東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)123号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要旨が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 そこで、原告が主張する取消事由の有無について判断するに、次に説示するとおり、本件審決の判断は正当であり、原告の主張は、理由がないものというべきである。
1 前記当事者間に争いのない事実及び成立に争いのない甲第五号証によれば、被告は、昭和五九年七月六日、商標法第五〇条の規定に基づき、特許庁に対し、本件登録商標に係る商標登録の取消しの審判を請求した(本件審判請求事件)が、同年一一月五日、右の審判請求と全く同一内容の審判の請求をした(別件審判請求事件)ことが認められ、右事実によれば、審判請求の内容を同一にする本件審判請求事件及び別件審判請求事件が特許庁に同時に係属したものであるところ、両審判請求事件は、もとよりそれぞれ別個独立の審判請求事件であり、たとえ審判請求の内容が同一であるとしても、そのいずれかについて答弁すれば、他方についても答弁したことになるものでないことは多言を要しないところである。したがつて、成立に争いのない甲第六号証によれば、原告(被請求人)は、昭和六〇年四月二六日、別件審判請求事件について、本件登録商標の使用をしていることを証明するための証拠を添附して、被告(請求人)の申立ては成り立たないとの審決を求める旨の答弁書を提出したことが認められるけれども、右の答弁書及び添附の証拠をもつて本件審判請求事件の答弁書及び証拠の提出とみることはできず、また、原告が本件審判請求事件において答弁及び本件登録商標の使用についての証拠の提出をしなかつたことは、原告の自認するところであるから、商標法第五〇条第二項の規定に基づき、本件審判請求事件において本件登録商標に係る商標登録を取り消すべきものであるとした本件審決の判断は、相当であるといわざるを得ない。原告は、工業所有権に関しては素人であるから、一つの審判請求事件について答弁すればよいのではないかと判断した旨主張するが、たとえ右主張のとおりであるとしても、原告は、本件審判請求事件について、審判長から商標法第五六条において準用する特許法第一三四条の規定に基づき相当の期間を指定して答弁書(なお、答弁書の様式を定める商標法施行規則第六条第七項において準用される特許法施行規則第四七条の規定による答弁書の様式二七によれば、答弁書には、答弁の趣旨、理由の外に証拠方法をも記載することになつている。)提出の機会を与えられた(このことは原告の明らかに争わないところである。)にもかかわらず、その提出を怠つたものであるから、原告主張の右事実は、本件審判請求事件についての答弁及び商標法第五〇条第二項の本件登録商標使用についての被請求人である原告の証明義務を免れしめる理由とはなり得ないものというべきである。また、原告は、本件審判請求事件の結審時である昭和六〇年六月二五日の時点においては、既に本件審判請求事件と同一内容の別件審判請求事件について予告登録がされ、別件審判請求事件について原告(被請求人)の答弁書の提出もされていたところ、他の審判請求事件の係属の有無及び他の審判請求事件での答弁書提出の有無は、本件審判請求事件における職権探知事項であるから、他の審判請求事件で提出された答弁書を考慮しなかつた本件審決には、審理不尽の違法がある旨主張するが、本件審判請求事件において、その後に同一内容の審判請求事件が係属したかどうか、その審判請求事件で答弁書が提出されたかどうかなどの事実は、職権探知事項の範囲に属するものと解すべきでないばかりか、本件審判請求事件の係属後に同一請求内容の審判請求事件が係属するということは、通常ひんぱんに起こることであるとは解されないから、本件審判請求事件の審判官に、その後に同一請求内容の審判請求事件が係属したかどうか、同審判請求事件で答弁書が提出されたかどうかなどの調査及び調査の結果に基づく適切な審理上の措置を期待することは事実上困難であるのに対し、原告(被請求人)は、両審判請求事件の係属を最もよく了知しているのであるから、原告(被請求人)がその責任において適切な措置を採るのを至当とすべく、したがつて、本件審判請求事件において、別件審判請求事件で答弁書及び証拠が提出されたことが考慮されなかつたとしても、そのこと自体をもつて本件審決に審理不尽の違法があるものとはいい得ないから、原告の右主張は、採用することができない。
2 原告は、本件登録商標が元来国際的に著名な中国の商標であること、中国土産畜産進出口総公司広東省畜産分公司の委託に基づいて本件登録商標の商標登録出願をし、設定登録を受けたものであることなどを挙げて、本件登録商標に係る商標登録が取り消されると、わが国の商標制度の国際的信用を失墜せしめることになるから、本件審決には審理不尽の違法がある旨主張するが、本件審決がその結論のとおり判断したのは、原告において本件審判請求事件で適切な対応をしなかつたことによるものであつて、本件登録商標に係る商標登録を違法に取り消したものではないから、本件審決がわが国の国際的信用を失墜せしめることになるとは考えられず、また、たとえ原告の主張するとおりであるとしても、その主張事実は、それ自体本件審決を取り消すべき事由に該当するものではなく、したがつて、原告の右主張も、採用の限りでない。