東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)108号 判決
一 請求の原因一ないし三は、当事者間に争いがなく、枠部材34、36、38が「断面畧コ字状」であるとの点を除く審決の理由の要点2摘示に係るその余の引用例の記載内容、本願発明における上下パネル1、2及び適宜の形状に裁断加工したパネルが引用例記載の発明におけるパネル26及び矩形のパネルに対応し実質的に同一であることも当事者間に争いがない。
二 取消事由(1)について
1 前記当事者間に争いのない本願発明の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(本願発明の公報)中の図面部分、第三号証(本願発明の昭和五一年一二月四日付手続補正書)によれば、本願発明の補強部材3、3´、3´´……は断面をコ字状に曲折形成した長尺の鉄骨部材で、右の断面の上下の水平な接合部の相対応する位置に突起(溶接用突起)4、4´、5、5´……を一定間隔ごとに配没していること、同部材は所定間隔ごとに配置され、その上下をパネル1、2で挟着し、右両パネルの外側より相対応する突起の部分を電極によつて挟持し加圧通電することによつて、内側の上下突起部分が同時に接合(プロジエクシヨン溶接)されるものであること、前記手続補正書には補強部材の断面をコ字状に曲折形成したことにより、(イ)断面コ字状の補強部材は安定性ある形状をしているので、それ自体倒れることなく、しかも上下のパネルへの衝当が確実で組立て易く、はずれたり倒れたりすることがないこと、(ロ)補強部材の姿勢が安定しているため溶接の際の加圧力が大きくなつても同部材は曲ることなく、正確に加圧力が溶接突起に集中すること、(ハ)上下断面の折曲部分には適当に緩衝効果があり、しかも耐圧力も強く、適度に加圧力を緩和し、例えば材質の厚さによる誤差や加工誤差によつておこる溶接状態のバラツキをほとんど均一のものとすること、(ニ)ナゲツト部分に空間があつて放熱効果にすぐれており、溶接の良否を決めるパネルとの熱容量の平衡をとりやすいこととの効果を奏するものであることが認められる。
右の(ロ)、(ハ)、(ニ)によれば、枠部材のウエブ42に肩部46、48が形成され、また、部分的に変形孔があるため、溝状の引用例の枠部材を断面をコ字状に曲折形成した形状のものと全く同一視することはできない。しかし、前掲甲第四号証によれば、引用例記載の発明の枠部材は前記(イ)の形状を主体として構成されていること、(ロ)において低くされた肩の部分は僅かにウエブの板厚分にすぎず、(ハ)、(ニ)もきわめて小さな部分的変形にとどまることが認められるから、(ロ)、(ハ)、(ニ)の形状が枠部材全体の形状に与える影響は微小なものであり、(イ)の形状を主体とする右枠部材は全体構造からみて、断面をほぼコ字状に曲折形成した形状のものといつて差支えない。
そうであれば、引用例記載の発明の枠部材の形状及びこれとパネルの溶接に関する前記(イ)の構成は、前記1に述べた本願発明の補強部材の形状及びこれとパネルの溶接に関する構成と変わるところはなく、前記争いのない引用例の記載内容及び前掲甲第四号証によれば、引用例記載の発明においても本願発明同様前記1の(イ)ないし(ニ)の効果を奏するものと認めることができる。
3 したがつて、引用例記載の枠部材が本願発明の補強部材に、前者の接合フランジが後者の水平な接合部に対応するとして、この点において両者の構成の同一性を認めた審決の判断に誤りはない。
三 取消事由(2)について
前掲甲第四号証によれば、引用例には、原告主張の箇所にパネル溶接前に枠部材を組立てる工程について具体的にして詳細な記載があることが認められる。しかし、前記本願発明の要旨によれば、本願発明では枠部材に相当する補強部材の組立工程をその要旨としていないことが明らかであるから、本願発明の新規性の判断に当たり、この点について引用例記載の発明と対比することは無意味なことというほかない。
よつて、取消事由(2)は理由がない。
四 取消事由(3)について
1 前記のように引用例記載の発明においては、組立てられた枠部材を一対のパネルで両側から挟着してその後接合して金属扉を完成するのであるが、甲第四号証によるも、引用例には枠部材をパネル間に挟着する工程において両者の組合せ状態を保持するため、本願発明のように仮着手段を施すことについて特段の記載を見出せない。
しかし、本願発明及び引用例記載の発明におけるプロジエクシヨン溶接に限らず、溶接一般において、被溶接部材を組立てるに当たり、締付具等を用いて本願発明におけるように組合せ仮着することが慣用技術であることは当事者間に争いがなく、また、前記のように前記二、1に述べた本願発明の補強部材及びこれとパネルの溶接に関する構成と前記二、2、(イ)に述べた引用例記載の発明の枠部材及びこれとパネルの溶接に関する構成は実質的に同一と認められる。そして、前掲甲第三号証によれば、本願の前記手続補正書には、「まず、下部パネル2をその内側を上向きにしておき、その上に補強部材3、3´、3´´……を所定間隔毎に配置しこの上に上部パネル1を内側を下向きにして被せ補強部材3、3´、3´´……を上部パネル1と下部パネル2とに挟み込むようにして組合せる。そして、これらがずれたり壊れたりしないように既存の器具AA´で仮着する」との記載(五頁一五行ないし六頁二行)があることが認められ、右記載によれば、本願発明における仮着が右の慣用技術として一般の溶接において行われる仮着となんら変わるところがないものということができるから、引用例記載の発明においても枠部材とパネルを挟着して組合せるに当つて、本願発明同様の仮着方法を用いているものと認めて差支えないというべきである。
2 原告は、本願発明においては補強部材を用いることにより、仮着だけで組合せ形状の保持と特殊な同時溶接を可能とする旨主張する。しかし、本願発明の補強部材と引用例記載の発明の枠部材とは構成上実質的に同一であると認められることは既に述べたとおりであるから、原告主張のような技術課題が本願発明において解決されているとすれば、引用例記載の発明においても同様の技術課題は解決されているものということができ、また、仮着による効果も両発明において変わるところはないといわざるを得ない。しかも前記1において述べたように、本願発明の仮着は慣用技術としてそれと同じものであるから、本願発明において、右仮着により特段の効果が奏せられるものと認めることはできない。
3 よつて、取消事由(3)は理由がない。
五 取消事由(4)について
原告の主張は、要するに引用例においては単に縦方向の枠部材34、36、38だけでなく、横方向でも枠部材32のほか各種の補助材を用いており、溶接以前に枠部材の組立工程が必要であり、枠部材全体として複雑な形状であるということを前提とするのである。しかし、前記のとおり、本願発明においては補強部材の組立を要旨としておらず、加圧通電により接合する突起を備えたコ字状断面の補強部材とパネルの溶接を要旨とするもので、その限度で対比すれば、本願発明と引用例記載の発明との構成及び効果は実質的に変わるところはないのである。もちろん、本願発明においても補助部材を縦横に組合せ更にその間に補助材を用いる金属製扉に適用することは可能であり(むしろそのような事例が多いと推認される。)、その場合には引用例記載の発明同様補強部材の組立工程が先行することが必要であり、複雑な組立てにより解決すべき課題が生ずることがあり得るとしても、いずれも前記のような本願発明の構成、効果とは直接関わりのない事項である(仮に複雑な組立により溶接効果上の問題が生じたとしても、それは別途解決すべき課題である。)。
したがつて、原告の主張は本願発明の構成、効果に基づくものではないから、理由なきに帰する。
六 以上のとおり原告の取消事由はいずれも理由がなく、前掲甲第二ないし第四号証によれば他の点においても両発明の構成は実質的に同一と認めることができる。
七 よつて、審決の判断に誤りはないから、本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
適宜の形状に裁断加工した上部パネル1と下部パネル2、及び上下の水平な接合部に相対応する突起を配設したコ字状の補強部材3、3´、3´´を用意し、補強部材3、3´、3´´を上部パネル1と下部パネル2の間に挟み込むように組合せ仮着した後当該両パネル1、2の外側より相対応する突起4、4´、5、5´の部分を電極によつて挟持し、加圧通電することによつて内側の上下突起部分を同時に接合するようにしたことを特徴とする金属製扉の製造方法。