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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)2702号 判決 1986年7月17日

控訴人 株式会社 高建

右代表者代表取締役 高野敏彦

控訴人 高野敏彦

右両名訴訟代理人弁護士 吉永順作

被控訴人 センチュリー・リーシング・システム株式会社

右代表者代表取締役 青柳健二

右訴訟代理人弁護士 小泉征一郎

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一、当事者の求める判決

一、控訴人ら

1. 原判決を取り消す。

2. 原判決主文第一項記載の各仮差押決定を取り消す。

3. 被控訴人の本件各申請を却下する。

4. 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文第一項同旨

第二、当事者の主張

一、申請の理由

1. 被控訴人は、昭和五六年九月二五日、控訴人株式会社高建(以下「控訴会社」という。)との間で、訴外日本インテリジェントターミナル株式会社(以下「訴外会社」という。)の設計にかかる利用システム及び制作にかかるプログラムにより作動する東芝オフィスコンピューターTOSBACシステム一五モデル三五一式(以下「本件コンピューター」という。)について、次のとおりの約定でリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

(一)  リース期間 六年

(二)  リース料総額 一〇〇八万円

(三)  毎月のリース料 一四万円(七二回払い)

(四)  毎月のリース料の支払を一回でも怠ったときは、期限の利益を喪失し、残存リース料を直ちに支払う。

2. 控訴人高野敏彦(以下「控訴人高野」という。)は、右同日、被控訴人との間で、控訴会社の被控訴人に対する右債務について連帯保証契約を締結した。

3. 控訴人らは、昭和五九年七月分以降のリース料を支払わない。

4. 控訴人らは、多額の債務を抱え、他にみるべき資産もない。

5. よって、本件仮差押決定は正当であるから、その認可を求める。

二、申請の理由に対する認否

1. 1の事実は、(四)を除いて認める。

2. 2の事実は認める。

3. 3の事実は認める。

4. 4の事実は否認する。

リース料債権のほとんどは将来の請求権であり、弁済期の到来しているものについても控訴会社はその支払のための手形について一部預託金を提供して不渡回避の措置をとり、残余の分も満期ごとに支払っており、仮差押の必要はない。

三、抗弁

1. 本件リース契約の対象物件である本件コンピューターは、訴外会社の設計作成にかかる利用システム及びプログラムにより控訴会社の建具販売に関する原価計算・見積計算・販売管理・在庫管理・発注及び購買管理が可能な性能を有することが前提となっていた。

2. しかしながら、訴外会社の設計作成にかかる本件コンピューターの利用システム及びプログラムは、全く実用にならず、機械も能力不足であって、契約の目的を達することができなかった。

3.(一) そこで、訴外会社は、昭和五九年七月一八日、被控訴人に対し、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

(二) 仮に右意思表示が本件リース契約の解除の意思表示でなかったとしても、控訴会社は、被控訴人に対し、昭和六一年四月七日の当審準備手続期日において、本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

四、抗弁に対する認否

1. 1の事実は認める。

2. 2の事実は不知。

3.(一) 3の(一)の事実は否認する。

控訴会社の意思表示は訴外会社との間のコンピューター導入契約を解除する旨の意思表示であり、本件リース契約を解除する旨の意思表示ではない。

(二) 同(二)の事実は認める。

五、再抗弁

1. 本件リース契約には、「賃借人は、リース物件の納入を受けた後、所定の検査期限内にこれを検査し、その完了時に賃貸人の賃借人に対する物件の引渡しが完了する。この場合、賃借人はリース物件が契約に適合し、瑕疵のないことを確認したものとして直ちに賃貸人に借受証を交付する。賃借人が賃貸人に対しリース物件に数量不足、構造、機能、品質等の欠陥その他の瑕疵がある旨の書面による通知を所定の検査期間内にすることなく借受証を賃貸人に交付したときは、リース物件は瑕疵なく完全な状態で引渡されたものとみなし、以後、賃貸人はリース物件の瑕疵について一切その責に任じない。」旨及び「賃借人は契約締結後リース期間が満了するまでいかなる事由によっても契約を解除することができない。」旨の特約があった。

2. 控訴会社は、リース物件である本件コンピューターを検査し、これに瑕疵のないことを確認したうえで、被控訴人に対し、借受証を交付した。

3. 仮に本件コンピューターに控訴人ら主張のような瑕疵があったとしても、控訴会社が被控訴人に対し右瑕疵があることを書面で通知することなく借受証を交付し、被控訴人はこれを信用して訴外会社に本件コンピューターの代金を支払っているのであるから、その後になって控訴人らが本件コンピューターに瑕疵があったと主張することは、信義誠実の原則に違反し許されない。

六、再抗弁に対する認否

1. 1の事実中、本件リース契約書に被控訴人主張のような特約条項の記載があったことは認めるが、右条項は例文である。

2. 2の事実中、控訴会社が被控訴人に対し借受証を交付したことは認めるが、控訴会社が本件コンピューターを検査し、これに瑕疵のないことを確認したことは否認する。

3. 3の主張は争う。

被控訴人主張の特約条項は例文にすぎないから、控訴人らは本件コンピューターの瑕疵を主張することを何ら妨げられない。

七、再再抗弁

仮に被控訴人主張の特約条項が例文でないとしても、次のとおり、被控訴人は控訴会社から借受証の交付を受けた際未だプログラムの作成ができていないことを知っていたものであり、また右借受証の交付の経緯に照らして、控訴会社が本件コンピューターの瑕疵を主張することは、何ら信義則に反しない。

1. 本件コンピューター(ただし機械部分のみ)は昭和五六年八月ころ控訴人会社に搬入されたが、その直後から、被控訴人は控訴会社に対しコンピューターを納入したとして、リース契約書に押印するよう求めてきた。しかし、控訴会社は未だプログラムができていなかったのでこれを拒絶していたところ、被控訴人の担当者は訴外会社の担当者とともにしばしば控訴会社を訪れコンピューターを納入した以上リース契約書に押印してもらわなければ困ると強く要求し続けたので、控訴会社はこれを断りきれず昭和五六年九月二五日になってやむなくリース契約書に押印した。

2. 被控訴人の担当者は、控訴会社がリース契約書に押印するや再び控訴会社に足繁く通ってきて、コンピューターを納入したので納品書に押印してリース料を支払うよう求めてきた。控訴会社は、未だプログラムが作成されていなかったので納品書に押印してリース料を支払うことはできないとしてこれを拒絶していたところ、被控訴人及び訴外会社の担当者は四、五日中にプログラムを完成して持参することを確約したうえ、その旨の念書を差し入れることを約したので、控訴会社は、昭和五六年一〇月二一日納品書兼借受証に押印して一部を被控訴人に交付した。その後同月二四日に念書が差し入れられたため、控訴会社は、翌二五日第一回リース料一四万円及びその後のリース料支払のための約束手形七一通を振出し被控訴人に交付した。

3. その後訴外会社が作成持参したプログラムは粗悪なもので実用にならず、結局、プログラムは完成しなかった。

4. 右のような経緯で、控訴会社が被控訴人に借受証を交付した時点ではプログラムは未完成であって、完成されたリース対象物件としての本件コンピューターの検査は不可能であったのであり、被控訴人もこれを知っていたのであるから、その後作成交付されたプログラムによって作動させた結果、本件コンピューターに前記のような瑕疵があって契約の目的を達することができないことが判明した本件のような事情のもとで、控訴人らが右瑕疵を主張することは、何ら信義則に反しない。

八、再再抗弁に対する認否

控訴人らの主張は争う。

第三、証拠<省略>

理由

一、申請の理由1((四)を除く。)ないし3の事実は当事者間に争いがなく、1の(四)の事実は成立について争いのない疎甲第一号証(疎乙第二号証)によりこれを認めることができる。

二、次に、抗弁1及び3の(二)の事実は、当事者間に争いがない。

そして、原審における控訴人高野敏彦本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる疎乙第一一号証ないし第一三号証によれば、昭和五六年一〇月二七日訴外会社が持参した本件コンピューターのプログラムは全く使用に耐えないものであり、その後も訴外会社はこれを完成することができず(なお、控訴会社はその後機械本体を製作した東京芝浦電気株式会社の関連会社である東芝ビジネスコンピューター株式会社にシステム設計及びプログラム作成を依頼したが、控訴会社の満足するようなものは作成されなかった。)本件コンピューターは当初の約定どおりの性能を備えないものであったことが一応認められる。

そうすると、本件リース契約の対象物件である本件コンピューターには重大な瑕疵があったものというべきである。

三、ところで、本件リース契約書に再抗弁1記載のような特約条項の記載があったことは、当事者間に争いがない。控訴人らは右特約条項は例文にすぎないものであると主張するが、本件のような実質的には融資を目的とするファイナンス・リースにおいては、ディーラーから直接ユーザーに物件が引き渡されるのが通例であり、リース会社はユーザーが物件の引渡しを受けたこと及びその物件に瑕疵のないことを確認して発行する借受証を信頼してディーラーに売買代金を支払うものであって、大量の契約を締結するリース会社としては右のような処理をすることもやむをえないところであり、そのためには前記特約条項のような定めが必要であり、またそのような定めは不合理であるとは考えられないから、本件リース契約書の特約条項の記載を例文にすぎないものということはできない。したがって、本件リース契約には右特約条項どおりの合意があったものというべきである。

そして、控訴会社が借受証を被控訴人に交付したことは当事者間に争いがなく、右交付前に控訴会社が被控訴人に対し本件コンピューターに前記のような瑕疵があったことを書面で通知していないことは弁論の全趣旨に徴し明らかである。

そうすると、本件コンピューターに前記のような瑕疵があったとしても、控訴会社が被控訴人に対し右瑕疵があることを書面で通知することなく借受証を交付し、被控訴人はこれを信用して訴外会社に本件コンピューターの代金を支払っている以上、特段の事情がない限り、その後になって控訴人らが本件コンピューターに瑕疵があったと主張することは、信義誠実の原則に照らし許されないものと解すべきであり、右瑕疵を理由として本件リース契約を解除することはできないものというべきである。

四、控訴人は、被控訴人は控訴会社から借受証の交付を受けた際未だプログラムの作成ができていないことを知っていたものであり、また右借受証の交付の経緯に照らして、控訴会社が本件コンピューターの瑕疵を主張することは何ら信義則に反しない旨主張する。

1. 成立について争いのない疎甲第二号証の一ないし三、第七号証、第一二号証、疎乙第五号証の一、二、第一六号証、前記乙第一三号証及び原審における控訴人高野敏彦本人尋問の結果によれば、次の事実を一応認めることができる。

(一)  昭和五六年八月、訴外会社は、本件コンピューターの本体(機械部分)を控訴会社に設置した。

(二)  同年一〇月二一日ころに至っても、訴外会社は予定どおりのシステム設計及びプログラム作成を完了していなかったが、訴外会社は控訴会社に対し数日中に完成して引き渡す旨確約し、念書を差し入れると述べたため、控訴会社代表者はこれを信じ、被控訴人宛の本件コンピューターの検査を完了し瑕疵がないものとして借り受けた旨記載された借受証に記名押印して、これを被控訴人に交付した。

(三)  訴外会社は、同月二四日に、同月二七日までに請求書発行、同年一一月末日までに出力伝票、棚卸表のシステムを作成する旨の念書を控訴会社に提出したので、同年一〇月二五日、控訴会社は、被控訴人に第一回リース料一四万円を支払うとともに、その後の七一回分のリース料の支払のための約束手形七一通(金額合計九九四万円)を振り出し交付した。

(四)  そこで、被控訴人は、同月二九日、訴外会社に対し、本件コンピューターの売買代金七一一万七〇〇〇円を支払った。

2. 右認定の事実によれば、控訴会社が被控訴人に借受証を交付した時点では本件コンピューターのプログラムは未完成であり、控訴会社による完成されたリース対象物件としての本件コンピューターの検査は不可能であったものであって、控訴人は訴外会社の念書を差し入れる旨の言を信用して被控訴人に対して借受証を交付したものであるが(被控訴人がこの間の事情を知悉していたものと一応認めるに足りる疎明はない。)、控訴会社としては、右時点において訴外会社からのシステム設計及びプログラムの作成、引渡しを受けていないことを理由として被控訴人に対する借受証の交付を拒否することができたものであり、そうすれば被控訴人も訴外会社に売買代金の支払をしなかったものと考えられるのであって、控訴会社がそのような手段を取ることなく訴外会社の念書を入れる旨の言を信じて被控訴人に借受証を交付し、これにより被控訴人に訴外会社に対する売買代金の支払をさせた以上、その後になって本件コンピューターに瑕疵があることを主張することは信義則に反するものというべきである。

五、そうすると、控訴人らは、昭和五九年七月分のリース料を支払わずに期限の利益を失ったのであるから、残金五四六万円を連帯して支払うべき義務があるものというべきである。

六、本件申請における保全の必要性についての判断は、原判決理由説示三(原判決六枚目裏一〇行目から同七枚目表八行目まで)と同一であるから(ただし、同七枚目表初行の「期日の到来したものについては」の次に「一部」を加え、同二行目の「預託しているが」を「預託し、また一部は満期に支払をしているが」に、同四行目の「金一二四五円」を「金一四二五円」にそれぞれ改める。)、これをここに引用する。

七、そうすると、本件各仮差押決定を認可した原判決は正当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条、九三条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 越山安久 武藤冬士己)

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