大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)237号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  成立に争いのない甲第二号証の一ないし四によれば、使用単位毎に破断線を有する帯材を使用に際し使用単位毎に切り取るための従来技術として、帯材をロール状に巻いてホルダに回転自在に支持させ、使用に際し、一方の手でロールを押えて回転を止め、他方の手で帯材の先端部を強く又は衝撃的に引つ張り、破断線で切り取り使用させるホルダ付ロールがあつたが、このホルダ付ロールでは、使用単位毎の帯材の切り取り使用には両手を使わねばならず、ワンタツチ操作ができないので不便であり、また、ワンタツチ操作を可能とするためホルダに支持されたロールの回転に機械的に制動を加えた構成のものもあるが、このホルダ付ロールでは、ロールの制動力が強すぎるとロールが回転する前に破断線の方が破断してしまい、逆にロールの制動力が弱いと、帯材の先端部を急激に引つ張つて、ロールが回転してしまい、帯材の切離に問題があつた(全文補正明細書第二頁第一五行ないし第四頁第二行)。そこで、本願考案は、右のような従来技術の問題点を解消し、破断線を有する帯材をその使用単位毎にワンタツチ操作で確実に切り取り使用することができ、必要とする場所に取り付けて即使用することのできる構成のホルダ付ロールを提供することを目的とし(同第四頁第三行ないし第五行、第二頁第四行ないし第八行)、この目的を達成するため本願考案の要旨とする構成を採択したものと認められる。

そして、本願考案の構成要素であるカツタについて検討すると、前記本願考案の要旨によれば、本願考案の要旨とするカツタの構造及びその取付けのための構成は、「ホルダに、ロールから引き出される帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する剛構造の突部として形成したカツタを一体的に設け」たものであり、カツタは単に帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する剛構造、すなわち剛性のもの、あるいは硬いものの突部にすぎず、ホルダに取り付ける構成も「一体的に設け」るものとすること以外に限定は存しないから、ホルダに他物を介して、あるいは介さずに一体的に取り付けられる構成のものというべきである。もつとも、前掲甲第二号証の一ないし四によれば、本願明細書の考案の詳細な説明には、実施例として、カツタ1は、ホルダ3の両側に固定された棒材2の先端部分の帯材5の幅方向の中央部に当接する位置に、棒材2の前記先端部分を屈曲して突状に形成したもの(別紙図面(一)第1図ないし第3図参照)、棒材2の先端部分にそろばん球形状のローラー1aを回転自在に取り付けたもの(同第4図参照)、棒材2の先端部分に樽形状のローラー1bを回転自在に取り付けたもの(同第5図参照)として、形成あるいは付設されたものが記載されていることが認められるが、本願考案の要旨とするカツタの構造及びその取付けのための構成が前記のとおりである以上、これを右実施例に記載された形状のものであつて、かつ棒材2を介してホルダに取り付けられるものに限定して解することはできない。

一方、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、使用単位毎に切断できるようにミシン目を設けた長尺紙類をローラーにより移送し、移送過程でミシン目部分を自動的に切断するようにしたミシン目入り長尺紙類の切断装置が開示されており、別紙図面(三)第4図(A)、(B)に示された実施例として、軸線を平行に配置した送りローラー4、5と引張りローラー6、7の中間に中央部が膨径された山型の切断ローラー14を設けて紙2を移送し、紙2は送りローラー4、5と引張りローラー6、7間に介在された切断ローラー14によつてくの字状に曲げられ、紙2のミシン目8が膨径部に達すると、その部分においてミシン目8が切断され、紙2は順次ミシン目8の両端a、b方向に引き裂かれて切断を完了するもの(明細書の項第五欄第一二行ないし第六欄第三行)が記載されていることが認められ、右記載事項によれば、第二引用例には、使用単位毎に破断線を有する長尺紙類がその幅方向ほぼ中央部に当接する膨径された山型として形成された切断ローラーを介して屈折され引き取られる切断機構が記載されているというべきである。

原告は、第二引用例記載の切断機構は、軸線を平行に配置した送りローラーと引張りローラーの中間に中央部が膨径された山型の切断ローラーを設けて走行する紙を送り、送りローラーと引張りローラーの間においてくの字状に曲げて走行せしめる構成のものと把握すべきである旨主張する。

第二引用例記載の切断機構は、これを機構全体としてみれば、原告主張のような構成も含んでいることは、前記認定事実に照らし明らかである。

しかしながら、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、審決認定の技術内容、すなわち、巻紙(7)と、巻紙(7)を回転自在に支持する脚(2)とより成り、脚(2)に、巻紙(7)から引き出される紙(7)の幅方向全体にわたつて当接する剛構造の鋸歯状として形成した切断梁版(5)を一体的に設け、巻紙(7)から引き出される紙(7)は切断梁版(5)を介して屈折させ引き取るようにした脚付巻紙が記載されていること、第一引用例記載のものの巻紙(7)、脚(2)、紙(7)及び切断梁版(5)は本願考案のロール、ホルダ、帯材及びカツタにそれぞれ相当することが認められ(第一引用例には、審決認定の右技術内容が記載されていることは、原告の認めて争わないところである。)、審決は、右技術内容に基づき、本願考案と第一引用例記載のものとを対比し、本願考案は、第一引用例記載のものに対して、使用単位毎に破断線を有する帯材がこの帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する凸部として形成したカツタを介して屈折され引き取られる切断機構である点で相違するとし、この相違点を判断するに当たり、第二引用例記載の切断機構を、右相違点に係る本願考案の構成に対する基因性を有する公知技術として引用するために必要な範囲で、「使用単位毎にミシン目(破断線)を有する長尺紙類(帯材)が、この長尺紙類の幅方向ほぼ中央部に当接する膨径された山型として形成された切断ローラーを介して屈折され引き取られる切断機構」と認定したものであつて、第二引用例記載の切断機構が送りローラーと引張りローラーを有し、その間に切断ローラーを設けるという機械的動力手段を備えるものであることは、当業者において第二引用例記載のものにおける切断機構に基づいて右相違点に係る本願発明の切断機構を構成するとした場合、これを構成要素として取り込むのが不相当ないし不必要と考えられるという意味で、右相違点の認定、判断に関係がないことであるから、この点に関する審決の認定には誤りはない。

以上の認定事実に基づき、本願考案と第二引用例記載の切断機構とを対比すると、本願考案のカツタは帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する剛構造の突部であり、このカツタを介して屈折され引き出される帯材はその破断線の中央部がカツタに当接し、突き刺さり、該当接部を切断し順次破断線の両端部に向かつて引き裂かれ切断されるものであるのに対し、第二引用例記載の切断ローラー(カツタ)も移送される長尺紙類(帯材)の幅方向ほぼ中央部に当接する位置に設けられ、その中央突出部がミシン目(破断線)に突き刺さり切断する、当然に剛性のあるもの、あるいは硬いもの、すなわち剛構造の突部であり、長尺紙類は該当接部から順次ミシン目の両端部に向かつて引き裂かれ切断されるものである。そうであれば、両者は、使用単位毎に破断線を有する帯材がこの帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する剛構造の凸部として形成されたカツタを介して屈折され引き取られる切断機構である点で一致しているというべきである。

原告は、第二引用例記載の切断機構は、長尺紙類の幅よりも長い山型の切断ローラーを介して長尺紙類が屈折され引き取られるものである点で本願考案のカツタとは構成を異にする旨主張する。

しかしながら、本願考案の要旨とするカツタの構成は、「帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する剛構造の凸部として形成したカツタ」であつて、この構成から当然にカツタの長さが帯材の幅より短いものに限定されることにはならない。原告は、本願考案における帯材の幅とカツタ(凸部)の幅との長短関係は、実用新案登録請求の範囲の記載から明白であると主張するが、全く裏付けを欠く。したがつて、本願考案のカツタが、原告主張の点において第二引用例記載のものと相違するということはできない。また、本願考案のカツタも第二引用例記載の切断ローラーも、帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する剛構造の凸部によつて帯材を切断するものであること前述のとおりであるから、カツタの全体の長さをどのように構成するかは単なる設計的事項にすぎず、この点に格別の技術的意義を認めることはできない。

したがつて、第一引用例記載のものにおける巻紙を周知のロールとし(使用単位毎に破断線を有する帯材のロールと、このロールを回転自在に支持するホルダとを設けたホルダ付ロールは、本願考案の登録出願前周知であることは、前記認定の本願明細書の記載事項から明らかである。)、これに合わせて、その切断機構に代えて第二引用例記載の切断機構を採択し、本願考案のような構成とすることは当業者であればきわめて容易になし得たことというべきである。

2  前記1認定事実によれば、本願考案においては、使用者が手操作で帯材をロールから引き出すから、第二引用例記載のもののように機械的に送りローラーで常時長尺紙類を送り出し、その移送中にミシン目が切断されるものに比べ、カツタで帯材の前進がストツプされ、その状態で破断線(ミシン目)に張力が付与されて切断され、使用単位毎の破断線をワンタツチ操作により切り取り使用できる点においては、第二引用例記載のものと作用効果を異にするが、使用者が手操作で紙(帯材)を巻紙(ロール)から引き出しカツタ部で屈折、切断するものは、第一引用例に記載されているから、本願考案の奏する右作用効果は、この第一引用例記載のものにおける巻紙を周知のロールとし、その切断機構に代えて第二引用例記載の切断機構を採択することにより通常予測し得る範囲を出るものではない。

原告は、本願考案は、使用者がロールにおける帯材先端部をつまみ、カツタを経由して屈折させ所定方向にごく普通の力で引き取ることにより使用単位毎に帯材を確実に速やかに切り取ることができるのに対し、第二引用例記載の切断機構は、送りローラー、引張りローラー、切断ローラーがそれぞれ外部動力により適切な周速度で回転駆動し、機械的に自動切断を行うものであるから、本願考案の右作用効果を奏し得ない旨主張する。

しかしながら、第一引用例には使用者が紙を巻紙から引き出しカツタ部で屈折、切断することが記載されており、また、第二引用例記載の切断機構が引張りローラー、切断ローラーを有し、機械的に自動切断を行うことは審決における相違点の認定、判断と無関係であること前述のとおりであるから、原告主張の点は、本願考案の奏する作用効果の予測困難を理由づけることにはならない。

ほかに、本願考案の作用効果に関し原告が主張する事項のうち、第二引用例記載のものにおいては、切断ローラーが長尺紙類の破断箇所に突き刺さる状態にはなり得ないことを前提として、本願考案のカツタの作用効果との相違をいう部分については、右前提を採り得ないことがさきに説示したところから明らかであるから、原告の右主張部分は理由がない。

したがつて、本願考案のような構成とすることにより前記周知のもの、第一引用例記載のもの及び第二引用例記載のものから予測できない程の効果が生じるとも認められないとした審決の判断には誤りがない。

3  以上のとおりであるから、本願考案は、前記周知のもの、第一引用例記載のもの及び第二引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法はない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

使用単位毎に破断線を有する帯材のロールと、前記ロールを回転自在に支持するホルダとより成り、ホルダに、ロールから引き出される帯材の幅方向ほぼ中央部に当接する剛構造の凸部として形成したカツタを一体的に設け、ロールから引き出される帯材はカツタを介して屈折させ引き取るようにしたことを特徴とするホルダ付ロール

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!