大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1062号 判決

裁判官の行う裁判についても、国家賠償法の適用が当然に排除されるものではないが、裁判作用の目的・性質・機能及び裁判制度の仕組み等に照らして考えれば、たとえ裁判に何らかの瑕疵が存在したとしても、その瑕疵は当該裁判に対する上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正を図るのが原則であり、右瑕疵の存在により直ちに国家賠償法一条一項にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生じるものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情のあることを必要とするものと解すべきである。

法廷等の秩序維持に関する法律(以下「法秩法」という。)の制裁の裁判は、民主社会における法の権裁を確保するため、法廷等の秩序を維持し、裁判の威信を保持することを目的として、司法の運営を阻害し裁判の威信を傷つける行為に対し、簡易迅速な手続により制裁を科することとしたものであり、通常の争訟の裁判とは異なるところがあるけれども、同法の右目的並びに制裁の裁判に対する不服申立方法として抗告又は異議の申立て及び特別抗告の手続が設けられていること(同法五条一項、四項。なお、右抗告又は異議申立てに伴い原裁判所に再度の考案の機会が与えられる。同法五条二項、四項)から考えると、制裁の裁判に何らかの誤りがあったとしても、その誤りは同法の定める右不服申立ての手続内において、かつ、それによってのみこれを是正すべきものであり、他の裁判手続において右制裁の裁判の適否を何らの制限なく再審査するということは、制度の目的及び機能に鑑み、同法の予定していないところというべきである(特定の行為が制裁を科せられるべき行為に当たるか否かは、当該行為が行われた時期及び場所等における具体的な情況如何によるのであって、これを直接見聞しない他の裁判所が事後的に記録等によって判断することは相当でないというべきである。)。したがって、法秩法に基づく制裁の裁判についても、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって制裁を科したなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いて制裁権を行使したと認められるような特別の事情がない限り、その違法を主張して国家賠償を請求することは許されないものと解すべきである。

控訴人は、制裁の裁判については、手続が簡易迅速に行われるため誤判を防止できないうえ、事実誤認を抗告の理由とすることができず、かつ、再審の途も閉ざされているのであるから、事後的救済措置としての国家賠償請求については右の特別の事情を必要とすべきではないと主張する。確かに、法秩法に基づく制裁は適時適切に科せられ、かつ、速やかに執行されることによって初めてよくその目的を達成することができるものであり、手続の簡易迅速性は同法の基本的要請であるが(法廷等の秩序維持に関する規則三条参照)、他方、同法は、制裁の裁判をするについて必要があるときは、証人尋問その他の証拠調をし又は職権で本人の審問その他事実の調査をすることができるものとしているのであり(同法四条三項、同規則八条)、決して杜撰な制裁が行われることを容認しているわけではない。同法が、制裁の裁判に対する抗告又は異議申立ての理由を法令違反のみに限定し(五条一項、四項)、事実認定の不当を理由とする不服申立てを認めず、また、制裁の裁判に対する再審の制度を設けていないのは、制裁の対象となる行為が当該裁判官の面前その他直接知りうる場所で行われる明白な行為であるため、事実認定の当否や再審事由に当たるような事実の有無を問題とする余地が実際上ほとんどないことに加え、前記のように、制裁を科するかどうかは当該行為が行われた際の具体的情況如何によるものであり、これを他の裁判所が事後的に記録等によって判断することは困難であると考えられるからであり、原裁判所に広く再度の考案の余地が認められているのも右の趣旨に照応するものである。控訴人の主張は根拠がないというべきである。

(村岡 佐藤 塩谷)

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