料とを混合して試薬と分析成分とを反応させる手段(24)と、
(二) 微小保持体を、それが懸濁状態にある間に、透視区域(46)に次次に送る手段(42)と、透視区域(46)において微小保持体に光を照射し光学的測定を行つて、微小保持体を識別すると共にその上の反応生成物を定量し、試料中の各各別の成分の濃度の指標とする手段(40)と、
から成る、試料中の各各別の成分の分析装置。」