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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)47号 判決

一 請求の原因一ないし三、四、1、(一)は当事者間に争いがない。

二 コンデンサの誘電正接(<省略>)が電源周波数fに依存し、したがつて2πfをもつて示される角周波数にも依存すること、誘電正接を定電圧電源により測定する場合その電源が測定用に設定した周波数が測定中に変化し、これに応じて角周波数も変化することがあることは、弁論の全趣旨に照らし当事者間に争いのないところである。

したがつて、周波数の変化値を測定したうえでコンデンサの誘電正接を測定すれば、変化した角周波数ωに応じた値が得られるが、成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の公開公報)同号証の二(本願明細書)によれば、本願発明では右のような周波数の変化値を測定することなく、しかも可能な限り、右変化に影響を受けることなく定電圧電源を用い予め測定用に設定された角周波数即ち本来の角周波数ω0に対応するコンデンサの誘電正接を求めることを課題とし、後記のようにその最終表示値からωを消去することを特徴としているものと認められる(なお、構成要件(7)中の「出力電圧の角周波数に依存せざる」とは、右に述べたように「角周波数の変化に依存せざる」の意に解すべきである。)。

しかして、原告の取消事由は、審決が本願発明と引用例記載の発明の構成要件を分説しこれを個別に対比して判断したため、右判断に対応し多岐にわたるが、要するに、本願発明が誘電正接を示す出力の最終表示値から角周波数ωを消去するための構成を採択し、その効果を得た点において引用例記載の発明と実質的に相違することを主張するにあると解せられる。そこで、以下において右の取消事由について検討する。

三 前記当事者間に争いのない事実及び前掲甲第二号証の二によれば、本願発明の構成及び効果について次の事実が認められる。

1 出力電圧e1の定電圧基準交流電源(以下「定電圧電源」という。)を、<イ>容量成分と抵抗成分とを並列等価回路で表した測定対象となるコンデンサに接続し、更に右コンデンサを第一の基準抵抗素子を帰還インピーダンス素子とする第一の帰還演算増幅器の入力端に接続して右定電圧電源から電流を通じ、その出力端において本願明細書(以下同じ)五頁の(5)式で示される出力電圧e4を得たうえ、実施例によれば右増幅器に反転増幅器を接続し、これにより六頁の(6)式で示される出力電圧e8を得、<ロ>第二の基準抵抗素子を帰還インピーダンスとする第二の帰還演算増幅器の入力端に接続して右定電圧電源からの電流を通じ、その出力端において六頁の(8)式で示される出力電圧e7を得(構成要件(1)、(2))、

2 <イ>前記1<イ>の反転増幅器の出力電圧e8を第一の乗算回路の一方の入力端10aに供給し、前記1<ロ>の第二の帰還演算増幅器の出力電圧e7を右乗算回路の他方の入力端10bに供給し、右乗算回路の出力端において右両電圧e8、e7の積を表す六頁ないし七頁の(9)式で示される出力電圧e9を得たうえ、これを直流分のみを実質的に通過せしめる第一の低域通過濾波器に供給し、その出力端において七頁の(10)式で示される角周波数ωが消去された出力電圧e11を得(構成要件(3)、(4))、<ロ>定電圧電源の出力電圧e1を第二の乗算回路の一方の入力端15bに供給し、前記1<イ>の反転増幅器の出力電圧e8を右乗算回路の他方の入力端15aに供給し、右乗算回路の出力端において両電圧e1、e8の積を表す七頁の(11)式で示される出力電圧e14を得たうえ、これを直流分のみを実質的に通過せしめる第二の低域通過濾波器に供給し、その出力端において八頁の(12)式で得られる角周波数ωが消去された出力電圧e16を得(構成要件(5)、(6))、

3 前記2<ロ>で得られた出力電圧e16を同<イ>で得られた出力電圧e11で除し(実施例によれば、右各電圧はデジタル電圧計13の入力電圧端子12a、参照電圧端子12bに供給され、右電圧計により右除算を行う。)、八頁の(13)式及び九頁の(14)式で示される表示値NDを得る(構成要件(7)・(8))。

4 前記3の表示値NDからはωが消去されており、(14)式中の<省略>はすべて定数であるから、右数値を定電圧電源の出力電圧e1の本来の角周波数ω0の逆数、即ち<省略>となるよう右式中に含まれる各定数を予め選定しておけば、九頁の(16)式が示す<省略>なる関係が導かれる。右式中gxはコンダクタンスの値でありCXは容量の値であるから、右式は当事者間に争いのない請求の原因四、1、(一)中の並列回路で表されるコンデンサの誘電正接G/ωcと同じである。

したがつて、定電圧電源の出力電圧θ1の本来の角周波数ω0が測定中変化してωとなつたとしても、右(16)式の右辺からωが消去されているため、式自体の計算からは変化要素を含むωに依存しない形での角周波数ω0における被測定コンデンサの誘電正接を示すものとして、最終表示値NDを得ることができる。(但し、本願発明において誘電正接を示す最終表示値の計算式からωが消去されるものの、後に述べるように右式中に含まれるgx、CXもωに依存するから、全くωに依存しない誘電正接の値が得られるものではない。)。

四 前記当事者間に争いのない事実及び成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、引用例記載の発明は、定電流電源を用いて審決摘示の(イ)ないし(ニ)の構成により容量成分と抵抗成分との直列回路で表したコンデンサの誘電正接を測定しようとするもので、実数成分(抵抗成分)に対応した直流電圧Erを虚数成分(容量成分)に対応した直流電圧Ecで除した分圧比<省略>(a、bは定数、CXは容量、Rxは抵抗)(二頁左欄の(6)式)を得るものであり(実施例によれば可分変圧器の刷子の位置から読み取る。)、右式中のωCXRxは当事者間に争いのない請求の原因四、1、(一)中の直列回路で表されるコンデンサの誘電正接を示すものであるから、K1を知ることによつて、コンデンサの誘電正接を測定するものであることが認められる。この事実によれば、右式のK1の右辺にはコンデンサの本来の角周波数が変化した数値として表されているωが消去されることなく残存しているから、本願発明と対比した場合引用例記載の発明によつては電源の本来の角周波数に対応するコンデンサの誘電正接を正確に測定することはできない。

五1 前記三及び四に述べたところによれば、引用例記載の発明には、本願発明が課題とする可能な限り角周波数の変化に依存しない形で誘電正接を測定するという技術思想はなく、後者がその最終表示値からωを消去し得たという意味において、前者が後者の構成要件(7)(8)の「電源よりの出力電圧の角周波数に依存せざる上記被測定容量素子の誘電正接を表わす出力を得る様にしたことを特徴とする容量素子の誘電正接測定方式」の構成及びそれに伴う効果を備えたものということができないことは明らかである。

2 なるほど審決が指摘するように、両発明の構成要件を分説し、個別的に対比した場合その間に類似点があり、その差異は一見設計事項のようにみられるものもないではない。しかし、前記のように、本願発明は最終表示値を示す式からωを消去する目的で、測定用電源として定電圧電源を用い、右電源及びコンデンサに各種の機器を接続する構成を採択することにより、すなわち各構成要件の組合せにより、その目的を達したものであるから、その構成要件を分説し、かかる目的を有しない引用例記載の発明の構成要件と個別的に対比しただけで両者を同一視した審決の判断は誤りであるといわなければならない。

六1 被告は本願考案により測定された誘電正接は実際の誘電正接の値とは乖離している旨主張するが、前記のとおり本願発明は電源が測定用に設定した本来の角周波数に対応する誘電正接の測定に関するものであるから、被告の右主張は採用しがたい。

また、被告は本願発明が本来の角周波数の変化に依存しない測定に関するものであることについては出願当初の明細書(甲第二号証の一)に記載がない旨主張するが、審決はその後の補正に係る本願明細書(甲第二号証の二)により本願発明の要旨を認定しその新規性を判断していることが明らかであるから右主張自体意味がないことに帰する(のみならず、両明細書の(14)、(15)、(16)の各式を対比すれば、両者ともωを消去しているから、出願当初の明細書にも右の点の記載はあるものと認めて差支えない。)。

2 もつとも、本願発明において誘電正接を示す最終表示値NDの右辺に含まれるgx(コンダクタンスの値)及びCX(容量の値)も周波数、したがつて角周波数に依存するものであることについては当事者間に争いがないから、被告主張のように、本願発明において、最終表示値を示す式からωを消去しても、角周波数の変化に依存する要素を完全に払拭したことにはならない。しかし、両発明により測定された誘電正接を示す最終表示値を対比した場合、本願発明においてはωが消去されその分だけ角周波数の変化に依存する不確定要素を含まないことになり、この点において引用例記載の発明によるよりもより正確な本来の角周波数における誘電正接を得ることができるのである。しかも、CXの角周波数の依存度は成立に争いのない乙第八号証の一により認められるものの、gxのそれについてはこれを認めるに足りる証拠はなく、結局、本願発明における最終表示値を示す右辺のgx/CXのωに対する具体的依存度は不明というほかない。

しかして、前記のような構成及び効果上の差異が認められる両発明について、被告は、右差異にもかかわらずなおgx及びCXのωに対する依存度を理由に両発明が実質的に同一であると主張するのであるが、この点について立証をしない以上、被告の右主張を採用することはできず、右の点を理由として両発明が実質的に同一であると認定することは困難である。

七 よつて、審決の取消を求める本訴請求を正当として認容する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

(1) 定電圧基準交流電源を被測定容量素子を通じて出力端及び入力端間に第一の基準抵抗素子を帰還用インピーダンス素子として接続せる第一の帰還演算増巾器の入力端に接続して上記定電圧基準交流電源より上記被測定容量素子を通じて上記第一の帰還演算増巾器の入力端側に向つての電流を流す様になすと共に(2)上記定電圧基準交流電源を第二の基準抵抗素子を通じて出力端及び入力端間に基準容量素子を帰還用インピーダンス素子として接続せる第二の帰還演算幅巾器の入力端に接続して上記定電圧基準交流電源より上記第二の基準抵抗素子を通じて上記第二の帰還演算増巾器の入力端側に向つての電流を流す様になし、(3)上記第一及び第二の帰還演算増巾器の出力電圧をそれ等の積を表わしてなる出力電圧が得べく第一の乗算回路に供給し、(4)該第一の乗算回路の出力電圧を直流分のみを実質的に通過せしめる第一の低域通過濾波器に供給し、(5)上記定電圧基準交流電源よりの出力電圧と上記第一の帰還演算増巾器の出力電圧とそれ等の積を表わしてなる出力電圧が得られるべく第二の乗算回路に供給し、(6)該第二の乗算回路の出力電圧を直流分のみを実質的に通過せしめる第二の低域通過濾波器に供給し、(7)上記第二の低域通過濾波器の出力電圧を上記第一の低域通過濾波器の出力電圧にて除して上記定電圧基準交流電源よりの出力電圧の角周波数に依存せざる上記被測定容量素子の誘電正接を表わす出力を得る様にした事を特徴とする(8)容量素子の誘電正接測定方式(別紙図面(一)参照)。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙(一)

<省略>

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