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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)799号 判決 1986年5月29日

控訴人 宮原キヱ

右訴訟代理人弁護士 堀合辰夫

同 高橋輝美

右訴訟復代理人弁護士 石川順子

被控訴人 佐口録彌

<ほか五名>

右六名訴訟代理人弁護士 石塚誠一

同 石塚伸

右訴訟復代理人弁護士 石塚尚

被控訴人 宮原豊

<ほか一名>

被控訴人 大栄特殊製紙株式会社

右代表者代表取締役 西川一

<ほか一名>

右二名訴訟代理人弁護士 鍛冶良道

同 伊藤愼二

被控訴人 株式会社 丸川冷蔵庫

右代表者代表取締役 見﨑幸人

<ほか四名>

右五名訴訟代理人弁護士 天野保雄

被控訴人 株式会社 静岡銀行

右代表者代表取締役 酒井次吉郎

右訴訟代理人弁護士 御宿和男

同 林範夫

被控訴人 落合武

被控訴人 磐田繊維工業協同組合

右代表者代表理事 小澤博

右訴訟代理人弁護士 長野哲久

被控訴人 磐田市土地開発公社

右代表者理事 鈴木直之

右訴訟代理人弁護士 山田俊夫

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「一 原判決を取消す。二1 控訴人と被控訴人左口録彌、同左口利和、同左口安邦、同左口忠恒、同鈴木陽子、同山内佳代子(以下、以上の被控訴人六名を「被控訴人録彌ら六名」という。)、被控訴人宮原豊(以下「被控訴人宮原」という。)との間において、控訴人が別紙目録(一)ないし(二五)記載の各土地につき二分の一の共有持分権を有することを確認する。2 被控訴人録彌ら六名及び同宮原は、控訴人に対し、別紙目録(一)ないし(二五)記載の各土地につき、静岡地方法務局磐田出張所(以下「磐田出張所」という。)昭和四一年一二月二二日受付第一三三二一号の所有権移転登記を、控訴人の持分の割合を二分の一、右被控訴人ら七名の持分の割合を各一四分の一とする所有権移転登記にそれぞれ更正登記手続をせよ。3 被控訴人大久保章司(以下「被控訴人大久保」という。)は、(一) 別紙目録(一)、(三)、(四)、(八)、(一五)、(一八)、(二〇)、(二四)、(二五)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四四年六月二四日受付第六七六九号の宮原豊持分全部移転登記の共有者持分七分の一を持分一四分の一に、(二) 別紙目録(五)、(七)、(九)、(一一)、(一二)、(二二)、(二三)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四四年六月二四日受付第六七七〇号の宮原豊持分全部移転請求権仮登記の権利者持分七分の一を持分一四分の一に、それぞれ更正登記手続をせよ。4 被控訴人大栄特殊製紙株式会社(以下「被控訴人大栄」という。)は、(一) 別紙目録(一)、(三)、(四)、(八)、(一五)、(一八)、(二〇)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四六年一一月一二日受付第一三一六九号の大久保章司を除く共有者全員持分移転請求権仮登記の権利者持分七分の六を持分七分の三に、同出張所昭和四七年一二月二日受付第二一一二〇号の大久保章司を除く共有者全員持分全部移転登記の共有者持分七分の六を持分七分の三に、同出張所昭和四七年一月一三日受付第三〇四号の大久保章司持分全部移転登記の共有者持分七分の一を持分一四分の一に、(二) 別紙目録(二)、(五)、(七)、(九)、(一一)、(一二)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四六年一一月一二日受付第一三一六九号の宮原豊を除く共有者全員持分移転請求権仮登記の権利者持分七分の六を七分の三に、同出張所昭和四八年一一月一日受付第二三九七七号の宮原豊を除く共有者全員持分全部移転登記の共有者持分七分の六を七分の三に、同出張所昭和四七年一月一三日受付第三〇八号の所有権移転請求権(同目録(二)、(七)、(一一)記載の各土地については一五番所有権移転請求権、同目録(五)、(九)、(一二)記載の各土地については三番所有権移転請求権)の移転登記の権利者持分七分の一を持分一四分の一に、同出張所昭和四八年一一月一日受付第二三九七八号の宮原豊持分全部移転登記の共有者持分七分の一を持分一四分の一に、それぞれ更正登記手続をせよ。5 被控訴人千代田土地建物株式会社(以下「被控訴人千代田」という。)は、(一) 別紙目録(一)、(三)、(四)、(八)、(一五)、(一八)、(二〇)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四八年一月一八日受付第八三八号の所有権移転登記の所有権移転を大栄特殊製紙株式会社持分全部移転とし共有者持分二分の一に、(二) 同目録(二)、(五)、(七)、(九)、(一一)、(一二)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四九年一月八日受付第一九〇号の所有権移転請求権仮登記の所有権移転請求権を大栄特殊製紙株式会社持分全部移転請求権とし権利者持分二分の一に、それぞれ更正登記手続をせよ。6 被控訴人録彌ら六名は、別紙目録(六)、(一〇)、(一三)、(一四)、(一六)、(一七)、(一九)、(二一)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四三年三月二日受付第二一六六号の宮原豊持分全部移転登記の共有者持分四二分の一を持分八四分の一にそれぞれ更正登記手続をせよ。7 被控訴人株式会社丸川冷蔵庫(以下「被控訴人丸川」という。)は、別紙目録(六)記載の土地につき、磐田出張所昭和五〇年二月二四日受付第三八八六号の共有者全員持分全部移転登記の共有者全員持分全部移転を宮原キヱを除く共有者全員持分全部移転とし共有者持分二分の一に更正登記手続をせよ。8 被控訴人昭和製氷株式会社(以下「被控訴人昭和」という。)は、(一) 別紙目録(六)記載の土地につき、磐田出張所昭和五〇年一〇月三一日受付二〇六二二号の所有権移転登記の所有権移転を株式会社丸川冷蔵庫持分全部移転とし共有者持分二分の一に、(二) 同目録(一〇)記載の土地につき、磐田出張所昭和四三年三月二五日受付第三二一〇号の条件付所有権移転仮登記の条件付所有権移転を条件付左口録彌、左口利和、左口安邦、左口忠恒、鈴木陽子、山内佳代子持分全部移転とし共有者持分二分の一に、(三) 同目録(一三)記載の土地につき、磐田出張所昭和四三年三月二五日受付第三二一〇号の条件付所有権移転仮登記の条件付所有権移転を条件付左口録彌、左口利和、左口安邦、左口忠恒、鈴木陽子、山内佳代子持分全部移転とし共有者持分二分の一に、磐田出張所昭和五〇年二月二四日受付第三八八七号の共有者全員持分全部移転登記の共有者全員持分全部移転を左口録彌、左口利和、左口安邦、左口忠恒、鈴木陽子、山内佳代子持分全部移転とし共有者持分二分の一に、(四) 同目録(一四)、(一六)、(一七)、(一九)、(二一)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四三年三月二五日受付第三二〇九号の所有権移転登記の所有権移転を左口録彌、左口利和、左口安邦、左口忠恒、鈴木陽子、山内佳代子持分全部移転とし共有者持分二分の一に、(五) 同目録(一五)、(一八)記載の各土地につき、磐田出張所昭和五一年九月六日受付第一七一〇七号の所有権移転登記の所有権移転を千代田土地建物株式会社持分全部移転とし共有者持分二分の一に、それぞれ更正登記手続をせよ。9 被控訴人農林中央金庫(以下「被控訴人農林中金」という。)は、(一) 別紙目録(六)記載の土地につき、磐田出張所昭和五〇年一〇月三一日受付第二〇六二三号の根抵当権設定登記の根抵当権設定を昭和製氷株式会社持分根抵当権設定に、(二) 同目録(一〇)記載の土地につき、磐田出張所昭和四三年七月二日受付第七〇五七号の甲区八番仮登記停止条件付所右権の停止条件付根抵当権設定仮登記の甲区八番仮登記停止条件付所有権を甲区八番仮登記停止条件付昭和製氷株式会社持分に、(三) 同目録(一三)記載の土地につき、磐田出張所昭和四三年七月二日受付第七〇五七号の甲区八番仮登記停止条件付所有権の停止条件付根抵当設定仮登記の甲区八番仮登記停止条件付所有権を甲区八番仮登記停止条件付昭和製氷株式会社持分に、磐田出張所昭和五〇年九月二五日受付第一八五三四号根抵当権設定登記の根抵当権設定を昭和製氷株式会社持分根抵当権設定に、(四)同目録(一四)、(一六)、(一七)、(一九)、(二一)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四三年七月二日受付第七〇五六号の根抵当権設定登記の根抵当権設定を昭和製氷株式会社持分根抵当権設定に、それぞれ更正登記手続をせよ。10 被控訴人株式会社静岡銀行(以下「被控訴人静銀」という。)は、別紙目録(六)、(一三)、(一四)、(一六)、(一七)、(一九)、(二一)記載の各土地につき、磐田出張所昭和五〇年一二月一八日受付第二四七九一号の根抵当権設定登記の根抵当権設定を昭和製氷株式会社持分根抵当権設定にそれぞれ更正登記手続をせよ。11 被控訴人商工組合中央金庫(以下「被控訴人商工中金」という。)は、別紙目録(六)、(一三)、(一四)、(一六)、(一七)、(一九)、(二一)記載の各土地につき、磐田出張所昭和五一年六月一七日受付第一一八四〇号の根抵当権設定登記の根抵当権設定を昭和製氷株式会社持分根抵当権設定にそれぞれ更正登記手続をせよ。12 被控訴人中小企業金融公庫(以下「被控訴人金融公庫」という。)は、別紙目録(六)、(一三)、(一四)、(一五)、(一六)、(一七)、(一八)、(一九)、(二一)記載の各土地につき、磐田出張所昭和五七年八月一四日受付第一三六〇九号の根抵当権設定登記の根抵当権設定を昭和製氷株式会社持分根抵当権設定にそれぞれ更正登記手続をせよ。13 被控訴人左口利和(以下「被控訴人利和」という。)は、別紙目録(二二)、(二三)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四七年一月一七日受付第五三五号の共有者左口録彌、左口安邦、左口忠恒、鈴木陽子、山内佳代子持分全部移転登記の共有持分七分の五を持分一四分の五にそれぞれ更正登記手続をせよ。14 被控訴人落合武(以下「被控訴人落合」という。)は、(一) 別紙目録(二二)、(二三)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四七年四月八日受付第四七二二号の所有権移転請求権(同目録(二二)記載の土地については二六番所有権移転請求権、同目録(二三)記載の土地については一二番所有権移転請求権)の宮原豊持分全部移転登記の権利者持分七分の一を持分一四分の一に、磐田出張所昭和四七年四月二八日受付第六〇五六号の宮原豊持分全部移転登記の共有者持分七分の一を持分一四分の一に、(二) 同目録(二四)、(二五)記載の各土地につき、磐田出張所昭和四七年一月一三日受付第三〇五号の大久保章司持分全部移転登記の共有者持分七分の一を持分一四分の一にそれぞれ更正登記手続をせよ。15 被控訴人磐田繊維工業協同組合(以下「被控訴人協同組合」という。)は、別紙目録(二五)記載の土地につき、磐田出張所昭和四七年一二月五日受付第二一三〇六号の左口録彌、左口利和、左口安邦、左口忠恒、鈴木陽子、山内佳代子持分全部移転登記の共有者持分七分の六を持分一四分の六に、磐田出張所昭和四八年二月二〇日受付第三四九七号の落合武持分全部移転登記の共有者持分七分の一を持分一四分の一にそれぞれ更正登記手続をせよ。16 被控訴人磐田市土地開発公社(以下「被控訴人開発公社」という。)は、別紙目録(二五)記載の土地につき、磐田出張所昭和四八年一二月七日受付第二六九一四号の所有権移転登記の所有権移転を磐田繊維工業協同組合持分全部移転とし共有者持分二分の一に更正登記手続をせよ。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人録彌ら六名、同大栄、同千代田、同丸川、同昭和、同農林中金、同商工中金、同金融公庫、同協同組合、同開発公社各代理人は、いずれも控訴棄却の判決を求めた。被控訴人静銀、同落合は本件口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したとみなされる答弁書には、いずれも控訴棄却の判決を求め、訴訟費用を控訴人に負担せしめる旨の記載がある。被控訴人宮原、同大久保は本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  同一当事者間の同一物件に対する所有権確認請求及び所有権に基づく妨害排除請求であっても、その訴訟物は所有権の取得原因ごとに異なるというべきである。このように解することによって当該事件の要件事実が明確となり、迅速で充実した審理が期待できるのであって、逆に所有権の取得原因が単なる攻撃方法にすぎないと解するならば、被告にとっては不意打の危険を生ずる一方、原告としては失権をおそれて種々の可能性を主張し、争点が不当に拡大されるおそれがある。

本件において、控訴人が前訴で主張した所有権(共有持分権)の取得原因は遺贈という亡末の単独行為であるのに対し、本訴で主張しているのは亡末と控訴人との間の死因贈与という両当事者間の契約であり、その法律的性質が全く異なっているのであるから、前者を主張して敗訴した場合に後者を主張して再訴することができないとすれば、控訴人としては前訴において互いに相矛盾する主張を強いられることとなり、酷な結果となる。また、前訴において控訴人は要式行為たる遺贈を主張したため、その適式性が主要な争点となり、これが不備であったために控訴人の主張が排斥されたのであって、亡末の贈与の申込の有無及びこれに対する控訴人の承諾の有無については何ら審理、判断されていないのであるから、このような確定判決があることをもって控訴人の本訴を排斥することは、既判力の客観的範囲を不当に広く解するものであって、妥当でないというべきである。

2  原判決は、被控訴人らのうち前訴の当事者となっていない者に対する訴えまでも却下し、その理由として信義則違反をあげているが、信義則というような不明確な一般条項によって訴訟提起の許否を決するのは、既判力の範囲をできる限り明確にして法的安定を図ろうとする民事訴訟法の趣旨に反するもので、裁判を受ける権利を不当に制限する危険がある。すなわち、民事訴訟法は、既判力の主観的範囲を明定し、前訴の既判力に抵触するものに限り後訴の提起を許さないものとしているのであって、このような既判力の範囲を信義則というような要件のあいまいな概念によって不明確なものとすることは、訴訟当事者を無用に混乱させ、不測の不利益を生じさせる結果となる。したがって、仮に、訴訟法上当事者の訴訟行為が信義則によって制限される場合があるとしても、それは極めて限られた範囲と解すべきであり、訴提起の許否に関する点まで拡張されるべきではない。

《証拠関係省略》

理由

当裁判所も、控訴人の本件訴えは、いずれも不適法として却下すべきものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張に対する判断)

1  控訴人は、同一当事者間の同一物件に対する所有権(共有持分権)確認請求及び所有権に基づく妨害排除請求であっても、その訴訟物は所有権の取得原因が異なるのに応じて異別であると解すべき旨主張するが、右主張は独自の見解というほかなく、これを採用することはできない。すなわち、所有権の権利としての実体はその取得原因のいかんを問わず一個同一であって、所有権の存否、帰属を訴えにおいて主張する場合、その訴訟物は所有権の目的たる物件を特定することによって直ちに特定し、その所有権の取得原因は、訴訟物たる請求を理由あらしめるための主張としての意味を持つにすぎない。そして、所有権の存否、帰属について争いがある場合は、原告としては、常に必ず所有権の取得原因たる事実を主張、立証しなければならず、これがいわゆる要件事実となるのであって、裁判所は原告の主張する要件事実についてのみ認定、判断を下し、判決をなしうるのであるから、控訴人主張の如く被告にとって不意打の危険を生ずることはないし、争点が不当に拡大するおそれもない。また、所有権の取得原因として複数の事実が考えられる場合には、原告としてはその各取得原因を選択的又は予備的に主張することが許されるのであるから、原告にとって失権の不利益を避ける方途は十分に講じられているのである。これを本件についてみると、控訴人は前訴において遺贈を主張して敗訴し、本訴において死因贈与を主張しているのであるが、右各主張の基礎に存する社会的事象に異別はないのであって、遺贈又は死因贈与のいずれを主張するかは法律構成の問題というべく、訴提起者たる控訴人の自由な意思に任されていたというべきであり、控訴人が前訴において遺贈を主張して敗訴した以上、もはや死因贈与の主張をなしえない結果となっても、まことにやむをえないところであって、仮に死因贈与の主張をもなしうるような社会的事実が存したのであるとすれば、控訴人としては、前訴において、予備的にでも死因贈与の主張をすることができ、また、失権をおそれるのであれば、右の主張をすべきであったのである。控訴人は、右のように解するならば、一個の訴えにおいて相矛盾する主張を強いられ、酷な結果となる旨主張するが、前訴で遺贈を主張し後訴で死因贈与を主張することも、互いに矛盾する事実を主張する点においては変るところがなく、これらを一個の訴えにおいて選択的又は予備的に主張するのと径庭はないというべきである。また、もし仮に、控訴人主張のとおり、所有権の取得原因ごとに訴訟物が異るとし、したがって前訴判決の既判力が後訴に及ばないとするならば、原告にとって有利であるとしても、再度応訴を強いられる被告の不利益は大きく、妥当でないことは明らかというべきである。

2  控訴人は、被控訴人らのうち前訴で被告となっていなかった者に対する訴えをも信義則に反するとして却下したのは不当である旨主張する。

案ずるに、前訴判決の存在を理由に後訴が許されないのは前訴判決の既判力が後訴に及ぶ場合に限られるのが原則であることは控訴人主張のとおりであり、前訴の当事者となっていなかった者に対し既判力の効果が及ぶのは民訴法二〇一条に定める範囲に限られる。

けれども、訴権の行使も信義誠美の原則に従ってなされるべきものであって、後訴が紛争の実体において前訴と同一視され、その提起が、前訴確定判決の存在によって、紛争解決の一回性の見地からして著しく妥当性を欠く場合においては、訴訟法上の信義則に照らし、後訴の提起が訴権の濫用として排斥される場合もありうると解すべきである。

これを本件についてみるに、被控訴人大久保、同丸川、同商工中金、同金融公庫、同静銀、同協同組合は、いずれも前訴において当事者となっておらず、前訴確定判決の既判力の効果が及ぶ範囲外の者である(被控訴人金融公庫に対する請求の一部については、同昭和の承継人として既判力の効果が及ぶことは、原判決理由二、5の項に説示のとおりである。)。

しかしながら、控訴人は、前訴において、本件各土地の共有持分に基づき、妨害排除としての抹消登記請求に代えて、その時点における本件各土地の所有者(共有持分権者)を相手に、真正な登記名義の回復を登記原因とする移転登記の請求をしたものであるところ、その請求権の不存在が確定したにもかかわらず、本訴においては、本件各土地につき登記面上の権利者として現われているすべての者を被告として更正登記(その実質は一部抹消登記)の請求をするものであって、その紛争の実体は前後を通じて同一であると目すべく、被控訴人らのうち前訴確定判決の既判力が及ぶ者に対する訴えが不適法として許されない以上、前訴で当事者となっていなかった者に対する関係でも、前訴において解決したと同一の紛争を再び無益に繰り返すに等しく、紛争解決の一回性の見地からみて著しく妥当性を欠くというべきであり、これを前記の被控訴人らとの関係で原判決の挙示する事実関係に照らして勘案すれば、訴訟法上の信義則上、右の被控訴人らに対する本件訴えは訴権の濫用として許されないものと解するのが相当である(なお、被控訴人らのうち前訴で当事者とされた者に対し、控訴人が前訴で求めた抹消に代わる移転登記請求の対象となっていない登記について、本訴で更正登記の請求をした点については、右と同趣旨において原判決説示の判断を相当と考える)。

よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙野耕一 裁判官 南新吾 裁判官根本眞は、転補につき、署名、押印することができない。裁判長裁判官 髙野耕一)

<以下省略>

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