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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)185号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実、審決の理由の要点中2の第一及び第二引用例の各記載の認定、同3の本願考案と第二引用例との一致点及び相違点の認定、同4の右相違点に対する判断のうち(一)の認定並びに請求の原因四の(二)のうち、本願明細書の考案の詳細な説明の項に原告主張の<1>、<2>の記載があることは当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由について順次検討する。

1  取消事由(1)について

(一)(1)  前叙当事者間に争いのない本願考案の実用新案登録請求の範囲によると、本願考案における発信機は、

(イ) 「運動する第一、第二のスイツチ及び応答表示器を具備し、

(ロ) その応動時に、第一のスイツチによつて地区線路を低インビーダンスに短絡するとともに、

(ハ) 受信機より伸びた応答線及び第二のスイツチによつて応答表示器が点灯され、

(ニ) 受信機より伸びた地区線路に接続され、

(ホ) その応動時に、第二のスイツチによつてタイマー回路を経ることなく警報器を駆動する、」との構成を有することが明らかである。

一方、成立に争いのない甲第四号証(本願考案の実用新案公報)によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の項には、本願考案の前提技術である従来の火災警報設備とその応答線の機能について、「一般に火災警報設備は、……火災現象を感知し、電気信号に変換する火災感知器と、火災を人間が判別して押し釦スイツチを操作し電気信号を発生させる発信機と、これらの電気信号を受信し、火災発生場所の表示あるいは火災警報を発する受信機より構成されている。なお、上記受信機は、押し釦スイツチを押すことによつて閉路状態にロツクされ、火災信号を発生するとともに、受信機でこの信号を受信したとき、応答信号を応答線を介して発信機に返送し、発信機に設けられた応答表示器に表示されるように構成されている。」(一欄三四行~二欄九行)と記載されていることが認められる。

(2)  そこで、まず本願考案の発信機を構成する要件の一つである前記(ハ)の構成についてみるに、この構成は、受信機より伸びた応答線と第二のスイツチによつて応答表示器を点灯させることであるから、これをいい換えると、応答表示器は応答線と第二のスイツチとにそれぞれ接続されており、発信機の応動時には、応答線を経由して来た応答信号が第二のスイツチと応答表示器とに流れる構成であることを意味するものと解される。従つて、(ハ)の構成は取りも直さず前記認定の従来の火災警報設備に具備されている応答線の有する機能をそのまま本願考案の構成として記載したものに外ならない。このことは、右構成が本願考案の前記実用新案登録請求の範囲の前段部分、即ち「応動時に……火災警報設備において、」の記載部分に包含されていることからもうかがえる。

(3)  次に、発信機を構成する他の要件の一つである(ホ)の構成についてみるに、この構成は、発信機の応動時に、第二のスイツチによつてタイマー回路を経ることなく警報器を駆動することを規定するに過ぎず、応答線の構成、機能については何も規定していない。そして、本願考案の前記実用新案登録請求の範囲のその余の部分にも応答線が従来の火災警報設備において用いられている応答線の有する機能以上の機能を有する旨の記載がない。しかも、前記本願考案の実用新案登録請求の範囲によると、応答線が接続される受信機の構成について特段の限定がないことが認められ、従つて、右実用新案登録請求の範囲からは、応答線はそれが接続される受信機側について具体的に受信機のどのような個所に接続されるのか、いい換えると従来の火災警報設備の受信機において応答線が接続されている個所と同じであるのか異なるのか、仮に異なるとすればその接続個所は受信機のどのような部分であるのか明らかでない。そして、この点が明らかにならなければ、応答線に応答表示器を点灯させるという機能のほかに警報器をも駆動させるという別異の機能を兼有させることができないものである。

(4)  そうすると、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載からは、その応答線が従来の応答線の機能のほかに第二のスイツチのスイツチング動作によつて警報器を駆動させる機能を兼有すると解すべき根拠を見出すことはできない。従つて、本願考案は、警報器の駆動が発信機の第二のスイツチに接続されている応答線を経由して行われることを構成要件とするものであると認めることはできない。

(5)  原告は、本願明細書の実用新案登録請求の範囲の記載自体から本願考案の第二のスイツチが応答線に接続されていることが明らかであるから、第二のスイツチによる警報器の駆動は当然に応答線を経由して行われる旨主張する。そして、第二のスイツチが応答線に接続されていること、応答線の回路が第二のスイツチによりスイツチングされることは原告主張のとおりである。

しかし、前記(ハ)及び(ホ)の構成に関連して述べたところから明らかなとおり、応答表示と警報器の駆動とはもともとその機能を異にするものであつて両者の回路構成は当然に異なるものであり、本願考案の前叙の実用新案登録請求の範囲からは第二のスイツチに応答線の回路だけが接続されていると認めることはできない。そして、前記(ハ)の構成と(ホ)の構成は「第二のスイツチによつて」の点を共通の構成要素としているので第二のスイツチが両回路に共通に接続されていることは認められるけれども、第二のスイツチのスイツチング動作により応答表示器の点灯動作と同時にタイマー回路を経ることなく警報器を駆動する動作が応答線を経由して行われるものと認めることはできない。

(6)  よつて、原告の取消事由(1)の(一)の主張は採用できない。

(二)  本願明細書の発明の詳細な説明の項に原告主張の<1>、<2>の記載があることは前叙のとおり当事者間に争いがなく、右の各記載及び前掲甲第四号証に記載の図面(別紙図面)によれば、本願明細書の考案の詳細な説明及び図面には、発信機の応動時、右発信機の第二のスイツチによつて、タイマー回路を経ることなく、かつ応答線を経由して警報器を駆動することが実施例の形式で記載されていることが認められる。

しかし、実用新案登録請求の範囲が不明瞭でありそれ自体からは考案の要旨が把握できない場合には、右不明瞭な点について考案の詳細な説明を参酌して考案の要旨を認定しなければならないが、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載にはそれ自体不明瞭な点はない。そして、右実用新案登録請求の範囲からは原告が主張する構成を考案の要旨と認めることができないものであることは(一)に詳細判示したとおりである。

そうすると、前記考案の詳細な説明の項及び図面に記載された事項は、本願考案における一つの実施例を開示しているに過ぎないものであり、この記載をもつて本願考案の要旨を原告主張のとおり認定することはできない。

従つて、原告の取消事由(1)の(二)の主張も採用できない。

(三)  以上のとおりであるから、審決が本願考案の要旨を前記実用新案登録請求の範囲に記載のとおりである旨認定し、また本願考案と第二引用例のものとの対比判断に当たり、審決の理由の要点4の(二)のとおり認定した点に誤りはない。

よつて、原告主張の審決取消事由(1)は採用できない。

2  取消事由(2)について

原告主張の審決取消事由(2)は、本願考案が発信機の応動時、右発信機の第二のスイツチによつて、タイマー回路を経ることなく、かつ応答線を経由して警報器を駆動することを構成要件とするものであることを前提とするものである。しかし右前提事項が誤りであることは1に詳述したところである。

従つて、審決に原告が主張する本願考案の効果についての看過はなく、原告主張の審決取消事由(2)も採用できない。

3  以上のとおりであつて、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法の点はない。

三  よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註その一〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

応動時に端子間を低インピーダンスで短絡する火災感知器と、連動する第一、第二のスイツチ及び応答表示器とを有し、応動時該第一のスイツチによつて地区線路を低インピーダンスで短絡するとともに、受信機より伸びた応答線及び上記第二のスイツチによつて該応答表示器が点灯される発信機とが受信機より伸びた地区線路に接続され、上記火災感知器及び発信機の動作を検出する火災検出回路と、該回路によつて駆動される警報器とを備えた火災警報設備において、上記火災検出回路と警報器との間にタイマー回路を設け、上記発信機の応動時、該発信機の第二のスイツチによつて、上記タイマー回路を経ることなく上記警報器を駆動するように構成したことを特徴とする火災警報設備。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙

<省略>

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