東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)93号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本件発明と第二引用例記載の技術との相違点についての判断を誤つた結果、本件発明は第一引用例ないし第三引用例記載の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないとの誤つた結論を導くとともに、本件発明の明細書記載の事項についての認定判断を誤つた結果、本件発明は未完成のものではなく、また、明細書に記載不備はないとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、以下に説示するとおり、原告の右主張は、理由がないものというべきである。
1 本件発明の進歩性について
前記本件発明の要旨に成立に争いのない甲第一号証(本件公報)を総合すると、(1)本件発明は、写真植字機の表示装置に関するものであるところ、写真植字機の表示装置は、次のような事由による必要性から設けられるものであること、すなわち、種々の刊行物の組版を写真植字機で行う時、それをより正確ならしめるには、その印字過程において、組版体裁、字数詰、行数及び印字の進行状態等を正確に把握する必要があり、それを満足させるためには、印字されていく文字及び印字位置をじかに見ることができるようにすればよく、例えば、タイプライターであれば、印字されていく文字をじかに見ることができるから、印字中途においてその進行状態を正確に把握することができるが、写真植字機では、選択した文字を光源で照射し、主レンズ、シヤツター等を経て、結像面に置かれる感光物上に結像させるのであるから、後に適当な現像処理を施さなければ可視像とすることができず、文字が潜像として感光物に施された時点においては、文字が感光物上のどの部分にどのように印字されているのか分からないこと、そこで、組版進行状態、組版体裁、字詰数及び行数等を把握しながら正確な印字組版を行うには、感光物上に施される潜像の位置を表示する必要、つまり、表示装置を設ける必要が生じること、そして、この表示装置は、見やすいものであること、反復使用が可能なものであること、耐久性が大であること、及びコストが低廉であることが望ましいこと、(2)このような要求に対して、従来の装置は、点字装置を表示板の前面に配置して構成していたが、点字装置で表示板に記された印字位置が点字装置の陰に隠れてしまい、印字状態を把握するのにも支障を来すというのが現状であつたこと、特に、端物組版を行う場合、印字状態やこれから印字しようとする文字記号の位置を表示板から確認することができないということは、致命的な欠陥としてその改善が待たれていたこと、(3)右のような問題を解決したものとして、実公昭三七―一四七二七号実用新案公報(第一引用例)記載の技術が知られているが、この技術は、薄鋼板又は透明状の合成樹脂板で表示板を構成し、その裏面より表示器で表示するようにしたものであり、この裏面表示によつて従来の問題点の多くは解決されたものの、新たな問題、すなわち、裏面表示をするために表示板の材質及び形状をどのようにするか、また、表示板裏面に表示されるインキを反復使用のためにどのようにして拭き取るか、更に、透明状としたことによつて表示板後方にある各種装置が透視できてしまい表示したインキの確認に邪魔になる等の問題が提起されることになつたこと、(4)本件発明は、このような問題点を解決した裏面表示による表示装置の提供を目的ないし課題として、本件発明の要旨(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成し、オペレーターは、印字位置表示及び次回の印字位置を示す点字子のみを表示板を通して鮮明に見ることができ、また、点字子以外の装置等は、ボケてしまい、はつきり見えないので、表示板を見る時の邪魔にならず、したがつて、組版体裁、字詰数、行数及び印字の進行状態等を容易に確認することができ、更に、表示板裏面をマツト面とし、印字位置表示のインキをこの面を表示面として直接付着させても、インキの拭取りは容易であり、しかも、反復使用に耐えられ、なお、表示板は、板状かつ開閉自在としてあるので、付着したインキの拭取時に便利であり、なお更に、耐久性が大で、コストも低廉である等の顕著な作用効果を奏するものであることが認められる。他方、本件発明の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であることについて原告の明らかに争わない第一引用例ないし第三引用例に、それぞれ本件審決認定の技術事項の記載があること、並びに本件発明と第二引用例記載の技術との一致点及び相違点が本件審決の認定のとおりであることは、原告の認めるところ、原告は、本件審決認定の相違点<2>及び<3>の点につきその判断を争うから、この点について検討することとする。(1)相違点<2>について、本件発明は、表示板が写真植字機の本体に蝶番などで開閉自在に設置されている点において第二引用例記載の技術と相違するものであるところ、平板状のものを本体に蝶番等で開閉自在に取り付けること自体は、慣用技術であると認められる。しかしながら、本件発明の蝶番等を用いる構成要素は、写真植字機の表示装置という特殊の技術分野において、表示板を写真植字機の本体に開閉自在に設置するために採用したものであり、これにより、表示板が開閉自在であるから付着したインキの拭取りが便利であるという格別の効果を奏することは、前認定のとおりであるところ、前示第一引用例ないし第三引用例の記載内容によると、右の各引用例には、右技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があるとは認められず、この事実に、前示本件発明の要旨から明らかなとおり、本件発明は、右構成要素とその余の構成要素との結合からなるもので、これにより前認定のとおりの顕著な作用効果を奏するものであること、並びにその作用効果が右の各引用例の前示記載内容に徴し、右各引用例から予測し得るものと認められないことを総合参酌すれば、本件発明の相違点<2>の構成要素が右の各引用例から容易に想到し得るものということはできない。(3)相違点<3>について 本件発明は、その表示板が、印字位置と点字子のみが鮮明で、後方のその他の装置はボケて見え、かつ、付着したインキが拭き取れる粒子でその表面又は裏面に凹凸を施したマツト面である点において第二引用例記載の技術と相違するものであるところ、スリガラスのように凹凸面を有する半透明板が存することは周知のことであると認められる。しかしながら、本件発明の右表示板は、右のような凸凹面の粒子を特定の大きさとした具体的な構造を有するものであり、このような構造を有することにより、オペレーターは、印字位置表示及び次回の印字位置を示す点字子のみを表示板を通して鮮明に見ることができ、また、点字子以外の装置等は、ボケてしまい、はつきり見えないので、表示板を見る時の邪魔にならず、したがつて、組版体裁、字詰数、行数及び印字の進行状態等を容易に確認することができ、更に、印字位置表示のインキを直接付着させても、インキの拭取りは容易であり、しかも、反復使用に耐え得るという、従来技術にない顕著な作用効果を奏するものであることは、前認定のとおりであるところ、前示第一引用例の記載内容によると、第一引用例には、写真植字機の表示板に半透明板を用いる技術事項の開示があるものと認められ、この半透明板にスリガラスのような凹凸面を有するものが含まれるとしても、前示具体的な構造の表示板を用い、これにより、前示顕著な作用効果を奏する本件発明の技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があるとは認められず、また、前示第三引用例の記載内容によると、第三引用例には、ピンスポツトが照明器具、建築材料、家具調度品、工業部品、看板標識、美術工芸品から日用雑貨に至るまで生活のあらゆる分野に使用されている旨記載されているところ、たとい、右のピンスポツトが、凹凸面を有するものであり、しかも、右のように種々の分野で使用されているものであるとしても、右記載をもつて前示本件発明の写真植字機の表示板の構造及び作用効果に関する技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があるとは認められない。してみると、第一引用例及び第三引用例記載の技術から本件発明の相違点<3>の構成を容易に想到することができるともいうを得ない。以上によれば、本件発明は、右の各引用例記載の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。原告は、本件発明の表示板が写真植字機の本体に蝶番などで開閉自在に設置してある点は、公知の確立された慣用技術であり、第一引用例ないし第三引用例のこの点に関する記載の有無とは関係のないことである旨主張するところ、平板状のものを本体に蝶番などで開閉自在に取り付けること自体が慣用技術であると認められることは、前説示のとおりであるが、本件発明において表示板を写真植字機の本体に蝶番などで開閉自在に設置した構成は、写真植字機の表示装置という特殊の分野において採用したものであり、これにより表示板に付着したインキの拭取りを容易にする等の作用効果並びに他の構成と相まつての前示顕著な作用効果を奏することを目的とするものであることは前認定のとおりであるところ、原告が写真植字機におけるこの点の慣用技術として挙示する成立に争いのない甲第一七号証ないし第二九号証に示されたものは、写真植字機の表示装置ではなく、そこに蓋板等を蝶番などで開閉自在に取り付けたものが示されているにしても、その構成を利用するに当たつての技術目的は本件発明とは全く異なるものと認められるから、右甲号各証に示されているものは、本件発明の右構成とは技術的思想を異にするものというべく、したがつて、右甲号各証は本件発明の叙上構成についての慣用技術を示す証拠となし難く、他に本件発明のこの点の構成が慣用技術であることを認めしめるに足りる証拠はない。それゆえ、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、拒絶理由通知書(甲第三号証)及び拒絶査定(甲第六号証)において、本件発明の第二引用例記載の技術との相違点<2>の構成である、表示板が写真植字機の本体に蝶番などで開閉自在に設置してある点が問題とされなかつたということは、右構成が公知の慣用技術であり、本件発明の進歩性を論ずる根拠となり得ないことを物語るものである旨主張するが、たとい、拒絶理由通知書(甲第三号証)及び拒絶査定(甲第六号証)において本件発明の右構成が問題とされなかつたとしても、そのことは、必ずしも本件発明の右構成が慣用技術であることを意味するものでないことはいうまでもないところ、かえつて、右構成が慣用技術であるというを得ないことは前説示のとおりであるから、原告の右主張も、採用の限りでない。更に、原告は、本件発明にいう「写真植字機の本体に蝶番などで開閉自在に設置した平板状の表示板」の意味するところは、開閉自在のため蝶番などを用いることにあり、写真植字機に平板状の表示板を取り付ける問題とその開閉自在のため蝶番などを用いることとは別であつて、従来から平板状のものを開閉自在にするため蝶番を使用することは、慣用技術にほかならず、本件発明は何ら進歩性を有しない旨主張するところ、写真植字機に平板状の表示板を取り付けることと表示板の開閉自在のため蝶番などを用いることとは、別個の事項と認められ、また、平板状のものを開閉自在にするため蝶番を使用することが慣用技術であることは、前認定のとおりであるが、本件発明におけるように写真植字機の本体に表示板を蝶番などで開閉自在に設置することが慣用技術であると認められないことは、前説示のとおりであるから、本件発明の右構成が慣用技術であることを前提として本件発明の進歩性を否定する原告の右主張は、その前提を欠くものであり、失当である。更にまた、原告は、本件発明で問題となるのは、表示板の構成による拭取りについての作用効果であるところ、蝶番は、単に表示板の開閉という作用効果を奏する公知公用のものであるから、写真植字機の表示板の開閉に蝶番を用いた場合だけ特殊な技術的思想であるとすべき理由はない旨主張するが、たとい、蝶番が表示板の開閉という作用効果を奏する公知公用のものであるとしても、そのこととそのようなものを写真植字機の表示装置という特殊の分野に用いることとは、おのずから別個の問題であつて、技術的思想においても異なるものであることは、前説示から明らかであり、したがつて、原告の右主張もまた、採用するに由ないものといわざるを得ない。次に、原告は、第三引用例に、公知のマツト面が本件発明の特許出願前から工業部品としてスリガラスと同一の利用分野を持ち、また、それが市販されており、更に、何人もそれを工業部品として容易に各種表示板にも使用し得る旨記載されている以上、それを写真植字機の表示面へ利用応用するのに特段の困難さを認めることはできず、本件発明と第二引用例記載の技術との相違点<3>の構成が第三引用例の右記載から容易に想到し得ることではないということはできない旨主張するが、第三引用例には、前認定のとおり記載されているにとどまり、その記載をもつて本件発明の写真植字機の表示板の構造及び作用効果に関する技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があると認め得ないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用するに値しないものというほかない。また、原告は、スリガラスは、本件発明の特許出願前から微細な小凹凸を有するマツト面として使用されており、従来の半透明板には当然マツト面の構成をもつ半透明板が含まれていることは、被告自身が審判請求理由補充書(甲第八号証)において認めていることからも明らかであつて、写真植字機の表示板に微細な凹凸からなるマツト面を有する半透明板を採用することは、当業者にとつて容易なことである旨主張するところ、スリガラスのように凹凸面を有する半透明板が存することは周知のことであると認められることは、前説示のとおりであるが、本件発明の表示板は、前認定のような具体的な構造を有するものであり、これにより、前認定のような写真植字機に特有の従来技術にない顕著な作用効果を奏するものであつて、第一引用例及び第三引用例にも本件発明の右技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があると認め得ないことは前説示のとおりであり、他にも本件発明の右技術的思想が周知の技術事項であることを認めるに足りる証拠はないから、写真植字機の表示板に本件発明のそれのような具体的な構造のものを採用することが当業者にとつて容易であるとは認められず、したがつて、原告の右主張も、採用することができない。更に、原告は、第三引用例記載の工業部品は、当然に半透明なスリガラスの用途に代わるべき物品を包含するものであり、写真植字機の表示板を排除しているとみるべきではない旨主張するが、前示第三引用例の記載内容に照らし、そこに記載されている工業部品の中に本件発明の写真植字機の表示板のような構造のものまで当然に含まれているものとは認められないから、原告の右主張も、採用の限りでない。更にまた、原告は、本件発明の明細書には、既存のマツト面の中から、いわゆる後方ボケ効果を有する、小凹凸を施したマツト面を選択して表示板としたとの記載はないところ、もしも、本件発明のマツト面が既存のマツト面からの単なる選択であるとするならば、そのことは、小凹凸表示板のマツト面の有する作用効果の技術的思想の開示という明細書の記載内容とは相矛盾するとともに、いわゆる後方ボケ効果は半透明板自体の有する作用効果にすぎないとした拒絶査定(甲第六号証)の拒絶理由を裏書きすることにほかならず、後方ボケ効果が顕著でないとすれば、本件発明は、発明と呼ぶことの許されないものである旨主張するが、本件発明の明細書に、既存のマツト面の中から、いわゆる後方ボケ効果を有する、小凹凸を施したマツト面を選択して表示板としたとの記載があるか否かにかかわらず、また、後方がボケて見えるという効果だけを取り出してみれば、半透明板自体の有する作用効果であるにすぎないとしても、本件発明は、従来の写真植字機の表示装置の問題点の解決を目的ないし課題として、写真植字機の表示板の構成として前認定の具体的な構造を採用し、これにより、前認定の写真植字機に特有の従来技術にない顕著な作用効果を奏するものであつて、第一引用例及び第三引用例にも本件発明の右技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があると認め得ないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張も、採用することができない。なお、原告は、甲第三〇号証(村上勲作成の昭和五八年六月二〇日付実験報告書)を挙示して、甲第三〇号証記載の実験の結果によると、本件発明の明細書記載のピンスポツト並びにウレトンPVC、パラグラス、フアインマツト及びスリガラスの間には、後方ボケ効果について顕著な差異がなく、このことは、本件発明が特許性を有しないことを物語るものである旨主張するが、前掲甲第一号証(本件公報)によると、本件発明は、実施例として、例えば、三菱レーヨン株式会社が販売しているピンスポツトなどの合成樹脂板を表示板として用いることが認められるところ、本件発明は、これを前認定の具体的な構造を有するものとして写真植字機の表示板に採用し、これにより、写真植字機に特有の従来技術にない顕著な作用効果を奏するものであつて、第一引用例及び第三引用例にも本件発明の右技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示があると認め得ないことは、前説示のとおりであるから、たとい、ピンスポツトがウレトンPVC、パラグラス、フアインマツト及びスリガラスと後方ボケ効果について顕著な差異がないとしても、そのことから直ちに本件発明の特許性が否定されるものと断定することはできず、したがつて、原告の右主張も、採用するに由ない。なおまた、原告は、本件審決は、本件発明が明細書記載の作用効果を奏するとする具体的理由付けを全くしないままに、右作用効果の存在を認定するという誤りをおかしている旨主張するが、本件発明の明細書には、前認定の本件発明の目的、構成及び作用効果が記載され、その構成により所期の作用効果を奏するものであることは前認定のとおりであるから、本件審決において右作用効果を奏する具体的理由付けをしなければならないものと解すべき理由はなく、右具体的理由付けをしなかつたこと自体は本件審決を違法たらしめるものではないから、原告の右主張も、採用するに値しない。なお更に、原告は、特許異議の申立てを排斥した決定(甲第一三号証)は後方ボケ効果の顕著性を問題にしている旨主張するが、たとい、右主張のとおりであるとしても、叙上の認定判断を左右するものではなく、原告の右主張は、採用するに由ないものといわざるを得ない。
2 本件発明の成立性及び明細書の記載不備の有無について
本件発明の内容は、1に認定したとおりであり、また、本件発明の明細書に右認定のとおりの事項が記載されていることも、1に認定したとおりであるところ、右認定の事実及び以下に説示するところによると、本件発明は、産業上利用することができる発明であり、また、本件発明の特許出願は、改正前の特許法第三六条第四項に規定する要件を満たすものと認めるのが相当である。この点に関し、原告は、本件発明は、顕著な後方ボケ効果を奏するものでなければならないところ、実際にはそのような作用効果を奏するものではない旨主張するが、本件発明は、写真植字機の表示板の構成として前認定の具体的な構造を採用し、これにより、前認定の写真植字機に特有の従来技術にない顕著な作用効果を奏するものであつて、第一引用例及び第三引用例にも本件発明の右技術的思想を示唆するに足りる技術事項の開示もなく、たとい、本件発明の表示板に用いられるピンスポツトがウレトンPVC、パラグラス、フアインマツト及びスリガラス等と後方ボケ効果について顕著な差異がないとしても、そのことから直ちに本件発明の特許性が否定されるものでないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用することができない。なお、原告は、拒絶査定(甲第六号証)及び特許異議の申立てを排斥した決定(甲第一三号証)の趣旨によると、本件発明の作用効果は顕著な後方ボケ効果を有するということでなければならない旨主張するが、たとい、右の拒絶査定及び特許異議の申立てを排斥した決定の趣旨が原告主張のとおりであるとしても、本件において本件発明の内容を認定判断するについて右趣旨とするところに拘束されるものと解すべき理由はないところ、本件発明の表示板に用いられるピンスポツトがウレトンPVC等と後方ボケ効果について顕著な差異がないとしても、そのことから直ちに本件発明の特許性が否定されるものでないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張も、採用の限りでない。また、原告は、本件発明の明細書には、ピツチnについて記載されているが、谷と谷との間隔があることが示されているだけで、後方ボケ作用を機能するピツチの大小が具体的に示されておらず、この凹凸の大きさが示されていない以上、本件発明は、実施することができないことはもちろん、反復継続性を有しないことも明らかである旨主張するが、前示本件発明の要旨によると、本件発明の表示板は、表示された印字位置と点字子のみが鮮明で後方のその他の装置はボケて見え、かつ、付着したインキが拭き取れる範囲の粒子でその表面あるいは裏面に凹凸を施してマツト面とした構成を有するものであるところ、前掲甲第一号証(本件公報)によれば、本件発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明の表示板の右構成は、具体的には、別紙図面(一)の第5図ないし第9図に図示するようなものであつて、マツト面の凹凸のピツチnが大きいものと小さいものとがあることが記載されているけれども、それ以上にピツチnの大きさについて記載されていないことが認められるが、右程度の記載があれば、当業者にとつて、前示構成を有する表示板を設置した本件発明の表示装置を実施することは適宜容易になし得ることと認められるから、原告の右主張も、採用するに由ない。更に、原告は、本件審決は、ピツチnの大きさの選定は、常識的に考えられるとともに、簡単なテストで確認することができるものである旨判断しているが、仮に、そうであるとすれば、本件発明は、従来の半透明板(特にスリガラス)を表示板に用いる技術によつて進歩性が否定されることとならざるを得ない旨主張するが、本件発明は、従来の半透明板(特にスリガラス)を表示板に用いる技術によつて進歩性が否定されるものでないことは、1の認定判断に照らし明らかであるところ、そのことと本件発明の明細書の発明の詳細な説明の項に当業者が容易に本件発明の実施をすることができる程度に、本件発明の目的、構成及び効果が記載されているかどうかに関する本件審決の右判断とは、原告が主張するような関係にはないから、本件発明に進歩性が認められるからといつて本件審決の右判断が誤つているということはできず、したがつて、原告の右主張も、採用することができない。更にまた、原告は、ピツチnが確定できず、また、顕著な後方ボケ効果が認められない以上、本件発明は、いわゆる未完成発明である旨主張するが、本件発明の要旨にいう構成を有する表示板を設置した本件発明の表示装置を実施することは当業者が容易になし得ること前説示のとおりであつて、本件発明が実施し得ないような具体性を欠くものとは認められないから、原告の右主張も、採用に値しない。なお、原告は、ピツチnの大きさの選定をすることが常識的に考えられることであるとすれば、そのような構成の本件発明は特許性を有しない旨主張するが、本件発明が特許性を有するものであることは、前説示のとおりであるところ、そのことと常識的に考えてピツチnの大きさを選定し本件発明を実施することとは、別個の事柄に属することであつて、原告のいうような関係にはないから、原告の右主張も、採用するに由ない。なおまた、原告は、ピツチnの大きさについて審理せず、理由も示さずに、本件発明の作用効果を認定した本件審決は、証拠によらないで事実を認定した誤りをおかすものである旨主張するが、ピツチnの大きさについて審理せず、また、理由を示さなくとも、本件発明の作用効果を認定することができることは、叙上の認定判断に照らし明らかであるから、原告の右主張も、採用の限りでない。なお更に、原告は、ピツチnの大きさに関連して本件発明は特許性を欠くものである旨るる主張するけれども、原告の右主張は、前説示に照らし理由がないことが明らかであり、採用するに由ないものといわざるを得ない。また、原告は、本件発明は、顕著な後方ボケ効果を有しないから、当然に特許性を欠くものである旨主張するが、右主張が理由がないことも、前説示に照らし明らかである。更に、原告は、甲第三一号証(村上勲作成の昭和六一年一一月一九日付実験報告書)を挙示して、甲第三一号証記載の実験結果によると、本件発明のインキの拭取容易の作用効果は決定的なものではない旨主張するが、本件発明の表示板は、前認定のような具体的な構造を有するものであり、これにより、前認定のような写真植字機に特有の従来技術にない顕著な作用効果を奏するものであるところ、成立に争いのない甲第三一号証及び弁論の全趣旨によれば、同号証は、実験に使用のインキの種類、実験方法等にかんがみ、必ずしも、原告主張の前記事実を立証する有利な資料とは認め難く、したがつて、原告の右主張も、採用することができない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註その一〕 本件発明の要旨は左のとおりである。
半透明の表示板の裏面を表示面として印字位置の表示をする写真植字機の表示装置において、写真植字機の本体に蝶番などで開閉自在に設置した平板状の前記表示板と、該表示板の裏面からはなれた位置に設置された印字毎に点字子で表示板に打点して印字位置を表示する点字装置と、点字装置の点字子位置が印字毎に感光物上の印字位置と対応して表示板との相対的位置を移動するよう縦・横の送り装置と関連ずけた移動機構とを有し、前記点字子は点字装置より突出ししかも表示板裏面と対向する位置に近接するよう位置ずけられ、前記表示板は表示された印字位置と前記点字子のみが鮮明で後方のその他の装置はボケて見え且つ付着したインキが拭きとれる範囲の粒子でその表面あるいは裏面に凹凸を施してマツト面として構成して成る事を特徴とする写真植字機における表示装置。(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
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(以下省略)