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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)77号 判決 1988年6月02日

控訴人(原告) 片岡利明

被控訴人(被告) 東京拘置所長 国

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決中、その主文一項を除き、控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人東京拘置所長が控訴人に対し、昭和五五年七月二六日なした、書籍「囚人組合の出現」の閲読不許可処分を取り消す。

3  被控訴人東京拘置所長が控訴人に対し、昭和五五年七月二六日なした、右書籍の校正刷り四〇枚の閲読不許可処分を取り消す。

4  被控訴人国は控訴人に対し、金五九万九、〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年六月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

5  控訴費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

6  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

主文同旨

第二主張、証拠

当事者双方の主張並びに証拠関係については、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

被控訴人らの主張する規律とは、被拘禁者が看守らの不当な命令にも従順に服従し、画一的で非人間的な処遇を甘受し、かかる処遇や現行の監獄制度を批判したり抗議することを一切許さないというものであつて、到底基本的人権を制限する合理的な根拠となり得るものではない。

控訴人が東京拘置所内でしたとされている受罰行為や規律違反行為にしても、これらはいずれも東京拘置所当局が被拘禁者に対し不法な処遇を強制し、これに抗議したり拒否したりした控訴人に対し、懲罰もしくは事実上の制裁を課したというものである。しかも、本件図書、新聞等の閲読不許可処分がなされた当時には、控訴人には東京拘置所当局の言うところの受罰行為や規律違反行為もなかつたのである。

二  被控訴人らの認否

控訴人の右主張は争う。

三  当審における証拠関係<省略>

理由

一  当審も、控訴人の被控訴人東京拘置所長に対する各閲読不許可処分取消請求は理由がないから、これを棄却すべきであり、控訴人の被控訴人国に対する損害賠償請求は金一〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年六月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから、これを棄却すべきであり、仮執行の宣言については相当でないのでこれを付さないこととすべきであると判断するが、その理由については、左に付加、訂正するほか、原判決がその理由中(但し、右各請求に関する部分)において説示するところと同一であるからこれを引用する。当審における新たな証拠調の結果によつても、引用にかかる原審の右認定判断を左右することはできない。

1  原判決五八枚目表一〇行目「証人小山登」の前に「原審(以下証人については特に区別しない限り原審とする。)」を加え、同七八枚目裏二行目「であることは」を「であることも」と、同八四枚目表一〇行目「拘置外」を「拘置所外」と各改める。

2  同八八枚目表七行目の次に、行をかえて次のとおり加える。

「 なお、控訴人は、被控訴人らのいう拘置所内の規律は不当なものであり、これに対する批判、抗議も一切許さないというのであるが、このようなことは基本的人権を損なうものであり、控訴人が東京拘置所当局のなした不当な処遇に抗議したことをもつて本件各処分の理由の一つとしたのは不当であるかのように主張し、当審における証人安島敏市、同冨塚信宏の各証言中には、「獄中者組合」「共同訴訟人の会」はともに拘置所内の処遇改善、被拘禁者の自立、正常な社会復帰に向けて協力し合うことを目的としたものであつて、物理的な意味での獄中者の解放、監獄の解体といつた過激な目標を掲げるものではない旨の供述が存するが、さきに認定した事実からして右供述はそのまま採用することはできず、仮にそのような穏健な考え方も一部存在したとしても、右各組織のメンバーもしくは賛同者が従来とつて来た多くの斗争手段は右各証言にあるような意図に基づくものとは到底みられないし、控訴人についても、控訴人の受罰行為や規律違反行為は、仮にその一部に拘置所内の処遇改善を目的としたものがあつたとしても、前記認定の事実に徴し、そのとつた方法が正当なものであつたとみることはできないから、右主張は結局採用の限りではない。

控訴人は、さらに本件各処分がなされた当時には受罰行為や規律違反行為はなかつた旨主張するが、さきに見たとおりこれまた肯認することができない。」

二  よつて、原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村修三 篠田省二 関野杜滋子)

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