東京高等裁判所 昭和60年(う)286号 判決
所論は,要するに,原判示第二の業務上過失傷害の事実につき,本件事故は野口美行運転の自動二輪車が法定の最高速度を30キロメートル毎時で進行したために発生したものであって,被告人は,普通乗用自動車を運転中,交差点において右方向約75.5メートルの地点に右自動二輪車を認め,これが制限速度40キロメートル毎時で進行してくるものと信頼して安全に右折できるものと判断し,次いで左方向を見て車両がないことを確認して右折進行したのである以上被告人には過失がないのに,被告人に自車が先に右折できるものと軽信し,左方道路を見て,その後の右二輪車の動静を注視しないで発進し,毎時約8キロメートルの速度で右折進行した過失がある旨を認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を加えて検討すると,原判決挙示の証拠によれば,原判示第二の事実を優に肯認することができる。すなわち,関係証拠によれば,交通整理の行われていない本件交差点において被告人車の進行してきた道路は幅員約3.1メートルであるのに対し野口美行の自動二輪車が進行してきた道路は中央線の設けられた優先道路であり,しかも,車道の幅員が約8メートルの明らかに広いものであって,被告人車は交差道路を進行する車両の進路妨害をしてはならないものであること,交差道路は事故現場の前後約300メートル間に視界を妨げるもののない直線道路であって,その指定最高速度は40キロメートル毎時であるが,これを30キロメートル超過して70キロメートル毎時の速度で進行する車両があることは予測できたこと,それにもかかわらず被告人は交差道路右方約75.5メートルの地点に交差点に向けて進行してくる野口美行運転の自動二輪車の前照灯を認めたがその速度に全く注意を払わずに,自車が先に右折できるものと軽信し,次に左を見て,その後右方を見ることなく発進して約8キロメートル毎時の速度で右折進行したこと,野口美行は約50メートル先に被告人車を認め,自車を先に通してくれるものと考えて約70キロメートル毎時の速度で進行したが約20メートルに接近して危険を感じ急制動の措置をとったが被告人車の右側後部に衝突して転倒し,原判示傷害を負ったことが認められる。右のような事実関係のもとにおいては,交通整理の行われていない交差点で優先道路に進入して右折進行しようとする自動車の運転者が右方約75.5メートルの地点に交差点に向けて進行してくる車両を認めたときは,同車が指定の最高速度を遵守するものと軽信することは許されず,同車の実際の速度等の進行状況等その動静を注視してその安全を確認したうえで発進して右折すべき注意義務を負うことは明らかである。