大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)3号 判決

一 請求原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 本願考案は、タービンの流体流路に使用する漏流制御構造に関する考案であつて、先行技術においては、静翼の先端にあつて動翼を覆うように延びているダイヤフラム外輪と動翼の先端を覆うバケツトカバーとの隙間から流体が流出し、動翼を押す力が失われることを防ぐためにダイヤフラム外輪から半径方向内側へ、バケツトカバーへ向かつてシール用フインを設け、このフインとバケツトカバーとの隙間を小さくするように構成しているが、このフインとバケツトカバーとの隙間からの流体の漏出を更に減少させるための改良構造を提供することを技術課題とし、これを達成するために、本願考案の要旨とする実用新案登録請求の範囲の構成を採択し、その結果、第一フイン28、28aと第一段部26、26aとの隙間を漏れ出る液体の運動エネルギーが第一段部26、26aと第二段部30、30aとの間の環状側面31、31aに当たつてその反動により散逸するようにし、さらに前記環状側面31、31a、第一フイン28、28a及び第二フイン32、32a、第一段部26、26a及び第二段部30、30aとによつて環状空洞が形成されているので、前記散逸した流体を該環状空洞内に滞溜させるようにし、これによつて生じる環状空洞の圧力により、前記ダイヤフラム外輪10、10aとバケツトカバー18、18aとの隙間からの流体の漏出を減少させ、タービン効率を向上させるという作用効果を奏するものであることは当事者間に争いがない(原告は、更に、本願考案は、バケツトカバー18、18aの下流端にフインを設ける必要がないから、バケツトカバー18、18aのほぞの腐蝕を防止することができる旨主張する((前記請求の原因四、1、<ニ>))が、成立に争いのない甲第二ないし第六号証によれば、本願明細書には、このような作用効果についての記載はなく、本願考案の要旨とする構成とは関係がないことが認められるので、これをもつて本願考案の奏する作用効果ということはできない。)。

2 原告は、審決は、引用考案には段部が一段しか設けられていない点及び周縁部円筒面と中央部円筒面との間の曲面が半径方向に延びていない点において本願考案と相違することを看過した旨主張するので、まずこの点について検討する。

成立に争いのない甲第七号証によれば、引用例は、日立評論第四六巻第一一号に掲載された粂野幸三、安藤弘之「関西電力株式会社堺港火力発電所納三、六〇〇rpm二五〇、〇〇〇kw、タンデムコンパウンド再熱蒸気タービン」と題する技術論文であつて、アメリカ・ジエネラルエレクトリツク社において製作された二四〇、〇〇〇kwタンデムコンパウンド三流排気形タービンのコンポーネントを用い、日立製作所の技術により開発製品化したタンデムコンパウンド四流排気形三、六〇〇rpmタービンの構造を紹介したものであるが、その第20図高圧第一段ダブテイルドカバーインサート形シユラウドバンドには、第一段動翼の詳細な構造が図示され、本願考案のバケツトカバー18、18aに当当するインテグラルカバーの右上側、すなわち上流側に、小さい直径の円筒面(原告のいう周縁部円筒面)と大きい直径の円筒面(原告のいう中央部円筒面)から成る二個の直径を異にする軸方向の円筒面が描かれ、また、これらの二個の円筒面の間には、断面がほぼ四分の一円周の弧の曲面が描かれていること、右四分の一円周の弧はその両端が直交する二本の直線にそれぞれ接することによつて、それに接続するものであることが認められ、この構成を前掲甲第二ないし第六号証に基づき本願考案の第一段部26及び第二段部30、半径方向に延びる環状側面31と対比すると、引用考案における小さい直径の円筒面は第一段部26に、大きい直径の円筒面は第二段部30に相当し、また、これらの二個の円筒面の間の側面は四分の一円周の弧の一端が小さい直径の円筒面に接続することにより、その他端は半径方向に延びるものであるから、半径方向に延びる環状側面31に相当するというべきである。

原告は、引用例の第20図は、他の関連構造を省略したタービン第一動翼のインテグラルカバー部分の概略図にすぎず、引用例にはその寸法、形状に関する説明は全くないから、審決の認定を導くことはできない旨主張するが、引用例は前記認定のタービンの全体構造を紹介した技術文献であつて、当業者であれば、引用例の記載に基づいて、第20図をみるならば、その動翼のインテグラルカバーの構造が前記認定のような構造であることは容易に理解できることが明らかであつて、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、半径方向に延びるというためには、本願考案の別紙図面(一)FIG1に図示する環状側面30のようにある程度の距離が必要であつて、引用考案のようにわずかな距離で半径方向に向かつているものを半径方向に延びていると解することはその技術的意義を無視するものである旨主張する。

前掲甲第二ないし第六号証によれば、本願考案の別紙図面(一)FIG1に図示された環状側面31は、ほぼ二分の一円周の弧の凹面であるが、本願考案の実用新案公報の発明の詳細な説明には、「第1図に例示の側面31は、機械加工を容易にするため凹面としてある。しかし、側面31は平面でもよく、また、適当に機械加工された輪郭を有しそして適当な機能を有する他の形状の面でもよい。」(同公報第五欄第三四行ないし第三八行)と記載されていることが認められ、一方、前掲甲第七号証によれば、引用考案も、後記認定のように、第一段動翼のインテグラルカバーの上流側の段部に本願考案のフインに相当するラジアルフインを対向させ得る構造のタービンであることが認められ、ラジアルフインは前記1摘示のとおり、流体の漏出を減少させるために設けられるものであることに徴すれば、引用考案において上流側に二個の段部が設けられ、これにラジアルフインを対向させる構造を採択しているのは、流体の漏出を減少させ、タービン効率を向上させることを意図しているものというべく、これらの事実を勘案すると、「半径方向に延びる」とは、別紙図面(一)FIG1に図示されているような環状側面31に限定されることなく、引用考案のように四分の一円周の弧の他端が半径方向に向かつているものも、これに該当するというべきである。

原告は、引用考案における周縁部円筒面と中央部円筒面との間の曲面は機械加工を容易にするための面取りにすぎない旨主張するが、引用考案の右曲面は、本願明細書中の側面31に関する前記記載に適合するのみならず、成立に争いのない甲第一一号証(機械用語辞典編集委員会編「機械用語辞典」株式会社コロナ社昭和五六年六月三〇日第八版発行)によれば、「面取り」とは、面と面とが交わつてつくる角の部分を斜面におとしたり丸みをつけたりすることを意味することが認められ、通常、引用考案のような凹面を面取りと称することはないから、原告の右主張は理由がない。

更に、原告は、引用考案は、流体の運動エネルギーを散乱させることを考えていないので半径方向に延びる面を設けることを想定していない旨主張するが、引用考案は、第一段動翼のインテグラルカバーの段部にラジアルフインを対向させ得る構造のものであつて、これにより当然に流体の漏出を減少させ、タービン効率の向上を意図するものであることは、前記認定のとおりであるから、引用考案も本願考案と同様に流体の運動エネルギーを散逸させるために、半径方向に延びる面を段部と段部との間に設けたものというべきである。

したがつて、本願考案と引用考案とは、段部の構成及び段部と段部との間の環状側面の構成において一致するものというべきであるから、この点に関する審決の認定には誤りがない。

3(一) 原告は、審決が引用考案において設定可能なラジアルフインを本願考案における環状の第一フイン28及び環状の第二フイン32と対応するとした認定は誤りである旨主張する。

原告は、その理由として、まず引用例はラジアルフインをどこにどのように設けるか具体的に述べていない旨主張するが、前掲甲第七号証によれば、引用例第20図には、インテグラルカバーの上流側及び下流側の各二個の段部の軸方向の幅に「A」なる記号が記載され、第20図の右下には「A……ラジアルフイン設定可能」と記載されていることが認められるから、当業者であれば、引用例の記載に基づいて静翼のダイヤフラム外輪の上流側に二個のラジアルフインを、動翼のインテグラルカバーの二個の段部にそれぞれ対向させて設けることは随意に設計することができる程度のことというべきである。

原告は、引用例のラジアルフイン設定可能域は、そこに場合に応じて一個のフインの位置をいろいろに設けることを示しているにすぎない旨主張するが、前掲甲第七号証によれば、引用例にはラジアルフイン設定可能域を原告主張のように理解すべき記載はなく、原告の援用する第一三頁左欄本文第一〇行、第一一行の記載もラジアルフインを第20図に図示した個所のいずれか自由な位置に設定することができることを意味するにすぎないものと認められるから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、引用考案は下流部分にもラジアルフインを設け得るものであるが、引用考案が本願考案のように二個のフインを利用した漏洩防止の手段を設けているものであるならば、下流部分にラジアルフインの設定可能域を設ける旨の記載をするはずがない旨主張するが、引用例第20図の「A……ラジアルフイン設定可能」ということは、前記認定のとおり、当業者が流体の漏出を減少させてタービン効率を向上しようとする目的の達成の程度や製作上の都合を勘案して、設定するか否かを自由に選択することを意味し、下流部分にも設定し得るからといつて、本願考案のような漏流制御構造を示唆するものではないということはできない。

したがつて、引用考案において設定可能なラジアルフインを本願考案における環状の第一フイン28及び環状の第二フイン32と対応するとした審決の認定には誤りはない。

(二) 原告は、審決は、引用例には、本願考案における二枚のフインの間に環状空洞を形成することについての記載も示唆もないのに、引用例は実質的に本願考案と同様な構造を示唆しているものと誤認し、その結果引用考案も本願考案の作用効果を奏し得るものと誤つて認定した旨主張する。

しかしながら、引用考案は、前記認定のとおり、第一段動翼のインテグラルカバーの上流側に本願考案の第一段部26及び第二段部30に相当する直径の異なる二個の段部と、これらの段部の間に本願考案の半径方向に延びる環状側面31に相当する曲面を設け、かつ、ダイヤフラム外輪の上流側には、ラジアルフイン二個を、インテグラルカバーの二個の段部に対向させて設け得る構造のものであるから、この構造を採択した場合、直径の異なる二個の段部、これらの段部の間の曲面、及び二個のラジアルフインによつて空所、すなわち環状空洞が形成され、この環状空洞は、散逸した流体を滞溜させ、これによつて生じる圧力により、ダイヤフラム外輪とバケツトカバーとの隙間から流体の漏出を減少させ、タービン効率を向上させるという本願考案と同様な作用効果を奏することが明らかである。

そうであれば、引用考案の場合にも二枚のフインの間に環状空洞を形成するものであり、このような実質的に本願考案と同様の構成をとつた場合の引用考案が本願考案と同様な作用効果を奏することは、その旨の記載がなくても当然認めざるを得ないとした審決の認定には誤りはない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

タービンの流体流路に使用する改良漏流制御構造であつて、(a)ダイヤフラム外輪10、10aが隣接ロータ輪21の上流にあつて、静止ノズル12を含み、ロータ輪には半径方向に延びる複数のバケツト14があり、該バケツトは、その先端部16で、バケツト先端のまわりに周方向に配置された少なくとも一つのバケツトカバーによつて連結され、(b)バケツトカバー18、18aの半径方向外周面と前記ノズルの下流側にあるダイヤフラム外輪の半径方向内側の環状表面とを含んで軸方向に延びる一対の境界によつて流体漏流路22、22aが形づけられ、(c)前記連絡部の上流側で、前記境界の一方に、第一段部及び第二段部26、26a、30、30aが軸方向に形成され、それらの間には、半径方向に延びる環状側面31、31aがあり、前記軸方向の第一段部及び第二段部は、バケツトの前縁と後縁との中間点より軸方向上流側にあり、(d)前記境界の他方から第一段部の方へ、環状の第一フイン28、28aが半径方向に延び、その終りは第一段部に近接した先端であり、該先端と第一段部の間に隙間24、24aを形成し、(e)前記境界の他方から第二段部の方へ、環状の第二フイン32、32aが半径方向に延び、その終りは第二段部に近接した先端であり、該先端と第二段部の間に隙間36、36aを形成した、改良漏流制御構造。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面 (一)

<省略>

<省略>

別紙図面 (二)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!