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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)607号 決定 1985年12月26日

抗告人

甲野花子

相手方

甲野太郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一抗告人は、原審判の取消と昭和五四年一二月分以降の月額二〇万円の婚姻費用の支払を相手方に命ずる裁判を求め、その理由として要旨、(1)抗告人と未成熟子二人の婚姻費用として最低月額二〇万円が必要であるのに、原審判が月額一五万円しか認めていないのは不当である、(2)相手方が負担すべき婚姻費用の分担義務の始期は相手方が家を出て別居状態となつた昭和五四年一二月九日とすべきであるのに、原審判が調停申立時の昭和五九年九月二二日以降の分の分担しか命じていないのは不当である、(3)原審判は、相手方が抗告人に昭和五九年一二月に生活費として二万円を送金し、長男次郎が購入したパーソナルコンピューターの代金三二万七六〇〇円を相手方が負担したとし、これらを履行済みとして過去の分担額から差引計算しているが、これは不当である、と主張する。

二そこで判断するに、当裁判所も、相手方が負担すべき本件婚姻費用分担額は月額一五万円が相当であると判断する。その理由は、原審判理由2(1)、(2)(原審判一枚目裏九行目から三枚目裏一四行目まで)及び同四枚目表四行目の「そして」から七行目の「相当である。」までと同一であるから、これを引用する(ただし、原審判二枚目裏一一行目の「月額14万4080円」を「月額14万3580円」に改め、同三枚目裏一〇行目から一一行目の「14万123円」の次に「(その算式は、24,400円〔3級地、居宅第1類女子、41歳〜59歳〕+31,300円〔前同、男子、15歳〜17歳〕+28,680円〔前同、女子、12歳〜14歳〕+28,230円〔前同、2類、3人世帯〕+()〔前同、冬期加算月額換算〕+()〔前同、期末一時扶助費月額換算〕+20,740円〔母子加算、児童2人〕+3,280円〔教育扶助、中学1年〕である。)」を、同一一行目の「6万9486円」の次に「(その算式は、30,750円〔1級地、居宅第1類男子、41歳〜59歳〕+27,860円〔前同、2類、1人世帯〕+()〔前同、冬期加算月額換算〕+()〔前同、期末一時扶助費月額換算〕+9,000円〔住宅扶助〕である。)」をそれぞれ加え、同四枚目表六行目から七行目の「昭和五九年九月二二日以降」を「月額」に改める。)。したがつて、抗告理由(1)は採用することができない。

原審判は、相手方の本件婚姻費用分担義務の始期について、抗告人が確定的に請求の意思を表明するに至つた本件調停申立受理の月である昭和五九年九月と解し、同月分からの分担義務を課しているところ、抗告人は抗告理由(2)において、相手方が家を出て別居状態となつた昭和五四年一二月を分担義務の始期とすべきであると主張する。しかしながら、婚姻費用分担義務の始期は、同義務の生活保持義務としての性質と両当事者間の公平の観点から考えれば、権利者が義務者にその請求をした時点と解すべきである。したがつて、昭和五九年九月分からの分担義務を課した原審判は相当であつて、右主張を採用することはできない。

抗告人は抗告理由(3)において、原審判が、相手方が送金、負担した昭和五九年一二月の二万円、パーソナルコンピューター代金三二万七六〇〇円、合計三四万七六〇〇円の差引計算をしたことの不当を主張するが、右各金員はいずれも婚姻費用の一部として相手方が抗告人に送金、負担したと同視すべき性質のものと解されるから、原審判の右差引計算は相当であつて、右主張を採用することはできない。

そうすると、昭和五九年九月から昭和六〇年八月までの一二か月分の合計額一八〇万円から履行済みの右三四万七六〇〇円を差引いた一四五万二四〇〇円を相手方が負担すべき過去の婚姻費用分担金としてその支払を命じ、かつ相手方に昭和六〇年九月以降同居または婚姻解消に至るまで月額一五万円を毎月末日限り支払うべきことを命じた原審判は相当であるといわなければならない。

三以上の次第で、本件抗告は理由がないから、これを失当として棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官中島一郎 裁判官加茂紀久男 裁判官梶村太市)

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