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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)38号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は正当であつて、以下に説示するとおり、原告の主張は、すべて理由がないものというべきである。

本願発明の特許出願前に頒布された実用新案公報であることにつき原告において明らかに争わない引用例の記載内容並びに前示本願第一発明と引用例記載の技術事項との一致点及び相違点が本件審決認定のとおりであること、並びに前示本願第二発明が、PETに五〇重量%以下の有機物又は無機物を混入している点で本願第一発明と異なること、及び熱可塑性プラスチツクのスクラツプにこのような有機物又は無機物の混入していることが普通のことであることは、原告において自認するところであり、また、本願第二発明と引用例記載の技術事項との間に、本願第二発明と本願第一発明との右相違点を除くと、本願第一発明の場合と同様、本件審決認定のとおりの一致点及び相違点が存することは原告において明らかに争わないところ、原告は、本訴において、本件審決がその理由で示した本願第一発明と引用例記載の技術事項との相違点(3)についての判断の当否を争い(その余の本件審決の相違点の判断については、原告の争わないところである。)、本願発明において、ノズル部の温度をスクラツプ等の融点±一〇℃に限定した技術的意義及びこれに基づく作用効果を本件審決が看過した旨主張するから、この点につき検討するに、成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の特許願書並びに添付の明細書及び図面)並びに同号証の二ないし四(いずれも手続補正書)を総合すれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明は飽和ポリエステル樹脂、特にPETのスクラツプ等を成型材料に適する原料であるペレツトに再生する方法に関するもので、PETのスクラツプ等を利用して一般及び工業用の成型材料に適する原料であるペレツトを熱劣化を起こさずに得ることを目的とする旨の記載に続き、PETのスクラツプ等の再生加工の順序及び操作条件に関し、「選別されたスクラツプ(原料)を上述の特殊加工機又はベント式押出機に入れる前に先ず原料の水分を少くとも〇・五%以下好ましくは〇・二%以下迄脱水して上記機械に入れ、温度を一八〇ないし三一五℃に制御して好ましくは溶融帯を原料の融点(二五五~二六五℃)の±一五℃附近にする。この温度は原料が溶融可能な温度であれば出来るだけ低い方が好ましい。又、原料を再生して押出すノズル部の温度は融点の±一〇℃附近に調整し、溶融時間は一五分以内好ましくは一〇分以内、特に好ましくは五分以内とし、この時間内で完全に溶融させる。この際、好ましくはN2やCo2等の不活性ガスを使用するのが良く、そうすることによつて過熱や比較的長時間の溶融帯における帯留による熱劣化を防止できる。」(甲第二号証の一第七頁第一七行ないし第八頁第一一行及び甲第二号証の四第二頁第三行ないし第四行)旨説明したうえ、次いで、加工操作法に関し、具体的に、「特殊加工機を使用する場合。先ず加熱溶融筒(1)の上部の下方の温度を加熱により二〇〇~二五〇℃にし、その下部(5)の温度を二八〇~三一五℃にして、該筒(1)内に入れたスクラツプ(PET)を溶融させ、融点附近(二五五~二六五℃±二~一〇℃)で押出機(2)内に流出させる。又、押出し機(2)のホツパー部分の温度は二五五~二七〇℃に調整し、そのノズル部分(7)は二五五~二六五℃±五℃以内に調整する」(甲第二号証の一第一一頁第二行ないし第一〇行及び甲第二号証の三第三頁第一八行ないし第一九行)及び「ベント式押出機を使用する場合。原料仕込み部からノズルの出口迄の温度を次の如く制御する。原料仕込み部~ベント部、一八〇~二五〇℃ベント部、二五〇~二七〇℃ベント部~流出部、二八〇~三一〇℃ノズルの出口、二四〇~二七五℃」(甲第二号証の一第一一頁第一五行ないし第一二頁初行)との記載があり、実施例1として、特殊加工機による製造例(番号1ないし3)について、加熱溶融筒の上部及び下部、押出機の入口、中段、出口及びノズル部並びに冷却槽の操作温度条件が、実施例2として、ベント式押出機による製造例(番号4ないし7)について、A段、B段、C段及びノズル部の操作温度条件がそれぞれ示され、実施例3において、実施例1及び2で造られた番号1ないし7のペレツトを原料として造られた成型品は、極めて優れた物性を示し、したがつて、本願発明により再生されたペレツトが種々の工業部品や日用品の成型材料として極めて優れている旨記載されていることが認められるところ、右甲号各証に徴するも、これらの実施例において、その記載の操作条件で溶融押出成型されたPETスクラツプ等の分子量及び融点についてこれを明らかにする記載はなく、また、再生されたペレツトについて熱劣化の程度や性状に関してもこれを示す何らの記載も見当たらないから、これらの実施例に示す操作条件のうちノズル部の温度が原料スクラツプ等の融点±一〇℃の条件に適合するよう設定されたか否か、したがつて、これらの実施例において得られた結果がノズル部の温度によるものか否か、更にはその得られた結果が格別優れたものであるか否かについては、結局のところ明らかではないといわざるを得ない(なお、前掲甲号各証によると、前記実施例2の番号6及び7のものでは、ノズル部の温度がそれぞれ二八〇℃及び二八五℃と記載されていることが認められるところ、仮に、この原料スクラツプ等の融点を前記の再生加工の順序及び操作条件に関する明細書中の記載の二五五℃ないし二六五℃とすれば、番号6及び7のものは、ノズル部の温度がスクラツプ等の融点±一〇℃の条件を充たさない結果となる。)。そうすると、これら実施例に関する記載は、本願発明の溶融押出しの操作におけるノズル部の温度条件を原料スクラツプ等の融点±一〇℃に限定したことについて格別の技術的意義及び作用効果を裏付ける具体的根拠とはなし難いものというべく、その他右温度条件を限定したことについて格別の技術的意義及び作用効果を認めしめるに足りる証拠はない。叙上のとおりであるから、本願発明において、ノズル部の温度をPETスクラツプ等の融点±一〇℃附近に設定したことには、格別の技術的意義ないし臨界的意義を認めることはできず、したがつて、本件審決が、本願発明のノズル部の温度を限定した技術的意義及びこれに基づく作用効果を看過した旨の叙上原告の主張は採用することができない。そして、溶融押し出しを行う場合、ノズル部の温度をどの程度にするかは、溶融押し出しされるべき材料の性質に基づいて当業者が必要に応じて適宜設定し得ることであるから、本願発明においてノズル部の温度をスクラツプ等の融点±一〇℃に調整することは当業者の容易になし得るものというべきである。

そうであれば、叙上認定説示したところに照らし、本願発明は、引用例記載の発明に基づき容易に発明をすることができたものとみるを相当とし、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

1 平均分子量が約一一、〇〇〇~三〇、〇〇〇のポリエチレンテレフタレートのスクラツプ又は廃棄物を、その構成成分以外の不純物を除去し且つ含水量〇・五%以下にして、加熱溶融筒とこれに連なるスクリユー式押出機とを主体とする特殊加工機、又はベント式押出機に入れ一八〇~三一五℃以下で溶融すると共に、ノズル部の温度を上記スクラツプ又は廃棄物の融点±一〇℃に調整して押出し冷却後ペレツト化することを特徴とする飽和ポリエステル樹脂の再生法。

2 平均分子量が約一一、〇〇〇~三〇、〇〇〇のポリエチレンテレフタレートと、五〇重量%以下の棉、麻、レーヨン、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等の有機物又はガラス繊維、長石、白雲石、滑石、石英、金属粉、無機繊維等の無機物との混合物からなるスクラツプ又は廃棄物を、その構成成分以外の不純物を除去し且つ含水量〇・五%以下にして、加熱溶融筒とこれに連なるスクリユー式押出機とを主体とする特殊加工機、又はベント式押出機に入れ、一八〇~三一五℃下で溶融すると共に、ノズル部の温度を上記スクラツプ又は廃棄物の融点±一〇℃に調整して押出し冷却後ペレツト化することを特徴とする飽和ポリエステル樹脂の再生法。

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