大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)153号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本願第一発明の要旨が審決認定のとおりであること、第一引用例に絶縁層を「一体に」設けた構成を除き審決認定の構成を有する絶縁付ボルトが記載されていること、第二引用例に審決認定の事項が記載されていること、本願第一発明と第一引用例の考案とは絶縁層を「一体的に」設けた点を除き審決認定の一致点、相違点があることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

前示当事者間に争いのない事実によれば、本願第一発明と第一引用例の考案とは、「少くとも一端にねじ部を形成した断面円形のボルト素材におけるねじ部を除く胴部外周面に絶縁層を設け、絶縁層の外径をねじ部の山径に略同一径とした電気絶縁用ボルト」である点で一致し、その絶縁層を設ける点につき、審決が相違点(2)として指摘するとおり、本願第一発明の絶縁層が「胴部外周面にプライマを塗布して形成したプライマ層を設け、プライマ層の外周面に絶縁樹脂材をライニングして形成した」ものであるのに対し、第一引用例の考案の絶縁層が「軸部外周に絶縁物を挿入できる溝を施し、そこに単に絶縁物を挿入した」ものであるとの差異があることが明らかである。

そして、本願第一発明の絶縁層が右のようにして形成されたものであることの意義、効果に関し、成立に争いのない甲第四号証により認められる本願明細書の発明の詳細な説明の項には、従来周知の電気絶縁用転造ボルトにおいては「ボルト素材に絶縁スリーブを嵌め込むだけであるから、絶縁スリーブをボルト素材に対して強固に固着できず、そのため得られた製品は締付時に生じるねじれや応力により絶縁スリーブが簡単に破断したり離脱する欠点があつた」(同号証二欄二九―三四行)のに対し、「本発明は転造ボルトの中央部外周面をプライマ処理し、その外周面に絶縁性を有する熱可塑性樹脂をライニングして絶縁層を形成することにより前記欠点を一挙に解決した電気絶縁用転造ボルト及びその製造方法を提供しようとするものである」(同二欄三五行~三欄三行)こと、本願明細書添付図面(別紙図面)に示す実施例において「絶縁層4を形成する場合、ボルト素材2の外周に予めプライマ6を塗布しており、しかもボルト素材2の温度をライニングする熱可塑性樹脂の溶融温度より高くしているのでボルト素材2の外周面に対する絶縁層4の固着力は極めて強固なものとなつている」(同四欄二~七行)こと、また、「この電気絶縁用転造ボルト1の締付けに際して絶縁層4がフランジ8、8の締付ボルト孔9、9の内面に強く接触することがあつても絶縁層4は下塗りしたプライマ6によつてボルト素材2外周に強固に固着しているので簡単に破壊したりあるいは脱落することがない」(同四欄二六~三一行)のであつて、「以上実施例に示す如く本発明電気絶縁用転造ボルトは、ボルト素材におけるフランジの締付ボルト孔に対応する胴部外周にプライマを塗布し、その外周面に絶縁層を一体的に形成したものであるから、絶縁層のボルト素材への固定は強固なものとなり、電気絶縁用転造ボルトの締付時に生じるねじれや応力により絶縁スリーブが簡単に破断したり離脱することは全くなく、従つてボルト素材とフランジとの接触を確実に防止できて、フランジ間の短絡を防止できるから配管の電解腐食現象を完全に防止することができる」(同五欄三三行~六欄一八行)効果を奏するものと説明されていることが認められる。これらの説明によれば、前示本願発明の特許請求の範囲第一項の「絶縁層を一体的に設け」とは、絶縁層を「胴部外周面にプライマを塗布したプライマ層を設け、プライマ層の外周面に絶縁樹脂材をライニングして形成した」ことにより、絶縁層がボルト素材に固着されて電気絶縁用転造ボルトの構成部分となつていることを意味するものと解するのが相当である。

一方、第一引用例に示される電気絶縁用ボルトの絶縁層は、前示のとおり、軸部外周に絶縁物を挿入できる溝を施し、そこに単に絶縁物を挿入して形成されるものであつて、このような手段で形成された絶縁層は、ボルト素材に固着されているものの、本願第一発明の絶縁層のようにプライマを塗布して形成したプライマ層の外周面に絶縁樹脂材をライニングして形成したものではないから、自ら絶縁層はボルト素材に対して本願第一発明におけるようには強固に固着できず、本願明細書に示された本願第一発明の右効果を奏しないことが認められる。

以上の事実によれば、原告が本願第一発明の絶縁層は一体的に形成されているのに対し、第一引用例の考案の絶縁層は一体的に形成されていないとして主張する差異は、両者における絶縁層の形成手段が異なるところによつて生じる差異であることが明らかであり、この形成手段の差異は、審決が両者の相違点(2)として摘示し、判断を加えているところにほかならない。すなわち、前示当事者間に争いのない審決の理由の要点によれば、審決は、両者における形成手段が異なることを相違点(2)としてとらえた上、これを前提として、両者の絶縁層が共にボルト素材に固着されて電気絶縁用ボルトの構成部分となつている状態を絶縁層が「一体的に」形成されていると表現したものであることが明らかである。そして、このように表現しても、審決が本願第一発明及び第一引用例の考案の技術内容を誤つて把握したことにならないことは、前叙のところに照らし明白といわなければならない。

したがつて、審決が、第一引用例に「胴部外周面に絶縁層を『一体に』設け」た構成が記載されているとし、本願第一発明と第一引用例の考案が「胴部外周面に絶縁層を『一体的に』設け」た点で一致すると判断したことは相当であり、そこに原告主張の誤りがあるということはできない。

2 取消事由(2)について

本願出願前に転造ねじ部を形成した転造ボルトは周知のものであつたことは当事者間に争いがなく、前掲甲第四号証によれば、この転造ボルトに絶縁層を設けて、絶縁フランジ部の締付けに使用する電気絶縁用転造ボルトとしたものが従来から存在したこと、この電気絶縁用転造ボルトの製造方法の一つとして「ボルト素材の端部に転造ねじ部を形成した後、絶縁スリーブを嵌め込み、絞り加工して転造ねじ部と同一外径の絶縁層を形成する方法」(同号証二欄一三~一五行)が本願出願前から周知であつたことが認められ、本願第一発明が、右従来方法によつては絶縁層をボルト素材に対して強固に固着できない欠点を解消するために、前示相違点(2)に示す形成手段を採用して絶縁層を形成したものであることは、前叙のとおりである。

そして、本願第一発明が採用した右絶縁層の形成手段すなわち「胴部外周面にプライマを塗布して形成したプライマ層を設け、プライマ層の外周面に絶縁樹脂材をライニングして形成」することは、第二引用例に開示されていることが当事者間に争いのない「金属性導体の表面部分にプライマを塗布し、そのプライマ層の外周面に絶縁樹脂材をライニングして絶縁層を形成した」技術手段そのものであつて、公知技術の適用にすぎないことが明らかである。

原告は第二引用例の技術は本願第一発明のそれと無縁のものである旨主張するが、金属導体に電気絶縁層を形成することにおいて両者同一の技術分野に属するものであることは自ら明らかである。また、成立に争いのない乙第一号証によれば、電気絶縁ボルトにおいて、ねじ部を除く胴部をねじ底部の直径前後まで削り落し、そこにねじ部の山径と略同一径となるまで絶縁層を焼付け、巻付け、塗布等適宜の手段を用いて形成することはすでに本願出願前に周知の技術であつたことが認められるから、このことに照らしても、第二引用例の技術を転造ボルトに適用することに特段の発明力を必要としないことは明白である。

そうすると、第一引用例の考案に係るボルトを周知の転造ボルトにし、絶縁層の形成につきそのボルトのねじ部を除く胴部外周面に第二引用例記載の絶縁層形成手段を適用し、本願第一発明の構成を得ることは、当業者の容易に想到できるところといわなければならない。

そして、右1で認定した本願明細書の記載によつて明らかなとおり、本願第一発明の効果として原告が主張する<イ><ロ><ハ>の点は、本願第一発明が第二引用例に示される公知の絶縁層形成手段を採用して絶縁層を形成する構成を採用したこと自体から生じる効果であり、同<ニ>の効果は、右絶縁層形成手段にあつては、第一引用例の絶縁層形成手段のようにボルト素材の軸部外周に溝を設けることをしないことから生じる効果であることが明らかであるから、いずれも、第一、第二引用例と周知技術に基づいて本願第一発明の構成を得るに当たり、当業者が当然予測できる程度のものと認められ、これを特別顕著なものということはできない。

原告が右<ロ>の効果に関して主張する本願明細書記載の表に示される試験結果は、前掲甲第四号証により明らかなとおり、本願第一発明の実施品と絶縁スリーブを嵌合して絶縁層とした従来品との比較結果にすぎず、これをもつて右認定を覆えすに足りる資料ということはできない。

その他原告が主張するところがいずれも理由のないことは、右に述べたところによつて明らかである。

3 以上のとおりであるから、本願発明が特許法二九条二項により特許を受けることができないとした審決の判断は正当であり、その他審決にこれを取り消すに足りる違法の点は見当たらない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 少なくとも一端に転造ネジ部を形成した断面円形のボルト素材における転造ネジ部を除く胴部外周面にプライマを塗布して形成したプライマ層を設け、プライマ層の外周面に絶縁樹脂材をライニングして形成した絶縁層を一体的に設け、絶縁層の外径を転造ネジ部の山径に略同一径となした電気絶縁用転造ボルト。

2 断面円形のボルト素材の少なくとも一端に転造ねじ部を形成し、ボルト素材の転造ねじ部を除くボルト胴部の外周面にプライマを塗布した後、転造ボルトをライニングすべき絶縁樹脂の溶融温度以上に加熱した状態で、転造ねじ部を保護カバーで螺着することによつて、ボルト胴部のみに絶縁樹脂をライニングして絶縁層を形成することを特徴とする電気絶縁用転造ボルトの製造方法。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!