東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1994号・昭60年(ネ)2921号 判決
(2) 容器本体及び蓋は被控訴人が用意することとし、被控訴人は、同年三月五日頃訴外会社にスチロールとOPSを用いた容器を一〇〇万個発注したこと(右の事実は当事者間に争いがない。)
(3) しかし、同年四月五日水野がスチロールとOPSの組合わせでは接着に安定性がないと言い出したため、急拠水野、被控訴人の担当者山内勝男工場長、訴外会社大岩根幹夫社長らが協議した結果、蓋の素材を塩化ビニールにシーランド加工をしたものに変更することとし、被控訴人代表者の了承を得たうえ、訴外会社では、西濃化学に発注していたOPSを断り、改めて国光オブラート株式会社から蓋を仕入れることとし、訴外会社では蓋への印刷及びシーランド加工をそれぞれ別の業者に発注したこと、しかし、蓋のみならず容器本体の製造も本件機械の納期には到底間に合わないことが明らかとなり、水野は勿論、山内も訴外会社の報告を受けてこれを知っていたこと、
(4) 一方、本件のごとき機械類の販売業者である控訴人は、本件機械の製造を東芝精機に同年四月二六日同社工場で検収することとして発注し、東芝精機では、本件売買契約の約旨に従い同月二〇日最終工程を終了し、製品を作出しうる程度に本件機械を完成し、容器を用いての検収を残すのみとなっていたこと、本件機械の性能を検査するには当該容器を用いて、容器本体をバケットに落し、蓋をして接着し、シールを貼り、日付を打つという一連の自動的作業を繰り返す必要があり、まず東芝精機の段階で本件機械を検収のうえこれを控訴人に引渡し、更に控訴人が被控訴人に納入したうえ、実際に水ようかんを充填して接着の度合い等を検査する検収に一週間から一〇日間位を要するとされており、検収終了までにこれらの手順を要することは同様の機械を多数使用して和菓子を製造している被控訴人側は当然に知っていたこと(被控訴人への本件機械納入時に検収を行うこと、それに一〇日間位を要することは、当事者間に争いがない。)、したがって、被控訴人側は、東芝精機の段階での本件機械検収に遅くとも被控訴人への納期の同年四月二七日の前日頃までには検収用容器を控訴人に供給すべきことを承知していたこと、容器本体及び蓋の材質、形状は被控訴人が特別に注文したものであり、本件機械のバケット等もこれに合うように製造されているから、他の容器で代替することは不可能であったこと、東芝精機としては、控訴人に対し債務の本旨に従った履行をするためには被控訴人の用意した容器を使って試運転をする必要があり、容器が到着すれば検収のうえ、同月二六日までに控訴人に引渡すことが可能であり、そこで、水野は同月二四日山内宛本件機械が完成し、履行の準備ができている旨電話したこと、しかし、容器の製造が遅れていることは前記のとおりであり、控訴人としては、容器が控訴人のもとに到着しないため、被控訴人への納期の同年四月二七日までに東芝精機において本件機械を検収し、引渡しを受けることすらできず、もとより被控訴人方に搬入することができないことが明らかであったこと、水野は同月二七日本件機械を被控訴人に納入せずに、大岩根らと協議したうえ、翌二八日大岩根が山内に対し容器の製造が遅れているため、同年五月一四日ならどうにか容器を納入することができるから本件機械と容器の納入を同日に変更してほしいと申し入れたところ、山内は上司と相談して回答する旨答えたこと、
(5) 被控訴人は、本件機械及び容器の納期を延期しては生水ようかんを同年五月の連休明けから六月中旬にかけて販売する当初の計画の実現が困難になると判断し、同年五月七日控訴人に対し本件機械の売買契約を解除する旨通知したこと(右契約解除の事実は当事者間に争いがない。)そして、同日訴外会社との容器の売買契約も解除したこと、
以上の事実が認められ、証人水野の証言、被控訴人代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して措信することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
もっとも、被控訴人は、蓋の材質の変更は条件附で認めたにすぎず、当時この条件は客観的に不能であったから被控訴人の承諾は無効であると主張し、被控訴人代表者はこれにそう供述をするが、にわかに措信し難く、他に条件附の承諾であることを認めるに足る証拠はない。また、被控訴人は容器完成の遅延の責任は控訴人にあると主張するが、もともと容器は被控訴人において用意することとし、被控訴人自ら発注したものであり、蓋の材質の変更も被控訴人が了承したうえ発注を変更しているのであるから、容器が本件機械の被控訴人への納期までに間に合わなかったことは被控訴人がその見通しを誤ったものにすぎず、控訴人の責めに帰すべき問題ではない。被控訴人は、水野が後になってOPSの蓋ではうまく接着できないと言い出した点を非難するが、被控訴人としては、その段階で本件企画を再検討し、当初の契約条件と異なるならば、本件売買契約を解除することも十分に可能であったと認められる。しかし、その際そのような措置に出ずに、蓋の材質の変更を承諾した以上、容器を用意すべき責任は被控訴人が負うべきことは明らかといわなければならない。
以上認定の事実によれば、被控訴人は、本件機械の性能に合致するように、容器を発注しているのであって、右容器が供給されない限り本件機械の性能を確認するための検収をすることができないことは明らかであり、被控訴人もこれらの事情を十分に知っていたとみるべきである。してみれば、被控訴人から控訴人に容器の供給があり、東芝精機での検収が終了してはじめて控訴人は被控訴人に対し債務の本旨に従った納入が可能となる本件においては、民法四九三条但し書の債務の履行につき債権者である被控訴人の行為を要する場合に該当すると解するのが相当であり、本件機械の被控訴人への納期である同年四月二七日までに容器が被控訴人から控訴人に供給されないことが明らかな状況のもとにおいて同月二四日水野が山内宛電話で本件機械が完成し、履行の準備ができたことを通知したことは、同条但し書の口頭による履行の提供に当たるというべきである。
(鈴木 時岡 宇佐見)