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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)219号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実、審決の理由の要点中本願発明の要旨認定、引用例の記載事項の認定、本願発明と引用発明との相違点の認定並びに一般に多くの官能基を持つ化合物の反応において、反応剤の使用量を調節するなどの手段によつて、官能基の全部を反応させたり、一部が反応しないで残るように反応させたりすることが当業者間に広く行われていることは、いずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

(一) 当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲によると、本願発明は原料化合物(出発物質)としてカナマイシンA若しくはB又は分子中の6´―位のNH2基がシリル基以外の保護基で保護されているカナマイシンA若しくはBを使用して、この原料化合物と所定のシリル化剤とを右原料化合物中のNH2基及び(又は)OH基の一部がシリル化されないような条件(部分シリル化)で反応させ、これによつて右原料化合物に対応するアシル化用中間体として有用なカナマイシンA若しくはBのポリシリル化誘導体(部分シリル化されたカナマイシンA若しくはB)を生成させるという構成からなるものであることが認められる。

(二) これに対し、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例には、カナマイシンB―3´―リン酸エステル、トリメチルシリルクロリド、ヘキサメチルジシラザン及び無水ピリジンの混合物を加熱するなどして、3´―クロル―3´―デオキシカナマイシンBを製造する方法が記載されていることが認められる(甲第四号証五頁の参考例1)。

右記載によれば、引用発明は原料化合物としてカナマイシンB―3´―リン酸エステルを使用し、この原料化合物にシリル化剤であるヘキサメチルジシラザンを反応させるものであること、そして右シリル化反応の結果右原料化合物の分子中のリン酸エステル基を除いてその他のNH2基及びOH基のすべて(合計一〇個の官能基)がシリル化されたリン酸エステル基を有する生成物が得られるものであることが認められる(なお、残る官能基計一〇個がすべてシリル化されていることは当事者間に争いがない。)。

(三) そこで、右(一)、(二)に認定の事実を前提として本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明では、原料化合物(出発物質)としてカナマイシンA若しくはB、又は分子中の6´―位のNH2基がシリル基以外の保護基で保護されているカナマイシンA若しくはBを使用し、この原料化合物の分子中のNH2基及び(又は)OH基の一部がシリル化されないような条件で反応させて部分シリル化されたカナマイシンを生成させることを構成要件とするものであるのに対し、引用発明にあつては、原料化合物(出発物質)としてカナマイシンB―3´―リン酸エステルを使用し、この原料化合物とシリル化剤とを反応させて右原料化合物の分子中のリン酸エステル基を除いてその他のNH2基及びOH基のすべてがシリル化されたリン酸エステル基を有する生成物を製造する点で、両発明は、その原料化合物(出発物質)及びその生成物の点においても相違することは明らかである。

(四) 被告は、引用例にはカナマイシンB―3´―リン酸エステルについて、このリン酸エステルはアミドグリコシド抗生物質から製造するものであることが記載されており、アミノグリコシド抗生物質としてカナマイシンA及びBが例示されていることを理由に引用発明も結局本願発明と同様カナマイシンA若しくはBより出発するものである旨主張する。

しかし、引用発明の原料化合物は前認定のとおりカナマイシンB―3´―リン酸エステルであるところ、たとい、右原料化合物がカナマイシンA若しくはBを出発原料とするものであるとしても、カナマイシンA若しくはBがシリル化反応に直接供する化合物即ちシリル化反応における原料化合物でないことは明らかである(このことは被告も争つていない。)。そして、シリル化反応における原料化合物として右カナマイシンB―3´―リン酸エステルがカナマイシンAなど本願発明の原料化合物と実質上同一視できる旨の主張、立証はない。従つて、被告の右主張は失当であつて採用できない。

(五) そうすると、本願発明の生成物であるカナマイシンA若しくはBのポリシリル化誘導体が新規物質であることは被告の自認するところであるから、本願発明と引用発明との間には、審決が認定するシリル化条件に関する相違点以外にシリル化反応の原料化合物(出発物質)及び生成物について構成上の相違点があることが明らかであるところ、審決はこれらの相違点を看過したものといわなければならない。そして、前述したところに照らせば、右相違点の看過は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

2 そうしてみると、審決は、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消を免れない。

三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

カナマイシンA若しくはB又は分子中の6´―位のNH2基がシリル基以外の保護基で保護されているカナマイシンA若しくはBを式

<省略>

〔式中、R5、R6及びR7は水素、ハロゲン、(低級)アルキル、ハロ(低級)アルキル及びフエニルからなる群から選択され、前記5、R6及びR7基の少なくとも一種はハロゲン又は水素以外の基であり、R4は(低級)アルキルであり、mは1~2の整数であり、そしてXはハロゲン又は<省略>は水素又は(低級)アルキルであり、そしてR9は水素、(低級)アルキル又は<省略>(R5、R6及びR7は前記定義通り)である〕である〕を有するシリル化剤とカナマイシンA若しくはB又は6´―N―保護カナマイシンA若しくはBの分子中のNH2基及び(又は)OH基の一部がシリル化されないような条件で反応させてカナマイシンA若しくはBの分子中のNH2基及び(又は)OH基の保護基として該分子中にシリル基2~10個を含有するポリシリル化カナマイシンA若しくはB、又はカナマイシンA若しくはBの分子中の6´―位のNH2基がシリル基以外の保護基で保護されており他のNH2及び(又は)OH基の保護基として該分子中にシリル基2~9個を含有する6´―N―保護ポリシリル化カナマイシンA若しくはBを生成させることを特徴とするアシル化用中間体として有用なカナマイシンA若しくはBのポリシリル化誘導体の製造法。

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