東京高等裁判所 昭和60年(ネ)2595号 判決 1986年1月22日
控訴人 高川英利
被控訴人 益子友貴恵
主文
原判決を取り消す。
被控訴人の申立てを棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の申立て
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二当事者の主張
一 被控訴人の申立ての理由
原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
二 控訴人の申立ての理由に対する認否
申立ての理由1、2の事実は認める。
三 控訴人の抗弁
控訴人は、原判決主文第一項記載の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)の本案訴訟として、昭和60年11月5日、東京地方裁判所に遺言無効確認等請求の訴え(同裁判所同年(ワ)第13325号)を提起した。
第三証拠〔略〕
理由
一 控訴人が、昭和58年8月11日、債権者控訴人、債務者被控訴人間の、東京地方裁判所昭和58年(ヨ)第5282号不動産仮処分申請事件において、本件仮処分決定を得たこと、同裁判所が、昭和58年9月29日、控訴人に対し、命令送達の日から14日以内に右仮処分の本案訴訟を提起すべき旨の命令を発し、この命令が同月30日控訴人に送達されたことは、当事者間に争いがない。
二 右争いのない事実と原本の存在及び成立に争いのない疎乙第1号証の1、成立に争いのない疎乙第2ないし第4号証によれば、次の事実が疎明される。
1 控訴人は、被控訴人を債務者として、東京地方裁判所に対し、東京都○○○区○○○×丁目×××番畑284平方メートル、同所×××番畑323平方メートルにつき仮処分を申請し、同裁判所は、昭和58年8月11日「債務者は、その所有名義の右土地の所有権の4分の1について、譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。」との趣旨の本件仮処分決定をした。
2 控訴人の右仮処分申請の理由は、右各土地は高川さとの所有であつたとこる、被控訴人は、もとが、昭和54年12月27日、被控訴人に対し、その所有する財産全部を包括して相続させる旨の公正証書遺言をし、昭和58年2月15日死亡したので、右各土地の所有権を取得したとして、所有権移転登記をした。しかし、右遺言は、控訴人の遺留分を侵害するものであるから、控訴人は、遺留分減殺請求の手続をとるべく準備中であるが、あらかじめ右遺留分を保全する必要がある、というものである。
3 控訴人は、昭和60年11月5日、被控訴人を被告として、前記裁判所に、前記遺言が無効であることを確認する旨の遺言無効確認等請求の訴え(同裁判所昭和60年(ワ)第13325号)を提起し、その訴状の記載によると、前記仮処分申請の際に事情として主張していたと同じ事実関係(右遺言の立会証人が民法974条3号の趣旨からして欠格事由がある等)に基づき遺言が無効である旨を主張し、予備的に遺言が有効であるならば、遺留分減殺請求をする旨の主張をしている。
以上認定の事実によると、本件仮処分決定の申立において主張する請求と右遺言無効確認等請求の訴えにおける請求とは訴訟物を異にするものではあるが、右遺言が有効か無効かによつて控訴人の取得する持分の割合が異なつてくるものであつて、遺言の有効無効はその割合を決定する重要な前提問題であるから、右両請求はその請求の基礎において同一性を失わないものというべく、したがつて本件遺言無効確認等請求の訴えをもつて本件仮処分決定の本案訴訟というに妨げないものである。
そうすると、被控訴人の本件取消しの申立ては理由がなく棄却を免れない。
三 したがつて、被控訴人の本件申立てを認容した原判決は取消しを免れず、控訴人の本件控訴は理由がある。
よつて、原判決を取消し、被控訴人の申立てを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法96条、89条を適用して、主文のように判決する。
(裁判長裁判官 舘忠彦 裁判官 新村正人 赤塚信雄)
〔参照〕原審(東京地 昭58(モ)17440号 昭60.9.3判決)
主文
一 申立人と被申立人との間の東京地方裁判所昭和58年(ヨ)第5282号不動産仮処分申請事件について、同裁判所が同年8月11日なした仮処分決定は、これを取消す。
二 訴訟費用は、被申立人の負担とする。
三 この判決第一項は、仮り執行することができる。
事実及び理由
申立人は、主文第一項と同旨の判決を求め、別紙のとおり申立の理由を述べた。
被申立人は何らの主張、立証をしないので弁論の全趣旨によれば申請の理由事実をすべて自白したものと認められる。
右の事実によれば、申立人の本件申立ては理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条、仮執行の宣言につき同法196条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
申立の理由
一 被申立人の申請によつて、東京地方裁判所は昭和58年8月11日申立人に対し、主文第一項記載の仮処分決定をなした。
二 申立人は同裁判所に対し、起訴命令の申立てをなしたところ、同裁判所は右命令送達の日から14日以内に本案訴訟を提起すべき旨の命令を発し、右命令は被申立人に対し、昭和58年9月30日送達された。
三 しかるに、被申立人は右期間を徒過して、現在に至るまで本案訴訟を提起していないから、右仮処分決定の取消を求める。