東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)55号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決につき、原告が主張する取消事由の存否の判断をする。
1 ところで、前記本件審決の理由の要点2(三)(1)及び<2>記載の「明瞭でない記載」とは、本願明細書の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の欄中の六頁二〇行から九頁一四行までの記載が、前記本件審決の理由の要点2(二)(1)記載の「前者の解釈」と「後者の解釈」の二様に解釈されることを指し、前記本件審決の理由の要点2(三)(1)及び(2)記載の「誤記を含むもの」とは、前記本件審決の理由の要点2(二)(2)記載の誤記を含むことを指し、前記本件審決の理由の要点2(三)(1)及び(2)記載の「その記載不備」とは、前記「明瞭でない記載」と「誤記を含むもの」であることを指すものであることも、当事者間に争いがない。
2 「少なくとも」の修飾する語句について
本件審決が請求の原因四1の(一)のとおり認定判断したこと及び同(二)の主張中、本願明細書の特許請求の範囲の記載の文理からは、後者の解釈が当然であること、及び、審判手続において、出願人である原告が、後者の解釈のとおり解釈すべきである旨主張したことは、当事者間に争いがない。
そして、前記請求の原因二の本願発明の特許請求の範囲を検討し、これを客観的に理解するときは、右特許請求の範囲中、「少なくとも」の修飾する語句の範囲を前者の解釈のように解釈するのは文理上不自然であると認められる。
ところで、およそ特許出願の審査、審判に当たつて、明細書の記載は、日本語の文理に従つて解釈すべきことは当然であり、客観的に確定できる文理上の解釈と、出願人が表現しようと意図した内容が一致する場合、その文理上の解釈をもつて、明細書の記載を解釈すべきであるところ、本件の場合、文理上は後者の解釈が当然であるのに対し、前者の解釈のように解釈するのは文理上不自然であり、しかも出願人である原告が、審判手続において、自らの責任において、後者の解釈のとおり特許請求の範囲を解釈すべきであると主張しているのであるから、本願発明の特許請求の範囲の記載に「前者の解釈」と「後者の解釈」の二とおりの解釈が成り立つものではなく、後者の解釈のみが成り立つものであり、その後者の解釈によつて審査、審判を進めれば足りるものである。
本件審決の、右の点について、前者の解釈と後者の解釈の二とおりの解釈が成り立つ旨の認定判断は、当事者双方が主張するその余の点について検討するまでもなく、誤りである。
また、本件審決は、本願明細書中の発明の詳細な説明の欄の内七頁一七行から九頁二行までの記載も、同様に明瞭でない記載である旨認定判断しているが、この認定判断も、右と同じ理由により誤りである。
3 「触媒保持器」の語が誤記か否かについて
請求の原因四2(一)の事実中、本件審決が原告主張のとおりの認定判断をしたことは当事者間に争いがない。
本件審決の認定するように、本願明細書中の、特許請求の範囲において、触媒保持器が頂部保持器部材と底部保持器部材とからなるものとされていることは原告の自ら認めるところである。
しかし、右のように頂部保持器部材と底部保持器部材とからなる触媒保持器も、それ自体が一体として本願発明の内燃機関用排気ガス触媒変換器の一構成部分となるものであり、他の構成部分との組合わせ、接合状態を表現するのに、それを構成する部材である頂部保持器部材や底部保持器部材まで細分化して表現する必要はなく、一体としての触媒保持器として他の構成部分との組合わせ、接合状態を表現することも、そのことにより記載内容が不明瞭になるような場合を除き、何ら差し支えはない。
前記当事者間に争いのない請求の原因二の本願発明の特許請求の範囲においては、触媒保持器を形成する頂部保持器部材及び底部保持器部材の「両保持器部材のうち少なくとも頂部保持器部材には、排気系統の入口側円筒部材に直接接続され、かつ、その皿形部と同一の素材により一体に形成された上向凹部がその一端部に設けられ、該上向凹部は前記触媒収容部から入口流路に無孔状態で延在し、該上向凹部の一部は、底部ハウジング部材の前記入口半円筒部と重合して軸方向に延在して、頂部ハウジング部材の入口円筒部と共に円筒形の排気ガス入口円筒部を形成し、該入口円筒部において、頂部ハウジング部材と触媒保持器の両方が排気系統の前記入口側円筒部材に直接接続されるようになされ、」と表現されているのであるから、入口側について、排気ガス入口円筒部において、「頂部ハウジング部材と触媒保持器の両方が排気系統の前記入口側円筒部材に直接接続されるようになされ」ている「触媒保持器」は、頂部保持器部材と底部保持器部材とからなる一体の触媒保持器であり、それを構成する部材にまで細分化して前後の文章を表現するならば、「頂部ハウジング部材と少なくとも頂部保持器部材(両保持器部材の場合もありうる)の両方が排気系統の前記入口側円筒部材に直接接続されるようになされ」との趣旨であることは明らかであり、特許請求の範囲の記載内容に不明瞭な点はない。
同様に、出口側についても、排気ガス出口円筒部において、「頂部ハウジング部材と触媒保持器の両方が排気系統の前記出口側円筒部材に直接接続されるようになされ」ている「触媒保持器」は、頂部保持器部材と底部保持器部材とからなる一体の触媒保持器であり、それを構成する部材にまで細分化して前後の文章を表現するならば、「底部ハウジング部材と少なくとも底部保持器部材(両保持器部材の場合もありうる)の両方が排気系統の前記出口側円筒部材に直接接続されるようになされ」との趣旨であることは明らかであり、特許請求の範囲の記載内容に不明瞭な点はない。
したがつて、本件審決の指摘する、本願明細書中の特許請求の範囲中の「触媒保持器」との表現は、頂部保持器部材と底部保持器部材とからなる一体としての触媒保持器を表すものであり、誤記ということはできない。
即ち、前記のとおり「触媒保持器」との記載があつても、本件審決のいう態様E1のみならず態様E2等も特許請求の範囲に含まれることが明らかであり、本件審決の、「「触媒保持器」は頂部及び底部保持器部材によつて形成されるものであるとの定義に従うとすれば、特許請求の範囲の中に態様E1は含まれるが態様E2は含まれないことになる旨の本件審決の認定判断は誤りである。したがつて、右誤つた認定判断を前提とする、「上記定義に従うと、特許請求の範囲から把握できる発明と発明の詳細な説明の欄に記載された発明とは互いに合致していないものとなるから、「触媒保持器」の記載は明らかな誤記である。」旨の本件審決の認定判断もまた誤りである。
また、本件審決の指摘する、本願明細書中の発明の詳細な説明中の「触媒保持器」との表現も、以上と同様の理由により、頂部保持器部材と底部保持器部材とからなる一体としての触媒保持器を表すものであり、誤記ということはできず、この点についての本件審決の認定判断も誤りである。
本件審決の認定判断に誤りはないことの理由として被告の主張するところは、以上判断したところによりいずれも失当である。
4 様態E2を含む発明の作用効果についての明細書の記載の有無について
本件審決が、請求の原因四3(一)記載のとおり認定判断していることは当事者間に争いがない。
成立について争いのない甲第三号証(昭和五七年三月一日付手続補正書)によれば、本願明細書には、「第1図~第3図に示した本発明実施例は、第4図~第12図に示した実施例と同様ではあるが、……(中略)……第1~第2図からも明らかな如く、底部保持器部材の排気ガス入口縁部は頂部保持器部材及び底部ハウジング部材の排気ガス入口縁部に達しておらず、この実施例では底部保持器部材はその排気ガス入口縁部近傍において頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟まれることによつて頂部保持器部材に取り付けられており、同様に、頂部保持器部材の排気ガス出口縁部は底部保持器部材及び頂部ハウジング部材の排気ガス出口縁部に達しておらず、この実施例では頂部保持器部材はその排気ガス出口縁部近傍において底部保持器部材と頂部ハウジング部材によつて挟まれることによつて底部保持器部材に取り付けられ、したがつて、第1図の左下部および右上部において、二層かそれぞれ排気系統の円筒部材に溶接される。即ち、排気系統の入口側円筒部材60に直接接続される上向凹部は頂部保持器部材26のみが、また、排気系統の出口側円筒部材62に直接接続される下向凹部は底部保持器部材28のみが備えている。」(甲第三号証中の明細書二八頁二〇行から三〇頁四行まで)と記載されていることが認められるから、本願明細書の「第1図~第3図に示した本発明実施例」は、本件審決のいう態様E2に該当するものと認められる。
ところで、前記甲第三号証によれば、本願明細書においては、前記の「第1図~第3図に示した本発明実施例」について、「この場合頂部保持器部材および底部保持器部材は排気ガス入口縁部および同出口縁部において互いに連続溶接されることにならないが、この部分において例えガスリークが生じたとしても、触媒を迂回するリークにならないので問題はない。その他の点および第4~12図実施例の説明で特記した点以外については第4~12図の実施例と同様である。以下本発明による作用効果を説明する。」(本願明細書三〇頁一六行から三一項四行まで)と記載され、以下本願明細書三一頁五行から三七頁二行までに、態様E2を含む本願発明の作用効果が明記されていることが認められる。
本件審決は、例えば、本願明細書三四頁一〇行から一五行までの「触媒……である。」及び本願明細書三五頁六行から一二行までの「触媒……高められる。」等に対応するところの、態様E2を含む発明が奏する作用効果についての詳細な説明が、明記されていないと認定判断し、被告は、それらの部分については、事実摘示欄第三(被告の主張)の四に記載のように記載すべきであるのに、そのような記載はされていない旨主張する。
しかしながら、本願明細書中本件審決が指摘する各箇所における「触媒保持器」は、前記3に判断したところと同じく、頂部保持器部材と底部保持器部材とからなる一体としての触媒保持器を表すものと理解することができ、したがつて、右各箇所は態様E2を含む発明の作用効果の説明として不明なところはなく、被告主張のように記載しなければならないものではないから、被告の主張は採用できない。
よつて、当事者間に争いがない請求の原因四3(一)の本件審決の認定判断は誤りである。
5 そうすると、本件審決には、本願明細書中の特許請求の範囲に記載された事項の認定、解釈を、前記2及び3の点において誤つた結果、右特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが明確に記載されているとは認められず、本願は、昭和六〇年法律第四一号による改正前の特許法第三六条第五項に規定する要件を満たした明細書を願書に添附した出願ということができないと判断を誤り、かつ、本願明細書中の発明の詳細な説明の欄に記載された事項の認定、解釈を、前記2ないし4の点において誤つた結果、本願明細書中の発明の詳細な説明の欄には、発明の構成が明確に記載されているとは認められず、本願は、昭和六〇年法律第四一号による改正前の特許法第三六条第四項に規定する要件を満たした明細書を願書に添附した出願ということができないと判断を誤り、本願について特許をすべきであるとすることはできないとした違法があるといわなければならない。
三 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は正当であるから認容することとする。
〔編注1〕本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
排気ガスがハウジング内の触媒保持器内部に収容された触媒を通過して流れ、該ハウジングが頂部及び底部ハウジング部材を有し、該両ハウジング部材はそれぞれ皿形部を有し、該両皿形部で前記触媒保持器を囲い、該両皿形部は円筒形の排気ガス入口流路及び出口流路を形成するための半円筒部を有し、該入口流路及び出口流路は前記触媒保持器の触媒収容部から軸方向に離されてそれぞれ配置され、前記触媒保持器の触媒収容部は、触媒を通過する排気ガス路を形成する多孔部を有し、更に、前記触媒保持器はハウジング部材の周縁に延在するフランジ部の間に挟まれるフランジ部を有する内燃機関用排気ガス触媒変換器において、前記触媒保持器(例えば24)は頂部及び底部保持器部材(例えば26、28)によつて形成され、該頂部及び底部保持器部材は前記触媒収容部を形成する皿形部をそれぞれ有し、両保持器部材のうち少なくとも頂部保持器部材には、排気系統の入口側円筒部材に直接接続され、かつ、その皿形部と同一の素材により一体に形成された上向凹部がその一端部に設けられ、該上向凹部は前記触媒収容部から入口流路に無孔状態で延在し、該上向凹部の一部は、底部ハウジング部材(例えば14)の前記入口半円筒部(例えば66)と重合して軸方向に延在して、頂部ハウジング部材(例えば12)の入口円筒部(例えば64)と共に円筒形の排気ガス入口円筒部(例えば56)を形成し、該入口円筒部において、頂部ハウジング部材と触媒保持器の両方が排気系統の前記入口側円筒部材に直接接続されるようになされ、前記両保持器部材のうち少なくとも底部保持器部材には、排気系統の出口側円筒部材に直接接続され、かつ、その皿形部と同一の素材により一体に形成された下向凹部がその他端部に設けられ、該下向凹部は前記触媒収容部から出口流路に無孔状態で延在し、該下向凹部の一部は、頂部ハウジング部材(例えば12)の前記出口半円筒部(例えば64)と重合して軸方向に延在して、底部ハウジング部材(例えば14)の出口半円筒部(例えば66)と共に円筒形の排気ガス出口円筒部(例えば58)を形成し、該出口円筒部において底部ハウジング部材と触媒保持器の両方が排気系統の前記出口側円筒部材(本願明細書に「入口側円筒部材」とあるのは誤記である。)に直接接続されるようになされ、前記頂部及び底部ハウジング部材を構成する前記入口半円筒部、皿形部及び出口半円筒部は、それぞれ同一の素材により一体に形成され、頂部及び底部ハウジング部材の周縁部には排気ガス入口縁部と出口縁部とを除く全周縁にわたり前記ハウジングのフランジ部が一体に設けられ、また頂部及び底部保持器部材の周縁部には排気ガス入口縁部と出口縁部とを除く全周縁にわたり前記触媒保持器のフランジ部が一体に設けられており、前記両保持器部材の周縁部に設けたフランジ部が前記両ハウジング部材の周縁部に設けたフランジ部によつて挟着されていることを特徴とする内燃機関用排気ガス触媒変換器。(別紙第一図及び第二図参照)
〔編注2〕本件における審決の理由の要点は左のとおりである。
1 本願発明の出願の経緯及び発明の名称は一項のとおりである。
2 これに対し、審判手続において昭和五九年四月二七日付の拒絶理由通知書をもつて、「本件出願は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第三六条第四項及び第五項(但し、昭和六〇年法律第四一号による改正前のもの)に規定する要件を満たしていない。」ことを通知した。その「記」には、以下のことが記載されている。
(一) 発明の詳細な説明の欄及び図面の記載について
(1) 発明の目的に関する記載によれば、従来の触媒変換器では、いずれもガスリークの発生に関し耐久性の問題がある(昭和五七年三月一日付手続補正書(甲第三号証)により全文が同書別紙「訂正明細書」のとおり訂正された明細書(以下「本願明細書」という。)五頁六行から八行まで)。例えば、触媒保持器を多孔上部板及び多孔下部板と上流端部及び下流端部を密封的に閉鎖する垂直板とで構成し、上部板及び下部板をガス流方向に対して横方向に延長してハウジング板のフランジ間に挟持し、上流側で垂直板の下端部を、下流側で垂直板の上端部を、それぞれハウジングに密封接触させたものでは、使用するにしたがつて、その密封部が容易に開いてしまい、触媒を迂回するリークが発生し耐久性に欠ける欠点があつた(本願明細書五頁九行から六頁一五行まで)。そこで、本願発明は強固な構造で触媒を迂回するリーク発生の可能性がなく耐久性の高い内燃機関用触媒変換器を得ることを目的とした(本願明細書六頁一六行から一八行まで)ものであることが明らかである。
(2) 本願発明及びその実施方法についての記載によれば、昭和五七年三月一日付手続補正書(甲第三号証)により同書別紙図面のとおり差替え又は訂正された図面(以下「本願図面」という。)中第4図ないし第12図(以下「本願第○図」というように表示する。)に示した実施例においては、頂部及び底部保持器部材の上流側端部には排気系統の入口側円筒部材に直接接続される上向凹部が設けられており(本願明細書一四頁三行から六行まで)、(なお、下流側についても同様のことがいえる場合には、以下、その記述を省略し、上流側についての記述を以てそれに代えることとする。)、本願第1図から第3図に示した実施例においては、底部保持器部材は、排気ガス入口縁部近傍において頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟まれることによつて頂部保持器部材に取り付けられており(本願明細書二九頁七行から一一行まで)、排気ガス入口縁部において頂部保持器部材と互いに連続溶接されることにはならないが、この部分においてたとえガスリークが生じたとしても触媒を迂回するリークにはならない(本願明細書三〇頁一六行から二〇行まで)ようになつていることが明示されており、その他の実施例、例えば、底部保持器部材がガス入口縁部の近傍にまで達していず頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟持されていないようなものについては、いかなる言及もなく示唆すらもされていない、と認められる。
(3) 本願発明による作用効果についての記載によれば、本願発明は次の作用効果を持つ。
まず第一に触媒を迂回するリークの可能性がないこと(本願明細書三一頁五行から六行まで)。
第二に、<1>触媒保持器をハウジング内に堅固に支持する、及び<2>入口側の不浄なガスを出口側の浄化ガスから隔離する、という二つの問題を同時的に解決すること(本願明細書三三頁三行から一二行まで)。
また、触媒保持器はそれぞれ排気系統の円筒部材の一つに溶接によつて直接的に接続可能であり、しかも各ハウジング部材はそれぞれ排気系統の円筒部材の一つに溶接によつて直接的に接続可能であるから自己支持的であり(本願明細書三四頁一〇行から一五行まで)、さらに、触媒保持器の各端の延長部はハウジング部材のそれぞれの延長部に沿つて延在しそれと重合するので堅固さは一層高められること(本願明細書三五頁六行から一二行まで)。〔なお、触媒保持器は頂部及び底部保持器部材によつて形成されるものである(本願明細書一頁二〇行から二頁二行まで、その他)ことは明らかであるから、前記の記載において、ハウジング内に堅固に支持され自己支持的でありかつハウジング材のそれぞれの延長部に沿つて延在しそれと重合する「もの」は、「頂部及び底部保持器部材によつて形成される触媒保持器」であつて、「頂部保持器部材」ではないと解する外はない。しかし、この記載を根拠にして本願発明は後記の態様E1のみを含み、それ以外の態様は含まないものであると解するのは、本願明細書の全趣旨からみれば当を得ないものというべきであろう。〕
さらにまた、本願発明の触媒変換器は、四個の主要部材を組合わせるのみでよいから接続部によるシーム部分の数を減らし使用中の破損の可能性及び触媒を迂回するリークの可能性を減ずるものであること(本願明細書三六頁一一行から一六行まで)。〔なお、ここでいう「組合わせる」は、その通常の用法に従えば溶接等により接続することまでは含まない概念と解されるので、この記載中に例えば頂部保持器部材と底部保持器部材とが内部の溶接部分によつて接続されることが示唆されている、などと認めることもできない。〕
そして、その他の作用効果、例えば底部保持器部材がガス入口縁部の近傍にまで達していず頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟持されていないものによつて奏される作用効果については、いかなる言及もなく示唆すらもされていないと認められる。
(4) 本願図面の記載によれば、特許異議申立理由補充書の参考第5図(乙第一号証の三の四二頁。本判決別紙第三図。)に示された態様E1(底部保持器部材が排気ガス入口縁部まで延在し頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟持されるようになつているもの、以下「態様E1」という。)及び態様E2(底部保持器部材が排気ガス入口縁部近傍にまで延在し頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟持されるようになつているもの、以下「態様E2」という。)について記載があることは認められるが、態様E3(底部保持器部材が排気ガス入口縁部近傍にまで達していず、頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟持されていず、かつ、前記両保持器部材が内部の溶接部分によつて接続されていないもの、以下「態様E3」という。)及び態様E4(底部保持器部材が排気ガス入口縁部近傍にまで達していず、頂部保持器部材と底部ハウジング部材によつて挟持されていず、かつ、前記両保持器部材が内部の溶接部分によつて接続されているもの、以下「態様E4」という。)については、記載が全くない、と認められる。
(5) 本願発明は非常に大きな温度変化を受け(本願明細書六頁三行から四行まで)、かつ、その入口が本体フレームに対するエンジンの振動と共に運動する(本願明細書三四頁四行から五行まで)内燃機関用触媒変換器に係るものであることからみても、態様E3及びE4については、審判請求人(原告)が認めているように態様E1及びE2に比べ触媒を迂回しないリークが若干多くなる(特許異議申立に対する答弁書五八頁七行から八行まで)ということのみならず、非常に大きな温度変化と機械的振動とを受けることにより底部保持器部材が上記特許異議申立理由補充書の参考第5図(本判決別紙第三図)のE3(b)に示すように頂部保持器部材から剥離し開口を形成し易くなるであろうことは推測に難くないところであるので、態様E3及びE4は、前記(一)(1)及び(3)にみたように、強固な構造で耐久性の高い内燃機関用触媒変換器を得るという目的を有し、頂部及び底部保持器部材から形成される触媒保持器をハウジング内に堅固に支持しかつその支持は自己支持的でありさらに当該保持器はハウジング部材のそれぞれの延長部に沿つて延在しそれと重合する、という作用効果を有するものであるところの本願発明には、含まれるものではない、と解すべきであると認められる。
(6) 以上の事実からみて、本願明細書の発明の詳細な説明の欄及び本願図面には、態様E1及びE2については開示されている(なお、このことは昭和五七年三月一日付意見書の八頁四行から一三行まで、その他の記載によつても裏付けられる。)が、態様E3及びE4についてはいかなる記載もなくその示唆すらもされていないと、換言すれば、同欄に記載された発明のうちに態様E3及びE4が含まれると解することのできるいかなる資料も包含されていないと、認めるを相当とする。
(二) 特許請求の範囲の欄の記載について(本願明細書六頁二〇行から九頁一四行までの記載についても妥当する。)
(1) 本願明細書二頁四行から一八行までの「両保持器部材の……なされ」において、「少なくとも」の語がそれに続く「排気系統の入口側円筒部材に直接接続され」の語句のみを修飾するものと解する(以下「前者の解釈」という。)と、「底部保持器部材には、その皿形部と同一の素材により一体に形成された上向凹部がその一端部に設けられ、該上向凹部は前記触媒収容部から入口流路に無孔状態で延在し、該上向凹部の一部は底部ハウジング部材の前記入口半円筒部と重合して軸方向に延在して、頂部ハウジング部材の入口半円筒部と共に円筒形の排気ガス入口円筒部を形成し」(以下「事項A」という。)が、請求の範囲に記載されていることになるが、前記「少なくとも」の語が当該記載の全部を修飾するものと解する(以下「後者の解釈」という。)と、事項Aは請求の範囲に記載されていないことになる。
事項Aが請求の範囲に記載されていないとすれば、底部保持器部材としては、皿形部を有しその周縁部に排気ガス入口縁部と出口縁部を除く全周縁にわたりフランジ部が一体に設けられそのフランジ部がハウジング部材のフランジ部によつて挟着されていれば足り、他の構成を不可欠の要件として備えていることを要しないということとなる。即ち、前者の解釈に従えば、発明の詳細な説明の欄において開示されていると認め難いもの、例えば、態様E3及びE4が請求の範囲から除外されることとなるが、後者の解釈に従えば、同欄において開示されていると認め難いもの、例えば、態様E3及びE4が請求の範囲に含まれてくることになり、前記(一)(1)及び(3)でみた目的及び作用効果を達成することが不可能となる。そのことは、後者の解釈によるときは、請求の範囲に発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されている、とはいえなくなることを意味する。
なお、当該記載は、後者の解釈をされる可能性が全くないとはいえないものと認められる(特許異議申立に対する答弁書七頁六行から九行まで、同四七頁二〇行から四八頁一行まで等を参照のこと。)
(2) 本願明細書二頁一五行から一八行までの「該入口円筒部……なされ」において、「触媒保持器」は、本願明細書一頁二〇行から二頁二行までその他により、頂部及び底部保持器部材によつて形成されるものであることが明確に定義されているが、この定義に従うとすれば、請求の範囲の中に態様E1は含まれるが態様E2は含まれないことになる。前記(一)でみたとおり、発明の詳細な説明の欄において開示された発明のうちには、態様E1及びE2が含まれていると一応認めることができるから、前記定義に従うと、請求の範囲から把握できる発明と発明の詳細な説明の欄に記載した発明とは互いに合致していないものとなる。よつて、当該記載中の「触媒保持器」は明らかな誤記であるというほかはない。
(三) したがつて、
(1) 本願明細書二頁四行から三頁一二行までの「両保持器……なされ」の記載は、前記(二)(1)及び(2)に述べた理由により、明瞭でない記載又は誤記を含むものと認められ、かつ、その記載不備により、請求の範囲において発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが明確に記載されている、と認めることができない。よつて、本願明細書の特許請求の範囲は特許法第三六条第五項(昭和六〇年法律第四一号による改正前のもの)に定める要件を満たしていないといわざるをえない。
(2) 本願明細書七頁一七行から九頁二行までの「両保持器……なされ」の記載は、(二)(1)及び(2)に述べた理由により、明瞭でない記載又は誤記を含むものと認められ、かつ、その記載不備により、発明の詳細な説明の欄において、発明の目的(前記(一)(1)を参照。)として措定したところの本願発明が解決しようとする問題点を解決するために講じられた手段が、ひいては、発明の構成が、明確に記載されていると認めることができない。
また、態様E1(本件審決に「E2」とあるのは誤記である。)を含む発明が奏する作用効果についての詳細な説明、例えば、本願明細書三四頁一〇行から一五行までの「触媒……である。」及び本願明細書三五頁六行から一二行までの「触媒……高められる。」等に対応するところの、態様E2を含む発明が奏する作用効果についての詳細な説明が、明記されていない。
よつて、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第三六条第四項(昭和六〇年法律第四一号による改正前のもの)に定める要件を満たしていないといわざるをえない。
3 したがつて、本願は、特許法第三六条第四項及び第五項(昭和六〇年法律第四一号による改正前のもの)に規定する要件を満たした明細書を願書に添附した出願ということができないから、本願について特許をすべきであるとすることはできない。
〔編注3〕本件における図面は左のとおりである。
別紙第一図
<省略>
別紙第二図
<省略>
(以下省略)