東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)208号 判決
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであること、本願明細書には、本願発明の要旨中の「基板ウエブの対向する各々の面に、接着剤を使用しないで、直接導電面を接合」するという要件の具体的方法(実施例)として、(イ)加熱された圧力ローラによつて基板ウエブ及び導電箔を加熱しながら圧着する方法、(ロ)導電箔からなる二枚の隔てられたウエブの間に液状プラスチツク剤の層を押し出し、これを冷間ローラの間に通すことによる方法、の二つの方法が、また、同じく「高速ウエブ印刷」という要件の実施例としてグラビア印刷機が記載されていること、第一引用例及び第二引用例に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、並びに、プラスチツクフイルム相互又はプラスチツクフイルムと金属箔を加熱されたローラによつて圧着接合すること、プラスチツクフイルムを液状として金属箔とプラスチツクを接合させること、プリント基板製造の際の耐蝕性材料の印刷にグラビア印刷を用いることが本願発明の優先権主張日前周知であることは、いずれも、当事者間に争いがなく、本願発明と第一引用例の記載事項とは、本件審決認定のとおり、(1)ないし(4)の点で相違し、その他の点では一致していること、及び右相違点に対する判断中相違点(1)及び(3)についての判断は原告の認めるところである。
二 取消事由に対する判断
1 取消事由(一)(相違点(2)についての判断の誤り)について
(一) 前示のとおり、本願明細書には、本願発明の要旨中の「基板ウエブの対向する各々の面に、接着剤を使用しないで、直接導電面を接合」する具体的方法(実施例)として、(イ)加熱された圧力ローラによつて基板ウエブ及び導電箔を加熱しながら圧着する方法、(ロ)導電箔からなる二枚の隔てられたウエブの間に液状プラスチツク剤の層を押し出し、これを冷間ローラの間に通すことによる方法が記載されており、成立に争いのない甲第二号証(本願発明についての特許願及び添付の明細書、図面)によれば、前記実施例はいずれも好ましいとされる基板ウエブについてはプラスチツク材(特にポリエチレン)、導電箔としてはアルミニウムを用いて形成された回路基板に関するものであることが認められるところ、本願発明の優先権主張日前、(イ)´プラスチツクフイルム相互又プラスチツクフイルムと金属箔を加熱されたローラによつて圧着接合すること及び(ロ)´プラスチツクフイルムを液状として金属箔とプラスチツクを接合させることが周知であることは当事者間に争いがないのであるから、本願発明のタグに用いられる回路基板を製造するに際し、導電性の箔をプラスチツクフイルムの表面に接合する手段として、接着剤を用いずに(イ)及び(ロ)の方法により直接接合する方法を用いることは、単にそれぞれ(イ)´及び(ロ)´の周知の方法を採用したに過ぎないものであつて、当業者が容易になし得る程度のことであり、格別困難なこととは認められない。
したがつて、基板ウエブの対向する各々の面に接着剤を使用しないで直接導電面を接合する点に格別の新規性が認められないとする本件審決の相違点(2)の認定判断に誤りがあるとはいえない。
(二) 原告は、本願発明では、基板ウエブの対向する各々の面に、導電面を接着剤を使用しないで直接接合するという構成を採用することにより、導電面間の間隔が正確になり、正確な電気的特性を有する共振タグを製作することができるという特有の効果を奏するものであるから、格別の創意を要した旨主張するが、金属箔とプラスチツクフイルムを接着剤を用いることなく直接接合すれば、接着剤の厚さの不均一性に基づく導電面間の間隔の不均一性がなくなり、そのことによつて接着剤の厚さの不均一性に基づく電気的特性の差がなくなることは明らかであつて、正確な電気的特性を有する共振タグを製作することができるという効果は、基板ウエブの対向する各々の面に導電面を接着剤を使用しないで直接接合するという周知の手段を採用することによつて得られる当然の効果に過ぎないと解されるから、原告の右主張を採用することはできない。
2 取消事由(二)(相違点(4)の認定判断の誤り)について
(一) 前示のとおり、本願明細書には、本願発明の要旨中の耐蝕性材料を用いる印刷手段である「高速ウエブ供給型印刷」という要件の実施例として、グラビア印刷が記載されているところ、グラビア印刷が高速ウエブ供給型印刷に適していることが周知であることは当事者間に争いがなく、また、本件審決が相違点(3)において示した、基板全面に設けられた導電箔上に耐蝕性材料によつて回路模様を印刷することが周知であることも原告の認めるところであるから、本願発明に係る平面状共振タグの第1反復回路模様及び第2反復回路模様の耐蝕性材料による印刷手段として、右周知の高速ウエブ供給型印刷を用いることにすることは当業者が容易になし得る程度のことであつて、格別困難なこととは認められない。
したがつて、グラビア印刷、すなわち、高速ウエブ供給型印刷の方法により、回路模様を導電面上に耐蝕性材料を用いて印刷する点に格別の創意を要したものと認められないとする本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
(二) 原告は、本願発明は、従来技術に比べて、印刷にマスクを使用する必要がなく、印刷されていない金属部分の除去の後、耐蝕性材料を除去する必要がなく、洗浄の必要がなく、その結果、工程を少なくすることができる旨主張するが、印刷にマスクを使用する必要がないとの点は、本願発明の一実施例において周知のグラビア印刷を用いたことに伴う当然予測される効果に過ぎず(グラビア印刷による場合には印刷にマスクを使用する必要がないことは当事者間に明らかに争いのないところである。)、また、印刷されていない金属部分の除去の後、右印刷に用いた耐蝕性材料を除去する必要がなく、洗浄の必要がないとの点は、使用する耐蝕性材料の性質等によつて決せられる事項に過ぎず、印刷手段とは直接に関わりのないことであり、右事実をもつて、本願発明において、グラビア印刷、すなわち、高速ウエブ供給型印刷を採用することを困難ならしめる事実と解することはないから、原告の右主張を採用することはできない。
3 そうだとすれば、本願発明は、引用例及び前示周知の事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当であつて、本件審決に原告主張の誤りや違法の点はない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
少なくとも一個の誘導子と少なくとも一個のコンデンサとを含む一体に形成された回路要素にて少なくとも一個の自己抑制動作をなすように整調された回路を各々が有している、複数個の独立した平面状共振タグを製作する方法にして、対象とする周波数で低い散逸係数を有し、そして安定した誘電定数を有している所定の厚さの材料の絶縁基板ウエブを準備し、間隔をへだてた導電面間の正確な厚さ及び誘電特性を維持するために、基板ウエブの対向する各々の面に、接着剤を使用しないで、直接導電面を接合し、少なくとも一個の誘電子と少なくとも一個のコンデンサの部分として機能する導電性領域との形態を含む第1反復回路模様を、該基板ウエブの一方の導電面上に耐蝕性材料を用いて印刷し、該一方の導電面上の導電性領域に整合して少なくとも一個のコンデンサの部分として機能する導電領域の形態を含む第2反復回路模様を、該第1反復回路模様に対して所定の通りに関係する位置にて該基板ウエブの他方の導電面上に耐蝕性材料を用いて印刷し、ここで該印刷段階が高速ウエブ供給型印刷を含み、かつ該第1および第2プリント回路模様は、少なくとも一個のコンデンサを規定している該導電性領域とその間にはさまれた該基板ウエブの誘電材とを有する、平面状タグを規定する、該基板ウエブの両面上の該導電面の印刷されていない領域を除去し、それによつて該プリント回路模様に一致する反復した、第1および第2の、協働する導電性模様を形成するために、該第1および第2の回路模様をエツチングし、そして独立して平面状共振タグを形成するために協働回路模様を分離することから成ることを特徴とする方法。