大判例

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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)40号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

(一) まず、本願第一発明における繊維質含有物質と「該物質を細粗二種の部分に離解」することの意味について考察する。

成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、右の点に関し、次のとおり記載されていることが認められる。

「本発明は廃紙およびプラスチツク被覆した包装材料を含む回収品の如き異物を含む未仕分けの繊維質含有物質、泥炭、サトウキビのしぼりかす等の繊維質含有物質から繊維を回収する方法および装置に関する。」(甲第二号証二欄一六ないし二〇行)

「紙の消費が増加することにより、紙およびボール紙の製造原料として廃紙および回収品を再使用する必要が増加した。この原料物質を使用する上の困難の一つはその条件の異なることである。未分類廃紙は高い湿潤強度を有する紙、分解するのが極めて困難である紙、プラスチツク又は金属の箔および糸若しくはその他の糸および他の粒子を含有し、これ等は除去しなければならない。」(同二欄二一ないし二八行)

「本発明においては、有孔ジヤケツトを有し、ほぼ縦軸方向に延びるリブを内面に備えた回転ドラム中で繊維質含有物質のセルロース物質は離解され、同時に非セルロース物質との結合が破壊される(以下これを離解という)」(同四欄三〇ないし三四行)

「繊維質含有物質をドラムに供給した場合、先づ湿潤条件で処理する。即ち、ドラム内へ供給された該物質に繊維離解および溶解用液を加え、該物質を湿潤せしめ、さらに回転ドラムの内側に設けた内側リブによつて回転ドラムの回転軸よりも高い位置に該物質を持ち上げて落下せしめる。この運動を繰返すうちに繊維質含有物質中の繊維構造の結合は破壊され、同時にセルロース物質との結合も破壊され、又プラスチツク、金属等はこの湿潤条件下では溶解ないし破壊されないので繊維質含有物質は細粗二種の部分に離解する。」(同五欄三ないし一三行)

右の記載と前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲第一項の記載によれば、本願第一発明における「繊維質含有物質」とは、繊維質(セルロース物質)を含有する物質を指し、例えば未分離廃紙のように、繊維質のほかに、回転ドラムの内側リブの作用による上下運動の繰返しによつて溶解ないし破壊されない異物、例えば前示「分解するのが極めて困難である紙、プラスチツク又は金属の箔および糸若しくはその他の糸および他の粒子」が混在するものであつても差支えないこと、また、「該物質を細粗二種の部分に離解」するとは、右繊維質含有物質中の繊維質の繊維構造の結合を破壊して細かくするとともに、繊維質と右異物の結合を破壊して、繊維質含有物質を細かい繊維質の部分と粗い右異物の部分に分けることを意味するものと認められる。

(二) 一方、引用例に審決がその理由の要点2において認定した繊維材料の大きな塊をパルプ化する方法及び装置が記載されていることは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例は一九二七年に出願された「パルプ化方法および装置」の発明に関する米国特許明細書であつて、そこには次の記載があることが認められる。

「この発明は俵に入れた(baled)パルプ、古新聞またはボール紙原料、クラフト紙、亜硫酸紙および砕木シートまたはラツプ原料等のハード材料を紛砕するための方法と装置に関し、後処理のための材料を準備するものである。」(同号証訳文一頁本文二ないし六行)

「私の装置の操作では、パルプ化すべき材料の俵(ベール)またはラツプのような大きなかたまりを開口部10を通してドラムに導くことができる。ドラムを第二図に示したように矢印の方向に回転し、シヤワー35と36を通して水を供給する。材料を連続してドラムの中でひつくり返し、衝撃と摩砕にかけ、迅速に大きいかたまりを打解する。タンク1の中の水深を調整ゲート23によつて調整し、最も有効な操作を得るようにタンクに供給する水量を適当なバルブによつて調整する。打解工程として、小さい粒子は水に浮かび、最後にスクリーンプレートを通つてふるい分けられ、ダムの頂上を越えて槽22に運ばれる。」(同七頁一五行ないし八頁五行、別紙図面参照)

「嵩ばつたかたまりの打解は切断によるよりは衝撃と摩砕により行われ、繊維と小さい粒子は大きなかたまりから徐々に溶解され液体懸濁液のなかに運び去られる。」(同八頁一六ないし一八行)

以上の記載によれば、引用例の方法においても、ドラム内に供給された原料繊維物質はドラムの内側に設けられたバツフル(本願第一発明のリブに相当すると認められる。)の作用による上下運動の繰返しによつて繊維質の繊維構造の結合が破壊されて細かい繊維質の部分と右の上下運動の繰返しによる衝撃と摩砕によつては打解されない粗い部分とに分けられるものであることが認められる。すなわち、引用例の方法においても、原料繊維物質を細粗二種の部分に離解しているのであつて、この点において本願第一発明と差異はないといわなければならない。

原告は、引用例の方法はパルプ化すべき材料のかたまりを打解と水和により小さくするものであつて、本願第一発明と異なる旨主張するけれども、右に述べたところから、この主張が失当であることは明らかである。

そして、引用例の原料繊維物質が繊維質を含有する物質であることは明らかである上、引用例の発明が一九二七年に出願された発明であつて、原告が主張するとおり、当時プラスチツクは一般に使用されておらず、また、引用例にはその原料繊維物質に本願明細書に記載するプラスチツク、金属箔等が混入されていることやプラスチツクを塗布又は積層した紙があることが記載されていないとしても、前示のとおり本願明細書中に除去すべき異物として例示されている「分解するのが極めて困難である紙、プラスチツク又は金属の箔および糸若しくはその他の糸および他の粒子」のうちプラスチツクを除く物が引用例の発明の出願当時すでに存在していたことは自明のことであり、これらの物が引用例の原料繊維物質として例示されている俵に入れたパルプ、古新聞、ボール紙原料、クラフト紙、亜硫酸紙、砕木シート又はラツプ原料等にしばしば混在するものであることは容易に推認されるところである。そして、このような異物が混在した原料繊維物質を用いても引用例の方法を遂行する妨げとはならず、これら異物は前示上下運動の繰返しにより繊維質と離解されることは、前叙引用例の方法の内容に照らし明らかである。また、引用例中、このような異物の混在した原料繊維物質を用いることを排除すべき旨の記載は見当らない。したがつて、引用例の原料繊維物質と本願第一発明の繊維質含有物質との間に差異を見出すことはできない。

(三) 以上のとおり、引用例の原料繊維物質は本願第一発明の繊維質含有物質に該当し、両方法とも、繊維質含有物質から繊維を回収するに当たり、「該物質を細粗二種の部分に離解」するものであるということができる。

したがつて、原告の取消事由(1)の主張は失当であり、本願第一発明と引用例の方法との一致点、相違点についての審決の認定は正当である。

2 取消事由(2)について

本願第一発明と引用例の方法との間に、前者においてはドラムの下端部がタンク中の排出液に侵漬されていない状態にあるのに対し、後者においてはそれがタンク中の排出液中に侵漬されているという相違があることは、当事者間に争いがない。

原告は、この差異から、本願第一発明は引用例の方法に比し、前記上下運動の繰返しにより繊維質含有物質に与えられる衝撃力が強く、水を強力に攪拌する必要がなく消費動力が少なくてすむという効果を奏する旨主張する。

しかし、本願第一発明と引用例の方法との前示審決認定の一致点を前提として右相違点を見れば、原告主張の右効果はドラムの下端部をタンクの排出液中に侵漬されていない状態にする構成から当然に予想されるものであつて、顕著な効果ということはできない。また、前掲甲第二、第三号証によつて本願明細書の記載内容を精査しても、右構成を採用することに格別の困難があつたことをうかがわせるに足る記載を見出すことはできない。

したがつて、審決が右の相違点につき当業者の容易に変更実施しうる程度のことと判断した点に、原告主張の誤りはない。

3 以上のとおりであるから、本願第一発明は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないとした審決の認定、判断は正当である。したがつて、本願第二発明に関する原告主張の審決取消事由(3)について判断するまでもなく、原告の本訴請求は失当といわなければならない。

三 よつて、原告の本訴請求を棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 繊維質含有物質から繊維を回収するに当たり、該物質に回転ドラムの内側でドラムの縦方向に延在する内側リブまたはビームによりドラム回転軸の上方にある高さまで持ち上げ、そこから落下してドラムの下方に落下させる繰返し運動を付与すると共に、湿潤条件下で該物質を細粗二種の部分に離解し、かつ注水条件下で主として細かい部分をドラムジヤケツトに形成した孔からドラムの下に位置するタンク中に排出して粗い部分と分離することを特徴とする繊維の回収方法。

2 繊維質含有物質を細粗二種の部分に離解し、かつ分離する繊維の回収装置において、ほぼドラムの縦方向に延在し、ドラムの回転軸の上方にある高さまで該物質を持ち上げ得る内側リブまたはビームを備えた有孔ドラム並びに繊維離解、溶解用液供給系および注水系を備えかつドラムの下に位置するタンクを設けたことを特徴とする繊維の回収装置。

3 繊維質含有物質を細粗二種の部分に離解し、かつ分離する繊維の回収装置において、ほぼドラムの縦方向に延在し、ドラムの回転軸の上方にある高さまで該物質を持ち上げ得る内側リブ又はビームを備えた無孔領域および有孔領域からなる回転ドラム並びに該無孔領域に繊維離解、溶解用液供給系、該有孔領域に少なくとも注水系をそれぞれ備えかつドラムの下に位置するタンクを設けたことを特徴とする繊維の回収装置。

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