大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)33号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

(一) 成立に争いのない甲第六号証によると、第一引用例には、「血液が管に入ると、ガラス製微粒子が懸濁液となり、早く凝固するように血液とより広い表面積で接触するようにしている。ほとんど他の真空にした管では、凝固が三〇分かかるのに比べて、コルバツク管内では、事実上一五分以内で完全である。」(三六頁五〇行―五九行)との記載及び「ゲルの上に多量の凝固活性剤―ガラス製微粒子の入つたプラスチツク製の、上方が開いたカツプ型の小道具が載つている。」(同二七行―三二行)との記載があり、これらの記載からすれば、同引用例において凝血促進材として使用されるガラス製粒子の大きさは、そのガラス粒子の入つている管に血液が注入されただけで懸濁液の状態になる程度のものであることが認められる。

また、成立に争いのない甲第七号証によると、第二引用例には、石英、鱗珪石、クリストバル石、ガラス状シリカ及びカオリンは、いずれも優れた活性物質であり、これらは顆粒、粉末又は懸濁液として使用されるとの趣旨の記載(二四九頁の序文中)があり、また、その二五〇頁に掲記された表1には、凝血促進材として粒子直径が一三五ミクロン、三九ミクロン、一一・二ミクロン及び〇・五三ミクロンの各ガラス状シリカ粒子を、前二者は粉末として、後二者は懸濁液として用いた例が示されている。

そして、当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明(1)における接触促進粒子は、懸濁が持続するよう〇・四ミクロンないし二〇ミクロンの範囲の寸法と規定されており、この値は、前記第二引用例に記載の〇・五三ミクロン及び一一・二ミクロンのものを包含していることが明らかである(このことは原告も争つていない。)

(二) 原告は、第二引用例は従来技術による攪拌を要する方法に係るため、攪拌を要しない本願発明における接触促進粒子の粒径を採用する基準を何ら示唆していないと主張する。

なるほど、前掲甲第七号証によると、第二引用例に示された諸種の例では、いずれも攪拌を行つているものと認められる。しかし、同号証によれば、第二引用例にはシリカ粒子の粒径及び表面積と血液凝固促進活性との関係についての実験結果が記載されており、前記(一)で認定したところからも明らかなように、右実験にはさまざまな大きさのシリカ粒子が用いられ、従つてこれらを同一の条件で取り扱う必要があるために攪拌を行つているものと解される。そして、後記2に詳述するとおり、本願出願当時血液を凝固させ、血清を他のものと分離する方法において、常に攪拌が必要不可欠のものとされていたわけでなく、攪拌を行わない方法も存在していたのである。従つて、第二引用例における攪拌は、ここで行われた実験の特殊性に基づくものであり、このことから、同引用例が血清を他のものと分離する方法において常に攪拌を必要とする技術に係るものと速断することはできない。

そうすると取消事由(1)の主張は採用できない。

2 取消事由(2)について

(一) 第一引用例において、凝血促進材として使用されるガラス製微粒子は、これが入つている管に血液が注入されるだけで懸濁状態になるものであることは、既に認定したとおりである。そうであれば、この場合に特に攪拌を行わなくともガラス製微粒子は血液中に分散して血液凝固促進効果を発揮するものと解される。蓋し、血液を凝固させて血清を他のものと分離する方法において攪拌を行う目的は、血液を凝固促進材としてのガラス等に可及的に均等に接触させることに外ならないと認めるのを相当とするところ、右促進材が粒状を呈しかつ所定血液中に懸濁状態で存在するときには、殊更に攪拌を行わなくとも右の目的は達せられることは明らかであるからである。

また、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によると、「臨床検査法提要(一九六一年改訂第二〇版)」Ⅶ―二頁には、血液から血清を分離する方法において、血液を遠心管に採り、攪拌をせずに放置して凝固させ、これを遠心分離する方法が記載されていることが認められ、また、成立に争いのない乙第二号証の一ないし三によると、実用新案登録願四七―七七一三三号明細書(昭和四九年三月二九日公開)には、凝血促進用固形材として粒状ではなくグラスウールを用いたものについてではあるが、攪拌を行わない例が記載されていることが認められる。

以上述べたところを併せ考えると、本願出願当時血液を凝固させ血清を他の物と分離する際に、これを攪拌する方法のほかに攪拌しない方法も共に存在していたのであり、また、第一引用例に記載の血液分離方法も特段に攪拌を行う必要のないものと解すべきである。

(二) 原告は、攪拌を行わない従来法は、原初的方法であり、これを改良したのが攪拌をする従来法である旨主張する。右主張の趣旨は、必ずしも明らかでないが、かつて攪拌を行わない方法があつたが、その後この方法が全く顧みられなくなり、本願出願当時においては攪拌を行う方法のみが存在していたというのであれば、それは前述したところに照らして誤りというほかはない。もつとも、成立に争のない甲第八号証には原告の主張するとおりの記載のあることが認められるが、これに示された血液凝固促進材であるガラス球の粒径は、八ミリメートルという大きさのものであつて、本願発明及び第一引用例の場合に比して著しく大きいものであることからすれば、攪拌を行うのはむしろ当然のことであるから、右甲号証の記載は前認定を左右しない。また、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によると、本願明細書には、原告がこの点に関連して主張するような記載のあることが認められるが、右明細書の記載を検討しても、この記載内容は前認定に反するものとは解されず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、取消事由(2)の主張も採用できない。

3 取消事由(3)について

前記2において明らかなとおり、第一引用例に記載の方法も、攪拌を行わずして血液と接触促進粒子との良好な接触を行うことができるものであるから、本願発明における攪拌(揺動)を解消した効果は第一引用例のものにおいても奏しうるものであつて、本願発明に特有なものということはできない。

また、前掲甲第二号証の一ないし三によると、本願発明において閉鎖装置を取り除くことなく行うことのできる効果について、原告が主張する事項が本願明細書に記載されていることが認められる。しかしながら、前掲甲第六号証によると、第一引用例においても、血液の採取、血清の分離工程を完了するまで管の栓を閉じた閉塞状態で行うことが記載されている(三六頁左欄一―五行)ことが認められ、このことからすると、右効果もまた本願発明に特有のものということはできない。

そうすると、取消事由(3)の主張も採用できない。

三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求を棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨(特許請求の範囲)は左のとおりである。

(1) 検査のために、全血を集め且つこれを凝固させてこの血液を血漿相と赤血球相とに遠心分離する方法において、

(a) 針を通すことができる閉塞体で閉鎖され、接触促進粒子と相を分離するゲル状物質とを有する真空容器を用意する段階を有し、前記ゲル状物質は血液の分離された軽い相と重い相との密度の中間の密度を有して該容器の遠心分離中において最初の位置から前記血液の分離された相の間の最終位置まで動くことが可能であり、前記接触促進粒子は、前記血液体が前記容器に供給されると該血液体中において懸濁し且つその懸濁が持続するように〇・四ミクロン乃至二〇ミクロンの範囲の寸法と十分な量とを有し、且つ該接触促進粒子は前記血液体中から血漿相を遠心分離するとき該血漿相からの沈降を容易にするために該血漿相より大きな密度を有し、更に

(b) 前記容器に血漿体を供給するために前記閉塞体を通して全血を注入して血液流を発生すると同時に前記接触促進粒子の大部分を前記血液体中にほぼ一様に最初の懸濁をなさしめる段階と、

(c) 前記血液中の凝固要因を前記容器の内面と前記懸濁している接触促進粒子の表面とで同時にしかも前記血液体中で均一に活性化せしめ、

(d) 前記全血液体中における前記接触促進粒子の最初の懸濁を維持し、ほぼ完全な血液の凝固が行われるように前記血液体中における凝固の促進を継続する段階とを有し、この段階は実質的に前記容器を攪拌することなく行われ、次に、

(e) 前記血液を、前記赤血球並びにフイブリン物質を含まず且つ前記接触促進粒子をも含まずに実質的に血漿で構成されるより軽い相と、実質的に赤血球とフイブリン物質並びに前記接触促進粒子とで構成されるより重い相とに分離し且つ前記ゲル状物質をその最初の位置から前記分離された相の最後の位置まで動かすように前記血液体を遠心分離する段階とを有する血液の遠心分離方法。

(2) 検査のために全血を集め且つこれを凝固させてこの血液血漿相と赤血球相とに遠心分離し且つ仕切するための装置において、全血を集めるための容器と、該容器に血液を注入するために針を通すことができるようになつた前記容器を閉鎖する閉鎖体と、分離された血漿相と赤血球相との比重の中間の比重を有して前記容器内に入れられ、該容器の遠心分離中に最初の位置から前記分離された相の間の最終位置まで動くことができる相間仕切用のゲル状物質と、前記集められた血液体中に血液凝固のための接触促進場所を形成するために該容器中に入れられた粉末装置とを備え、該粉末装置は接触促進材料から作られた複数個の粒子を有し、該粒子は前記血漿相の密度より大きな密度を有し且つ約〇・四ミクロン乃至二〇ミクロンの範囲の寸法を有して前記容器中に血液体が供給されるとこの粒子が該血液体中において懸濁し且つその懸濁が維持され、該血液体の最初の凝固段階とこれに続く継続した凝固段階とが行われて該血液を複数個の相に遠心分離するときに前記粒子が血漿相から沈降するようになつており、前記粉末装置は前記継続した凝固段階において攪拌なしに前記血液体中の安定した懸濁を維持可能であり、前記継続した凝固段階によつて、遠心分離が行われる前の実質的に完全な凝固が行われ且つ遠心分離後における血漿相が赤血球相を含まないようになし、遠心分離中における前記粉末装置の完全な沈降によつて、潜在的に形成されたフイブリン並びに懸濁する粉末装置を実質的に含まない血漿相が確実に分離されることができる血液の遠心分離装置。

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