東京高等裁判所 昭和61年(う)1143号 判決
1 所論は要するに,原判決は,虚偽の住所を記載した運転免許証更新申請書を係員に提出して免許証に不実の記載をさせ,その交付を受けて行使したとの免状不実記載,同行使の公訴事実につき被告人を有罪としたが,右は,免許証に記載すべき住所に関する法令の解釈を誤つて被告人の住所を誤認し,その結果,適用すべきでない刑罰法令を適用したものであり,ひいては居住の自由を保障した憲法22条に違反する,というのである。
しかし,運転免許証の記載事項としての住所の意義について原判決の説示するところは正当であり,かつ,本件申請書の住所欄に被告人の記載した場所は住所としての実質を欠き,被告人は虚偽の申立をしたものであるとした原判決の事実認定は,記録に照らし,優に維持することができ,当審における事実取調べの結果によつても左右されないから,これを前提とする原判決の法令適用にも誤りは存せず,また,住居に関して虚偽の申立を許さないことと,居住の自由を保障することとは別個の問題であるから,違憲の主張は前提を欠き,失当である。
2 所論は要するに,運転免許証の住所欄は重要事項ではなく,不実記載の法益侵害性は不存在ないし極めて微弱である上,本件所為は計画的でもなく,実質的ないし可罰的違法性を欠くとすべきであるのに,その旨の主張を容れず,被告人を有罪とした原判決は,審理を尽くさず,事実関係を誤認し,ひいて法令の適用を誤つたものである,というのである。
しかし,運転免許証の記載内容に対する社会一般の信頼は多大であり,虚偽の申立により不実記載をさせる所為自体軽微ならざる違法性があるとした原判断は正当というべく,また,本件は意図的,計画的犯行でもあるから実質的ないし可罰的違法性を欠くものではないとした原判断も,その挙示する証拠に照らして優に肯認でき,その他,原判決に所論のいうような瑕疵は存しない。論旨は理由がない。