東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)201号 判決
一 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。
1 本願商標の構成が別紙第一目録記載のとおりであり、引用商標の構成が別紙第二目録記載のとおりであること、本願商標から「キヨウシユウ」の、引用商標から「キヨウシユ」の各称呼が生ずることは、当事者間に争いがない。
そこで右両称呼を対比してみると、両者は、その語頭からの「キヨウシユ」の音が同一であり、本願商標がその語尾に「ウ」の音を有するのに対し、引用商標はこれを有しない点で異なるにすぎないと認められる。そして、本願商標における右語尾の「ウ」の音は、その前音である「シユ」と区別して単音で「ウ」と発音又は聴取されるのではなく、「シユ」と合してその長音「シユー」と発音又は聴取されることは明らかであり、また、語尾の長音はそれが弱く発音されるとき短音と区別しにくいことも経験則上明らかである。したがつて、「キヨウシユウ」と「キヨウシユ」とは、これらを一連に称呼するとき語感、語調が互いに近似し、彼此混同されるおそれがあると認められる。
2 原告は、本願商標と引用商標がそれぞれ表意語からなることを主たる理由として、両者は称呼上混同されることはない旨主張する(請求の原因四3)。しかし、原告も認めるとおり同一の称呼から種々の用語が連想されるとすれば、その表意語の持つ観念によつてのみその称呼が理解されることとはならないから、表意語であるからといつてその称呼上の混同が避けられることにはならないことは明らかである。このことは、「京繍」が「京都刺繍共同組合」の略称としての性質を有するとしても同じであり、原告の右主張は採用できない。
3 原告は、また、本願商標がもつぱら証明標として機能することを理由に本願商標を使用した商品と引用商標を使用した商品との出所の混同は生じない旨主張する(前同4)。
しかし、商標がその指定商品に使用された場合、商標使用者の主観的な使用目的がいずれにあれ、商品の取引者、需要者がその商標から生ずる称呼によつてその商品を識別しようとすることは取引の実情からして当然に考えられるところであり、この場合、称呼が類似していれば商品の出所の混同が生ずることは避けられないといわなければならない。本願商標の使用される商品がいわゆる伝統的工芸品の指定を受けているものであるとしても、商品として取引の対象とされるものであることに変りはないから、右に述べたことはそのまま当てはまるといわなければならず、原告の右主張も採用することができない。
4 以上のとおり、本願商標と引用商標がその称呼において混同されるおそれがある以上、その外観及び観念において相違するとしても、なお両商標は、これを全体としてみた場合類似する商標といわなければならない。
したがつて、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点は見当たらない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件の特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五二年七月二〇日、「京繍」及び「京都刺繍協同組合」の漢字を上下二段に横書きし、そのまわりを唐草模様で囲んでなる別紙第一目録記載のとおりの商標(以下、「本願商標」という。)につき、指定商品を第一七類「被服、その他本類に属する商品」として商標登録出願をした(同年商標登録願第五二〇三三号)が、昭和五六年一二月五日に拒絶査定を受けたので、昭和五七年三月三日、これに対し審判の請求をした。特許庁は、これを同年審判第四二七八号事件として審理した上、昭和六〇年八月二七日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一〇月二四日、原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本願商標の構成、指定商品及び登録出願日は前項記載のとおりである。
2 これに対し、登録第六七〇三九四号商標(以下、「引用商標」という。)は、別紙第二目録記載のとおり、「京趣」の漢字を縦書きしてなり、第一七類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、昭和四〇年三月一七日登録出願、同四一年一〇月四日登録、昭和五二年三月七日商標権存続期間の更新登録がされたものである。
〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙
第一目録(本願商標)
<省略>
第二目録(引用商標)
<省略>