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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)76号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本願第二発明と第一引用例及び第二引用例記載の技術との構成及び作用効果上の差異を看過した結果、本願第二発明をもつて第一引用例ないし第三引用例記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、原告の右主張は、理由がないものというべきである。

前記本願発明の要旨に成立に争いのない甲第五号証(本件公報)並びに第一〇号証(昭和五六年一月一二日付及び同年三月二六日付各手続補正書)を総合すると、(1)本願発明は、建築物、殊に木造建築物の内外壁などにモルタル塗り、タイル貼りなどを行う際の下地の施工方法及びこれらモルタル等の上塗層を固着保持するための下地板に関するものであるところ、一般に、モルタル塗り、タイル貼りなどの施工では、木質の木摺りに防水紙を貼り、その上に網状のラス材を釘などで部分的に固定し、その後、ラス材の内外側にモルタルを薄く塗つてこれを包み込み、更に、塗りを行つてモルタル仕上げあるいはタイル貼りを行う方法が採られてきたが、このようなモルタル仕上げ等を行う前の下地の準備においては、現場での多くの工程が必要であり、かつ、下地のセメントモルタルの硬化に日数がかかり、勢い最終仕上げまでの工期が長くなり、また、この種の下地は、木摺りとセメントモルタル下地とが防水紙によつて構造的に遮断されていて機械的強度が低く、更に、防水紙の防水性が十分でなく、木摺りが腐食しやすいところから、金属等の無機質板に突起や孔を設け、これを木摺りの上に貼り、防水紙やラスを用いずにセメントモルタル下地を塗つて下地を作ることが試みられたけれども、金属の耐腐蝕性、基板に設けられた孔からの水分の浸透等の問題があり、更にまた、下地塗りを現場施工するので、ほぼ従前の工期を要し、満足のいくものではなく、最近では、合板上に高分子物の溶液を塗布して溶剤を揮発させ、ポーラスな塗膜を形成し、これに直接上塗りを行う、工場生産し得る下地材も提案されているが、この種下地材にあつては、下地加工された基板合板の湿気による伸縮歪力が上塗りモルタル等の層の下地材の板継目上に集中し、上塗りに下地材の板継目に沿つたクラツクを発生せしめ、必ずしも満足し得るものではなかつたこと、(2)本願発明は、右の欠点を除去するためのモルタル下地の施工方法及びその施工に直接用いられる下地板を提供することを目的として、本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであること、(3)本願発明は、これを実施態様に基づき敷えんして説明すると、下地板の基板1の縁取り1aを含む表層にはラテツクスシーラーの含浸層2が設けられ、この含浸層2が形成された基板1上にはラテツクスセメントによる被膜層3が設けられ、この被膜層3の形成に当たつては凹凸4が設けられるものであつて、この下地板をモルタル塗りの施工に用いる場合には、下地板は、木造の柱、間柱、胴縁などの材5上に、直接、接着剤あるいは釘6などによつて固定され、隣接される下地板の板継目個所においては、縁取り1aにより形成されるV状溝内にラテツクスモルタルその他適宜のコーキング剤のような防水性及び弾力性に富み、かつ、接着力の強い目地剤7が充填されるので、合板、フアイバーボードなどの木質基板1の伸縮に耐える緩衝部が形成され、しかも、その上に貼られた寒冷沙のような目地テープ8あるいは目地剤中に混入された繊維等が基板1の伸縮により生ずる歪み力を分散するので、上塗層9にクラツクを発生させることがないという効果を奏し、また、シーラー含浸層、被膜層が共にゴム系ラテツクスからなるため、緊密に接着し、更に、防水性及び防振性を有する、層間剥離のない下地板ができ、更にまた、被膜層上のモルタルは、ステツプル状の凹凸により十分に保持され、上塗りモルタルが剥離することがなく、更には、下地板の継目個所において、前記のコーキング剤による目止めが容易かつ確実にできるので、雨水の浸透を完全に防止することができて雨仕舞が良好になるという効果をも奏するものであることが認められる。他方、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であることについて原告の明らかに争わない第一引用例に本件審決認定の技術事項が記載されていることは、原告の自認するところである。

そこで、以上の事実に基づき、本願第二発明と第一引用例記載の技術事項とを対比考察すると、両者の間には、本件審決認定のとおりの一致点及び相違点(<1>及び<2>)があることを認め得る(この点は、原告の明らかに争わないところである。)ところ、まず、相違点<1>について検討するに、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であることについて原告の明らかに争わない第二引用例に本件審決認定の技術事項が記載されていることは、原告の自認するところ、右記載の技術事項である、壁の下地板としても用いることのできる石膏ボードの表面の周縁を適宜の角度で縁取りする技術を本願第二発明のモルタル施工用の下地板に採用することは、当業者において格別困難なことではなく、また、これによる効果も予測し得る範囲内のものというべきであり、次に、相違点<2>について検討するに、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であることについて原告の明らかに争わない第三引用例に本件審決認定の技術事項が記載されていることは、原告の自認するところ、右記載のセメント粉とラテツクスの混合物は本願第二発明において用いるラテツクスセメントと認められるから、第一引用例記載の非加硫ゴムに代えて右のラテツクスセメントを用いることは、当業者が容易になし得ることというべきであり(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、したがつて、本願第二発明は、第一引用例ないし第三引用例記載の技術事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当である。原告は、第二引用例記載のものは、目地剤充填用の縁取りを形成してはいるが、基板の表面にラテツクスシーラーによる含浸層を設け、この含浸層の表面に凹凸の被膜層を設ける構成を欠くものであるから、本願第二発明に転用し得べくもない旨主張するが、本件審決は、本願第二発明と第一引用例記載のものとを対比し、両者の相違点<1>について判断するに当たり、前示のような技術事項を開示するものとして第二引用例を引用したものであつて、原告主張のような構成を開示するものとしてこれを引用したものとは認められないから、原告の右主張は、本件審決の認定判断しない事項についてその不当をいうものにすぎず、採用することができない。また、原告は、第二引用例記載のものは、塗装用のものであつて、本願第二発明とは使用目的を異にするものであるから、本願第二発明に転用し得べくもない旨主張するが、成立に争いのない甲第八号証の一ないし八(第二引用例)によれば、第二引用例記載の石膏ボードは、石膏ボードプラスターの塗下地として使用されるものであつて、この石膏ボード下地板を継いで連続下地層を構成し、その上に継ぎ目のない一枚壁を形成するものであることが認められるから、たとい、第二引用例記載の石膏ボードが塗装用であるとしても、その使用目的は本願第二発明と基本的には同一であると認められ、しかも、本願発明に関する前認定の事実によると、本願第二発明は、基板合板の湿気による伸縮歪力が上塗りモルタル等の下地材の板継目上に集中し、上塗りに下地材の板継目に沿つてクラツクが発生するのを防止することを目的として、下地材の板継目個所に目地剤を充填すべきV状溝を形成するため、基板の周縁に縁取りを設けたものと認められるところ、前掲甲第八号証の一ないし八(第二引用例)によれば、第二引用例には、石膏プラスター施工に際しては、目地部分の亀裂防止のための処置を講じなければならないこと、石膏ボードの表面周縁を適度の角度で縁取りし、石膏ボードの接合部に目地剤に相当するジヨイントセメント等を充填すべきV状溝を形成する技術が記載されていることが認められるから、第一引用例記載の下地材の接合部に発生するクラツクを防止するために、第一引用例記載のものに第二引用例記載の右技術を適用して下地材の周縁に縁取りを設け、目地剤を充填すべきV状溝を形成することは、当業者にとつて格別困難なこととは認められないから、原告の右主張は採用の限りではない。更に、原告は、本願第二発明は、下地板の基板の周縁に縁取りを行い、その縁取り部の対向したV状溝内にまで表面凹凸の被膜層を形成した点を特徴とするものであり、右の構成により、V状溝内に充填される目地剤が上塗りモルタルと一体となつて被膜層の凹凸面に楔状に食い込み、その結果、上塗りモルタルの伸縮及び剥離を防止するという効果を奏するのに対し、第二引用例記載のものは、本願第二発明の右のような構成を欠き、右のような効果を奏するものではないから、第一引用例記載のものに第二引用例記載のものを転用して本願第二発明の構成を採用することは容易であるというを得ない旨主張するので、審案するに、本願発明に関する前認定の事実によると、本願第二発明は、原告主張のように、基板の縁取り部にも凹凸の被膜層を設ける構成を採用するものと認めることができるが、右の構成による作用効果は、下地板の板継目個所に基板の伸縮を吸収する目地剤を充填するためのV状溝を形成し、ここに目地剤を充填することによつて、基板の湿気による伸縮歪力が上塗りモルタル等の層の下地板の板継目上に集中し、上塗りに下地材の板継目に沿つたクラツクが発生することを防止することにあるものと認められ、右以外の原告主張の作用効果は認めることができないところ、他方、原告の自認に係る第二引用例の記載内容によると、第二引用例には、原告主張のとおり、縁取り部の対向したV状溝内に凹凸の被膜層を形成する構成の開示があるとは認められないけれども、原告の自認に係る第一引用例の記載内容によると、第一引用例には、塗膜層3の表面に起伏状の凹凸粗面5を呈するようにしてなるモルタル塗装用下地材が記載されているところであつて、本願第二発明と第一引用例記載のものとは、被膜層の表面に凹凸を形成するモルタル施工用下地板である点で一致し、本願第二発明では、基板の周縁に縁取りが形成されているのに対し、第一引用例のものでは、このような縁取りが形成されていない点で前示のとおり相違するが、第二引用例に石膏ボードの表面の周縁を適宜の角度で縁取りを行う技術が前示のとおり開示されている以上、これを第一引用例記載のモルタル施工用下地板に採用して本願第二発明の右の構成とすることは、当業者にとつては容易に想到し得るものというべきであり、また、本願第二発明の前記作用効果も、第二引用例記載の右技術を第一引用例記載のモルタル施工用下地板に採用した構成から予測し得る範囲内のものといわざるを得ず、したがつて、原告の右主張も採用することができない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 間柱、胴縁等に、合板、フアイバーボードなどの木質板を基板とし、該基板の表面に表面凹凸成形されたラテツクスセメントからなる塗膜層を有する下地板を接着剤、釘等により固着し、その隣接施工される下地板の継目個所に於いて縁取りにより成形されるV状溝内に、ラテツクスセメント、その他防水性と弾力性に富み、接着力の強い適宜の目地剤を充填し、更にその目地上を覆いしかも該目地両側の下地板表面も覆うよう架橋状に寒冷紗の如き目地テープを貼るか、或いは上記目地剤に寒冷紗に代えて繊維を混入した目地剤を充填し、斯くしてその下地板及び目地上に直にモルタル塗り等を施すことを可能とさせることを特徴とするモルタル下地の施工方法。

2 モルタル下地の施工に際し、間柱、胴縁等に接着剤、釘等により固着した後、それらの表面にモルタル等の上塗層を固着保持するために使用される下地板であつて、合板、フアイバーボードなどの木質板材を基板とし、この表面の周縁に30°~60°の縁取りを行なつた基板の少なくとも表層にラテツクスシーラーによる含浸層を設け、この含浸層の設けられた基板の少なくとも表面に炭酸カルシウムなどの無機質骨材を含むラテツクスセメントによる被膜層を設けると共に、この被膜層の表面に凹凸を成形することを特徴とするモルタル施工用の下地板。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

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