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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)53号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決の認定判断は正当であつて、これを違法とする原告の主張は採用し得ないことは、以下に説示するとおりである。

1 前記争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許願書及び添付の明細書)及び第三号証(昭和五二年九月五日付手続補正書)を総合すれば、本願発明は、前記要旨(特許請求の範囲に同じ。)のとおりの組成による物性バランスの良好な(機械的強度、成形性の優れた)高度に難燃性の耐衝撃性樹脂組成物に関するものであるが、その優れた耐衝撃性、成形性から自動車部品、電気用品機器、建築用材その他各種成形品として非常に多くの分野で使用されているABS樹脂は、もともと可燃性のものであつて、使用用途の拡大に伴い、難燃性(自己消火性)及び火だれの不発生が厳しく要求されるに至つたこと、従来の塩素化ポリエチレンと三酸化アンチモンとで難燃化する場合、火だれのない高度の難燃化を達成するには、右両成分の必要量が非常に多く、このため最終の樹脂組成物の機械的強度、剛性、成形性、熱安定性が著しく劣化する欠点があつたところ、本願発明は、この欠点を解消するために、難燃化成分の少量の配合で、火だれのない高度の難燃性を付与できるようにし、耐衝撃性、機械的強度などの劣化を防ぐことを目的とし、前記要旨のとおりの組成物によりその目的を達成したものであつて、明細書の発明の詳細な説明の項には、三つの実施例について難燃性がUL規格94V―0であるなどの効果を奏することが記載されていることを認めることができる。ところで、成立に争いのない乙第二号証及び第三号証によれば、特公昭四六―二六八六四号公報(乙第二号証)及び特公昭四六―二六八六五号公報(乙第三号証)には、従来、耐衝撃性あるいは、更に成形加工性の優れた熱可塑性樹脂を製造するに際し、ゴム状物質の存在下にスチレンとアクリロニトリル等の単量体を乳化グラフト重合して得た重合体と右の単量体などを重合して得た重合体を配合するグラフト―ブレンド法は、例えば、特公昭三九―一五一九号公報及び特公昭三九―八六六八号公報で知られているが、これら公報記載の方法による樹脂は、衝撃強度が十分でないので、これを(あるいは同時に成形加工性も)改善するため、ブタジエンに代表される共役ジエン系ゴム質の重合体ラテツクスの存在下にモノアルケニル芳香族単量体若しくはこれとアクリル系ビニル単量体との混合物を乳化重合したグラフト共重合体及びモノアルケニル芳香族単量体とアクリル系ビニル単量体との共重合体(この共重合体は、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法のいずれの重合法によつても製造できるが、最終樹脂の観点から、懸濁重合法、塊状重合法によるのが、不純物の残留しないことなど工程上、性能上有利である。)を配合するに当たり、ラテツクスの粒子径及び乳化グラフト共重合の乳化剤量を特定したり、又はラテツクスのゲル含有量を特定し、また、最終樹脂組成物中のゴム質重合体を三ないし四五重量%又は三ないし四〇重量%にすることが記載されていること、成立に争いのない乙第四号証によれば、特公昭四七―三八五四一号公報(乙第四号証)には、スチレン/アクリロニトリルタイプ相互重合体とのゴムのポリブレンドが成形性、靭性及び耐薬性に優れた組成物を提供することは公知であるが、このようなゴム変性組成物が示す低透明性の欠点を除去するため、ジエンゴム基質とモノビニリデン芳香族炭化水素及び不飽和ニトリル単量体とをグラフト重合(乳化重合による)したグラフト共重合体A及びモノビニリデン芳香族炭化水素と不飽和ニトリル単量体とを共重合(塊状、懸濁及び乳化重合法のいずれでもよいが、最適の鮮明性を得るために塊状重合法を用いる。)した共重合体Bを配合するに当たり、グラフト共重合体Aと共重合体Bの屈折率を特定のものとすることにより比較的透明な樹脂組成物を得ることが記載されていること、成立に争いのない乙第五号証及び第六号証によれば、特開昭五〇―一二八七四四号公報(乙第五号証)及び特開昭五〇―一二七九五三号公報(乙第六号証)には、ブタジエン系ゴム状重合体ラテツクスとスチレン系単量体とアクリロニトリル系単量体とを乳化重合して得たグラフト共重合体及びスチレン系単量体とアクリロニトリル系単量体を懸濁重合あるいは塊状重合した共重合体とを、混合後の樹脂組成物中のブタジエン系ゴム状重合体の含有量が五ないし四〇重量%となるように配合して機械的性質の優れた樹脂組成物を製造するに当たり、グラフト共重合体のグラフト率、グラフト分子鎖の分子量、重合触媒を特定したり、ジビニル単量体を併用することにより経済的に製造する方法が記載されていることをそれぞれ認めることができる。そして、右認定の事実によると、乙第二号証ないし第六号証の公報は、昭和四六年ないし同五〇年に刊行されたもので、その発明は、いずれも、本願発明の単量体のグラフト共重合体(A)と同単量体の共重合体(B)とを配合した樹脂組成物の耐衝撃性などの特性の改良ないし改良された樹脂組成物の製造方法に関するものであつて、右共重合体(A)には乳化重合によるもの、同(B)には塊状又は懸濁重合によるものも示されており、これらを総合すれば、本願発明における乳化重合によるグラフト共重合体(A)(ABS樹脂など)と塊状又は懸濁重合による共重合体(B)(AS樹脂など)の配合による樹脂組成物が優れた物性をもつものとして本願発明の特許出願時において周知であつたものと認めるのが相当である。なお、原告は、右各公報記載の樹脂は特殊の樹脂のみである旨主張するが、右乙号各証に照らすと、これらに示された樹脂が組成、物性及び用途等において特殊のものとみることはできず、原告提出に係る成立に争いのない甲第二三号証及び第二四号証も、本願発明における前記樹脂組成物が優れた物性をもつものとして周知であつたとの前段認定を覆すに足りない。したがつて、乳化重合ABS樹脂と懸濁重合AS樹脂を配合したグラフト―ブレンド型ABS樹脂が本願発明の特許出願前周知であるとした本件審決の認定を誤りとする原告の主張は、採用することができない。

2 一方、第一引用例に本件審決認定の記載(右記載中「前記(B)、(C)及び(D)の三成分を併用することにより、ポリスチレン系樹脂の優れた諸特性を保持」する樹脂組成物が得られる旨及び第一引用例に使用される合成樹脂がジエン系ゴム変性ポリスチレン樹脂である旨の記載部分を除く。)があることは原告の認めるところであり、右事実に成立に争いのない甲第五号証(第一引用例)を総合すれば、第一引用例は、本願発明の特許出願前に国内において頒布された公開特許公報であるが、その記載の発明は、(A)ポリスチレン系樹脂一〇〇重量部に本件審決認定の(B)、(C)及び(D)の三種の難燃化成分をその認定の重量部配合することにより、ポリスチレン系樹脂本来の機械的特性、加工特性、耐熱特性等を保持しつつ、同時に高度の難燃性を付与されたポリスチレン系樹脂組成物に関するものであつて、ポリスチレン系樹脂を対象とする難燃化の一般的方法として、従来、有機ハロゲン化合物及びハロゲン化燐酸エステル等の有機難燃化剤あるいはこれらと三酸化アンチモンのような無機難燃化剤を併用混入する方法、ポリ塩化ビニル又は塩素化ポリエチレン等の高分子難燃化剤と三酸化アンチモン等を併用する方法などが知られているが、これらはいずれも難燃化剤を多量に使用する必要があり、そのため難燃化の目的は達せられるが、ポリスチレン系樹脂の優れた加工特性及び熱変形温度を低下させる欠点があつたこと、第一引用例記載の発明の目的は、この欠点を改良してポリスチレン系樹脂においては到底難燃性を付与し得ない程度のごく少量の難燃化剤の使用によつてポリスチレン系樹脂本来の優れた諸特性を保持しつつ、極めて難燃度が高く、かつ、燃焼滴下物(火だれ)のない樹脂組成物を提供するにあること、耐衝撃性ポリスチレンを対象とした難燃化の実施例及び比較例において、第一引用例記載の発明の難燃化成分を用いた場合は、他の難燃化成分を用いた場合に比して耐衝撃性を比較的低下させることなく、SE―0(UL規格94V―0に相当することは、当事者間に争いがない)の難燃性が得られていること、そして、「本発明におけるポリスチレン系樹脂とは、スチレン並びにα―メチルスチレンのごときα―置換スチレン、ビニルトルエン、0―クロロスチレンのごとき核置換スチレン等スチレン誘導体の重合体、これら単量体を主としこれに共重合可能な単量体、例えばアクリロニトリル、アクリル酸ならびにメタアクリル酸、それらのメチルあるいはエチルエステルのごときビニル化合物、ビニルビリジン、ビニルカルバゾールのごときビニル複素環化合物、ブタジエン、イソプレンのごとき共役ジエン化合物などの一種または二種以上を混合した単量体混合物から得られる相互重合体、ポリブタジエン、ブタジエン―スチレン共重合体ゴム、エチレン―プロピレン共重合体ゴム、エチレン―酢酸ビニル共重合体ゴムのごときゴム状物質の存在下に、前記単量体から選ばれた一種または二種以上の単量体を反応させて得られる変性重合体ならびにゴム状物質と前記重合体または相互重合体を混合して得られる熱可塑性樹脂組成物を意味する。」とし、実施例としては、そのうち耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)について、その耐衝撃性、難燃性及び燃焼滴下物のないこと等を明らかにしていることを認めることができる。叙上認定の事実によると、第一引用例における難燃化の対象であるポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン系単量体の重合体、スチレン系単量体を主成分とし、これに前記ビニル化合物、前記ビニル複素環化合物、前記共役ジエン化合物の一種または二種以上を混合した単量体混合物を重合して得られる相互重合体、これら単量体又は単量体混合物を前記ゴム状物質の存在下に反応して得られる変性重合体、右ゴム状物質と前記重合体を混合した樹脂組成物及び前記重合体を実質的に主成分とする樹脂組成物であるということができ、右変性重合体において、ポリブタジエン、ブタジエン―スチレン共重合体で変性したものの中には、「ジエン系ゴム変性ポリスチレン樹脂」が含まれるから、第一引用例には、ジエン系ゴム変性ポリスチレン樹脂もその難燃性付与対象の樹脂に用いることが記載されているということができ、右記載の重合体の中にABS樹脂が含まれていることは原告の認めるところである。原告は、第一引用例の実施例において難燃化効果を確認したのは、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)のみであつて、ABS樹脂が同様の効果を奏するかどうかについて明らかにしておらず、第一引用例の難燃化技術の対象は、耐衝撃性ポリスチレンまでであつて、ABS樹脂などには及んでいない旨主張し、第一引用例の実施例には耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)を対象とする難燃化のみが挙げられていることは、前認定のとおりである。しかし、第一引用例に関する前認定の事実によると、第一引用例は、そこに記載の難燃化技術がジエン系ゴム変性ポリスチレン樹脂、したがつて、ABS樹脂にも用い得ることを開示しているものとみるべきである。なお、前掲甲第五号証及び成立に争いのない甲第一二号証(特許出願公告公報昭五二―一三二一五号)を総合すれば、第一引用例記載の発明の明細書は、後に補正され、右補正後のものが、昭和五二年四月一三日、公告されているが、その特許請求の範囲の項では、第一引用例では「ポリスチレン系樹脂」とあつた合成樹脂が「ポリスチレン及び/または耐衝撃性ポリスチレン」と限定されていること、また、その発明の詳細な説明の項中には、第一引用例の三種の難燃化成分による難燃化技術が耐衝撃性ポリスチレンに対しては有効であるが、ABS樹脂に対しては、難燃性SE―1ないしSB、燃焼滴下物無あるいは有の結果を示した例が記載されていることを認めることができる。しかし、右出願公告公報は、本願発明の特許出願前において公知のものではなく、また、右記載の事例は、第一引用例の難燃化技術がABS樹脂すべてに適用し得るかはともかく(ちなみに、本願発明の樹脂は、前示のとおり、ABS樹脂そのものではない。)、耐衝撃性ポリスチレン以外のポリスチレン系樹脂にすべて適用し難いことを示すものといえず、第一引用例の耐衝撃性ポリスチレンに奏功した難燃化技術を他のポリスチレン系樹脂の難燃化に適用する試みを妨げるものということはできない。したがつて叙上の事実は、前段認定を覆すに足りない。

3 次に、第二引用例に本件審決認定のとおりの記載があることは、原告の認めるところであり、右事実に成立に争いのない甲第六号証(第二引用例)を総合すれば、第二引用例は、本願発明の特許出願前に国内に頒布された公開特許公報であるが、これに記載された発明は、遅炎性(遅炎剤配合)ラバー変性スチレン樹脂組成物に関するものであつて、ラバー変性スチレン樹脂約二五ないし八〇重量%に、塩素化ポリエチレンなどのハロゲン化ポリオレフイン約一〇ないし五〇重量%、酸化アンチモンなどの無機遅炎剤約二ないし二〇重量%及びハロゲン化脂肪族炭化水素約二ないし二〇重量%の難燃化成分を配合するものであること、この難燃化の対象となるラバー変性ポリスチレン樹脂には、耐衝撃性ポリスチレン、メチルメタアクリレート―ブタジエン―スチレン樹脂(MBS)、アクリロニトリル―ブタジエン―スチレン樹脂(ABS)、MBS又はABSとスチレン―アクリロニトリル共重合体(SAN、ASに同じ。)との配合物が挙げられていることを認めることができる。右認定の事実によれば、第二引用例は、塩素化ポリエチレン、酸化アンチモン、ハロゲン化脂肪族炭化水素からなる本願発明の難燃化成分と近似のものが、耐衝撃性ポリスチレン、MBS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂又はABS樹脂とAS樹脂の配合物の難燃化に用いられること、また、右難燃化成分は耐衝撃性ポリスチレンに対すると同様に、MBS樹脂、ABS樹脂、更にはMBS樹脂又はABS樹脂とAS樹脂との配合物に適用されることを開示するものということができる。

4 以上認定したところに基づき、本願発明と第一引用例記載の発明とを対比すると、両者は、合成樹脂に、塩素化ポリエチレン、テトラブロモビスフエノールA及び三酸化アンチモンを配合してなる樹脂組成物であつて、右の三種の難燃剤の配合割合にも差異のない点で一致し(この点は、原告の認めるところである。)、両者の相違点は、難燃化の対象である合成樹脂にあること、すなわち、本願発明の合成樹脂は、前記の乳化重合グラフト共重合体(A)と塊状又は懸濁重合共重合体(B)の配合物であるのに対し、第一引用例は、ジエン系ゴムポリスチレン樹脂である点で相違することは明らかである。ところで、本願発明におけるジエン系ゴムラテツクスの存在下に、芳香族モノアルケニル単量体、ビニルシアン単量体及び/又はアクリル酸あるいはメタアクリル酸のアルキルエステル単量体を乳化重合して得られるグラフト共重合体(A)と右単量体を塊状又は懸濁重合して得られる共重合体(B)との配合物は、前認定のとおり本願発明の特許出願前周知の樹脂組成物であつて、右グラフト共重合体(A)と共重合体(B)とがいずれも、第一引用例が難燃化の対象とするポリスチレン系樹脂として挙げた重合体に含まれることは、2に説示したとおりである。そして、本願発明と近似する難燃化成分で耐衝撃性ポリスチレンやABS樹脂とAS樹脂との配合物を難燃化する技術が第二引用例に示されていることは、3に認定したとおりであるから、本願発明の特許出願前周知の本願発明のグラフト共重合体(A)と共重合体(B)とを配合した樹脂組成物の難燃化に第一引用例記載の難燃化成分を用いることは、当業者にとつて格別困難なことということはできない。原告は、本願発明のグラフト共重合体(A)と共重合体(B)とを配合した樹脂の難燃化は知られていなかつた旨主張するが、第二引用例の前示記載からみて、右のように、本願発明の合成樹脂の難燃化を試みることは容易というべきであり、したがつて、原告の右主張は、採用の限りでない。更に、原告は、従来から難燃剤を加えることは、各樹脂の性質に大きな影響を与えるので、難燃化の技術は、樹脂の種類ごとに難燃化の程度、他の物性の維持について個々に検討しなければならなかつたから、第一引用例記載の耐衝撃性ポリスチレンの難燃化の技術がそのまま本願発明の樹脂に適用できるものではない旨主張するが、ある樹脂の難燃化技術の開発に当たつては、それと類似の樹脂に用いられる難燃化成分を配合したり、あるいはその樹脂に用いられている難燃化成分と類似の難燃化成分を配合して難燃化の程度、物性を検討しつつ開発を進めるのが通常であるところ、既に述べたとおり、第一引用例及び第二引用例記載の発明は、いずれも本願発明と同じくポリスチレン系樹脂に塩素化ポリエチレンなどの数種の難燃剤を加えた場合における右樹脂の物性の改良維持及び難燃化に関するものであるから、本願発明において、第一引用例記載の難燃化技術を、第二引用例の記載を参照して、本願発明の樹脂の難燃化に適用することは容易になし得る程度のことということができ、したがつて、原告の叙上主張は、採用するに由ない。なお、原告は、第二引用例は、その難燃化対象樹脂中のAS樹脂の組成及びABS樹脂との配合割合が明らかでなく、また、第二引用例のものは、塩素化ポリスチレンの大量使用によりABS樹脂の物性を損ない実用性を欠く異質の樹脂となつた旨主張するが、第二引用例についての前認定の事実によると、第二引用例の樹脂及び難燃剤は、本願発明あるいは第一引用例のそれと質的に異なるものとは認め難く、したがつて、原告の右主張は、前段認定を妨げるものということはできない。

5 前認定したところによると、本願発明の目的は、第一引用例記載の発明の目的と同一であり、また、少量の難燃化成分の配合により、最終樹脂組成物の機械的強度などの物性を損なわず、しかも、火だれのない高度の難燃性(UL規格94V―0のもの)を付与することができるとの本願発明の効果は、第一引用例においても耐衝撃性ポリスチレンを対象とするものではあるが、耐衝撃性を比較的低下させることなく、UL規格94V―0に相当する難燃性を得ていることにかんがみ、第一引用例の記載から予測し得ない格別の効果ということはできず、右認定を覆すに足りる証拠はない。この点に関し、原告は、本願発明の効果は、その合成樹脂一〇〇重量部に対し塩素化ポリエチレンを三ないし一二重量部とすることにより難燃性が改善される特異な現象を捕えることによりはじめて達成された旨主張するが、前説示のとおり本願発明における難燃剤の種類及び配合比率は第一引用例と実質上差異はないのであるから、右の点をもつて本願発明により奏せられた格別の効果とすることはできず、したがつて、原告の右主張も採用するに由ない主張といわざるを得ない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ジエン系ゴムラテツクスの存在下に、芳香族モノアルケニル単量体、ビニルシアン単量体及び又はアクリル酸あるいはメタクリル酸のアルキルエステル単量体を乳化重合させて得られるグラフト共重合体(A)五~七〇重量%と塊状又は懸濁重合による前記単量体の共重合体(B)三〇~九五重量%と、(A)と(B)との合計一〇〇重量部に対して塩素化度二五~四五重量%の塩素化ポリエチレン(C)三~一二重量部、テトラブロモビスフエノールA又はその誘導体(D)五~二五重量部と三酸化アンチモン(E)二~一〇重量部とからなることを特徴とする難燃性の樹脂組成物。

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