東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)227号 判決
一 請求の原因一及び二は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用商標の構成、指定商品、出願日、登録日が審決の理由の要点2摘示のとおりであることが認められる。
二 そこで、本願商標と引用商標の類否を検討する。
1 本願商標の前半の「SLUR」の文字部分は、演奏用語として知られ日常「スラー」と日本語化して発音されているslur<省略>と同一綴であり「PEE」の文字部分は英単語の語頭又は語尾に多く用いられ〔pi:〕(ピー)と発音される綴りであることは広く知られているところである。したがつて、右両綴を合体した本願商標を「スラーピー」と発音することが最も自然な形での称呼というべきである。
2 次に、本願商標の称呼である「スラーピー」と引用商標の称呼である「スローピー」を対比すると、ともに三音よりなるそれ自体としては特定の観念を有しない造語であり、このうち第二音と第三音が長音で第一音(ス)と第三音(ピー)を共通とし、差異のある第二音(「ラー」と「ロー」)はいずれもラ行に属し、調音の方法や音質に共通する要素を有しているから、両称呼を一連のものとして発音すれば、類似の語調をもつて聴取され、その結果両者は称呼上彼此混同されるおそれがあるものと認めるのが相当である。
3 原告は、両商標において差異のある第二音の「ラ」と「ロ」はともに強音であり、かつそれぞれ母音を異にすることを理由に称呼上の類似性を否定する。
しかし、引用商標も本願商標同様造語でありそれ自体意味のある単語でないことはその構成から明らかなところであり、両者とも称呼により全体として生ずる語調、語感により聴者に訴えようとするものであるから、原告主張のように個々の文字を抽出してその異同を論ずるのは相当でなく、両者の構成に前記のような共通性が認められる以上、これを一体的なものとして一連に発音した場合その称呼上の類似性は否定し得ないものというべきである。
原告が日常生活上混同されるおそれのないものとして例示する単語の中には二音構成のものがあり、また、三音構成のものもいずれも長音を含んでいないから、本願商標と引用商標の類否検討にあたつての対比事例としては相当性を欠くものといわざるを得ない。のみならず、これらの単語は、本願商標や引用商標と異なり、いずれもいわゆる有意語でそれ自体独立して意味を有するもので、通常そのようなものとして称呼され、また、聴取されるのであるから、これらが日常会話の中で有意語として用いられる限り、仮に三音中一音を異にする単語相互間であつても、聴者は会話内容の前後の脈絡からその意味を把握することが可能であるから、これらが誤認混同されるおそれは極めて少ないものというべきである。
したがつて、この点に関する原告の主張は理由がない。
4 原告は成立に争いのない甲第八号証の一ないし一二七のアンケート結果に基づき、本願商標が付された清涼飲料水は商標に対する視覚的観察により選択され、称呼により選択される蓋然性は少ない旨主張する。
右主張は、顧客が本願商標の指定商品中の清涼飲料水を、自ら自動販売機により購入するという限られた事態を前提としたアンケート結果に依拠している。しかし、前掲甲第八号証の一ないし一二七のアンケート結果によるも、これら顧客のうちの約四割が自動販売機を利用せず店頭で購入しているから、そのうちの相当数の者は商品名を口頭で指示して購入していると推認されるし、更に、電話による注文、街頭放送、ラジオ等のコマーシヤルのように専ら称呼による商品の販売、宣伝が広くなされていることに照らせば、前記のような限られた前提の下になされている原告の主張は採用することができず、もとよりかかるアンケート結果が両商標の称呼上の類似性を否定する根拠となるものではない。
5 前掲甲第三号証、成立に争いのない甲第四号証によれば、請求の原因三、3、(一)の事実が認められる。原告は、右の事実に基づいて本願商標とほぼ構成を同じくする商標(登録第一五八七四三一号)がその出願時引用商標が出願公告されていたのに登録を許されている以上、本願を拒絶することは不当である旨主張する。しかし、右事例は、登録商標が本願及び引用商標とその指定商品を異にするなど本件とは同一に論じ得ない事案に関するものであるから、これにより前記のような本願商標と引用商標の類似性に関する判断が左右されるものではない。
三 以上のとおり原告の取消事由は理由がないから、本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕本件の特許庁における手続の経緯は左のとおりである。
ザ・サウスランド・コーポレイシヨンは、昭和四九年六月五日、別紙(一)のとおり「SLURPEE」の横書きの英文字よりなる商標(以下「本願商標」という。)につき、第二九類「果物の味をつけて、半ば凍らせた清涼飲料その他本類に属する商品」を指定商品として登録出願したところ、昭和五五年二月二五日拒絶査定を受けたので、これに対し審判の請求をし、特許庁は右請求を昭和五五年審判第一四七七八号事件として審理した。その後、原告はザ・サウスランド・コーポレイシヨンから本願商標につき登録を受ける権利を譲受け昭和五六年九月一一日受付によりその旨の名義変更届をし、また、一二三四三号商標との連合商標登録出願に変更し同年一一月一一日その旨の出願変更届をしたが、特許庁は、昭和六〇年一〇月八日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一一月二五日、原告に送達された。
〔編註その二〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙
(一)
<省略>
(二)
<省略>
(三)
<省略>