東京高等裁判所 昭和60年(く)187号 決定
被告人 永井啓之
〔抄 録〕
そこで記録を調査して検討すると、被告人は、(一)兇器準備集合、傷害致死被告事件、(二)建造物侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件、(三)銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件、(四)有線電気通信法違反、住居侵入、傷害被告事件について各別に勾留されているところ、右(一)の被告事件のうち傷害致死罪の法定刑は二年以上の有期懲役であるから、刑訴法八九条一号に該当し、これに関する保釈の請求がいわゆる権利保釈にあたらないことは明らかである。
また、右の(一)兇器準備集合、傷害致死被告事件は、全国反帝学生評議会連合(以下「反帝学評」という。)に所属する被告人が、多数の自派学生らとともに、いわゆる革マル派に所属する者らに対し共同して害を加える目的をもって、多数の鉄パイプ・角材・火災びん等を所持して集合した事案と、十数名の学生らと共謀のうえ、革マル派に属する二名の者に対し、こもごも鉄パイプでその身体を多数回にわたり殴打し、突く等の暴行を加え、右両名を全身にわたる打撲傷、裂創等の傷害に基因する外傷性ショックにより死亡させたという事案であり、(二)建造物侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件は、革命的労働者協会(以下「革労協」という。)の幹部である被告人が、革労協内部の反対派の文書宣伝活動を阻止するため、ほか数名と共謀のうえ、反対派が利用している印刷所の印刷機等を損壊する目的をもって、右印刷所に侵入し、同所において、印刷機二台のインクローラー部分等に生セメントを塗りつけたり、写植機一台のレンズ部分等に接着剤を塗りつけるなどして、それらの使用を不能ならしめ、もって数人共同して器物を損壊したという事案であり、(三)銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件は、被告人が、革マル派や革労協内部の反対派に属する者からの襲撃に備え、ほか一名の者と共謀のうえ、改造けん銃一丁及びけん銃用実包四発を所持したという事案であり、(四)有線電気通信法違反、住居侵入、傷害被告事件は、被告人が、革労協内部の反対派の幹部に対し暴力的制裁を加えるため、ほか一〇名くらいの者と共謀のうえ、まず警察への通報を防ぐため、右同人の居住するアパート周辺の電話線合計一五本及び公衆電話の受話器コード三本を切断して損壊し、もって付近一帯の有線電気通信を不能にして妨害し、次いで同人居住のアパートの居室に乱入し、同人の身体を鉄パイプ、ハンマーなどで多数回にわたり殴打するなどして同人に対し全治約二か月を要する傷害を負わせたという事案であって、いずれも革労協ないしはその学生組織である反帝学評の組織的活動の一環として犯されたとされるものであるところ、右各事案の内容に加えて、被告人が革労協の最高幹部の一人であること及び被告人が右各被告事件について捜査段階において黙秘し、公判段階で徹底的に争っていることなどを勘案すると、現在、公判の審理はすでに事実調べを終え、次回以後論告、弁論が行われる段階に達しているかの如くであるが、検察官側、被告人側の双方について、今後なお立証の余地が残されていない訳ではないから、現段階においてもなお、被告人を釈放すると、被告人が組織内における自己の影響力を行使し、自らあるいは組織を通じて、右組織に属する共犯者などの事件関係者に働きかけるなどして、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものと認められる。
従って、所論主張の刑訴法八九条三号、五号及び六号に該当する事由があるか否かについて検討するまでもなく、被告人に対していわゆる権利保釈は許されない。
また、本件各事案の罪質、態様、公判審理の経過その他記録に表れている諸般の事情に徴すると、裁量による保釈も適当とは認められず、また、本件各勾留が不当に長くなったものとも認められない。
以上の次第で、被告人に対して保釈を許可した原決定はいずれも失当であり、本件抗告は理由があるから、刑訴法四二六条二項により原決定をいずれも取り消し、本件保釈請求をいずれも却下することとし、主文のとおり決定する。
(柳瀬 阿蘇 中野)