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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)70号 判決

一 請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない(但し、同三の3の(二)中の「引用例の導波管23」が「引用例のスタツク44及び45による導波管」の誤記であるとの点を除く。)。

二 そこで、原告主張の本件審決の取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

成立に争いのない甲第一号証(審決謄本)によれば、本件審決の本願発明と引用発明の相違点、一致点の認定の項中には、「本願発明と引用例に記載のものとを対比すると、両者は、第一に、本願発明の第二導波管には空胴の共振周波数以下の遮断周波数を有するという限定が付されているが、引用例にはこの点の記載がないこと、第二に、本願発明の第一導波管は取り外し可能になつているが、引用例の導波管23はそのようになつていないことの諸点で相違する。」(三丁裏二~九行)と記載されていることが認められる。

しかしながら、前記当事者間に争いのない本願発明の要旨及び引用発明によれば、本件審決は、本願発明の共振空胴について、「共振空胴」と「共振空胴の共振周波数以上の遮断周波数をもつ第一導波管」と「この共振周波数以下の遮断周波数をもつ第二導波管」とで構成され、第一導波管が共振空胴から離れており、第二導波管は共振空胴の内壁の開口の周りに固定連結されており、該開口は該内壁について対称の位置及び形状を有していると認定しているのに対し、引用発明のそれについて、「空胴6は矩形導波管23」であること、「上部及び下部に垂直に伸びる円筒状のスタツク44及び45」が「空胴6を構成する導波管23の上面及び下面にそれぞれある開口」を取り囲んでいること、該スタツク44及び45は空胴の共振周波数以上の遮断周波数を有する導波管であること、空胴6を構成する矩形導波管23の上面及び下面にそれぞれある開口はその対称の位置及び形状を有することと認定していることが認められる。そして、前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点(ただし、前記争いのある部分を除く。)によれば、本件審決は、本願発明と引用発明とを対比判断する前提として、本願発明の第二導波管は空胴11の上下面19及び20の開口31それ自体によつて形成され、したがつて引用例の「導波管23の上面及び下面にそれぞれある開口」とは本願発明の「第二導波管」に相当すると認定していること、本件審決挙示の相違点(1)(2)の点では相違するがその余の点では一致すると認定していることが認められ、したがつて本件審決は、これらを前提として両発明を対比すると、本願発明の「共振空胴」、「第一導波管」、「第二導波管」はそれぞれ引用発明の「矩形導波管23」、「スタツク44及び45」、「導波管23の上面及び下面にそれぞれある開口」に対応するものであると認定判断していることが明らかである(原告が、本件審決は引用発明の「導波管23」を本願発明の「第二導波管」と解していると主張する点は、右認定事実に照らし採用できない。)。そうすると、前記相違点の記載中の「引用例の導波管23」の記載は、「引用例のスタツク44及び45」の誤記であることが明らかであり、右誤記は更正によつて是正することができるものであるから、これに反する原告の主張は採用できず、取消事由(1)は本件審決を取消すべき理由にならない。

2 取消事由(2)について

前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点(ただし、前記争いのある部分を除く。)によれば、本件審決は、本願発明の第二導波管とこれに対応する前叙の引用発明の「導波管23の上面及び下面にそれぞれある開口」とは空胴の共振周波数以下の遮断周波数を有するとの限定が付されているか否かの点で相違するのみで、他は一致する旨認定判断し、これに基づき、右相違点すなわち、本件審決の挙示する相違点(1)は単なる設計的事項と認定判断し、その結果、本願発明は引用発明から当業技術者が容易に発明をすることができたものであるから特許法二九条二項に該当し特許を受けることができない旨認定判断していることが認められる。

ところで、前記当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明の第二導波管は、共振空胴の内壁の開口の周りに固定連結されていること、該開口は該内壁について対称の位置及び形状を有して共振空胴内のマイクロ波の電磁界が該第二導波管の基本伝播モードを励起しないように設けられていることが認められ、したがつて、右第二導波管は、共振空胴内のマイクロ波の電磁界が該第二導波管の基本伝播モードを励起しない位置に設けられていることが認められる。そして、右の共振空胴内のマイクロ波の電磁界が該第二導波管の基本伝播モードを励起しない位置とは、共振空胴内のマイクロ波の電界零位平面に対し対称的な位置と同義であることは当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない甲第二(本願昭和五七年九月九日付手続補正書による本願明細書)、第三(本願図面)号証によれば、本願発明は、第二導波管を共振空胴内のマイクロ波の電界零位平面に対し対称的な位置に設けるという構成を採ることにより、マイクロ波の漏洩を生じさせることなく大きな標本を共振空胴内に挿入できるようにしたものであることが認められる。

これに対し、被告は、引用例の矩形導波管23の上面及び下面にそれぞれある開口(以下、「引用発明の第二導波管」という。)も電界零の領域に位置させられている旨引用例明細書の記載を引用して主張している。しかし、成立に争いのない甲第四号証(引用例明細書)によれば、引用例明細書の六欄四六行~五三行(訳文一一頁二行ないし六行参照)に「導波管23の上部及び下部の開口並びにスタツク44と45は、その中に挿入される試料が空胴6内のマイクロ波磁界の最も強く振動している領域、この磁界強度最大の領域は電界の節になつている所であるが、その領域に位置させられるように配置されている。」と、被告指摘のとおり記載されていることが認められるが、右記載は、共振空胴内に挿入される試料の位置について述べているにすぎず、引用発明の第二導波管の位置を述べているものではないと認められるから、被告の右主張は採用できない。

また、被告は、共振空胴に穴を開けるときは空胴の高周波電磁場をほとんど乱さない場所に設けることは技術常識であり、引用発明の第二導波管も右技術常識に徴して右条件を満たしている旨主張するところ、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(アルガー著「電子スピン共鳴」、磯部太郎監訳、昭和四八年四月二五日株式会社吉岡書店発行。以下、「周知例」という。)によれば、周知例の一三九頁には、「4.1.4設計上の要素 (a)空洞の穴あけと接合 空洞は完全な密封形では使用できないから、空洞のrf場をほとんど乱さない場所に穴と接合を設けることが必要である。」と記載されていることが認められ、なお、右の「rf場」とは、「電磁場」の意であること技術常識に属する。右記載によれば、共振空胴に穴を開けるときは共振空胴の高周波電磁場をほとんど乱さない場所に設けることが本願優先権主張日(昭和四八年七月一九日)前当業技術者にとつて技術常識であつたことが認められるが、引用発明が、一九五九年(昭和三四年)にアメリカ合衆国に出願され、一九六四年(昭和三九年)に特許されたものであることが当事者間に争いがないので、引用発明は周知例の発行日(昭和四八年四月二五日)より前の発明であること及び前掲甲第四号証によれば、引用例明細書には引用発明の第二導波管が共振周波数を超える遮断周波数を有することすなわち該導波管の径が共振周波数の波長よりも小さいことによつて生起する標本の大きさが制限されることの不都合について何も触れられていないことが認められることに照らすと、引用発明が前記技術常識を採用しているものであるとはいまだ速断することはできない。被告指摘のバツフル・カバー・ガード53についての引用例明細書の記載によつても引用発明が前記技術常識を採用しているとの事実を認めるに足りない。そうすると、被告の前記主張は前提を欠き採用できない。

また、被告は、試料支持子を電界零のところに置くのが技術常識であるとして周知例の一二七頁を引用し、これを前提に、引用発明の第二導波管が電界零の位置にある旨主張するところ、周知例の一二七頁には、「誘電損失の多い試料、試料支持子および内部変調コイルは空洞の中心のような<省略>が零であるか、それに近い領域に限定すべきである。」と記載されていることが認められ、なお、右の「<省略>が零である。」とは、「電界成分の絶対値が零」の意であることは当事者間に争いがないが、右記載からは、試料及び試料支持子を電界零の位置に置くことが本願優先権主張日前当業技術者にとつて技術常識であつたことが認められるにすぎず、引用発明の第二導波管の位置が電界零の位置に設けられていることを認めるには至らないし、他にこれを肯認するに足りる証拠はないから、被告の右主張も採用できない。

また、被告は、引用発明の実施例のTE011モードの円筒状空胴共振器(別紙(二)第7図参照)の中心軸は電界零であるから、円筒の中心軸上の開口も電界零のところに設けられている旨主張し、前掲甲第四号証及び周知例によれば、引用例の第7図及び第11図の実施例では、電界零位平面が円筒形共振空胴の上面と下面に位置することが認められるが、右実施例の共振空胴は引用発明の矩形の共振空胴(別紙(二)の第1図及び第3図参照)とは全く形状が相違し、引用発明の右矩形の共振空胴(矩形導波管23)についてどのようなモードで励振されているか及び電界零位平面がどこに生じているかを認めるに足りる証拠はないから、引用発明の第二導波管がその基本伝播モードを励起しない位置に設けられているとは認められず、被告の右主張は、前記認定を覆す根拠たり得ない。

以上のとおり、引用発明の第二導波管がその基本伝播モードを励起しない位置に設けられていることを認めるに足りる証拠はないから、本願発明の第二導波管と引用発明の第二導波管とが、共振空胴の共振周波数以下の遮断周波数を有するという限定が付されているか否かの点でのみ相違し、その他の点では一致する旨の本件審決の認定判断は、両発明の第二導波管についての相違点を看過誤認したものといわなければならず、右の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるので、本件審決は右の点において違法として取消を免れない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるのでこれを認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

「共振空胴内に標本を収容するEPR分光計共振空胴にして、共振空胴は、マイクロ波周波数に共振し、かつ低い周波数の磁界により励振されており、そして共振空胴は、共振空胴の共振周波数以上の遮断周波数を有する第一導波管と、共振空胴の共振周波数以下の遮断周波数を有する第二導波管にして、該第一導波管が共振空胴から離れており、該第二導波管を通して共振空胴へマイクロ波の結合が行われる第二導波管とを含み、該第二導波管は、共振空胴の内壁の開口の周りに固定連結されており、該開口は、該内壁について対称の位置及び形状を有して、共振空胴内のマイクロ波の電磁界が該第二導波管の基本伝播モードを励起しないようにし、しかも該第一導波管は、該第二導波管に対し取り外し可能となつていることを特徴とする分光計共振空胴。」

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