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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)213号 判決

そこで、右不出頭が控訴人の責めに帰することができない事由によるものであるか否かについて審案する。

1 民事執行法九〇条三項の立法趣旨は、配当異議訴訟の係属は係争部分の配当の実施を妨げるべき事由とされているところ、当事者主義及び口頭弁論主義を採る我が民事訴訟手続においては、口頭弁論期日における当事者の欠席は直接に訴訟の遅延をもたらすこととなるため、配当異議の訴えを提起した原告が最初の口頭弁論期日に出頭しない場合には、右不出頭が原告の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、原告において異議権を放棄したものとみなして訴えを却下すべきものとすることにより、配当異議訴訟の迅速な終結を図り、もって配当手続の完結の遅延を可及的に防止しようとするにある。

そうであるとすれば、民事執行法九〇条三項にいう「その責めに帰することができない事由により出頭しないとき」とは、不出頭が原告の故意又は過失によるものでないことを意味し、原告において実際に異議権を放棄する意思があったか否かを問わないものと解するのが相当である。したがって、最初の口頭弁論期日に欠席した原告がその欠席したことにつき無過失であると認められない場合には、実際には異議権を放棄する意思がないときであっても、民事執行法九〇条三項の適用に関する限り異議権を放棄したものとみなされるのであって、異議権を放棄する意思を有していなかったことを理由として同条項の適用を免れることができないのはもちろん、同条項にいう「その責めに帰することができない事由」の存否の判断に当たり、原告が実際に異議権を放棄する意思を有していたか否かというような事情を考慮にいれるべきものでもない。

また、当事者に訴訟代理人のある場合には、当事者のみならず、訴訟代理人についても「その責めに帰することができない事由」があったかどうかが判断されるべきものである。

2 右の見地から以下検討すると、≪証拠≫によると、控訴人は、弁護士高橋守雄及び同柳川昭二を訴訟代理人として本件配当異議訴訟を提起したが、控訴人側では、柳川弁護士が主任代理人として本件訴訟の追行に当たることとなっており、昭和五九年一二月二五日午前一〇時の原審における最初の口頭弁論期日には同弁護士が出廷する予定であったこと、柳川弁護士は、その前日の二四日早朝から館山市に出張し、別件の証人調べに立ち会ったほか、同事件の関係者と打合せを行い、同夜八時ごろ東京都内の自宅に帰着したが、当日は全国的に強い寒波に見舞われ、冷え込みが厳しかったので、同弁護士は午後から悪感を覚え、激しくせき込むようになり、右の症状は次第に悪化する一方で、帰宅後三九度近くの高熱を発し、翌二五日朝になっても下熱しなかったこと、そのため、同弁護士は急性咽頭気管支炎との診断の下に同日以降数日間臥床休養を余儀なくされたことが認められる。

右認定の事実によれば、柳川弁護士は、前日午後から発病した急病のため、原審における最初の口頭弁論期日に出頭することが不可能な状態にあったものと認められるけれども、同弁護士が本件訴訟につき主任代理人として訴訟追行の任に当たることは、いわば控訴人側の内部事情にすぎないから、配当異議訴訟の原告訴訟代理人たる立場にある同弁護士としては、自ら出廷することが不可能となった以上、電話その他適宜の方法により相訴訟代理人である高橋弁護士又は依頼者である控訴人代表者に対しその旨を連絡して同人らの出廷方を依頼し、万一同人らに差し支えのあるときは、所属の法律事務所又は控訴人から原審裁判所に対し期日変更の申立てをするよう依頼するなどの措置を講じ、もって、最初の口頭弁論期日における原告側の欠席という事態の発生を未然に防止すべき注意義務があったものというべきである。

しかるに、本件に現れた全証拠によっても、柳川弁護士において右に述べたような連絡、依頼等の措置を講じた形跡はなく、また、同月二五日朝の同弁護士の病状が、自ら又は家人等に命じて前記措置を講ずることすらできないほど重篤なものであったことをうかがわせる証拠も見当たらない。

3 以上の認定、判断によると、控訴人が原審における最初の口頭弁論期日に出頭しなかったことは、その訴訟代理人である柳川弁護士の前示注意義務違反に起因するものというほかはないから、右不出頭は控訴人の責めに帰することができない事由によるものとは言えないことが明らかである。

(近藤 三宅 林)

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