東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)92号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)、三(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
二 本願発明について
成立について当事者間に争いのない甲第一号証の一及び二によれば、本願発明についての特許出願公告に記載された明細書に昭和五九年二月一三日付手続補正書による補正を加えたもの(以下「本願明細書」という。)に記載された本願発明の特徴は次のとおりであることが認められる。
1 本願発明の課題、目的
(一) 本願発明は、車に使用するのに適したシリカ・ソーダ・カルシアガラスをベースとする窓ガラスに関する。
着色され、かつ車の運転者に十分な光の透過を与えることができ、かつ種々の天候及び光の条件下で異なる色彩を十分に識別できる窓ガラスが望まれている。特に全般的な視界を改善しながら大きな防眩作用を与え得る、生理的観点から設計された特性を有する乗物用の窓ガラス、特に風防用窓ガラスが待望されている。
この目的のため、本願発明は、可視光線の長波長域(即ち、五五〇~七五〇nm)において短波長域(即ち、四〇〇~五五〇nm)よりも高い光の透過率を有し、かつこの透過率が紫外線の波長帯で急激に低下する乗物用の着色ガラスを提供する(以上甲第一号証の一、一頁2欄一九行から三三行まで)。
(二) この種の乗物用の窓ガラスは知られており(例えば独特許第一一三四二二〇号(第一一三四二〇〇号とあるのは第一一三四二二〇号の誤記と認める。))、人間の眼の感受能力が最も大きな可視光線の長波長域において光の透過率が増大し、この透過率は眼の感受能力をプロツトしたグラフの曲線に平行な曲線に従つて、約四八〇ないし五五〇nmの波長域で最下点まで降下し、次いで増大して可視光線の下限の四〇〇nmの波長の時に約三〇%の最大値に達する。可視光線の短波長域においては、平均透過率は僅か二〇%台であるが、長波長帯においては透過率は約八五%となる。
これ等の周知の乗物用窓ガラスは防眩効果を生むフイルター特性を有する。特に、可視光線の短波長域において透過率は大幅に減少するため、紫青及び青緑の光線は十分吸収され、霧あるいは細かい雨の場合にもこれら光線の分散が問題とならない。しかしながら、可視光線の短波長帯域における、このような強度の吸収のため、緑と青とはもはや判然と識別できない。特に薄明の頃や霧においてはこれ等の色の識別は非常に困難か全くできず、その結果運転の安全をおびやかすことになる(以上甲第一号証の一、一頁2欄三四行から二頁3欄一七行まで)。
(三) また、透明度は極めて劣るけれども赤外線を強力に吸収する故に家屋を太陽熱から保護し得る公知の窓ガラスがある。しかし、前記の不透明度は強力な太陽光による眩しさを減少する利点を有するため一般の建造物では歓迎されるが、乗物用として、特に風防用には適当でない。夜間ドライブの安全のためには、光の透過率はできる限り高くなければならず、いかなる場合にも少なくとも七〇%はなければならない(以上甲第一号証の一、二頁3欄一八行から二六行まで)。
(四) また、他の色の着色ガラス、特に灰色又は緑色のガラスも乗物用として提案された。この様な灰色又は緑色のガラスは赤外線に対して高い吸収作用を有し、特に熱線吸収ガラスとして使用されている。しかしこのようなガラスは、特に雨や霧における防眩用途においては何の役にも立たない(以上甲第一号証の一、二頁3欄二七行から三二行まで)。
2 本願発明の構成等
(一) 請求の原因二(本願発明の要旨)のとおりの構成(甲第一号証の二別紙、同二頁一一行から三頁六行まで)。
(二) 光の透過率は各ガラスシートの厚さに依存する。このため、添加されるべき着色物質の量は、車に使用するガラスの厚さと所望透過率との関数として選択される(以上甲第一号証の一、二頁4欄一九行から二二行まで)。
(三) 使用されるガラスの光透過率は光が通過するガラスの厚さに関連しており、本文に記述された特性は三mmの厚さのガラスを測定したものである(甲第一号証の一、三頁6欄二〇行から二二行まで)。
(四) 本願発明の主な実施態様を列挙すれば下記の如くである。
(1) 波長四〇〇ないし五五〇nmにおける光の平均透過率が、波長五五〇ないし七五〇nmにおける光の透過率よりも五ないし一五%小さい、特許請求の範囲記載の窓ガラス。
………(中略)………
(5) 主波長が五七〇ないし五八〇nmであり、その純度が二ないし六%である、特許請求の範囲ないし前記各項のいずれかに記載の窓ガラス。
………(中略)……‥
(13) 七六ないし七九・五%の、全可視光線波長域における光透過率(Y)と、五七四ないし五八〇nmの主波長(λD)と、二ないし五%の刺激純度(Pe)とを、o照明源による直角入射点で測定される厚さ三mmのシートに対して有する、前記(5)又は(6)項記載の窓ガラスの製造の為の着色ガラス。
………(中略)……‥
(18) 厚さ三ないし五mmの前記(13)ないし(17)項のいずれかに記載のガラスの単一シートからなる乗物用の窓ガラス。
(19) 厚さ二ないし三mmの前記(13)ないし(17)項のいずれかに記載のガラスの単一シートからなる乗物用の成層窓ガラス。
(以上甲第一号証の一、六頁11欄三行から12欄二三行まで)。
3 本願発明の効果
(一) 驚くべきことに、周知の太陽熱線吸収ガラスと類似のものであるが若干ブロンズ色の中性着色ガラスであつて若干強度が低いものは、熱吸収特性が相当に低いけれども、夜間又は薄明時のヘツドライトを点灯するドライブに効果的である防眩特性を有し、かつ色彩の識別が良好にできることが判明した(甲第一号証の一、二頁4欄二三行から二九行まで)。
(二) これらのガラスの生理的に好ましい特性はドライブにおいて重要である。テストされた運転者の大半は、自分達の正確に視覚する力が増加したことを経験し、このことは、テストの結果窓ガラスを通して見た対象物輪郭がより鮮明になることを示していた。より短い波長の可視光線での透過率の減少は、霧及び雨による波長に対する動揺効果を減少させるのに役立つ。就中、薄暮又は霧や雨において緑色の感知に悪影響を及ぼすことなく、眩しさから目が急速に回復しうる、強い防眩作用を有する。この様な望ましい生理学的効果とは別に、本願発明による窓ガラスからの視界は眼にとつて心地よく、この様な窓ガラスを前方及び後方に設けた場合、運転の安全度は増大する(以上甲第一号証の一、二頁4欄四三行から三頁5欄一三行まで)。
(三) 経験によれば、前述のような特性をもつシリカ・ソーダ・カルシアガラスは、自動車のサイドウインドー用ガラスとして使用できる三ないし五mmの厚さを有する単一体ガラスの製造に適し、又厚さ二ないし三mmの風防ガラスとして使用できる成層ガラス用の着色ガラスシートの製造にも適している(甲第一号証の一、三頁6欄六行から一一行まで)。
三 第一引用例の記載事項について
成立について当事者間に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には次のような記載があることが認められる。
1(一) 本発明は中性褐色(ブロンズ色)の熱吸収ガラスに関し、特にエネルギー及び光透過率特性を制御した中性褐色(ブロンズ色)の熱吸収シート即ち板ガラスに関する(甲第三号証訳文一頁末尾から五行ないし末尾から二行。)
(二) 窓ガラスを熱吸収ガラスと認定する場合、そのガラスは1/4インチの厚さで五〇%未満の全太陽エネルギー透過率を有していなければならない。この基準は米連邦規格DD―G―四五一Aによつて確立されたものである(以上甲第三号証訳文二頁一一行から一四行まで)。
(三) 本発明の目的はビルデイングの窓ガラスとして望ましい快適な褐色熱吸収ガラスを提供することである(甲第三号証訳文二頁二〇行から三頁三行まで)。
(四) 本発明は、1/4インチ厚で四八~五六%、通常四九~五五%、好ましくは五一~五四%の光透過率を有する中性褐色の熱線吸収ガラスを意図するものである(甲第三号証訳文三頁一二行から一四行まで)。
(五) 暖かい感じの褐色を有する中性色ガラスが最も快適な色のものとなることがわかつた。1/4インチのガラス板は四五〇~七五〇mμのスペクトル部分で実質的に均一な光透過率六・〇~一二%であつて、通常は七~一〇・五%の刺激純度、五七八~五八二ミリミクロンであつて、通常は約五八〇ミリミクロンの主波長、および五〇%未満であつて、通常は四五~四九・八%の全太陽エネルギー透過率を有する(以上甲第三号証1欄六二行から七二行まで、同訳文四頁六行から一三行まで)。
2(一) 四五〇~七五〇ミリミクロンのスペクトル領域内において本質的に均一な光透過率、六~一二%の刺激純度、かつ本質的に次の成分から成ることを特徴とする中性褐色熱吸収ガラス。六〇~七五重量%のSiO2、一一~二〇重量%のNa2O、〇~一〇重量%のK2O、Na2OおよびK2Oの合計が一一~二一重量%であり、六~一六重量%のCaO、〇~一〇重量%のMgO、CaOおよびMgOの合計が六~二〇重量%であり、〇・二~一重量%のFe2O3、〇・〇〇一~〇・〇二重量%のCoO、および〇・〇〇〇五~〇・〇二重量%のSe。かつSe、CoOおよびFe2O3の量が上記透過率特性を有する中性褐色ガラスを生成するように調整されていること(以上甲第三号証訳文二五頁一〇行から二六頁二行まで。特許請求の範囲第1項)。
(二) 四五〇~七五〇ミリミクロンのスペクトル領域内において本質的に均一な光透過率、五七八~五八二ミリミクロンの主波長、および六~一二%の刺激純度を有し、かつ次の成分から本質的に成ることを特徴とする中性褐色熱吸収ガラス。………(中略)………〇・二~〇・八重量%のFe2O3、〇・〇〇二~〇・〇一重量%のCoO、および〇・〇〇一~〇・〇一五重量%のSe。かつ、Se、CoOおよびFe2O3の量が上記透過率特性を有する中性褐色ガラスを生成するように調整されていること(以上甲第三号証訳文二六頁五行から一八行まで。特許請求の範囲第3項)。
(三) 四〇〇~七五〇ミリミクロンのスペクトル領域内において本質的に均一な光透過率、約五七八~約五八二ミリミクロンの主波長、約六~約九・五%の刺激純度を有し、かつ本質的に次の成分から成ることを特徴とする中性褐色熱吸収ガラス。………(中略)………〇・二~〇・五重量%のFe2O3、〇・〇〇二~〇・〇〇五重量%のCoO、および〇・〇〇一~〇・〇一重量%のSe。かつSe、CoOおよびFe2O3の量が上記透過率特性を有する中性褐色ガラスを生成するように調整されていること(以上甲第三号証訳文二七頁一行から一四行まで。特許請求の範囲第5項)。
(四) 四〇〇~七五〇ミリミクロンのスペクトル領域内において本質的に均一な光透過率、六~一二%の刺激純度および四八~五六%の全光透過率を有し、かつ本質的に次の成分から成る窓枠はめ込みにふさわしい厚さの中性褐色熱吸収板ガラスからなる製造物品。………(中略)………〇・二~一重量%のFe2O3、〇・〇〇一~〇・〇二重量%のCoO、および〇・〇〇〇五~〇・〇二重量%のSe。かつSe、CoOおよびFe2O3の量が上記透過率特性を有する中性褐色ガラスを生成するように調整されていること(以上甲第三号証訳文二七頁一七行から二八頁一〇行まで。特許請求の範囲第7項)。
(五) 窓枠はめ込みにふさわしい約1/8~約1/4インチの厚さを有し、かつ四〇〇~七五〇ミリミクロンのスペクトル領域内において本質的に均一な光透過率、六~一二%の刺激純度および四八~五六%の全光透過率を有し、かつ次の成分から本質的に成ることを特徴とする中性褐色熱吸収板ガラスから成る製造品。厚さが1/4インチの場合、………(中略)………〇・三~〇・五重量%のFe2O3、〇・〇〇二~〇・〇〇五重量%のCoO、および〇・〇〇一~〇・〇〇三重量%のSe。着色剤Fe2O3、CoOおよびSeの量は、ガラス板の厚さが1/8インチのときには、前掲の各着色剤の量のほぼ二倍とする(以上甲第三号証訳文二八頁一四行から二九頁一二行まで。特許請求の範囲第9項)。
3 実施例1………(中略)………粘土ポツト内において生成されたガラス試料の化学分析値は次の通りである。
………(中略)………
吸収分光光度分析
成分 重量部
Fe2O3 〇・四八
CoO 〇・〇〇三九
Se 〇・〇〇二〇
………(中略)………
上記ポツト方法により製造した厚さ〇・六四cm(1/4インチ)のガラスについて光学およびスペクトル透過率を測定した。結果は次の通りである。
特性
光透過率(光源「C」) 五三・五%
全太陽エネルギー透過率 四九・四%
刺激純度 九・〇%
主波長 五七九ミリミクロン
(以上甲第三号証訳文一〇頁一七行から一五頁一一行まで)
4 実施例2………(中略)………所定の製造法の種々の段階中にガラスの代表的な試料を取り出し、化学分析した。
得られた結果は次の通りである。………(中略)………
吸収分光光度分析
<省略>
………(中略)………
種々の波長における代表的な透過率データを次の表に示す。なお、これらデータは「A」で示されたタンク法および「B」で示されたポツト法により連続製造方法の所定段階において生成された板ガラスの厚さ〇・六三五cm(〇・二五〇インチ)の代表的な試験試料に関するものである。
<省略>
<省略>
………中略……‥
(以上甲第三号証訳文一六頁一行から一九頁の透過率の表の末尾まで)
5 次の表は、実施例2の実験中においてタンク法によつて生成した公称(「わずか」とあるのは誤訳と認める。)〇・二五〇インチ(±〇・〇〇一インチ)の典型的な板ガラスに関する代表的な太陽光線透過データを示している。
<省略>
(以上甲第三号証訳文二二頁一四行から二三頁の表の末尾まで)
6 ここに述べられているバツチ配合、計算上の組成及び化学分析値は1/4インチ、即ち〇・二五〇インチ±約〇・〇三〇インチの厚さを有する好ましいガラス組成物を表している。着色剤Fe2O3、CoOおよびSeの総量は、種々の板厚において、所望の色、透過および熱線吸収の性質を達成するために注意深くコントロールしなければならない。1/4インチ厚のガラスにおける着色剤の好適な重量範囲は、〇・三~〇・五%のFe2O3、〇・〇〇二~〇・〇〇五%のCoO、および〇・〇〇一~〇・〇〇三%のSeである。1/4インチ厚よりも厚い板か薄い板厚のガラスを製造するときには、所望の色、透過および熱線吸収の性質を得るためにおのおのの着色剤の量を増減する必要がある。例えば、1/8インチ厚でガラスを製造する場合には、同じ色彩、熱線吸収および透過率特性を得るためには着色剤の各々をほぼ二倍にし得る(以上甲第三号証訳文二〇頁一三行から二一頁一〇行まで)。
四 第二引用例の記載について
成立について当事者間に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には次のような記載があることが認められる。
1 特許請求の範囲
つぎの着色剤をつぎに示す重量%
Fe2O3 〇・二 ~一・五%
CoO 〇・〇〇一〇~〇・〇三〇〇%
Se 〇 ~〇・〇二〇〇%
………(中略)………
で含有し、これらの着色剤はつぎの重量%組成、
………(中略)………
の基体ガラス中に存在し、また加えられる着色剤のそれぞれの正確な含有量は、ガラスが所望の全透過特性をもつように、製造しようとするガラスの厚さに応じて調節されていることを特徴とする、ガラスの厚さが約二~一二mmの場合に、刺激純度一四%以下、太陽エネルギーの全透過率五〇%以下、および測光度三五~五五%をもつているような防熱用のシリカ・ソーダ・石灰系の着色ガラス(以上甲第四号証一頁左下欄四行から右下欄九行まで)。
2 この発明は特に建築用の板ガラスを構成することを目的とした防熱用着色ガラスに関するものである(甲第四号証一頁右下欄一一行から一三行まで)。
3 中性のグレーの定義の拡張によつて、スペクトル曲線が可視部で比較的平たんな物質もグレーと称することにしよう。………(中略)………たとえば、その主要波長の値がどのようであつても、純度(刺激純度)が七%以下の物質はグレーと称することができよう(以上甲第四号証二頁右上欄五行から一三行まで)。
4 加えられる着色剤のそれぞれの正確な含有率は、ガラスが所望の全透過特性をもつように、製造しようとするガラスの厚さに応じて調節される。種々の着色剤の相対的な含有比を調節することによつて、可視部での所望の透過スペクトル曲線ならびにとくに主要波長およびこの波長に対しての所望の刺激純度が得られる(以上甲第四号証三頁左下欄二〇行から右下欄六行まで)。
5 種々の着色剤の含有比を上記の限界内で変化させることによつて調製しうるガラスの広い範囲の中で、色調が目に特に心地よく建築への応用に必要な快適さを与えるようなガラスを供給する光学的特性の領域が数個見出された。このような好ましい領域は第1図に記号Ⅰ、Ⅱ、ⅢおよびⅣを付して表してある。………(中略)………領域Ⅱは主要波長が五六五~七〇〇ミリミクロンの範囲に包まれている。………(中略)………領域Ⅳは主要波長が五七五~五八五ミリミクロンの範囲に包まれている。領域Ⅰ、ⅡおよびⅢは刺激純度が七%以下であるのでグレーのガラスに、また領域Ⅳは純度が七~一四%であるのでブロンズのガラスにそれぞれ相当する(以上甲第四号証四頁左上欄一三行から右上欄一〇行まで)。
6 着色剤は所望の光学的特性が得られるようにガラス板の厚さを考慮にいれてそれらの添加量と割合とが決定される。また所定の光学的特性に対しては各着色剤ごとに、許される範囲内の厚さと濃度に対して厚さと濃度との積がほとんど一定であると考えてさしつかえない(以上甲第四号証四頁左下欄一四行から二〇行まで)。
五 認定判断の誤り第1点について
1 本件審決が、「本願発明のものと同じ成分組成範囲内の、(一) シリカ・ソーダ・カルシアを主成分とし、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇~五〇ppm(重量部)、セレンを一〇~一〇〇ppm(重量部)含有するブロンズ色に着色されたガラスが第一引用例に記載されており、(二) シリカ・ソーダ・カルシアを主成分とし、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇ppm(重量部)以下、セレンを五~二五ppm(重量部)含有するブロンズ色に着色されたガラスが第二引用例に記載されており、それぞれ本出願前公知である。」旨認定していること及び右認定は、本願発明のブロンズ色に着色されたガラスが第一引用例及び第二引用例のガラスと、主成分の種類、着色剤成分の種類のみならず、各着色剤成分の組成範囲(本願発明における(ヘ)の条件)も重複することを示す趣旨であると解されることは当事者間に争いがない。
2 前記二2(一)認定の本願発明の特許請求の範囲の文言自体には、本願発明のガラスの厚さを直接限定する文言又は本願発明のガラスの組成割合及び光学的特性が一定の厚さのガラスの場合に換算した数値であるとの限定を示す文言はない。
なるほど、同二2(三)認定の本願明細書の発明の詳細な説明の欄中の、本文に記述された特性は三mmの厚さのガラスを測定したものである旨の記載、同二2(四)認定の本願発明の主な実施態様についての記載によれば、本願発明の特許請求の範囲に記載された光学的特性は三mmの厚さのガラスを測定したものではあるが、本願発明のガラスの厚さ自体については直接限定はなく、又着色剤の組成割合も一定の厚さのガラスであることを前提として定められたものではないと認められる。
3 前記甲第一号証の一及び甲第三号証によれば、第一引用例記載のガラスは、シリカ・ソーダ・カルシアを主成分とするブロンズ色に着色されたものであることが認められ、前記三2(三)の認定によれば、第一引用例の特許請求の範囲第5項には、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇~五〇ppm(重量部)、セレンを一〇~一〇〇ppm(重量部)含有するガラスが記載されていることが明らかである。
右第一引用例記載のガラスは、シリカ・ソーダ・カルシアを主成分とし、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇ppm(重量部)以下、セレンを五~二五ppm(重量部)含有する本願発明のブロンズ色に着色されたガラスと、主成分の種類、着色剤成分の種類のみならず、各着色剤成分の組成範囲(本願発明における(ヘ)の条件)とも重複部分があることは明らかである。
そして、前記三2(一)ないし(三)の第一引用例の特許請求の範囲記載の各要件は、特定の厚さのガラスの場合に限定されたものではない。
即ち、三2(一)ないし(五)認定の第一引用例記載の発明の特許請求の範囲の文言を対比すれば、同(四)、(五)の特許請求の範囲には、「窓枠はめ込みにふさわしい厚さの」、あるいは、「窓枠はめ込みにふさわしい約1/8~約1/4インチの厚さを有し」との限定があるのに対し、同(一)ないし(三)の特許請求の範囲には、ガラスの厚さを直接限定し、又はそこに記載されたガラスの主成分や着色剤の組成割合及び光学的特性が一定の厚さのガラスの場合に換算した数値であるとの限定を示す文言がないことは明白である。
右のように同じ特許請求の範囲の欄に記載された複数の項の中に、ガラスの厚さを直接限定する文言又はそこに記載されたガラスの組成割合及び光学的特性が一定の厚さのガラスの場合に換算した数値であるとの限定を示す文言のある項とない項とがある場合、そのような文言のない項は、そのような限定がないものと解するのが素直な解釈である。
また、前記三6に認定した第一引用例の発明の詳細な説明の欄の記載も、特許請求の範囲の内前記三2(五)認定のもの及び実施例についての記載であり、前記三2(一)ないし(三)認定の特許請求の範囲についての記載でないことは、その内容から明らかであり、他に第一引用例中に、前記三2(一)ないし(三)認定の特許請求の範囲を、前記のような限定があるものと解釈すべき根拠となる記載は認められない。
したがつて、第一引用例記載の前記三2(一)ないし(三)認定の特許請求の範囲については、文言どおり、前記のような限定はないものと認められる。
もつとも、同三2(一)ないし(三)の特許請求の範囲には、着色剤の組成割合及び刺激純度について限定があり、他方、着色剤の組成割合が一定ならば刺激純度はガラスの厚さに比例して増減することは当事者間に争いがないから、着色剤の組成割合及び刺激純度の限定を満足するために、結果的にガラスの厚さも一定の範囲内に限られるのは当然である。
以上のとおりであるから、前記第一引用例の特許請求の範囲第5項記載の、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇~五〇ppm(重量部)、セレンを一〇~一〇〇ppm(重量部)含有するガラスは、ガラスの厚さ自体の限定又はそこに記載されたガラスの組成割合及び光学的特性が一定の厚さのガラスの場合に換算した数値であるとの限定はないものと認められる。
4 原告は、本件審決はガラスの厚さについて考慮しなかつたことにより、第一引用例の記載事項の認定を誤つたと主張し、請求の原因四1(一)の主張中、「一般に、着色ガラスの光学的性質が一定の値に限定されている場合には、ガラスに含まれる着色剤の量ないし組成範囲はガラスの厚さに依存する。このことは第一引用例及び第二引用例にも明記されているところである。即ち、第一引用例には、前記三6認定のような記載がある。また、第二引用例にもガラスの厚さと着色剤の量の関係について、前記四6認定のような記載がある。ガラスの厚さと着色剤の量(濃度)とは、光学的性質が所定のとき、反比例の関係にある。」旨の部分及び請求の原因四1(二)(5)の主張中、「第一引用例のガラスは建築用ガラスで、具体的に挙げられているのは、主として1/4インチ(六・三五mm)である。厚さ1/4インチの第一引用例のガラスの着色剤組成範囲は、鉄(酸化第二鉄)〇・三~〇・五%、酸化コバルト二〇~五〇ppm(重量部)、セレン一〇~三〇ppm(重量部)である。」との部分は当事者間に争いがない。
しかし、前記2に認定判断のとおり、本願発明の特許請求の範囲に記載された光学的特性は三mmの厚さのガラスを測定したものであるが、本願発明のガラスの厚さ自体については直接限定はなく、又着色剤の組成割合も一定の厚さのガラスであることを前提として定められたものではなく、また、前記3において認定したとおり、第一引用例の特許請求の範囲第5項記載の、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇~五〇ppm(重量部)、セレンを一〇~一〇〇ppm(重量部)含有するガラスは、ガラスの厚さ自体の限定又はそこに記載されたガラスの組成割合及び光学的特性が一定の厚さのガラスの場合に換算した数値であるとの限定はないものであるから、本件審決の、「本願発明のものと同じ成分組成範囲内の、シリカ・ソーダ・カルシアを主成分とし、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇~五〇ppm(重量部)、セレンを一〇~一〇〇ppm(重量部)含有するブロンズ色に着色されたガラスが第一引用例に記載されており、本出願前公知である。」旨の認定にガラスの厚さを考慮しなかつたことによる誤認は認められない。
5 前記甲第四号証によれば、第二引用例には、本件審決認定のような、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇ppm(重量部)以下、セレンを五~二五ppm(重量部)の割合で含有するガラスは記載されていないことが認められ、その限りでは本件審決の右認定は誤りである。
しかし、前記甲第一号証の一及び甲第四号証並びに前記四1、3及び5認定の事実によれば、第二引用例記載のガラスも、シリカ・ソーダ・カルシアを主成分とし、ブロンズ色に着色されたものを含むものであることが認められる。
前記四5認定のⅣの領域のガラスがブロンズ色であることは右四5の記載から明らかであるが、グレーのガラスと記載されているⅡの領域のガラスも、本願発明ではブロンズ色のガラスとされている主波長五七〇~五八〇nm、刺激純度二~六%のガラスを含むことは、その主要波長及び前記四3の記載から明らかである。
そして、前記四1の認定によれば、第二引用例の特許請求の範囲には、着色剤として酸化鉄を〇・二~一・五%(重量%)、酸化コバルトを一〇~三〇〇ppm(重量部)、セレンを〇~二〇〇ppm(重量部)含有するガラスが記載されていることが明らかである。
したがつて、右第二引用例記載のガラスも、シリカ・ソーダ・カルシアを主成分とし、着色剤として酸化鉄を〇・二~〇・五%(重量%)、酸化コバルトを二〇ppm(重量部)以下、セレンを五~二五ppm(重量部)含有する本願発明のブロンズ色に着色されたガラスと、主成分の種類、着色剤成分の種類のみならず、各着色剤成分の組成範囲(本願発明における(ヘ)の条件)とも重複部分があることは明らかである。
また、前記四1の第二引用例の特許請求の範囲記載の光学的特性はガラスの厚さが約二~一二mmの場合の値であるが、ガラスの厚さ自体については直接の限定はなく、基体ガラス及び着色剤の組成割合も、特定の厚さのガラスの場合に限定されたものではないことは、右第二引用例の特許請求の範囲の記載自体から明らかである。
原告は、本件審決はガラスの厚さについて考慮しなかつたことにより、第二引用例の記載事項の認定を誤つたと主張するが、前記2において認定したとおり、本願発明の特許請求の範囲に記載された光学的特性は三mmの厚さのガラスを測定したものであるが、本願発明のガラスの厚さ自体については直接限定はなく、又着色剤の組成割合も一定の厚さのガラスであることを前提として定められたものではなく、また、前記四1の第二引用例の特許請求の範囲記載の光学的特性はガラスの厚さが約二~一二mmの場合の値であるが、ガラスの厚さ自体については直接の限定はなく、基体ガラス及び着色剤の組成割合も、特定の厚さのガラスの場合に限定されたものではないことは、右第二引用例の特許請求の範囲の記載自体から明らかであるから、本件審決の第二引用例の記載事項についての認定は、第二引用例記載のガラスが、本願発明のシリカ・ソーダ・カルシアを主成分とし、ブロンズ色に着色されたガラスと、主成分の種類、着色剤成分の種類のみならず、各着色剤成分の組成範囲(本願発明における(ヘ)の条件)も重複するという趣旨の限度では正当であり、ガラスの厚さを考慮しなかつたことによる誤認は認められない。
六 認定判断の誤り第2点について
1 本願発明の特許請求の範囲に記載された、C光源により直角入射点で測定せる
(イ) 全可視光線波長域における光透過率Yが七〇%以上であり、
(ロ) 紫外線波長域の光透過率が可視光線の波長域における光透過率よりも実質的に小さく、
(ハ) 四〇〇乃至五五〇nmの波長域における平均光透過率が、五五〇乃至七五〇nmの波長域における平均光透過率よりも小さく、
(ニ) 刺激純度Peが二~六%であり、
(ホ) 主波長λDが五七〇~五八〇nmである、
という光学的性質及び中間ブロンズ色に着色されたという特性は、他に特段の限定がないから、シリカ・ソーダ・カルシアガラスのベースに、着色剤として酸化鉄、酸化コバルト、セレンを、特許請求の範囲中の(ヘ)の項所定の割合で配合したことによつて得られるものと認められる。
他方、成立について当事者間に争いのない乙第四号証の一ないし三(原告が本願発明の特許異議申立事件において提出した、原告の中央研究所ガラス物性部長クロード・ギルメの宣誓供述書及びその訳文並びにそれらの提出書)によれば、着色剤の組成割合が本願発明の特許請求の範囲の(ヘ)の項の範囲内であつても、光学的性質が右(イ)ないし(ホ)の全部は満足しない場合もあると認められること(乙第四号証の三、五頁の第1表中のBの欄参照)及び本願発明の特許請求の範囲の文言自体によれば、本願発明は、着色剤の組成割合が特許請求の範囲の(ヘ)の項の範囲内のシリカ・ソーダ・カルシアガラスの内、前記(イ)ないし(ホ)の各項の光学的性質及び中間ブロンズ色に着色されたという特性によつて限定された車両用窓ガラスと認められる。
即ち、本願発明は、右のような限定によつて、その技術課題を解決し、所期の効果を達成しようとするものである。
2 前記二1認定の本願明細書の記載によれば、本願発明は、車の運転に十分な光の透過を与えることができ、かつ種々の天候及び光の条件下で異なる色彩を十分に識別できる車両用窓ガラス、特に全般的な視界を改善しながら大きな防眩作用を与え得る、生理的観点から設計された特性を有する乗物用の窓ガラスを提供することを目的とするものであり、この目的のため、本願発明は、光の透過率が少なくとも七〇%で、可視光線の長波長域(即ち、五五〇~七五〇nm)において短波長域(即ち、四〇〇~五五〇nm)よりも高い光の透過率を有し、かつ、短波長域での透過率の減少が大幅ではなく、またこの透過率が紫外線の波長帯で急激に低下する中間ブロンズ色ガラスを採用したものと認められる。
3(一) 車両用窓ガラス、特に風防用ガラス(フロントガラス)は安全運転のために高い可視光線透過率が要求されることは当裁判所に顕著であり、また、成立について当事者間に争いのない甲第九号証(公知例5)によれば、昭和四〇年八月一日社団法人自動車技術会発行の「自動車技術」一九巻八号掲載の「自動車用窓ガラスの安全性について」(津田健次郎執筆)には、自動車のガラスは最低でも七〇%の可視光線透過率を必要とされる旨の記載があることが認められる。
(二) 車両用窓ガラス、特に風防用ガラス(フロントガラス)は安全運転のために、防眩作用も要求されることも当裁判所に顕著であり、成立について当事者間に争いのない甲第八号証(公知例4、独特許第一一三四二二〇号(昭和三七年一二月一一日特許庁資料館受入))及び前記二1(二)認定の本願明細書の記載によれば、人間の眼の感受能力が最も大きな可視光線の長波長域において透過率を高くし、眼の感受能力をプロツトしたグラフである視感度曲線に平行に、約四八〇ないし五五〇nmの波長域で透過率を低下させ、次いで透過率を増大して可視光線の下限の四〇〇nmの波長の時に約三〇%にまで回復し、次に紫外部に向かつて急激に透過率を低下させた車両用又は眼鏡用のガラスフイルタは、全透過率が約五〇%であつても、視感度の高い長波長帯の透過率が高いため、像が一段と明るくなつた印象を受け、他方、短波長帯では透過率が低いので、紫色光、青色光及び青緑色光は充分吸収され、霧やもやの際の散乱効果が障害とならないという防眩効果を有する生理的観点から設計されたものであることが本願出願当時公知であつたことが認められる。
(三) 車両用窓ガラス、特に風防用ガラス(フロントガラス)は安全運転のために、種々の天候及び光の条件下で異なる色彩、特に交通信号に使用される色彩を十分に識別できることも要求されることも当裁判所に顕著であり、前記甲第八号証(公知例4)によれば、視感度範囲における透過率が高く、波長五〇〇〇Å(五〇〇nm)付近から透過率が急激に低下し、青色光範囲でも透過率がわずかに残存するガラスフイルタは青色と緑色との区別を明確に行えないことが公知例4において既に従来技術の問題点として認識されていたことが認められる。
前記甲第四号証(第二引用例)によれば、透明な物質の透過スペクトル曲線が可視部の全域にわたつて水平な部分を示す場合には、この物質はいわゆる中性のグレーであり、CIE方式ではこのような物質は主要波長をもたないので、その刺激純度は〇であつて、そのx、y座標は標準白色の座標C点と同一になることが認められ(甲第四号証二頁左上欄一九行から右上欄四行まで参照)、また、前記甲第三号証によれば、色彩の刺激純度が低ければ低いほど中性色に近くなることが認められ(甲第三号証訳文五頁四行から五行まで参照)、前記四3認定のとおり、第二引用例においては、中性のグレーの定義の拡張によつて、スペクトル曲線が可視部で比較的平たんな物質もグレーと称することにし、たとえば、その主要波長の値がどのようであつても、純度(刺激純度)が七%以下の物質はグレーと称することができるとしている。
右事実によれば、刺激純度が七%以下のガラスであれば、可視部の全域にわたつて透過スペクトル曲線が比較的平坦で、一部の波長の透過率が極端に少ないということがないことが本願出願前公知であつたことは明らかである。
(四) 前記甲第四号証及び成立について当事者間に争いのない甲第六号証(公知例2)によれば、ガラス中に平衡状態で存在する二つの形の鉄のうち、酸化数三の鉄イオンは紫外部に特有の吸収を与え、酸化数二の鉄イオンは赤外部に特有の吸収を与えるから、鉄を含有するガラスは紫外線吸収能を持つこと、したがつて、鉄を含有するガラスを車両用として使用すれば、運転者、利用者を紫外線から保護できることは、いずれも本願出願当時周知であつたことが認められる。
(五) 成立について当事者間に争いのない甲第七号証(公知例3)によれば、公知例3(特開昭四九―九八八一六号)には、建築、車両などの窓ガラス用板ガラスとして有用なブロンズ色の熱線吸収ガラスが記載されていることが認められる。
また、前記甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、暖かい感じの褐色を有する中性色ガラス(ブロンズ色ガラス)はビルデイングの窓ガラスとして室内に最も快適な色を提供するものとされ、そのようなガラスは、五七八~五八二ミリミクロン(nm)の間であつて、通常は五八〇ミリミクロン(nm)の主波長、六・〇~一二%の間であつて、通常は七~一〇・五%の刺激純度を有する旨の記載があることが認められ、前記四5認定のとおり、第二引用例には、色調が目に特に心地よく建築への応用に必要な快適さを与えるようなガラスを供給する光学的特性の領域Ⅳに属する主要波長が五七五~五八五ミリミクロン(nm)の範囲で刺激純度が七~一四%のブロンズのガラス及び同じく領域Ⅱの一部に主要波長が五七〇~五八〇ミリミクロン(nm)の範囲で刺激純度が七%以下のグレーと呼ばれているガラスが記載されていることが認められる。
4 右3に認定判断したところによれば、本願発明の目的及びこれを達成するための本願発明の特許請求の範囲に記載された前記(イ)ないし(ホ)の光学的性質及び中間ブロンズ色に着色されたという特性の一つ一つは、いずれも本願出願前公知であつたものである。
したがつて、本件審決の、車両用窓ガラスとしてブロンズ色に着色された、ぎらつきのないもの、いいかえれば前記(イ)ないし(ホ)の光学的性質のすべてを具備したものが望まれていることは本出願前から既に公知である旨及び本願発明のブロンズ色に着色された車両用窓ガラスの特定された光学的性質の一つ一つは、各引用例及び公知例などの記載からみて、特異な物性を有するものとも解せない旨の判断は、正当であつて誤りはない。
5(一) 前記三2(三)認定の第一引用例の特許請求の範囲第5項記載のガラスは、約五七八~約五八二ミリミクロン(nm)の主波長の中性褐色(ブロンズ色)であるから、本願発明の特許請求の範囲の(ホ)の光学的性質と重複する部分があり、中間ブロンズ色に着色されたとの特性を有すること、酸化数三の鉄イオンを含むから前記3(四)に判断したとおり紫外線吸収能を有し、本願発明の特許請求の範囲の(ロ)の光学的性質を有することは明らかである。
(二) また、右特許請求の範囲第5項には全可視光線波長域における光透過率についての限定はないが、前記三1(四)認定のとおり、第一引用例記載の発明は、1/4インチの厚さで四八~五六%、通常四九~五五%、好ましくは五一~五四%の光透過率を有する中性褐色の熱線吸収ガラスを意図するものであるから、右第5項のガラスも右の程度の透過率を達成しているものと推定できる。
ところで、本願発明の特許請求の範囲の(ロ)、(ハ)、(ホ)の光学的性質は、ガラスの板厚の増減によつて変化しないこと、着色剤の組成割合を変えないでガラスの厚さを薄くすると光透過率は高くなること及び本判決別紙1の註1記載の光透過率の換算式は当事者間に争いがなくかつ技術常識と認められるから、右(一)及び後記(四)認定のような車両用窓ガラスとして望ましい光学的性質及び特性を維持したまま、車両用窓ガラスに要求される光透過率を得るため、即ち、右のガラスの着色剤の組成割合を変更しないで光透過率を高くするためにはガラスの厚さを薄くすればよいことも技術常識である。右本判決別紙1の註1記載の光透過率の換算式の中の、着色剤量を変えずガラスの厚さだけを変える場合の式により、着色剤量を変えずに厚さを1/4インチ(六・三五mm)から三mmに減少させた場合の光透過率を求めると、1/4インチの厚さで四八~五六%の光透過率のガラスは三mmの厚さでは約六七・七~七二・八%の透過率となることは計算上明らかである。そして、右のようなガラスは本願発明の特許請求の範囲の(イ)の光学的性質と重複する部分があるから、第一引用例には、その特許請求の範囲第5項に記載のガラスが本願発明の特許請求の範囲の(イ)の光学的性質と重複する部分があることが示唆されているということができる。
(三) 次に、第一引用例の特許請求の範囲第5項のガラスは、約六~約九・五%の刺激純度を有するから、本願発明の特許請求の範囲の(ニ)の光学的性質とわずかに重複する部分があることも明らかである。しかも、ガラスの着色剤の組成割合を変更しない場合、刺激純度はガラスの板厚に比例して増減することは当事者間に争いがなく、かつそのことは技術常識と認められるから、第一引用例の特許請求の範囲第5項のガラスの内厚さ1/4インチのものを、着色剤量を変えずに厚さを1/4インチ(六・三五mm)から三mmに減少させた場合の刺激純度を求めると、1/4インチの厚さで約六~約九・五%の刺激純度のガラスは三mmの厚さでは約二・八~四・五%の刺激純度となることは計算上明らかであり、そのようなガラスは本願発明の特許請求の範囲の(ニ)の光学的性質と重複する。したがつて、第一引用例には、その特許請求の範囲第5項に記載のガラスが本願発明の特許請求の範囲の(ニ)の光学的性質と重複することが開示及び示唆されているということができる。
(四) さらに、第一引用例の特許請求の範囲第5項記載のガラスは、四〇〇~七五〇ミリミクロンのスペクトル領域内において本質的に均一な光透過率を特徴としているものであるから、この点は、本願発明の特許請求の範囲の(ハ)の光学的性質と相違するかのようである。しかし、前記三4認定の、第一引用例記載の発明の実施例2において二つの異なる方法で生成された板ガラスの試験試料についての可視光線の波長領域内の波長別の透過率のデータを検討すると、いずれも四〇〇~五五〇ミリミクロンの波長域における平均光透過率が、五五〇~七五〇ミリミクロンの波長域における平均光透過率よりも小さいことは明らかであり、第一引用例記載の発明はその様なものを含めて本質的に均一な光透過率と称していることが認められ、第一引用例にはその特許請求の範囲第5項のガラスが、実際には本願発明の特許請求の範囲の(ハ)の項の光学的性質を有する場合を含むことが示唆されているものと認められる。
(五) 第一引用例の特許請求の範囲第5項のガラスと本願発明とは主成分の種類、着色剤成分の種類のみならず、各着色剤成分の組成範囲にも重複部分があることは前記五3認定のとおりであるところ、前記4及び5(一)ないし(四)において認定したところによれば、本願発明の目的及びこれを達成するための本願発明の特許請求の範囲に記載された前記(イ)ないし(ホ)の光学的性質及び中間ブロンズ色に着色されたという特性の一つ一つは、いずれも本願出願前公知であつたものであり、かつ第一引用例には、その特許請求の範囲第5項のガラスはそれらの光学的性質及び特性を有する場合を含むことが明らかに開示されるか又は示唆されているものと認められる。
本件審決の、本願発明は、第一引用例や第二引用例に記載されたブロンズ色に着色されたガラスを車両用窓ガラスに適用し、それにふさわしい、望ましい光学的性質を単に特定して表示しただけの発明にすぎないものと認められる旨の記載は、右の趣旨を表しているものと認められ、その判断は正当である。
(六) 前記三4、5に認定の第一引用例の記載によれば、第一引用例の実施例2記載のガラスは、着色剤のうち酸化コバルトの割合こそ本願発明の二〇ppm以下の限定を上回つているものの、酸化第二鉄及びセレンの割合は本願発明の限定の範囲内であるところ、そのガラスの紫外線波長域の光透過率が可視光線の波長域における光透過率より実質的に小さく、四〇〇乃至五五〇nmの波長域における平均光透過率が、五五〇乃至七五〇nmの波長域における平均光透過率よりも小さく、主波長λDが五七〇~五八〇nmであるという、本願発明の特許請求の範囲記載の(ロ)、(ハ)、(ホ)の光学的性質及び中間ブロンズ色に着色されたという特性を有することが認められる。
また、前記三4に認定の第一引用例の記載及び前記乙第四号証の二、三によれば、第一引用例の実施例2の試験試料の板ガラスは厚さ六・三五mm(1/4インチ)のものであるが、そのうちBのポツト法により生成された板ガラスのデータに基づいて計算した、着色剤の組成割合を変えずにガラスの厚さを三mmとした場合の全光線光透過率は七一・一%、刺激純度は四・一%であり、本願発明の特許請求の範囲記載の(イ)、(ニ)の光学的性質の範囲に含まれることが認められる。
そうすると、第一引用例の実施例2記載の試験試料の板ガラスを着色剤の組成割合を変えずに厚さを三mmとしたものは、酸化コバルトの組成割合こそ本願発明の限定の範囲に属さないが、その他の着色剤の組成割合は本願発明の限定の範囲内に属し、かつ、本願発明の特許請求の範囲記載の(イ)ないし(ホ)の光学的性質及び中間ブロンズ色に着色されたという特性を有するものであるから、それらの光学的性質及び特性によつて達成される効果は本願発明の効果と同様であると認められ、本願発明の効果が顕著なものということもできない。
6 以上のとおりであるから、本願発明は、第一引用例及び第二引用例の記載に、公知例2ないし5の文献に記載されたこと及び前記認定の技術常識を併せ考えれば、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、原告主張の認定判断の誤りは認められない。
七 認定判断の誤り第3点について
本件審決の、「本願発明のブロンズ色に着色された車両用窓ガラスの特定された光学的性質は、第一引用例、第二引用例、公知例1ないし3の五つの刊行物、及び、西ドイツ国特許公告第一一三四二二〇号明細書(公知例4)、昭和四〇年八月一日自動車技術会発行「自動車技術」第一九巻第八号六一三頁から六一七頁まで(公知例5)、一九七三年九月二五日旭硝子株式会社発行「板ガラス建材総合カタログ」六六頁(公知例6)などの記載からみて、特異な物性を有するものとも解せない。」旨の認定判断は、やや趣旨がわかりにくいが、前後の文脈から、本願発明の進歩性の判断の過程において、本願発明の車両用窓ガラスの光学的性質として特許請求の範囲に特定されたものは、公知のものであつて、新規あるいは特異なものではないことを認定判断しているにすぎず、本願発明の特許請求の範囲に特定された光学的性質が新規あるいは特異なものであることを特許付与の要件とする趣旨ではないことを理解することができるから、右判断がガラスの光学的特性が特異なものであることが特許付与の要件であるとの趣旨であることを前提とする原告の主張は採用できない。
八 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却する。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
シリカ・ソーダ・カルシアガラスをベースとし、着色剤として酸化鉄、酸化コバルトおよびセレンを含有してなる車両用窓ガラスであつて、C光源により直角入射点で測定せる(イ)全可視光線波長域における光透過率Yが七〇%以上であり、(ロ)紫外線波長域の光透過率が可視光線の波長域における光透過率よりも実質的に小さく、(ハ)四〇〇乃至五五〇nmの波長域における平均光透過率が、五五〇乃至七五〇nmの波長域における平均光透過率よりも小さく、(ニ)刺激純度Peが二~六%であり、(ホ)主波長λDが五七〇~五八〇nmであり、かつ(ヘ)鉄全量(Fe2O3として表示)を〇・二乃至〇・五重量%、セレンを五乃至二五ppm(重量部)、酸化コバルト(CoO)を二〇ppm(重量部)以下含有する着色ガラスでできていることを特徴とする中間ブロンズ色に着色された車両用窓ガラス。