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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)305号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

原告は、本願発明と引用考案との相違点<1>について、本願発明における検出手段は、それを具現化した際の具体的な構成において、引用考案におけるアームリフタ及びピツクアツプアームによつてそれぞれ作動せしめられるスイツチによるレコードプレーヤの演奏状態の検出手段との間に実質的な差異を認めることができないとした審決の認定、判断は誤りである旨主張するので、以下この点について検討する。

1 前示本願発明の要旨記載のとおり、本願発明において必須とされる円盤レコーダ機構の再生モード検出手段の構成は、「円盤レコーダ機構側に円盤レコーダ機構が非再生モードを採つている状態より再生モードに転換されることとなりたる場合この事を表わす検出情報を得る手段を設け」ることであるが、成立に争いのない甲第二号証の一(本願公告公報)によれば、同公報の発明の詳細な説明には、右検出手段の実施態様として、「本発明の一例に於ては上述せる構成に於てそのレコードプレーヤ機構B側にレコードプレーヤ機構Bが上述せる非再生モードを採つている状態より上述せる再生モードに転換されることとなりたる場合この事を表わす検出情報を得る手段61を設けるものである。実際上この手段61は(中略)符号63で示す如くアーム扛上子35に関連してそれが最初に扛上し又はこれより最初に降下した事を電気的に又は機械的に検出する様になすとか、符号64で示す如くトーンアーム36に関連してこれがレスト台39上にある(「がる」とあるのは「ある」の誤記と認める。)状態より最初に上方に回動し又はこれより最初に降下した事若しくはトーンアーム36が音針37をしてレコード円盤31上の始端位置側に向つて又は始端位置迄回動した事を電気的に又は機械的に検出する様になすとか、符号65で示す如く回動軸34に関連してこれが音針37をしてレコード円盤31上の始端位置側に向つて又は始端位置迄回動した事を検出する様になすとか任意に構成し得る。」(同公報第九欄第一八ないし第四〇行)と記載されていることが認められる。

前示本願発明の要旨及び右認定事実によれば、本願発明は、少なくとも右認定の実施態様を包括した円盤レコーダ機構の再生モード検出手段を具備することをその構成要件の一とするものであることは明らかであるというべきところ、右認定の実施態様は、いずれもレコードプレーヤ機構Bにおいてアーム扛上子又はトーンアームが所定位置に移行したことを電気的又は機械的に検出する具体的構成のものであるということができる。

一方、引用例に審決認定の構成より成る引用考案が記載されていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び成立に争いのない甲第三号証の一・二(引用例)によれば引用考案におけるレコードプレーヤの演奏状態の検出手段は、「ピツクアツプアームのアームリフタの上下位置でそれぞれオン・オフする第一のスイツチと、ピツクアツプアームの水平位置でそれぞれオン・オフする第二のスイツチとを並列接続し、レコードにカートリツジがかけられカートリツジより再生信号が得られる状態で前記両スイツチが共にオフになるようにした手段」である(前記両スイツチが共にオフになることにより、テープレコーダをポーズ状態にしている電磁石装置の附勢を解き、テープレコーダが記録状態となり、レコードプレーヤよりの再生信号が記録される。)と認められる。

なお、以上説示した本願発明及び引用考案の各技術内容に照らすと、引用考案における「アームリフタ」、「ピツクアツプアーム」、「カートリツジ」及び「レコード」は、本願発明における「アーム扛上子」、「トーンアーム」、「音針」及び「レコード円盤」にそれぞれ相当することは明らかである。

ところで、引用考案における前記検出手段において、アームリフタの上下位置でスイツチをオン・オフさせること、ピツクアツプアームの水平位置でスイツチをオン・オフさせること及びカートリツジより再生信号が得られる状態で二つのスイツチをオン・オフさせることは、いずれもアームリフタ又はピツクアツプアームが所定位置に移行したことを機械的に検出していることにほかならず、右検出手段は、本願発明における検出手段である前記実施態様の技術手段、すなわち、レコードプレーヤ機構Bにおいてアーム扛上子又はトーンアームが所定位置に移行したことを機械的又は電気的に検出している具体的構成のものと変るところがないから、引用考案における前記検出手段は本願発明における前記検出手段と実質的に同一であると認めるのが相当である。

したがつて、「本願発明の円盤レコーダ機構における再生モードの検出手段は、それを具現化した際の具体的な構成において、引用考案のアームリフタ及びピツクアツプアームによつてそれぞれ作動せしめられるスイツチによるレコードプレーヤの演奏状態の検出手段との間に実質的な差異を認めることができない。」とした審決の認定、判断に誤りはないものというべきである。

2 原告は、本願明細書に、本願発明における検出手段の実施態様の一つとして引用考案におけるレコードプレーヤ演奏状態の検出手段が記載されているか、引用考案における右検出手段が円盤レコーダ機構における再生モードの検出手段の一つの態様として技術的に自明のものであれば、引用例には本願発明における検出手段が記載されているということができるが、本願明細書には、本願発明における検出手段の実施態様の一つとして引用考案における検出手段は記載されておらず、また、右検出手段が技術的に自明のものでもないから、引用例には本願発明における検出手段が記載されているとはいえない旨主張するが、以下説示するとおり右主張は理由がない。

特許法第二九条の二は、後願の出願後に出願公告又は出願公開された先願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されている発明又は考案と同一の発明についての後願は拒絶される旨を規定するが、右規定が後願に係る発明の特許性の有無を決定する判断基準としての機能を有することからすれば、右同一性の判断は、後願に係る発明の要旨とされる構成、すなわち、特許請求の範囲における必須の構成要件と、先願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されている発明又は考案をその対象としてなすべきものであることは明らかであつて、先願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されている発明又は考案と後願に係る発明の実施態様とを逐一対比して同一性の判断をなすべきものでないことはいうまでもない。本件において、本願発明における検出手段が引用例に記載されているレコードプレーヤ演奏状態の検出手段と同一であるか否かについては、本願発明の必須の構成要件である「円盤レコーダ機構側に円盤レコーダ機構が非再生モードを採つている状態より再生モードに転換されることとなりたる場合この事を表わす検出情報を得る手段」が引用例に記載されているかどうかを判断すべきである。これに対し、引用例に本願発明における検出手段が記載されているといえるためには、本願明細書に、右検出手段の実施態様の一つとして引用考案における検出手段が具体的に記載されていなければならないという見地に立つ原告の主張は、特許法第二九条の二の規定の前示機能を理解しないことに基づくものであつて、採用できない。

次に、前掲甲第三号証の一・二、成立に争いのない甲第三号証の三並びに弁論の全趣旨によれば、引用例の実用新案登録請求の範囲に記載されている、「ピツクアツプアームのアームリフタに連動して上記アームリフタの上昇位置でオンし、下降位置でオフする第一のスイツチと、上記ピツクアツプアームの水平回動に連動してこれに取付けられたカートリツジの音針のレコード盤上の位置でオフし、他の位置でオンする第二のスイツチを有し、これら第一及び第二のスイツチは互に並列に接続されてなるレコードプレーヤの演奏状態検出装置。」なる考案につき実用新案出願公告(昭和五三年第四一三六九号)及び実用新案登録(第一二八六〇一八号)がなされていることが認められる。

しかしながら、引用考案におけるレコードプレーヤの演奏状態の検出手段は技術的に自明なものであれば、引用例には本願発明における検出手段は記載されているものとみなすことができる旨の原告の主張は、本願発明における検出手段の実施態様と引用考案における検出手段の具体的構成とを対比して、引用例に本願発明における検出手段が記載されているか否かを判断すべきであることを前提とするものであつて、その前提自体失当であること前説示のとおりであるから、右主張は採用することができない。

以上のとおりであつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

テープレコーダ用駆動制御機構の制御によつて、テープ状記録媒体がこれにトランスジユーサにより情報が記録され得る状態で定速移送されている状態の定速移送モードと、上記テープ状記録媒体の移送が停止されている状態の停止モードとを少くとも採り得る様になされたテープレコーダ機構と、円盤レコーダ用駆動制御機構の制御によつて、円盤状記録媒体を定速回転せしめている状態でこれに記録せる情報をトランスジユーサにて再生している状態の再生モードと、上記円盤状記録媒体に記録せる情報を上記トランスジユーサにて再生していない状態の非再生モードとを少くとも採り得る様になされた円盤レコーダ機構と、上記テープレコーダ機構が定速移送モードを採り且上記円盤レコーダ機構が再生モードを採つている状態に於て上記円盤レコーダ機構側のトランスジユーサより再生して得られる情報を上記テープレコーダ機構側のトランスジユーサに供給する様になされた電気回路とを少くとも具備する情報再生―記録装置に於て、上記円盤レコーダ機構側に上記円盤レコーダ機構が上記非再生モードを採つている状態より上記再生モードに転換されることとなりたる場合この事を表わす検出情報を得る手段を設け、上記電気回路が上記円盤レコーダ機構側のトランスジユーサより再生して得られる情報を上記テープレコーダ機構側のトランスジユーサに供給する様になされた状態で、該手段より検出情報が得られれば、当該検出情報に基き上記停止モードを採つている状態の上記テープレコーダ機構を上記定速移送モードに自動的に転換せしめ、上記円盤レコーダ機構側のトランスジユーサより再生して得られる情報を上記電気回路を通じて上記テープレコーダ機構側の上記テープ状記録媒体上に上記テープレコーダ機構側のトランスジユーサにより自動的に記録する様になされた事を特徴とする情報再生―記録装置。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

(以下省略)

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